第１１話　忍は梅雨に消える　作：にしん

　今日も雨が降ったりやんだりだ。アパート故に除湿をかけないとやってられない湿度であり、調達したカードもスリーブに入っているとはいえ扱いづらい。特に使い古した＜影忍＞のカードたちはその湿気でかなり扱いにくくなっていた。

＜影忍＞は最新ルールに対応できるように全てばらしていたが、この湿気ではまともに作業できなくて明日以降に回そうと考えていた。

そして今日もこいつは俺の部屋でくつろいでいた。

結花「ねー遊二―。次のパックで出る＜オルフェゴール＞と＜ドラゴンメイド＞っていい感じじゃない？」
要「墓地アド系か。邪魔されにくいし確かにいい感じだな」
結花「次のバイト代入ったら作ろうかな」

しかし今日は結花の様子がおかしかった。床におっさんみたいに頬杖をついて横になっているのはいつも通りなのだが、今日はやたら目立つおかしなものがあった。それは・・・

要「それよりその髪大丈夫か？」
結花「大丈夫だ、問題ない」
要「・・・爆発に巻き込まれた後の姿みたいになってるけどな」
結花「ゼル●アスみたいでいい感じっしょー。遊戯王ならモリンフェンの翼みたいなやつ」

色的にも確かにと納得して吹きそうになった。

　午後になるころには雨は小康状態になる。今のうちにやることをやらねばと思い、立ち上がる。結花は・・・いつの間にか寝てやがる。起こすのも面ｄ・・・あれだし、そっと置いておくことにした。

要「雨雲レーダーの情報だと１時間ぐらいか・・・急ぐとしよう」

この小雨の時用に買っておいたレインコートを着る。

要「よし。買い出しだ。結花の奴最近うちの食材使いまくるからな。そろそろ食費請求するしかない」

小雨の中自転車を思いっきり走らせる俺だった。


・・・


結花「んっ・・・んんーっ、おはよ」

あたしが目覚めると静かだった。エアコンの音だけが静かに聞こえる。遊二はどこに行ったのやら。あたしはトイレや押し入れの扉を開けて探すもいなかった。外に出てみると自転車がなかった。雨が弱まっているから買い出しにでも行ったのだろうか。

結花「あー、最近あたしも食材使ってるからかもなぁ。そろそろ返さないとマズいかも」

隣だけど部屋に戻ろうとも鍵をかけずにするのもなんだかなぁ。と思いそのまま遊二の部屋でくつろぐことにした。そういえば最近新しいカードもそうだけどゲームも買ってたみたいだし、それで遊ぶことにした。


ピンポーン


インターホンが鳴る。扉の覗き穴から見るとそこにいたのは見たことのある「女の子」だった。

扉を開ける。出てきたのが遊二じゃなかったからかその女の子は少しびっくりして後退りした。やっぱりかわいい。確か恵那ちゃんだったか。

結花「およ？コンビニの店員ちゃんじゃね。遊二なら今買い物行ってるぞい」
恵那「えっ、そ、そうなんですね。ま、また来ます」
結花「んー、いや、あたしが聞いてあげるよ。もしくは中に入ってゆっくりするといいよー。遊二の部屋だけど」
恵那「えっ、あ、じゃ、じゃあ・・・おじゃま、します」

恵那ちゃんは少し綻びている水色のかわいいリュックを両手で持ちながら入った。何か持ってきたのだろうか。床に置いた時に聞こえた音は聞き覚えのある小箱と紙の音だった。

結花「今日は何しにきたの？」
恵那「えっと、デッキできたから・・・お兄さんとデュエル、したくて」
結花「ほほーん、やっとできたんだねー。まぁ遊二が帰るまでもうちょいかかりそうだし、あたしが相手したげる。暇だしね」

あたしは自分のデッキではなく、先日より改良した＜デジバグリア＞デッキを手に取った。遊二にあげたデッキだが、試運転がてらにここでしておくのもありかなって。

恵那「よ、よろしくお願いしますっ」
結花「ダメージ計算アプリ起動してっと・・・んじゃデュエル！」


デュエル中。恵那ちゃんのデッキはあたしと静流ちゃんが教えた遊二の影忍キラーである＜ウィッチクラフト＞を使っていた。仕込み阻止のヴェールなど手札、フィールド、墓地アドを稼ぎつつ除去や妨害を行えることかつ、かわいいカテゴリということでこれに決まった。対してこちらは除外を増やして効果発動を安定的にできるようにしたことでアリスはもちろんプリムハートを展開して盤面制圧を簡単にできるようにした。

そういえば気になっていることがある。ここはキリのいいところで聞いてみよう。あたしのドローでちょうどいいかも。

結花「んー・・・」
恵那「ごくり」
結花「デュエルと関係ないんだけどさ。恵那ちゃんって遊二の事気になってるよね」
恵那「っ！？けほっけほっ、い、いきなりなんですか・・・？」
結花「んー、“シノビのユージ”って教えた時から遊二と話す時なんだかおどおどしててかわいいよね」
恵那「ふえっ！？」
結花「“シノビのユージ”は実力“は”本物だしねー。まぁ元中二病なんだけど。恵那ちゃんも遊二みたいに強くなりたいの？」
恵那「えと・・・その・・・わ、私は・・・」

割とド直球な質問だけど案の定恵那ちゃんは過剰に反応した。そのうえちょっとカマかけようと“シノビのユージ”の名前を出しても同じような反応。だけどその後の質問に対しては困ったかのような反応。ここは遊二の幼馴染としての勘が一つの答えを出していた。

結花「変な質問してメンゴメンゴ。あたしも遊二みたいに強くなりたいって思ってたし、一緒に遊二を倒すために協力しよって話だよ」
恵那「そ、そうなの・・・は、はい。もっと強くなって”シノビのユージ”を倒したいです」
結花「うむうむ。んじゃーあたしは手札から＜デジバグリア・ジオルアウト＞をー・・・」


・・・


買い出しから戻ると何故か結花と恵那さんがデュエルをしていた。結花はいつも通りだとして恵那さんとは特に何も約束はしていない。

結花「あ、おかえりー」
要「ここ俺ん部屋だけど」
恵那「おおお、お邪魔してますっ」
結花「あ、＜デジバグリア・プリムハート＞でダイレクトアタックであたしの勝ちー」
恵那「え、あっ・・・あう」

俺が買い出しで外出していた時間は３０分程度。その間に恵那さんが来て結花とデュエルして決着がついたということはそこそこ長引いたのか。それよりも食材だ。一通り整理してまた床に転がっている結花に手を出した。

要「そろそろ食費貰おうか」
結花「ちょうどあたしも思ってた」
要「・・・ホントか？」
結花「マジマジ」

食費の件は今回の買い出し分を出してくれた。

次に座ったまま何やら困惑している恵那さんだ。水色のリュックとデッキ。そしてこのデュエルの跡。普通に考えてデュエルしに来たということだろう。

要「まぁ暇だし、恵那さんがよければ次は俺とデュエルするか」
恵那「は、はいっ、よろしくお願いします。お兄さんの＜影忍＞を今日こそ打ち破ります・・・！」
結花「お、ついに念願のチャレンジだな！がんばえー」
要「あ、＜影忍＞デッキ調整中で全部ばらしてた・・・」
結花「ズコー」

全解体して調達したカードやらいろいろ調整で混ぜている途中で放置していたのだった。つまりデッキは超古いのしかない。

恵那「じゃ、じゃあ私のチャレンジ・・・お預け、ですか？」
結花「こんな時に何やってるのだ遊二よーおうおう」
要「次までにはちゃんと完成させておくから・・・今日は結花のデッキで許してくれ」

何故かしょんぼりしていた二人だった。今回のところは俺は結花からデッキを借りてデュエルをするのだった。