ＥＸ－３前半　きっかけのきっかけ　作：にしん

　それは４年前。恵那がまだ中学校に入ったばっかりの時の話である。

恵那「おばーちゃん、何か手伝うことない？」
おばあちゃん「じゃあいつもの並べるのお願いしようかねぇ」
恵那「はーい」

近くに社員寮や学生寮が出来てから、毎朝この小さいコンビニは大忙しである。恵那はまだ子供なのでレジは出来ず、補充をさせている。サラリーマンやＯＬたちの合間を縫って動ける子供の特権だ。しっかりしている子なので商品を大切にしつつ、素早く並べてくれる。

そして、当時はとある人が朝だけ手伝ってくれていた。

？？？「ありがとうございます。お気をつけて・・・ふう、これから毎朝これだと大変そうですねぇ桃井さん」
おばあちゃん「じゃのう。ま、恵那が成長するまで我慢じゃよ」
？？？「うちの息子ももうちょっとまともに成長してくれたらいいんですが・・・」

それは物腰穏やかで落ち着いた女性。彼女とはおばあちゃんと目の前にある道路の終端にある温泉で行われていた“ある事”で知り合った。社員寮や学生寮の噂を聞きつけ自らバイトとして手伝うようになった。名前はー・・・

恵那「かなめおばさん、今日はおばあちゃんと遊ばないの？」
かなめ「今日は息子の遊二をショップに連れて行かないといけないから」
おばあちゃん「確か引退試合って聞いたが」
かなめ「本当に引退するのかしら、遊二は・・・だいぶあれに熱入っちゃってるから」

当時の恵那にはそれが“遊戯王”のことだとは知らず・・・そもそも遊戯王自体まだ知る前なので、彼女にはおばあちゃんが要の母とトランプのようなものをしているという認識だった。



　数日後の夕方。おばあちゃんが空になったコンテナを台車から裏にある倉庫に移していた時だった。

おばあちゃん「ぐっ！？」

腰に激痛が走る。おばあちゃんは腰を抑えながらその場にうずくまる。ぎっくり腰だ。

おばあちゃん「な、何年ぶり・・・かしらねぇ。しばらく休んで病院行くかね・・・いてて。恵那に見つからない場所でぎっくりしてよかったわい」

倉庫の段差に腰を掛け、腰をさすりながら回復を待つ。恵那の助けを呼べばいいのだが、ある理由があった。それは・・・

おばあちゃん（身内が倒れることがトラウマになってるからのう・・・恵那は）


ーーー

　この話の更に数年前。当時のコンビニ・・・の２階の家にはおばあちゃん、恵那の他に恵那の両親が共に住んでいた。小さいころから恵那はしっかりしており、自分よりも他人の世話を優先するタイプだった。両親共にこのコンビニではなく別の場所で夜まで働いていたからだ。

そしてある日、父が突如意識不明。入院し、恵那もおばあちゃんと一緒にベッドに横たわり、心電図の規則正しくもゆっくりとした音を聞きながら父の様子を見ていた。そして・・・


ピー


恵那「っ・・・」


ーーー

　父の突然死・・・大好きな人を失うこと、正確には失う前ぶりである”倒れること”が恵那にとってトラウマになったようで、おばあちゃんが躓いたり痛みを覚えたり、しんどそうにするだけで他の事を放って付きっきりで世話をするようになった。父の死をきっかけに母は給料のよい都会へと単身で出て行った。それも恵那にとって父の時と違うけど同じ「失う」ことであり、心を閉ざして数日間引きこもっていた。

その状況を助けたのが、温泉で熱いデュエルを交わした要の母である。

おばあちゃん「こりゃあかんな・・・加藤さんか要さんが来てくれれば助かるがの・・・」

そして、その時は再び訪れるのである。


恵那「おばあ、ちゃん・・・？」


後半へ続く