第１２話　ゲリラ遊戯王　作：にしん

ザーーーーッ！！

ドーン！ゴロゴロゴロ・・・


要「・・・寝れん」

梅雨末期とはいえこの雷雨は異常だ。「ゲリラ豪雨」どころではない。すぐそばのゆるやかな坂道になっている道路が川になっているのが容易に想像できる。というより今が何時かという空気を読んでほしいぞゲリラ豪雨よ。今は深夜の２時だ。

お茶を飲みに行く。外を見るとベランダの壁にお隣の結花もこの雷雨で起きていることを表すキッチンの光が反射しているのが見えた。流石のあいつも寝られないんだな。雷鳴がとどろくたびに奇声を上げているのが想像できる。

それよりも元デュエリストの性なのか、点滅する度に＜オシリスの天空竜＞の技「召雷弾」が思い浮かぶ。いや、＜上影忍・轟＞の陰に潜みつつも雷の如く轟きの必殺の一撃とも言えるな（ひそかに残るシノビのユージ曰く）。

まだ夜は涼しいので寝る時はエアコンを消していたが、眠気が中途半端かつこの湿度は眠れない。除湿をつけるしかない。しばらく寝られないだろうし、まだまだ途中な＜影忍＞の調整でも行うか。ある程度は構成されたので結花から借りたデッキを使って１人デュエルでもしてみるか。スマホでダメージ計算アプリを起動し、コイントスを行う。

要「先攻は＜影忍＞。調整にはもってこいか・・・じゃあまず」

ピンポーン

インターホンが鳴る。奴だろう。この雷雨でついに我慢できずに来たって感じか。扉を開けると轟音ともいえる大雨の音と共に２人の女性がそこに立っていた。ん？２人？いつも通り湿気でツインテールがモリンフェンの翼化している結花の隣には間反対のナイスバディな体型ですらっとした髪とメガネ・・・瀬戸さんだ。

結花「遊二もおきてたんだなー」
静流「いたって普通そう・・・残念」
要「何故瀬戸さんがいるのか」
結花「お泊り勉強会！」
静流「・・・という名の遊戯王です」
要「あっ・・・察し」

やっぱり結花に勉強という文字はなかった。

とりあえず部屋に入れる。結花と瀬戸さんは案の定デッキが入った肩掛けタイプのバッグを持っていた。だが瀬戸さんはちゃんとノートパソコンやら参考書やらも持ってきていた。

要「プログラミング入門の課題出てたな」
静流「そうだね。確か“簡易電卓を作れ”だったね」
結花「あーーー雷雨で何もキコエナイーーー」
要「幸い今日は土曜日だし眠気復活するまで課題やって遊戯王だな」


・・・


　課題が終わる。結花以外。結花は瀬戸さんの指導によって一生懸命パソコンを打ち込んでいるところだ。今のうちに＜影忍＞組み立てておくか。つい最近やっと必要なカードが手に入ったんだ。これで完成する。

要（まぁ最終的に昔のカード数枚増えただけなんだけどな）

環境では通じないだろうけど身内デュエルでは思いっきり刺さる。はず。

デッキが完成したところで雨が小康状態になる。雷も静まり雨音も部屋の中までは聞こえなくなった。おかげで眠気復活。

要「これなら寝れるし二人とも今回は・・・って結花寝てるし」
静流「まぁ課題は終わったから安心安心」
要「・・・仕方ない。瀬戸さん荷物頼む」

俺は結花を起こさないように背中に乗せる。それを見た瀬戸さんは結花のノートパソコンやデッキを纏めた。そしてお隣である結花の部屋、その寝室に運ぶ。お布団が二つ並んでいるのは片方は瀬戸さんが寝るのだろう。

要「ふう。んじゃ俺も戻って寝るかぁ」
静流「もう夜中の三時だしね。おやすみ、要くん」
要「おやすみー」


　起きたら昼だった。そりゃ雷雨のせいで夜更かししたんだし仕方ないよな。今日が休日じゃなければ大変なことになるところだった。

今日の予定は二時間後にカードショップを開いて店番。相変わらず雨は降り続いているものの、未明ほどではなく、むしろ小雨とよくなっていた。時間があるので昼飯は自炊しよう。そうしよう。

ということであっという間に時間が経ち、本日のバイト。コンビニ側ではおばあちゃんが昼寝をしながら番をしていた。俺はカードショップで近所の子供たちの相手をしている。時折噂を聞いて飛んできた小学生～同じ大学生ぐらいの人も来るが、ちんまりとしすぎているため入店前に回れ右をして帰っていく。まぁ客層もちんまりしているから仕方ない。

子供１「ねーねーおにーさん、いつものおねーちゃんは？」
要「今日は貴重な休日だから友達と遊んでくるって」
子供２「ひまだからおにーさんあいてして？」
子供３「わたしもー」
要「んー、俺も暇だしティーチングサービスがてらに改良したこのデッキでやってみるかー」


・・・


数時間は経っただろうか。いつもの近所の子３人と追加で来店してきた子供や興味を持って来店した見かけない人とデュエルしまくっていたらあっという間に夕方だった。

要「んー、もうちょい改良の余地あるな」
子供１「それでもつよかったー」
子供２「さすがは“しのびのゆーじ”・・・」
要「その名前は数年前に捨てたって」
子供３「めたでっきつくってこようかなぁ」
子供１「おねーちゃんがめたでっきつくったってきいたぞ」

前回、恵那さんとデュエルした時は見れなかったものの、どうやら俺の＜影忍＞に勝てるデッキを結花や瀬戸さんと一緒にこっそり作ったという話を聞いた。というよりやっぱり結花がうっかりばらしてしまったのだが。

恵那「ただいまーっ」
おばあちゃん「おかえり恵那」

恵那さんが帰ってきた。だけど子供たちは帰宅の時間。あっという間に帰り、カードショップは一気に静かになった。

そういえば必ずと言っていいほど来そうな結花が今日は来ていないということはあいつも今日はバイトだろうか。食材の買い出しついでに結花のバイト先のファミレスに寄って・・・いや、ファミレスに一人はあかんな。

と考え事をしているとコンビニの制服を着た恵那さんが入ってくる。

恵那「お、お疲れ様ですお兄さん」
要「うむ。後は補充だけやればいいのだな」
恵那「はい。お願いします。それでですね、えと・・・」

恵那さんは一つのデッキケースを取り出した。

恵那「ひ、暇ならお兄さんの＜影忍＞とデュエルさせてくださいっ！」
要「！？」

突然のデュエル申し込みにびっくりする。コンビニの制服着てるし仕事じゃないのかと思ったが、まぁ暇なここだしそんなこともあるな、とすぐに受け流すことにした。

それよりも＜影忍＞は再改良の予定であるため・・・

要「ごめん、さっき子供たちとデュエルして再改良が必要になったからまた後日ということで・・・」
恵那「そ、そんなぁ・・・」

いかにも「がーん」という効果音が流れていそうな落ち込み方をする恵那さんかわいい。

恵那「し、仕方ないです・・・私も改良するだけです・・・」
おばあちゃん「恵那や、買い物はどうしたんだい？」
恵那「買い物・・・あっ、忘れてた・・・ごめんなさい。今から行ってくる・・・あっ！」ばたーん！

おばあちゃんからの質問に恵那さんは慌てて戻ろうとするが、何もないところで躓いて盛大に転んでしまう。

要「・・・大丈夫か？」
おばあちゃん「いつものことじゃ。まぁ今日の廃棄でわしの分はありそうだし、ちょうどいい。買い物ついでにお兄さんとごはん食べてきんさいな」
恵那「うぅ・・・えっ？」
要「俺も買い出し行かないといけなかったしちょうどいい、のかな」
おばあちゃん「ずっと晩御飯の事考えてたみたいだし、まかないのつもりでほれお金じゃ。おすすめの店に連れて行ってくれ。恵那は外食もほとんどしたことない身じゃからのう」
恵那「い、いいの？わあぁ、外食なんていつぶりだったっけ・・・」

確かに恵那さんとおばあちゃんのこれまでの生活を考えるに、マ●クやスタ●には寄ってそうだけど外食はなさそうだ。ちょうどいい。結花のバイト先にでも行ってみるか。

要「んじゃ閉店と補充作業をぱぱっとしてきますかね」
恵那「閉店は私がしますから、お兄さんは補充の方をお願いします」



おばあちゃん「わしもそろそろ料理もできなくなるほど痛むようになったねぇ。今のうちに恵那にいい思いをさせないとね・・・よっこらしょ」