プロローグ「出会いは突然に」　作：イクス

「うわぁ……すごい」
一人の少年が、車の窓から町を見る。遠目に見えている町は、ビルや大型施設が立ち並ぶ、大都市であった。
「お父さん、あの町が……！」
「ああ遊太、あの町が、明日から住むことになるプラクサスシティだ。かなり凄い町だろう？」
「ええ、なんでもアミューズメント業界じゃ、業界トップクラスの企業が立ち並ぶ町ですもの」
少年は後ろにピンとはねたくせ毛を揺らしながら、町を眺めている。その様子を見て、少年の父はハハハと笑い、母はにっこりとしている。
少年の名前は六道遊太（ろくどうゆうた）。小学五年生。今日、プラクサスシティに引っ越してきたのである。
（新しい町には、一体どんな人がいるんだろう？）
そう思いながら、遊太は町をずっと眺めていた。


その翌日。
「それじゃあお父さんお母さん、行ってきます！」
「気を付けていってらっしゃーい」
遊太は、今日から新しい小学校へと通う。プラクサスシティの街中にある、プラクサス小学校に。ランドセルをゆっさゆっさと揺らしながら、目的地へと歩み始めた。
登校の途中、遊太はプラクサスの街並みをじっくりと眺めながら、ゆっくりと歩いていた。初めて来る町を、舐めるように見ながら。
「わぁ……凄いや……」
その街並みは、遊太にとって非常に凄いものだった。雲を突き抜けそうな程高いビル群。その途中に見られる、見た事のの無い店の数々。更には、ビルの合間や店の向こうに、沢山のアミューズメント施設。以前住んでいた町とは全然違う。いかにもな都会である。
「前に住んでいた所は、自分的には都会だって思っていたけど、本当の都会っていうのはこういうのを言うんだろうなあ。さてと、目的地のプラクサス小学校は……と」
懐から出したスマホを操作しながら、目的地を検索する遊太。そこまでは良かったのだが、歩きながら操作したのがいけない事だった。
「えーっと、プラクサス小学校……」
「うわあっ、危ない！」
「え？」
ドカッ！　と誰かと正面衝突してしまった、ぶつかった人は、割かしラフな服装をしていたものの、その手には高級そうなスーツケースが握られていた。しかし、ケースはぶつかった衝撃で開いており、その中からはカードらしき物があふれ出ていた。
「あ、ごめんなさい。歩きスマホなんかしていたから……」
「こ、こっちこそ……急いでいたものだからね。それよりも……め、眼鏡はどこかな？」
目の前を手探りで何かを探す彼、すると、黒ぶちの眼鏡が遊太の目の前におっこちていた。
「あの……これ……」
「ああよかった、これが無いと見えないんだよなあ……おっと、それよりこのカード達をどうにかしないと……」
「この、散らばったカード達ですね？　僕も拾います」
カードは予想以上に広く散らばっており、拾うのは一苦労した。が、全て拾い集めることに成功し、ケースの中に全て収納した。
「ありがとう。それじゃあ、会議があるからこれで！」
眼鏡をかけたその人は、忙しそうにそそくさとその場を離れて行った。
「一体、なんだったんだろうあの人……あんなにカードをスーツケースに入れて……まあいっか、そんなことより、僕は学校へ……ん？」
ポケットに何やら違和感を感じ、ポケットから何かを取り出す遊太。それは、１枚のカード。
「これ……『イクスロードナイト・アルファ』？　ひょっとしてコレ……さっきあの人がぶちまけたカードの中の１つ！？　それが、なんで僕のポケットの中に！？　一体どうして……」
しかし、つい目に入った時計を見ると、そんな考えも吹っ切れてしまった。
「あっ、もう時間が無い！　行かなきゃ！」
アルファのカードをポケットに突っ込み、学校へと急いでいった。
そのカードが、どんなカードなのかも知らないで。