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第九十九話「異変」 作:イクス

第九十九話「異変」


遊太たちがD1グランプリ本戦出場を決めたその日の夜、遊太の家では盛大なパーティが行われていた。
「おめでとう遊太! 遊太がまさか世界的な大会に出るなんて、父さん嬉しいよ!」
「……いっとくけど、まだ出るだけだからね? 一回戦でコロッと負けちゃったりしたら、その他大勢ってなっちゃうかも……」
「心配するな! 遊太、お前ならきっと優勝できーる! 間違いなしだ!」
「アハハ……」
「それで、ユイちゃんもその大会に出場するんでしょ? 記憶喪失だっていうのに、そんな大会に出るなんて……」
「ハイ、記憶はまだ戻りマセンが、あの大会にはきっとワタシの記憶を取り戻すきっかけがあると思うんデス!」
「ユイだけじゃないよ。そんな思いを、みんな抱えている。優勝するために、いろんなものを背負っている……デュエルを通じてね」
「おお……遊太がこんなに深いことを言うとは……デュエルに出会ってから、なんか変わったなあ遊太」
「そ、そうかなあ?」
「なんとなくだけど、明るくなったわよね。前はちょっと……暗かったわよね」
「ん、ん~……」
「どういうコトデスカ?」
「あー……それは……また後でね」
パーティが終わり、自分の部屋にいる遊太とユイ。寝ているが、眠っている訳ではなく、ユイはあのことが気になっていた。
「遊太サン、もう寝ていマスか?」
「いや、起きてる。ひょっとして、お父さんが言ってたアレ?」
「ハイ、ワタシは今の遊太サンしか知りマセン。昔の遊太サンって、どんなデシタか?」
「……あんまり聞いてて良い物じゃないよ」
「構いマセン。どうぞ」


昔の、デュエルに会う前の僕は……いつも俯いていたとお父さんは言っていた。一人で砂遊びをしていたり、本を読んでいたりしていたみたい。
内向的で内気で、クラスの輪にも入れない僕は、ずっとひとりぼっちだった。だからプラクサスに来た時は、そういうのをなんとかしようと張り切ってた。
そこで偶然デュエルと出会って……僕は、デュエルで友達が沢山できて、明るくなっていったんだ。
でも、ここまで一緒になれたけれど、実は少し心に引っかかっているものがあるんだ。
それは……もし、デュエルができなくなったら、勝てなくなったらどうしようって。
ないかもしれないけれど、僕がデュエリストとして再起不能になったら、みんないなくなっちゃうんじゃないかって思いが、心のどこかにあるんだ。
それを思うと、時々心が痛くなるんだ……。


「これが、デュエルに出会う前の僕さ……」
一息で語り終えた遊太。その顔には、どこか憂いと悲しみがあった。
「今の僕からデュエルを取っちゃったら、一体なんなんだろう。みんなは、いつもと同じように、してくれるのだろうかって……時々思うんだ……」
その言葉を聞いたユイは、遊太を抱きしめた。
「そんなコト、ありマセン!」
「ゆ、ユイ!?」
「遊太サンは、みんなの友達デス! ワタシも遊太サンの友達で、家族デス! デスから……大丈夫デス。きっとみんなも同じデス……!」
「……ありがとう」
遊太も同じく抱きしめ返した。


同じ日の夜、夜の町にD1グランプリ出場者の何人かが外出していた。J4の桐生、萌花。ロカクタウンの赤羽根、雨崎、森野の5人だった。
「なんで俺たちこんなとこに呼び出されたんだ?」
「大会運営委員から直接呼び出しを食らうなんて、私達なにかしたとは思えないけれど、それでも行かないといけないのね」
「ひょっとして、何かマズイことがあったとかもしれないんだな……」
「ですが、私達は何もしておりません」
「そう、かも~」
そんな話をしていると、向こうからやってきたのは黒ローブの男達だった。
「な、なんだお前らは! 大会運営者じゃねえな!?」
「運営者の身内さ。悪いがお前達には、ここで重要な贄となってもらう」
すると、黒ローブの男達はデュエルディスクを構えてデュエルの体勢を取る。それと同時に五人のデュエルディスクも自動的に起動する。
「なんだよ、どうやら厄介なことになっちまったみてえだな。やれるか、みんな!」
「J4の一角を舐めてもらっては困ります」
「まあ、心配ないかも~」
「あたしは問題ないのね」
「だな!」
J4の二人とロカクタウンの三人もディスクを構え、臨戦態勢を取る。


「『ヴォルカニック・デビル』で、伏せ守備モンスターを攻撃! そして、モンスターを破壊した時、相手モンスターを全て破壊して破壊した数×500のダメージを与える!」
「『マスター・オブ・OZ』で、ダイレクトアタックだ!」
「『餅カエル』で、効果を無効化してあたしのフィールドにセットするのね!」
「『聖霊獣騎ガイアペライオ』の効果、手札の『霊獣』を除外して無効化するかも~」
「シンクロ召喚! レベル9『幻竜星-チョウホウ』!」
「「ぐああああっ!」」
五人は男達に優勢であった。
「どうやら、お前達はたいしたことないみてえだな。よーし、このまま押し切るぜ!」
「……フッフッフ」
「何がおかしいのですか?」
「いや、嬉しいのですよ。思い通りにことが運ぶのはね……」
「そして、このカードによって私達のコンボは完成する! ダークネスカード、発動!」
「なにっ、ダークネスカー……うわああああっ!」
黒ローブの男達が発動したダークネスカードによって、五人は闇に包まれてしまった……。


翌日。遊太達はD1グランプリに向けてデッキ調整をしていた。世界から強豪達が集う大会、故に微塵も妥協はできない。1枚のカードが全てを決めるかもわからないから。
そんな時、遊太の家の電話が鳴った。
「遊太ー! ロベルトさんから電話よ! なんか火急の用事だって!」
「用事? なんの?」
そうして母から受話器を受け取ると、ロベルトは焦ったような口調で遊太に話しかけた。
「遊太君、今大丈夫かい!?」
「はい、大丈夫ですけど」
「今すぐプラクサス大学病院へ来てくれ! カリンちゃん達も一緒にいるよ!」
「は、はい……?」
遊太はプラクサス大学病院へと来た。そこには、菊姫、知多、真薄、カリン、アキラがいた。ロベルトと烏間も。
「どうしたって言うのですか?」
「実は……まずは病室へ入ってくれ」
「病室?」
病室へと案内された遊太達。そこにいたのは……。
「おい、大丈夫かよ桐生! 目ぇ覚ませ!」
「一体どないしたっちゅーねん……」
「バネさん! みんな、しっかりして!」
「こ、これは!?」
病室に寝かされているのは、J4の中で唯一本戦へと出場した萌花と桐生、そしてロカクタウンの赤羽根、雨崎、熊五郎の三人だった。それに対して、必死で呼びかけている剣太郎と明石、石山だった。
「ど、どうしたの一体!」
「わかんねえ……なんかいつの間にかこんな風になっちまっていたんだ……」
「あ……う……」
石山が呼びかけても、うわごとのような声を並べるだけで、何も語らない桐生。目にも光が無い。
「これは、一体……」
「遊太君、この五人はまるで魂が抜かれたような状態になっているんだ」
「魂……?」
「覚えがあるはずだよ、魂に関するこういった事件が」
「……前の、決闘者の帝国事件! あいつら、人間や精霊達を狙ってた!」
「そう、五人がこうなったということは、前の帝国事件で襲ってきたような敵が、また行動を開始したということなのかもしれない」
「それで、この五人は、前の帝国の被害者と同じく魂を抜かれてしまったと……?」
「その可能性が高い。ひょっとしたら、この大会に乗じて敵達が本格的に侵略をしようとしていると思ったんだ」
「そんな……」
「そういう訳で、この大会には何かがあると感じたんだ」
「何か……?」
「少なくとも、運営側に何かあるとしか思えない。故に、本戦出場する遊太君、アキラ君、知多君、菊姫君には気をつけてもらいたいと思っている。それと、真薄君、カリンちゃんには、僕と烏間と一緒に裏の方に回って、内情を探ろうと思っている」
「わかりました!」
「わかりましたわ」
その言葉と同時に、明石と石山も。
「待ちやロベルトさん、なんか訳ありみたいやな。こん二人がこないになっちまったのを探してるんゆうなら、ワイも一緒に行かせてもらうで!」
「コイツらは俺にとっても仲間なんだ。だから俺も明石と一緒に協力するぜ。ちょうど予選も負けちまったしな」
「君たちも協力してくれるのか、ありがたい。それじゃあ僕達は大会中、裏で敵の動向を調査しようと思う。君たちは大会を行いつつ、何かあったら僕たちに報告するように」
ロベルトの話を黙って聞いていた遊太の仲間達。そして、遊太は剣太郎にも。
「剣太郎君……」
「みんな……」
剣太郎は3人に対して泣き崩れていた。
「……」
病院の外へ出た遊太達。真薄とカリンはこう告げる。
「僕たちは大会に出ることができなかった分、みんなが安全にデュエルができるように、なんとかロベルトさん達と一緒に裏の内情を探っておきます!」
「皆さん、お気をつけてくださいわね」
そうして真薄とカリンは去って行った。残された遊太は、一人つぶやいた。
「なんか、残念だね……」
「残念って、何じゃん?」
「せっかく、世界中の人たちとデュエルができて、デュエルを楽しめる大会だと思っていたのに……また、こんな悲しいことが起こるなんて……悲しいよ、僕……」
うつむきながらそう語る遊太。その言葉に対し、しばらく黙る菊姫、知多、アキラ。そして、アキラが口を開く。
「それすら全部含めて、楽しめばいいじゃねえか」
「全部含めて!?」
「ああ、こういう敵の乱入は前もあっただろ? だったら、それさえも全部ぶっ飛ばす勢いで行けば良いんだよ。俺たちの大会をぶち壊す輩を、全員ぶっ飛ばす感じでな!」
「アキラ君……」
「確かに、アキラの言うとおりだな」
「菊姫も?」
「前もあんなことがあったが、その時もぶっ飛ばせたんだ。むしろまたぶっ倒してアタシたちの大会を邪魔すんじゃねえって。それに、コジローのこともあるからな。遊太、前に倒せたお前もいるんだ。何も不安がることはねえ!」
知多も。
「ま、俺たちには心強い味方がいるじゃん。また、みんなでやっつけてやろうじゃん!」
不安になっていたのは自分だけ。むしろ、みんなはやっつける気満々なのを見て、遊太も……! 
「そうだよね……せっかくこんな楽しいことがいっぺんにやってくるんだ。よーし、こうなったら思いっきり全部楽しんじゃおう!」
「「おーっ!」」
不安は拭えないわけじゃない。けれども、それさえも楽しめる余裕と度胸が自分には必要なのだと、遊太は思っていた。

だが、どうしても不安に思う人物はいる。精霊達だ。遊太、カリン、真薄、アキラの精霊達は夜、話をしていた。
「大丈夫なのだろうか? 一応、敵と戦うことは危ないことではあるのだが……」
「アルファ、心配しないで。あなたたちは不安かもしれないけれど、遊太たちみんなは、どんな逆境をも乗り越える力を持っているわ」
「僕の計算では、キサラの言うとおり今回の危機も乗り越えられる確率100パーセントだねえ。みんな、確率を超えた力が、そこにあるんだよ。現に、あの帝国の時も乗り越えただろう?」
「グレイマターがそういうのもわかるが……」
「彼らを信じてみましょう。ほぼ力を使えない私達に代わって、行動できるのは彼らなのですから」
「……ならば、信じるしかないな。みんなに、期待するしかない」
精霊達の会議は、終わった。次の戦い、D1グランプリはすぐそこまで来ている。そして、来たるべき奴らとの戦いも……。


第九十九話。終わり。次回、百話到達! 
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