ＥＸ－１　シノビのゆーじ　作：にしん

ーそれはこのお話が始まる４年前・・・“シノビのユージ”の強さが全盛期を迎えていた時のちょっとしたお話である。


　今日は待ちに待った県大会、全国大会、そして最終的に世界大会に出場できる公式大会の一つがここ、九良市にある一番大きいカードショップで土日にかけて開催される。あたしは今年もカードを新調してこの全国と世界へ行くために挑む。新たに実装されたルールとカード、「ペンデュラム」を採用したこの＜オーロライト＞で。

でもあたしにはまず倒さなければいけない存在がいた。まだまだ残暑が続くこの季節、バス停で一人でその存在を待つ。

結花「楽しみだなー。あいつ最近全く負けてないし、そろそろあたしが倒さなくっちゃ」

しばらくして一台のバスが到着する。大人たちや家族連れが下りる中、その存在は上下黒、黒のパーカー、そして黒いリュックを背負った一人の同年代の男の子を見つけた。

結花「きたきたー！ゆーじーー！」
要「・・・・・」

ゆーじは首を横に軽く振り、鼻先にかかるほど長くした髪をわずかになびかせてあたしを見つめた。

要「今日こそオレの“シノビ”の名が全てのデュエリストに知ることが任務・・・さあいくぞ」
結花「あははー、今日も絶好調だねゆーじ」

このいかにもちゅうにびょう？な男の子こそあたしの幼馴染であり、この九良市最強のデュエリストである。最近髪を伸ばし始めたらしい。

　会場に到着すると、すでに人でいっぱいだった。入り口付近に受付があるのであたしとゆーじはエントリー用紙と引き換えに貰ったカードを返却し、参加受付を済ませた。

トーナメント表を見る。すごい人数だ。一応県内の数か所で公式大会が行われているものの、田舎なここが穴場とみて沢山集まったようだ。参加者席はかなり広く取られていたが、すでにほとんどの席が埋まっていた。二人座れる場所を探してあたしたちは座った。

結花「すごい人だなー」
要「オレの忍についてこられる強者を感じない・・・余裕だ」
結花「あはは、こすぷれもいるー。強そうだなー」


―――
　今日は待ちに待った大きい大会の日。小学生のころから遊戯王に情熱を注ぎまくった私だが、大会で結果を残すことはできていない。だから今日は最高のデッキを持っていく。

親の車で会場に到着する。すでに沢山の人がいた。中にはコスプレをした人もいた。そして私の“好敵手”も・・・でも彼も今日はかなり気合が入っているようだ。

・・・普通の格好、三つ編み、メガネな私が来る場所なのだろうか。そう思うと少し気が引ける。それでも勇気を振り絞って店内に入った。

静流「これ・・・よろしくおねがいしますっ」

大会で結果が残せなかったのもその“好敵手”のせい。今日こそ私が倒して見せる。そう思うと自然と私も気合が入る。

静流「頑張れ私・・・」

―――
恵那「おばーちゃん！遅れちゃうよぉ！」
おばあちゃん「はいはい。もうちょっと発注が済むまで待っててねぇ」

今日は市内で公式大会が開かれている。そこまで優勝を狙いたいわけじゃないけど人とデュエルをしたい。私はお気に入りでかつ遊戯王に触れるきっかけとなったデッキを手に気合を入れていた。

だけどおばあちゃんは客が少ないこの小さい小さいコンビニの店長。まだまだ車は運転できるけどゆったり。すでに準備を済ませた私はデュエルの時と同じ焦りを感じていた。おばあちゃんの準備が終わる頃にはすでに受付終了から１０分前だった。大急ぎで車に乗り込むも、おばあちゃんはゆーっくりと運転席に座る。

おばあちゃん「さて、いつものカードショップだったかねぇ」
恵那「そうだよ。だからすぐに出発して」

受付時間ぎりぎりになんとか間に合ったが、焦りとダッシュで行動以上に疲れた。とりあえず大会開始前に参加者席を後ろから見渡す。

恵那（大きい大会だからみんな気合入ってるなぁ・・・特にあの全身黒の人とか・・・）

私は何となく気づいていた。あの全身黒の人がこの九良市で現在一番強いと言われている“シノビのユージ”だということを。いつもは普段着に黒のパーカーなのは大会とかで見てきたけど、今日は更に気合が入っているようで・・・

そんな彼に私は少しだけどきどきしていた。いっぱい人とデュエルしたいけど一番は“シノビのユージ”とデュエルしたい。彼に近づきたかった。




・・・この大会の結果は“シノビのユージ”が優勝し、県大会への切符とシード権を手に入れた。それ以外でも３位までは県大会への切符を貰えるようだが、結花や静流、恵那たちより年上のデュエリストが手に入れていた。

要「これも、影に忍ぶ者の必然たる宿命也（なり）・・・」


―――
おまけ
結花「くっそぉー！またゆーじに負けたー」
静流「また“好敵手”に負けた・・・もっとブルーアイズ力を高めないと・・・」
恵那「もっとデュエルしたかったのに最初に“シノビのユージ”と当たるなんて運がなかったなぁ・・・」
要「当然の結果・・・」