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Report#94「デジタル・バグ」 作:ランペル
父親とワルトナー。双方の涙が落ち着いた後、フロア内にしばしの静寂が訪れた。ワルトナーは父の傍らに座り、彼の弱った呼吸に合わせるようにゆっくりと肩を上下させている。梨沙もまた、胸の奥に残る熱を抱えながら、静かに周囲を見渡した。それぞれが、自分の感情と向き合う時間を過ごす。そして――梨沙が、そっと口を開く。
「お父さん、私と河原さんがお父さんに会いに来た理由はもう分かってるって事でいいよね?」
父親の視線が、静かに梨沙へと向けられる。先程、彼は盗聴器を用いて梨沙達がグリーンフロアへ来る事を察知していたと口にしていたのだ。
「えぇ……。確か、この仮想現実から脱出する為の方法に心当たりがないか……という話でしたか」
「そうなんだよね。向こうから電話も掛けたけど、お父さんがこんな状態じゃ繋がるはずもなかったからね」
梨沙たちが今、目指している脱出方法は――観測者のみが利用しているログアウトによるものだ。パスワードは河原を通じて把握しているが、肝心の入力する為の場所を知らない状況にある。
「それで……何か脱出の為の方法思いついたりしない?いきなりで無茶苦茶なのは分かってるんだけど……」
当然、父親とて知っているはずはない。だが、この世界が電脳世界である事実を知れば、元プログラマーである父親なら何か思いつくのではないか?そんな淡い期待と共に梨沙が問いかける。
「……河原さんの話によれば、特定の場所に赴かなければ、観測者であろうとログアウトは出来ない……ということなのですね?」
父親の確認に、河原が頷き答える。
「そうなります。この電脳世界は、構築段階で高度なセキュリティを組み込まれて作られました。外部からの不当な干渉などは、私が知る限りでは1度も無かったかと思います。それ程までにセキュリティが徹底されているからこそ、現在の観測者達であってもそのセキュリティ内容は容易に変更する事が出来ないのです。私の知っているパスワードが未だ有効なのも、そのためですね」
「外の人がこの世界のルールを変えようとしても、出来ないってことですね……」
観測者のログアウトにも条件が必要な理由。この実験が始められた時に、設定されているプログラムがセキュリティを強固にしていると共に、その設定を安易に変える事が出来なくなっているというものだ。
父親はしばらく黙ったまま、何かを思い出すように目を伏せる。この実験で生き延びる為に様々な検証と推測を立ててきた父親が、ゆっくりと思考を巡らせる。そして、口元だけを動かして呟いた。
「それらを踏まえますと……まず、各フロアに脱出口があるというのは考えづらいですね」
「それは……どうして?」
「特定の場所でしかログアウトを行えないというのであれば、そもそも観測者側がわざわざこの世界に入るという事自体が非常に稀な状況ということです……。そんな例外的な状況しか想定していなかったから、ログアウトの方法を限定化してセキュリティの強化に重きを置いたのでしょう」
「そうですね……。電脳世界である以上、この世界で不具合などが発生しても外から解決すればいいことですから。逆にこの世界に来ないと解決出来ない事態などそうそう起こり得ないはずです」
父親の推測に河原も同意する。
「ならば、ログアウトする手段がフロアにしかない場合……被験者が存在しているフロアに赴かなければ、ログアウト出来ないというのはあまりにも危険でしょう」
「そっか、まず間違いなくバレないようにログアウトなんて出来ないもんね……」
被験者に割り当てられた居住地であるフロアに、ログアウト地点があるとは考えにくい。実際、そんな場所で脱出を試みれば、まず間違いなくフロア主に気づかれる。特に、クラスⅢのような攻撃性の高い被験者が居る空間では、その行動は命取りにもなりかねない。梨沙としても、それが非合理であることは疑いようがなかった。
「私が思うに、ログアウトが可能な地点そのものは、私達に用意されたエスケープが可能な地点と同じなのではないかと思います」
「エスケープと同じ?」
梨沙は首を傾げながら、父親の言葉を頭の中でなぞる。エスケープとログアウトの違い。その境界が、少しずつ曖昧になっていく。
「エスケープも言うならば、ログアウトと手順は同じでしょうからね。あくまで、意識の送信先が現実の肉体ではなく、ロボットであるというだけで……。ログアウトの方法そのものの種類を増やす必要があるとは考えにくいでしょう」
父親のその言葉には、かつてシステムの裏側を設計していた者ならではの確信が滲んでいた。
「なるほど……確かに原理を考えれば当然かもしれません。観測者側が操作しているのはあくまでログアウト後の設定。本来は元の肉体へと戻るはずの人格データから、記憶を取り除くと共に送信先をAI用のロボットへと変更しているに過ぎないという訳ですね」
父親の考察に対し、河原も納得したように静かに言葉を継いだ。それらを受けた梨沙は、期待に高鳴る胸の鼓動と共に自らのデュエルディスクの画面に目を移す。
「じゃぁ、エスケープしようとすれば場所を教えてくれるかもって事かな!」
「可能性はあるでしょう。ですが、エスケープを押しても、表示されるのは条件がどちらも満たされていないといった文言だけでした。所持DPが100万を超え、クラスⅢ2名を殺害すればエスケープの為に向かうべき場所が示されるのかもしれません」
「くぅ……結局、そこに行き着いちゃうんだ……」
梨沙はがっくりと肩を落とす。しかし、そこで河原が口元を押さえ、何かを思い出すように思考を巡らせる。
「可能性の話ですが、白神さんであればその場所を知っているかもしれません……」
「翔君が……ですか?」
河原が突然白神の名を挙げたことで、梨沙は首を傾げた。
「はい、彼はエスケープする為にレッドフロアへ来ていたはずです。と言うことは、エスケープの為の条件である100万DPを所持する条件に関しては、既に満たしていたという事ではないでしょうか?」
「あっ、確かにそうです!じゃぁ、エスケープに関しては翔君の方が私たちよりも詳しいかもしれないんですね」
河原の言葉に、梨沙はハッとしたように息を呑み、声を上げた。
「こうなると白神さんと連絡がつかない状況というのが、なんとももどかしいですね……」
「……彼と……連絡がつかないのですか?」
梨沙の言葉に、父親は意外といった様に疑問を呈する。その疑問に梨沙が答えていく。
「うん……お父さんがどこまで知ってるか分からないけど、私たちとは別でブルーフロアに行ってたグループがあるんだ。そっちの方に翔君が居たんだけど、突然見えない相手からデュエルを挑まれた……らしくて。今は連絡が取れない状態なんだ」
「見えない……と言いますと具体的にどの様な状況だったかは聞いていますか?」
梨沙の曖昧な話の部分を父親が深堀りしていく。
「えっと、そのままの意味だと思うよ?」
梨沙としても、近久から聞いた話の状況をあまり理解できないでいた。それ故、簡素に答えた梨沙の言葉へ、河原が補足を付け加えていく。
「近久さんによれば、そこには誰も居ないはずなのにも関わらずデュエルが開始されたとのことです。話を聞く限り、狙われていたのは近久さんだった様でしたが、白神さんが彼女を庇って見えない相手とデュエルを始めたとのことでした」
「あ、近久さんってのは、翔君と一緒にブルーフロアに向かってた人の事ね。後は、穂香ちゃんも2人と一緒にブルーフロアに向かうグループに居たよ」
河原と梨沙の回答に、小さく俯き考える素振りを見せる父親。すると、父親の視線がゆっくりと傍に座るワルトナーへ向けられた。
「ミア……私の意識がない間に梨沙以外とデュエルしましたか?」
父親の問いかけにワルトナーがビクリと肩を跳ねさせる。おどおどしながらも、彼女は絞り出すように口を開く。
「ご、ごめん…なさ…い……」
「怒っているのではありませんよ……。ただ、状況を把握したいのです。誰とデュエルしましたか?」
ワルトナーの謝罪に対し、父親はそっと彼女の手を握る。静かでいてどこか寄り添うように言葉を繋げれば、ワルトナーもゆっくりと言葉を続ける。
「はい……。たぶん……お姉さん達…の…話してる…人…だと、思う……」
「ん…………?ん!?」
父親の問いに答えたワルトナー。その回答に一拍遅れながら梨沙の脳裏に困惑の波が押し寄せた。
「ど、どういう事ミアちゃん?さっき私としたデュエルの前に翔君とデュエルしてたってこと!?」
梨沙の困惑を前にワルトナーが語った事。父親の誰とデュエルしたかという問いに、白神を仄めかす回答をしたワルトナー。その意味を問いただすべく、梨沙の声が上ずる。
「お父様…おかしく…なったのが…お姉さんの…せいだと…思ってた…から。穂香…と、一緒に…いる女の人…が…お姉さんだと思って……」
ぽつぽつと紡がれるワルトナーの言葉を聞きながら、梨沙の頭の中でいくつもの可能性が交錯する。でも、どれもピンとこない。
「…………ちょっと、待ってね。理解が追いつかないや……」
いろいろとおかしな状況に考える事を諦め深呼吸を挟む梨沙。肺を満たした空気をゆっくりと吐ききると、父親の方へと視線を飛ばす。
「ふぅ……お父さんなら、ミアちゃんが言ってる事がどういう意味なのか分かってるって事だよね。教えてくれる?」
父親の物言いは、ワルトナーが何をしたのかをある程度理解している様だった。ならばと梨沙は父親へと問い、それに対して父親が1度、ワルトナーの顔を見つめたまま短く息を吐く。その目には、すでにいくつかの答えが浮かんでいる様に見えた。
「白神さんを襲撃したのがミアだったという話ですね」
「彼女が白神さんを……」
父親の言葉に河原も驚き、自然と視線がワルトナーへと向けられる。ワルトナーは怯える様に父親の服を握りしめている。
「てことは、姿の見えない敵がミアちゃんだったって話なんだよね?そんなの……どうやったの?」
「この実験内で様々な検証を私は行なってきました。その1つに視力のない被験者は、対戦相手を認知さえすれば目の前に居なくともデュエルが行えるというものです」
「そんな方法が……」
「ミアが白神さんとデュエルした動機は、彼女が先程話した通りですね……。穂香と同行している女性が梨沙だと思い襲撃。しかし、それを白神さんが庇った事で、ミアと白神さんがデュエルする事となったのです」
「……事情は分かったよ。でも、今翔君と連絡が取れないって事は……ミアちゃんがデュエルに勝ったって事なの……?」
梨沙の中で想定しうる中で最悪の結末。ワルトナーが白神にデュエルで勝利し、殺害している展開だ……。
「ううん……ワタシ…その人に…負けたの……」
その言葉に父親の眉がわずかに動いた。驚きと同時に、どこか感心したような表情を浮かべている。
「ミアに勝ったというのですか……。この遠隔でのデュエルは、対戦相手に自身の盤面を把握されない事が最大の強みです。戦闘などの相手に干渉する行動をしない限り、相手の見える位置にリアルソリッドビジョンが出現しませんからね」
「な、なにそれ……そんなの目隠しでデュエルしてるようなもんじゃん!」
見えない相手とのデュエル――その異常なまでの不利さに、梨沙は思わず声を上げてしまった。けれど、そんな状況でも白神は勝利を収めている。その事実が梨沙の胸に静かに……けれど、確かな熱を灯した。彼の強さは、ただの実力ではない。極限の中で勝ち切る覚悟と集中力。そのすべてに、梨沙は心からの尊敬を覚えた。
「でも…大きな…ダメージ…受けてた……。だから、もしかしたら……」
「……!!」
梨沙の背筋に冷たいものが走る。勝ったはずなのに、命を落としているかもしれない……その可能性が、喉の奥をきゅっと締めつけた。この世界では、勝利が生存を保証するわけではない。デュエルに勝っても、受けたダメージが深ければ、命を落とすことだってある。たとえ死に至らずとも、大量出血や激しい衝撃で意識を失うことは、容易に想像できてしまう。
「そんな……翔君が……」
確かめようのない安否。梨沙の不安に満ちた声にワルトナーが震えながら、言葉を繋ぐ。
「でも…ワタシが…もう1回…デュエル…しようと…したら、カメラ…壊されて…中止…になった……」
「中止に……?」
梨沙は言葉の意味を探るように、ワルトナーの話を反芻した。デュエルが中止された――それは、白神がまだ生きている可能性を示しているのか、それとも……。希望と不安が入り混じり、梨沙の思考はまとまらない。
「梨沙も、敗北したとしてもすぐに再戦出来てしまう事は知っていますね……?」
梨沙の思考を遮るように父親が静かに問いかけた。梨沙は、この実験内における再戦の危険性を思い出しながらこくりと頷く。
「ミアの行った遠隔デュエルも同様に再戦が可能です。ですが、白神さんは遠隔デュエルの要であるカメラをデュエル後に破壊したそうです。リアルソリッドビジョンを用いた特殊なカメラなので、そう簡単に居場所を把握される事もないと考えていましたが……彼の観察力には驚かされますね」
父親の言葉に、梨沙は思わず息を呑む。白神は、次の襲撃を予期していた。それは、彼がまだ生きている可能性を示すと同時に、どれほど過酷な状況にあったかを物語っている。
「つまり……彼は無事である可能性があると?」
河原の問いに、父親がワルトナーのデュエルディスクへと手を伸ばし触れる。それに気づいたワルトナーは、すぐさまデュエルディスクと手枷の連結を解除させて父親へデュエルディスクを差し出す。受け取ったデュエルディスクの画面を操作する父親の指先は、ぎこちなくも迷いはなかった。目的の画面に辿り着いたであろう父親が口を開く。
「……そこまでは分かりませんね。ログを見る限り、白神さんの受けたダメージ総量は3900。一度に受けた最大ダメージ量は2400です。ダメージの受け方によっては、身体機能に負荷を負っていてもおかしくありません」
「そんな……」
3900という数値は、梨沙の心に重く圧し掛かる。フリーエリアでの初期ライフが4000である事を考えれば、ワルトナーとのデュエルで白神はライフが100しか残らなかった事になるからだ。
「梨沙さん、悲観的な事ばかり考えても仕方ありません。逆に考えれば白神さんが死んでしまったという確証もないのですから」
河原の言葉は、梨沙の心にそっと寄り添うように響いた。確証がなければ、絶望する理由もない。その当たり前の事実が、彼女の思考を少しずつ前へと押し出してくれる。だが……思考が前へ進もうとしても、胸の奥に残るざらつきは消えなかった。頭では理解していても、感情はすんなり道を開けてくれない。見知った人間の安否が分からない状況というのは、怖くて、苦しくて、どうしようもなくもどかしい――。
悲観的に考えても仕方のない事は、梨沙もよく理解している。白神が生きているかどうか、今の彼女達には確かめようがないのだから。ならば、後は信じるしかないのだ。
「そう……ですよね。確証も得られてないんだし、私は翔君を信じます!」
言葉は力だ。頭の中で巡っていた思考が、声となって耳に返ってくることで、心の揺れも少しずつ整っていく。自分の気持ちを整理していく過程で……不意に梨沙の内から収まっていたはずの不安が噴出し始める。
「……」
梨沙の中でもうまく整理しきれない曖昧な感情。今は考えても仕方ないと不安を押し込め、合理的に前を向こうとする自分。そんな自分が……白神を本当に信じていると言えるのだろうか?
「ミアちゃんとの目隠しでのデュエルにも勝ったんだもの。翔君はいろんなことに気づけるから、きっと無事なはず!」
口では、不安を諫める要素を見繕い言葉に還元する。それは希望の作り方として、至極真っ当な形だろう。そう思って梨沙は口にして自らへと言い聞かせる。だが、失われた自らの痛覚と味覚――その人間性の喪失が、合理的な思考をしている自分の冷たさをどこかで恐れている。河原に打ち明けたこの不安の種が、拭いたくとも頭の片隅にチラついてしまうのだ。
「そうです。彼はいろいろな事に気づけているんです。ただ闇雲に願うだけではない、彼の実績に由来する信頼なのですから」
梨沙の前向きな言葉に、静かに重ねられた河原の言葉。ただの励ましと理解していたが、その言葉はスッと梨沙の胸に響く。
「……翔君への、信頼」
河原の言葉に、梨沙の心が少しだけ軽くなるのを感じた。自分が白神に感じた尊敬と信頼に嘘偽りはない。生き延びるための合理性と、心から湧き上がる信頼。その両方が、梨沙の中で確かに共存していた。
「……ありがとうございます。とにかく今は前向きに考えないとですね!」
河原は、当人にそのつもりがなかったにせよ、梨沙の心に残っていた不安の種を再びそっと摘み取ってくれた。小さな笑みを見せた梨沙は、胸の奥に残っていた不安が少しずつ沈静化していくのを感じながら、視点を向き合うべき問題へ再度向ける。先程河原が触れたエスケープの条件。それが、今の彼女にとって唯一の希望の糸口だ。
「翔君なら……DPもそうだけど、クラスⅢ4人とのデュエルの条件もすぐ満たせるのかな」
梨沙の呟きに河原も追従する。
「レッドフロアに来る以前にクラスⅢとのデュエルに勝利していたのでしょうか。」
「少なくとも、お父さんとのデュエルには勝ってますね。あれ、そういえば私とのデュエルにも勝ってるから……最低でも2人とは既にデュエルに勝ってる計算になるかもしれません」
白神は、レッドフロアに向かう以前に梨沙と父親とのデュエルで勝利している。つまり、後2人のクラスⅢとデュエルに勝利すれば4人に勝利する条件を満たせることになる。
「もう半分も終わってるなら、あと少しなのに……。それなのに連絡が取れないなんて、歯がゆいです」
うーんと唸っている梨沙に対して、父親が何か思いついたのか弱弱しい声で問いかける。
「勝利数に限るのであれば……梨沙はどうなんです?」
「へ?私?」
「梨沙も白神さんと同様クラスⅢです。私とのデュエルに勝っていますし、他にも勝った方が居るのであれば条件を満たしやすいのでは……?」
梨沙は問われた事に驚きつつ、すぐに不可能だと口にしようとした。
「あれ、でも……」
しかし、想定外の自分自身という選択肢を前に記憶を辿れば――
「アリスさん、お父さん、渚さん……3人に勝ってる……」
言葉へ落として、梨沙はようやく自覚する。既にクラスⅢのデュエリスト3名に自分が勝利を収めていた事を。
「梨沙さん、それなら後は近久さんか白神さんに協力してもらえば、4人のクラスⅢに勝利するという条件を満たせますよ……!」
梨沙の確信を後押しするように河原が言葉を繋げた。本来であれば危険を伴うクラスⅢとのデュエルも、その相手が協力者であれば安全に勝利という条件だけを満たす事も可能なのだ。
「はい……!近久さんならブルーフロアに居ます。そこで形だけのデュエルをして勝てば、エスケープする場所が提示されるかもしれません!」
梨沙の胸の中で、ほんのりと希望が現実味を帯びてくる。その滲み出す活力のままに声を上げれば、父親が震える指先を己の懐へと向かわせる。
「でしたら……梨沙。これを」
父親が取り出したのは1枚のカードホルダー。形状からして、梨沙が前に父親から貰った物と同じ……《盤外召喚》専用のカードホルダーである事が分かる。
「このカードは、お父さんの……」
受け取った梨沙が確認したホルダーの中には、父親が外の世界でも愛用していたテーマの内の1枚、《電子光虫ライノセバス》のカードが収められていた。
「梨沙が脱出を目指していると聞いて……その時から、渡そうと思っていました。これを使う事で、脱出の役に立つかもしれません」
「脱出に?私には普通のカードに見えるけど……」
ホルダーに収められたカードからは特別な何かは感じられなかった。父が愛用しているテーマのエースモンスターという懐かしさだけ。
「これは、私がクラスⅢになって……すぐに盤外召喚し、そのままにしておいたモンスターです。この実験のシステムに何らかの不具合を起こせるのではないかと思い」
「不具合……?」
梨沙の顔には、当然困惑が滲む。モンスターを召喚したまま放置する事。それでどうして不具合発生に繋がるのかが、すぐには想像出来なかった。
「《電子光虫》は……電子の世界に生まれ、住み着く電子生命体。小さなバグを引き起こしながらも、周囲のシステムを自らに適応するように変化させ、定着していきます。そして、定着した《電子光虫》を駆除しようものなら、《電子光虫》に適応していたシステムが連鎖的に不具合を引き起こしていくのです」
「確か、それって《電子光虫》のストーリーだよね……?でも、そんな設定だからって……」
梨沙は思わず口にしていた。だが、言葉にした瞬間……父親の意図が脳裏に浮かぶ。
“設定”――そのはずだったカードのフレーバーが、この世界では“法則”として作用するのではないか。その事実が、梨沙の常識を静かに塗り替えていく。
「私は、《盤外召喚》と《盤外発動》の効力を様々な方法を使って研究して来ました。私の命を守る為。そして、もしかすれば脱出に繋がる何かを見つけられるかもしれないと思ったんです。実際、《電子光虫ライノセバス》を《盤外召喚》しておく事で、この実験内のシステム部分に小さな不具合を引き起こしました。このフロア内で通信障害が起こるのはその影響でしょう」
父親は、まるで自分の過去を振り返るように、ゆっくりと言葉を紡いだ。その語りには、長い孤独と、狂気の片鱗……。そして、諦めずに探り続けた意志が滲んでいた。
「なるほど……そういう事だったのですね。観測者側では、このグリーンフロアの監視映像や記録部分のログに不具合が頻発していた様なのです。つまり、《電子光虫》のバグは実験のシステムそのものにまで干渉してしまっている」
納得したように告げられた河原の言葉を受け、梨沙の表情により一層の明るさが練り込まれていく。
「河原さんが言及した事も踏まえれば、可能性はあるでしょう。既にこのライノセバスは長い期間、この世界へ召喚され、自らが定着できるよう、システムそのものを自分に適した形へと変えてきたはずです。ここが現実世界ならば、召喚を取り止めてもせいぜい、カメラの機能不全や監視ログの不調が起きる程度でしょう。しかし、世界そのものが電子の世界であるこの実験ならば……本来ならあり得ない活路を、見出せるかもしれないのです」
もはやリアルソリッドビジョンの効力に留まらない。それは、この世界の脆さを突く毒であり、同時に出口をこじ開ける鍵でもあったのだ。
「ですが……具体的にどのような不具合が引き起こされるかは未知数です。最悪の場合、この世界そのものが崩壊する事も可能性としてはあり得るでしょう……」
父親の言葉に梨沙は息を呑む。居なくなれば数多の不具合を引き起こす《電子光虫》。もし、その不具合がこの世界の均衡を揺るがす程の物であれば……脱出どころの話ではなく、梨沙達の存在自体が消えてしまう可能性もあるという事だ。
「……不用意に使える術という訳ではないですね」
河原の表情も強張る。しかし、それでも観測者に対抗する上での切り札な事には変わりない。
「お父さん、ありがとう……。不確定でも、システムに干渉できるかもしれないなんて私たちにとっての切り札になる!」
柔らかな笑顔を父親へと向ければ、力のない父親の口元に小さな笑みが浮かんだ。
「では、当面の目標は近久さんとの合流という事になりそうですね」
「はい、クラスⅢになった近久さんとのデュエルに勝てばエスケープの条件を片方満たせますから!」
梨沙はそう言って河原に改めて向き直る。
「合流はブルーフロアにしようと思うんです。近久さんは精神的に少し辛そうでしたし、何より穂香ちゃんが危険な目に遭う可能性は少しでも減らしたいんです……。でも、河原さんを連れて行く以上、フリーエリアの移動にはリスクが伴うのも分かっていて……だから……」
梨沙が言葉を選ぶように、ほんの一瞬だけ口を噤む。その迷いを汲み取るように、河原は柔らかな笑みを浮かべながら答える。
「分かっています梨沙さん。私の事は気になさらないでください。ブルーフロアのお二人に無理をさせようなどとは私も思っていません」
河原の言葉に梨沙の表情に安堵と共に、少しずつ活力が戻っていく。
「ありがとうございます。じゃぁ、近久さんと渚さんにその旨を伝えてから出発しましょう!」
---
「よし、河原さんも準備おっけーですか?」
「もちろんです。私はこれ以外に必要な物もありませんからね」
そう言って盾としての役割を持つデュエルディスクを掲げる河原。渚と近久へ、父親との会話で得られた情報の共有を済ませ移動する為の準備を終えた所だった。そんな梨沙達に向かってワルトナーが、心配そうに口元をきゅっと窄めながら声を掛ける。
「お姉さん…気をつけ…て……」
「うん、ミアちゃんありがと!お父さんの事……お願いね?」
梨沙の声かけにワルトナーは、しっかりと頷く。そのまま浅い呼吸を続ける父親へ視線を向ける。
「行ってくるね、お父さん」
「梨沙……お前ならきっと大丈夫だ。くれぐれも、気をつけてな……」
呼吸は浅く、声も弱々しい。それでも、梨沙の目に映る父親の表情には、確かな信頼と願いが込められていた。
「うん……!」
梨沙はその思いを胸に、大きく頷くと、事前に《盤外召喚》しておいた《ゴーストリック・スペクター》の背に掴まる。体勢が安定すると、スペクターはフワフワと低空飛行を始めた。そして、フロアの出入り口まで向かい、河原を振り返る。
「私が先に周囲の安全を確認します。その後に河原さんは続いてくださいね」
「分かりました。足手まといにならぬ様、注意します」
河原の同意を確認した梨沙は、スペクターへ進むように促す。グリーンフロアの扉が開かれ、外の光が室内の深緑の照明を薄めていく。梨沙はまず、フリーエリアに出て左右に伸びる廊下を目視する。幸いそこには人影らしい物は見られず、空気も静まり返り、誰かの存在を感じさせるものはなかった。
「(河原さんを守れるのは、今は私しか居ない……万全を期すんだ)」
梨沙はスペクターに小声で指示をし、一番近い曲がり角へと向かう。フワフワと浮かびながら、丁度よい位置まで移動したスペクターの陰より、曲がり角の向こう側をチェックする。
そこにも人影などは見られず、梨沙は続けて近場の曲がり角をチェックしていった。
「オッケー。誰もいなくてよかった……」
ほっと一息ついた梨沙は、グリーンフロアの扉の前までフワフワと戻り、様子を伺っていた河原へ声を掛ける。
「大丈夫そうです!ここを左でレッドフロアを経由してブルーフロアに行きましょう」
「ありがとうございます。では行きましょう」
河原は頷き梨沙の後に続く。河原がフリーエリアへと足を踏み出した事で、グリーンフロアの扉が機械音と共に閉じられた。眼前に広がる無機質な白い廊下は、スペクターに揺られ上下に揺れる。
梨沙は父親から渡された《電子光虫ライノセバス》の収められたカードホルダーを見遣る。
「(こんな特別な切り札……普通じゃ絶対手に入ったりしない。進み続ければ、こうやって希望が見えてくるんだ)」
己の不安を払拭し鼓舞するように言い聞かせる。様々な犠牲が出てしまっても、着実に前進できているはずだ。
決意を胸に再び視線を前へと向ける。
「(もしかしたら、翔君もフリーエリアのどこかに居るかもしれない。注意深く観察しないと……)」
警戒と共に白神の行方も胸に留めながら、前方の警戒を続ける梨沙。
そこで、ふと背後から暖かくも鋭い風が梨沙の肌を撫でた。梨沙は、風の吹いてきた背後――河原が続いているはずの方向へと振り返った。
「河原……さん?」
そこに……河原の姿はなかった。代わりに居たのは、真っ黒な人型の何か。
突然の状況に、梨沙の理解は追い付かずに放心する。
その黒い影は小刻みに揺れていた。パチパチと音を響かせながら、黒いカスの様なものが地面に落ちていく。そして、黒いものが足元に落ちていくたびに強まる嫌な臭い。臭いの他に感じるのは、それから発せられる温かな空気。熱気……。
ようやく、それの足元に炎が起きてるのに気づいた。黒いそれの足元が何故か燃えていたのだ。……燃えているのは、足元だけではなかった。皮膚が溶け、髪が焼け、肉の焦げる臭い。
梨沙は気づいた。その人型が真っ黒なのは、燃えているからだという事に。燃えているからこそ、仄かな温もりと、吐き気を誘う臭いが空気へ溶けている。
何故燃えている?誰が燃えている?そんなものは決まっている。他に誰もいやしないのだから――――。
「は……ぁ…………は……?」
混乱する梨沙の目の前で、彼はその場に倒れた。自然と梨沙の視線は床に伏した彼に向けられる。着ていた白衣は炭と化し、かけていた眼鏡も燃えて破壊され、変形してしまっている。それだというのに、腕に装着されていたデュエルディスクは異様な程に綺麗なままだ。
つい先程まで、会話を交わし、共に近久達の元へ向かおうと移動を始めたのに。
「なん、なんで……なんでなんでな、んで…………」
河原は殺された。
声もなく、悲鳴もなく、ただ焼き殺された。まるで世界から存在だけが削り取られたように。
「――――――!!!」
梨沙の悲鳴は声にならなかった。吸い寄せられるように、スペクターの背から転げ落ちた梨沙は焼死 体となった河原の元まで駆け寄る。河原の手を掴み取れば、手の内に熱こそ伝われど、痛みにまで発展しない。そんな彼女の手の中で、彼の燃え焦げた手はボロボロと崩れ、塵と化す。
「っは……ぁああ!!っは、ああぁぁ!はっ……ぁああ、あああっ!!?」
まるで発作のように、梨沙の声は途切れ途切れに漏れた。感情の行方も分からず、早鐘を打つ心臓に突き動かされるまま、悲鳴とも絶叫ともつかない、情けないほどの悲痛な声が口から零れていく。
「手間をかけさせられたというものだね」
前方から、低く、どこか晴れやかな声が響いた。その微かな上機嫌が、梨沙の胸をざらつかせる。顔を上げると、左目が緑色に輝く白衣の女性が立っていた。その背後には、燃え盛る紅蓮の刀を掲げたモンスターが鎮座している。
彼女が何者かなど……とうに分かっている。
梨沙は負傷している足を構う事なく無理やり立ち上がり、眼前の女性を視界に捉えた。
ザザッピー
「ただいまよりフリーエリアにてデュエルを開始します。
ルール:マスタールール
LP:4000
モード:エンカウント
リアルソリッドビジョン起動…。」
梨沙と女性を閉じ込めるように、各所の通路がシャッターで塞がれ、逃げ場が奪われる。それは反射的な行動だった。梨沙は無意識の内にデュエルディスクを構え、白衣の女性へとデュエルを仕掛けていたのだ。
その挑戦に対し、女性の口角が不敵に持ち上がる。
「おやおや、随分と好戦的だね65の0855番。君は誰かと争うのは嫌なんじゃなかったかい?」
首を傾け、嫌らしく笑みを浮かべる女性を、梨沙は鋭く睨みつけた。皮肉に返す言葉も、冷静に受け止める余裕も……梨沙にはもう残っていない。目から零れた一粒の涙が、感情の導火線に火をつける。
怒り、悲しみ、混乱、罪悪感、恐怖――すべてが混ざり、言葉にならないほどに溢れ出した。
「なんでっ……!!!殺した!!!」
梨沙の叫びが空気を震わせる。
白衣の女性はその感情の奔流を、観察するように見つめながら……ただ、笑っていた――。
「お父さん、私と河原さんがお父さんに会いに来た理由はもう分かってるって事でいいよね?」
父親の視線が、静かに梨沙へと向けられる。先程、彼は盗聴器を用いて梨沙達がグリーンフロアへ来る事を察知していたと口にしていたのだ。
「えぇ……。確か、この仮想現実から脱出する為の方法に心当たりがないか……という話でしたか」
「そうなんだよね。向こうから電話も掛けたけど、お父さんがこんな状態じゃ繋がるはずもなかったからね」
梨沙たちが今、目指している脱出方法は――観測者のみが利用しているログアウトによるものだ。パスワードは河原を通じて把握しているが、肝心の入力する為の場所を知らない状況にある。
「それで……何か脱出の為の方法思いついたりしない?いきなりで無茶苦茶なのは分かってるんだけど……」
当然、父親とて知っているはずはない。だが、この世界が電脳世界である事実を知れば、元プログラマーである父親なら何か思いつくのではないか?そんな淡い期待と共に梨沙が問いかける。
「……河原さんの話によれば、特定の場所に赴かなければ、観測者であろうとログアウトは出来ない……ということなのですね?」
父親の確認に、河原が頷き答える。
「そうなります。この電脳世界は、構築段階で高度なセキュリティを組み込まれて作られました。外部からの不当な干渉などは、私が知る限りでは1度も無かったかと思います。それ程までにセキュリティが徹底されているからこそ、現在の観測者達であってもそのセキュリティ内容は容易に変更する事が出来ないのです。私の知っているパスワードが未だ有効なのも、そのためですね」
「外の人がこの世界のルールを変えようとしても、出来ないってことですね……」
観測者のログアウトにも条件が必要な理由。この実験が始められた時に、設定されているプログラムがセキュリティを強固にしていると共に、その設定を安易に変える事が出来なくなっているというものだ。
父親はしばらく黙ったまま、何かを思い出すように目を伏せる。この実験で生き延びる為に様々な検証と推測を立ててきた父親が、ゆっくりと思考を巡らせる。そして、口元だけを動かして呟いた。
「それらを踏まえますと……まず、各フロアに脱出口があるというのは考えづらいですね」
「それは……どうして?」
「特定の場所でしかログアウトを行えないというのであれば、そもそも観測者側がわざわざこの世界に入るという事自体が非常に稀な状況ということです……。そんな例外的な状況しか想定していなかったから、ログアウトの方法を限定化してセキュリティの強化に重きを置いたのでしょう」
「そうですね……。電脳世界である以上、この世界で不具合などが発生しても外から解決すればいいことですから。逆にこの世界に来ないと解決出来ない事態などそうそう起こり得ないはずです」
父親の推測に河原も同意する。
「ならば、ログアウトする手段がフロアにしかない場合……被験者が存在しているフロアに赴かなければ、ログアウト出来ないというのはあまりにも危険でしょう」
「そっか、まず間違いなくバレないようにログアウトなんて出来ないもんね……」
被験者に割り当てられた居住地であるフロアに、ログアウト地点があるとは考えにくい。実際、そんな場所で脱出を試みれば、まず間違いなくフロア主に気づかれる。特に、クラスⅢのような攻撃性の高い被験者が居る空間では、その行動は命取りにもなりかねない。梨沙としても、それが非合理であることは疑いようがなかった。
「私が思うに、ログアウトが可能な地点そのものは、私達に用意されたエスケープが可能な地点と同じなのではないかと思います」
「エスケープと同じ?」
梨沙は首を傾げながら、父親の言葉を頭の中でなぞる。エスケープとログアウトの違い。その境界が、少しずつ曖昧になっていく。
「エスケープも言うならば、ログアウトと手順は同じでしょうからね。あくまで、意識の送信先が現実の肉体ではなく、ロボットであるというだけで……。ログアウトの方法そのものの種類を増やす必要があるとは考えにくいでしょう」
父親のその言葉には、かつてシステムの裏側を設計していた者ならではの確信が滲んでいた。
「なるほど……確かに原理を考えれば当然かもしれません。観測者側が操作しているのはあくまでログアウト後の設定。本来は元の肉体へと戻るはずの人格データから、記憶を取り除くと共に送信先をAI用のロボットへと変更しているに過ぎないという訳ですね」
父親の考察に対し、河原も納得したように静かに言葉を継いだ。それらを受けた梨沙は、期待に高鳴る胸の鼓動と共に自らのデュエルディスクの画面に目を移す。
「じゃぁ、エスケープしようとすれば場所を教えてくれるかもって事かな!」
「可能性はあるでしょう。ですが、エスケープを押しても、表示されるのは条件がどちらも満たされていないといった文言だけでした。所持DPが100万を超え、クラスⅢ2名を殺害すればエスケープの為に向かうべき場所が示されるのかもしれません」
「くぅ……結局、そこに行き着いちゃうんだ……」
梨沙はがっくりと肩を落とす。しかし、そこで河原が口元を押さえ、何かを思い出すように思考を巡らせる。
「可能性の話ですが、白神さんであればその場所を知っているかもしれません……」
「翔君が……ですか?」
河原が突然白神の名を挙げたことで、梨沙は首を傾げた。
「はい、彼はエスケープする為にレッドフロアへ来ていたはずです。と言うことは、エスケープの為の条件である100万DPを所持する条件に関しては、既に満たしていたという事ではないでしょうか?」
「あっ、確かにそうです!じゃぁ、エスケープに関しては翔君の方が私たちよりも詳しいかもしれないんですね」
河原の言葉に、梨沙はハッとしたように息を呑み、声を上げた。
「こうなると白神さんと連絡がつかない状況というのが、なんとももどかしいですね……」
「……彼と……連絡がつかないのですか?」
梨沙の言葉に、父親は意外といった様に疑問を呈する。その疑問に梨沙が答えていく。
「うん……お父さんがどこまで知ってるか分からないけど、私たちとは別でブルーフロアに行ってたグループがあるんだ。そっちの方に翔君が居たんだけど、突然見えない相手からデュエルを挑まれた……らしくて。今は連絡が取れない状態なんだ」
「見えない……と言いますと具体的にどの様な状況だったかは聞いていますか?」
梨沙の曖昧な話の部分を父親が深堀りしていく。
「えっと、そのままの意味だと思うよ?」
梨沙としても、近久から聞いた話の状況をあまり理解できないでいた。それ故、簡素に答えた梨沙の言葉へ、河原が補足を付け加えていく。
「近久さんによれば、そこには誰も居ないはずなのにも関わらずデュエルが開始されたとのことです。話を聞く限り、狙われていたのは近久さんだった様でしたが、白神さんが彼女を庇って見えない相手とデュエルを始めたとのことでした」
「あ、近久さんってのは、翔君と一緒にブルーフロアに向かってた人の事ね。後は、穂香ちゃんも2人と一緒にブルーフロアに向かうグループに居たよ」
河原と梨沙の回答に、小さく俯き考える素振りを見せる父親。すると、父親の視線がゆっくりと傍に座るワルトナーへ向けられた。
「ミア……私の意識がない間に梨沙以外とデュエルしましたか?」
父親の問いかけにワルトナーがビクリと肩を跳ねさせる。おどおどしながらも、彼女は絞り出すように口を開く。
「ご、ごめん…なさ…い……」
「怒っているのではありませんよ……。ただ、状況を把握したいのです。誰とデュエルしましたか?」
ワルトナーの謝罪に対し、父親はそっと彼女の手を握る。静かでいてどこか寄り添うように言葉を繋げれば、ワルトナーもゆっくりと言葉を続ける。
「はい……。たぶん……お姉さん達…の…話してる…人…だと、思う……」
「ん…………?ん!?」
父親の問いに答えたワルトナー。その回答に一拍遅れながら梨沙の脳裏に困惑の波が押し寄せた。
「ど、どういう事ミアちゃん?さっき私としたデュエルの前に翔君とデュエルしてたってこと!?」
梨沙の困惑を前にワルトナーが語った事。父親の誰とデュエルしたかという問いに、白神を仄めかす回答をしたワルトナー。その意味を問いただすべく、梨沙の声が上ずる。
「お父様…おかしく…なったのが…お姉さんの…せいだと…思ってた…から。穂香…と、一緒に…いる女の人…が…お姉さんだと思って……」
ぽつぽつと紡がれるワルトナーの言葉を聞きながら、梨沙の頭の中でいくつもの可能性が交錯する。でも、どれもピンとこない。
「…………ちょっと、待ってね。理解が追いつかないや……」
いろいろとおかしな状況に考える事を諦め深呼吸を挟む梨沙。肺を満たした空気をゆっくりと吐ききると、父親の方へと視線を飛ばす。
「ふぅ……お父さんなら、ミアちゃんが言ってる事がどういう意味なのか分かってるって事だよね。教えてくれる?」
父親の物言いは、ワルトナーが何をしたのかをある程度理解している様だった。ならばと梨沙は父親へと問い、それに対して父親が1度、ワルトナーの顔を見つめたまま短く息を吐く。その目には、すでにいくつかの答えが浮かんでいる様に見えた。
「白神さんを襲撃したのがミアだったという話ですね」
「彼女が白神さんを……」
父親の言葉に河原も驚き、自然と視線がワルトナーへと向けられる。ワルトナーは怯える様に父親の服を握りしめている。
「てことは、姿の見えない敵がミアちゃんだったって話なんだよね?そんなの……どうやったの?」
「この実験内で様々な検証を私は行なってきました。その1つに視力のない被験者は、対戦相手を認知さえすれば目の前に居なくともデュエルが行えるというものです」
「そんな方法が……」
「ミアが白神さんとデュエルした動機は、彼女が先程話した通りですね……。穂香と同行している女性が梨沙だと思い襲撃。しかし、それを白神さんが庇った事で、ミアと白神さんがデュエルする事となったのです」
「……事情は分かったよ。でも、今翔君と連絡が取れないって事は……ミアちゃんがデュエルに勝ったって事なの……?」
梨沙の中で想定しうる中で最悪の結末。ワルトナーが白神にデュエルで勝利し、殺害している展開だ……。
「ううん……ワタシ…その人に…負けたの……」
その言葉に父親の眉がわずかに動いた。驚きと同時に、どこか感心したような表情を浮かべている。
「ミアに勝ったというのですか……。この遠隔でのデュエルは、対戦相手に自身の盤面を把握されない事が最大の強みです。戦闘などの相手に干渉する行動をしない限り、相手の見える位置にリアルソリッドビジョンが出現しませんからね」
「な、なにそれ……そんなの目隠しでデュエルしてるようなもんじゃん!」
見えない相手とのデュエル――その異常なまでの不利さに、梨沙は思わず声を上げてしまった。けれど、そんな状況でも白神は勝利を収めている。その事実が梨沙の胸に静かに……けれど、確かな熱を灯した。彼の強さは、ただの実力ではない。極限の中で勝ち切る覚悟と集中力。そのすべてに、梨沙は心からの尊敬を覚えた。
「でも…大きな…ダメージ…受けてた……。だから、もしかしたら……」
「……!!」
梨沙の背筋に冷たいものが走る。勝ったはずなのに、命を落としているかもしれない……その可能性が、喉の奥をきゅっと締めつけた。この世界では、勝利が生存を保証するわけではない。デュエルに勝っても、受けたダメージが深ければ、命を落とすことだってある。たとえ死に至らずとも、大量出血や激しい衝撃で意識を失うことは、容易に想像できてしまう。
「そんな……翔君が……」
確かめようのない安否。梨沙の不安に満ちた声にワルトナーが震えながら、言葉を繋ぐ。
「でも…ワタシが…もう1回…デュエル…しようと…したら、カメラ…壊されて…中止…になった……」
「中止に……?」
梨沙は言葉の意味を探るように、ワルトナーの話を反芻した。デュエルが中止された――それは、白神がまだ生きている可能性を示しているのか、それとも……。希望と不安が入り混じり、梨沙の思考はまとまらない。
「梨沙も、敗北したとしてもすぐに再戦出来てしまう事は知っていますね……?」
梨沙の思考を遮るように父親が静かに問いかけた。梨沙は、この実験内における再戦の危険性を思い出しながらこくりと頷く。
「ミアの行った遠隔デュエルも同様に再戦が可能です。ですが、白神さんは遠隔デュエルの要であるカメラをデュエル後に破壊したそうです。リアルソリッドビジョンを用いた特殊なカメラなので、そう簡単に居場所を把握される事もないと考えていましたが……彼の観察力には驚かされますね」
父親の言葉に、梨沙は思わず息を呑む。白神は、次の襲撃を予期していた。それは、彼がまだ生きている可能性を示すと同時に、どれほど過酷な状況にあったかを物語っている。
「つまり……彼は無事である可能性があると?」
河原の問いに、父親がワルトナーのデュエルディスクへと手を伸ばし触れる。それに気づいたワルトナーは、すぐさまデュエルディスクと手枷の連結を解除させて父親へデュエルディスクを差し出す。受け取ったデュエルディスクの画面を操作する父親の指先は、ぎこちなくも迷いはなかった。目的の画面に辿り着いたであろう父親が口を開く。
「……そこまでは分かりませんね。ログを見る限り、白神さんの受けたダメージ総量は3900。一度に受けた最大ダメージ量は2400です。ダメージの受け方によっては、身体機能に負荷を負っていてもおかしくありません」
「そんな……」
3900という数値は、梨沙の心に重く圧し掛かる。フリーエリアでの初期ライフが4000である事を考えれば、ワルトナーとのデュエルで白神はライフが100しか残らなかった事になるからだ。
「梨沙さん、悲観的な事ばかり考えても仕方ありません。逆に考えれば白神さんが死んでしまったという確証もないのですから」
河原の言葉は、梨沙の心にそっと寄り添うように響いた。確証がなければ、絶望する理由もない。その当たり前の事実が、彼女の思考を少しずつ前へと押し出してくれる。だが……思考が前へ進もうとしても、胸の奥に残るざらつきは消えなかった。頭では理解していても、感情はすんなり道を開けてくれない。見知った人間の安否が分からない状況というのは、怖くて、苦しくて、どうしようもなくもどかしい――。
悲観的に考えても仕方のない事は、梨沙もよく理解している。白神が生きているかどうか、今の彼女達には確かめようがないのだから。ならば、後は信じるしかないのだ。
「そう……ですよね。確証も得られてないんだし、私は翔君を信じます!」
言葉は力だ。頭の中で巡っていた思考が、声となって耳に返ってくることで、心の揺れも少しずつ整っていく。自分の気持ちを整理していく過程で……不意に梨沙の内から収まっていたはずの不安が噴出し始める。
「……」
梨沙の中でもうまく整理しきれない曖昧な感情。今は考えても仕方ないと不安を押し込め、合理的に前を向こうとする自分。そんな自分が……白神を本当に信じていると言えるのだろうか?
「ミアちゃんとの目隠しでのデュエルにも勝ったんだもの。翔君はいろんなことに気づけるから、きっと無事なはず!」
口では、不安を諫める要素を見繕い言葉に還元する。それは希望の作り方として、至極真っ当な形だろう。そう思って梨沙は口にして自らへと言い聞かせる。だが、失われた自らの痛覚と味覚――その人間性の喪失が、合理的な思考をしている自分の冷たさをどこかで恐れている。河原に打ち明けたこの不安の種が、拭いたくとも頭の片隅にチラついてしまうのだ。
「そうです。彼はいろいろな事に気づけているんです。ただ闇雲に願うだけではない、彼の実績に由来する信頼なのですから」
梨沙の前向きな言葉に、静かに重ねられた河原の言葉。ただの励ましと理解していたが、その言葉はスッと梨沙の胸に響く。
「……翔君への、信頼」
河原の言葉に、梨沙の心が少しだけ軽くなるのを感じた。自分が白神に感じた尊敬と信頼に嘘偽りはない。生き延びるための合理性と、心から湧き上がる信頼。その両方が、梨沙の中で確かに共存していた。
「……ありがとうございます。とにかく今は前向きに考えないとですね!」
河原は、当人にそのつもりがなかったにせよ、梨沙の心に残っていた不安の種を再びそっと摘み取ってくれた。小さな笑みを見せた梨沙は、胸の奥に残っていた不安が少しずつ沈静化していくのを感じながら、視点を向き合うべき問題へ再度向ける。先程河原が触れたエスケープの条件。それが、今の彼女にとって唯一の希望の糸口だ。
「翔君なら……DPもそうだけど、クラスⅢ4人とのデュエルの条件もすぐ満たせるのかな」
梨沙の呟きに河原も追従する。
「レッドフロアに来る以前にクラスⅢとのデュエルに勝利していたのでしょうか。」
「少なくとも、お父さんとのデュエルには勝ってますね。あれ、そういえば私とのデュエルにも勝ってるから……最低でも2人とは既にデュエルに勝ってる計算になるかもしれません」
白神は、レッドフロアに向かう以前に梨沙と父親とのデュエルで勝利している。つまり、後2人のクラスⅢとデュエルに勝利すれば4人に勝利する条件を満たせることになる。
「もう半分も終わってるなら、あと少しなのに……。それなのに連絡が取れないなんて、歯がゆいです」
うーんと唸っている梨沙に対して、父親が何か思いついたのか弱弱しい声で問いかける。
「勝利数に限るのであれば……梨沙はどうなんです?」
「へ?私?」
「梨沙も白神さんと同様クラスⅢです。私とのデュエルに勝っていますし、他にも勝った方が居るのであれば条件を満たしやすいのでは……?」
梨沙は問われた事に驚きつつ、すぐに不可能だと口にしようとした。
「あれ、でも……」
しかし、想定外の自分自身という選択肢を前に記憶を辿れば――
「アリスさん、お父さん、渚さん……3人に勝ってる……」
言葉へ落として、梨沙はようやく自覚する。既にクラスⅢのデュエリスト3名に自分が勝利を収めていた事を。
「梨沙さん、それなら後は近久さんか白神さんに協力してもらえば、4人のクラスⅢに勝利するという条件を満たせますよ……!」
梨沙の確信を後押しするように河原が言葉を繋げた。本来であれば危険を伴うクラスⅢとのデュエルも、その相手が協力者であれば安全に勝利という条件だけを満たす事も可能なのだ。
「はい……!近久さんならブルーフロアに居ます。そこで形だけのデュエルをして勝てば、エスケープする場所が提示されるかもしれません!」
梨沙の胸の中で、ほんのりと希望が現実味を帯びてくる。その滲み出す活力のままに声を上げれば、父親が震える指先を己の懐へと向かわせる。
「でしたら……梨沙。これを」
父親が取り出したのは1枚のカードホルダー。形状からして、梨沙が前に父親から貰った物と同じ……《盤外召喚》専用のカードホルダーである事が分かる。
「このカードは、お父さんの……」
受け取った梨沙が確認したホルダーの中には、父親が外の世界でも愛用していたテーマの内の1枚、《電子光虫ライノセバス》のカードが収められていた。
「梨沙が脱出を目指していると聞いて……その時から、渡そうと思っていました。これを使う事で、脱出の役に立つかもしれません」
「脱出に?私には普通のカードに見えるけど……」
ホルダーに収められたカードからは特別な何かは感じられなかった。父が愛用しているテーマのエースモンスターという懐かしさだけ。
「これは、私がクラスⅢになって……すぐに盤外召喚し、そのままにしておいたモンスターです。この実験のシステムに何らかの不具合を起こせるのではないかと思い」
「不具合……?」
梨沙の顔には、当然困惑が滲む。モンスターを召喚したまま放置する事。それでどうして不具合発生に繋がるのかが、すぐには想像出来なかった。
「《電子光虫》は……電子の世界に生まれ、住み着く電子生命体。小さなバグを引き起こしながらも、周囲のシステムを自らに適応するように変化させ、定着していきます。そして、定着した《電子光虫》を駆除しようものなら、《電子光虫》に適応していたシステムが連鎖的に不具合を引き起こしていくのです」
「確か、それって《電子光虫》のストーリーだよね……?でも、そんな設定だからって……」
梨沙は思わず口にしていた。だが、言葉にした瞬間……父親の意図が脳裏に浮かぶ。
“設定”――そのはずだったカードのフレーバーが、この世界では“法則”として作用するのではないか。その事実が、梨沙の常識を静かに塗り替えていく。
「私は、《盤外召喚》と《盤外発動》の効力を様々な方法を使って研究して来ました。私の命を守る為。そして、もしかすれば脱出に繋がる何かを見つけられるかもしれないと思ったんです。実際、《電子光虫ライノセバス》を《盤外召喚》しておく事で、この実験内のシステム部分に小さな不具合を引き起こしました。このフロア内で通信障害が起こるのはその影響でしょう」
父親は、まるで自分の過去を振り返るように、ゆっくりと言葉を紡いだ。その語りには、長い孤独と、狂気の片鱗……。そして、諦めずに探り続けた意志が滲んでいた。
「なるほど……そういう事だったのですね。観測者側では、このグリーンフロアの監視映像や記録部分のログに不具合が頻発していた様なのです。つまり、《電子光虫》のバグは実験のシステムそのものにまで干渉してしまっている」
納得したように告げられた河原の言葉を受け、梨沙の表情により一層の明るさが練り込まれていく。
「河原さんが言及した事も踏まえれば、可能性はあるでしょう。既にこのライノセバスは長い期間、この世界へ召喚され、自らが定着できるよう、システムそのものを自分に適した形へと変えてきたはずです。ここが現実世界ならば、召喚を取り止めてもせいぜい、カメラの機能不全や監視ログの不調が起きる程度でしょう。しかし、世界そのものが電子の世界であるこの実験ならば……本来ならあり得ない活路を、見出せるかもしれないのです」
もはやリアルソリッドビジョンの効力に留まらない。それは、この世界の脆さを突く毒であり、同時に出口をこじ開ける鍵でもあったのだ。
「ですが……具体的にどのような不具合が引き起こされるかは未知数です。最悪の場合、この世界そのものが崩壊する事も可能性としてはあり得るでしょう……」
父親の言葉に梨沙は息を呑む。居なくなれば数多の不具合を引き起こす《電子光虫》。もし、その不具合がこの世界の均衡を揺るがす程の物であれば……脱出どころの話ではなく、梨沙達の存在自体が消えてしまう可能性もあるという事だ。
「……不用意に使える術という訳ではないですね」
河原の表情も強張る。しかし、それでも観測者に対抗する上での切り札な事には変わりない。
「お父さん、ありがとう……。不確定でも、システムに干渉できるかもしれないなんて私たちにとっての切り札になる!」
柔らかな笑顔を父親へと向ければ、力のない父親の口元に小さな笑みが浮かんだ。
「では、当面の目標は近久さんとの合流という事になりそうですね」
「はい、クラスⅢになった近久さんとのデュエルに勝てばエスケープの条件を片方満たせますから!」
梨沙はそう言って河原に改めて向き直る。
「合流はブルーフロアにしようと思うんです。近久さんは精神的に少し辛そうでしたし、何より穂香ちゃんが危険な目に遭う可能性は少しでも減らしたいんです……。でも、河原さんを連れて行く以上、フリーエリアの移動にはリスクが伴うのも分かっていて……だから……」
梨沙が言葉を選ぶように、ほんの一瞬だけ口を噤む。その迷いを汲み取るように、河原は柔らかな笑みを浮かべながら答える。
「分かっています梨沙さん。私の事は気になさらないでください。ブルーフロアのお二人に無理をさせようなどとは私も思っていません」
河原の言葉に梨沙の表情に安堵と共に、少しずつ活力が戻っていく。
「ありがとうございます。じゃぁ、近久さんと渚さんにその旨を伝えてから出発しましょう!」
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「よし、河原さんも準備おっけーですか?」
「もちろんです。私はこれ以外に必要な物もありませんからね」
そう言って盾としての役割を持つデュエルディスクを掲げる河原。渚と近久へ、父親との会話で得られた情報の共有を済ませ移動する為の準備を終えた所だった。そんな梨沙達に向かってワルトナーが、心配そうに口元をきゅっと窄めながら声を掛ける。
「お姉さん…気をつけ…て……」
「うん、ミアちゃんありがと!お父さんの事……お願いね?」
梨沙の声かけにワルトナーは、しっかりと頷く。そのまま浅い呼吸を続ける父親へ視線を向ける。
「行ってくるね、お父さん」
「梨沙……お前ならきっと大丈夫だ。くれぐれも、気をつけてな……」
呼吸は浅く、声も弱々しい。それでも、梨沙の目に映る父親の表情には、確かな信頼と願いが込められていた。
「うん……!」
梨沙はその思いを胸に、大きく頷くと、事前に《盤外召喚》しておいた《ゴーストリック・スペクター》の背に掴まる。体勢が安定すると、スペクターはフワフワと低空飛行を始めた。そして、フロアの出入り口まで向かい、河原を振り返る。
「私が先に周囲の安全を確認します。その後に河原さんは続いてくださいね」
「分かりました。足手まといにならぬ様、注意します」
河原の同意を確認した梨沙は、スペクターへ進むように促す。グリーンフロアの扉が開かれ、外の光が室内の深緑の照明を薄めていく。梨沙はまず、フリーエリアに出て左右に伸びる廊下を目視する。幸いそこには人影らしい物は見られず、空気も静まり返り、誰かの存在を感じさせるものはなかった。
「(河原さんを守れるのは、今は私しか居ない……万全を期すんだ)」
梨沙はスペクターに小声で指示をし、一番近い曲がり角へと向かう。フワフワと浮かびながら、丁度よい位置まで移動したスペクターの陰より、曲がり角の向こう側をチェックする。
そこにも人影などは見られず、梨沙は続けて近場の曲がり角をチェックしていった。
「オッケー。誰もいなくてよかった……」
ほっと一息ついた梨沙は、グリーンフロアの扉の前までフワフワと戻り、様子を伺っていた河原へ声を掛ける。
「大丈夫そうです!ここを左でレッドフロアを経由してブルーフロアに行きましょう」
「ありがとうございます。では行きましょう」
河原は頷き梨沙の後に続く。河原がフリーエリアへと足を踏み出した事で、グリーンフロアの扉が機械音と共に閉じられた。眼前に広がる無機質な白い廊下は、スペクターに揺られ上下に揺れる。
梨沙は父親から渡された《電子光虫ライノセバス》の収められたカードホルダーを見遣る。
「(こんな特別な切り札……普通じゃ絶対手に入ったりしない。進み続ければ、こうやって希望が見えてくるんだ)」
己の不安を払拭し鼓舞するように言い聞かせる。様々な犠牲が出てしまっても、着実に前進できているはずだ。
決意を胸に再び視線を前へと向ける。
「(もしかしたら、翔君もフリーエリアのどこかに居るかもしれない。注意深く観察しないと……)」
警戒と共に白神の行方も胸に留めながら、前方の警戒を続ける梨沙。
そこで、ふと背後から暖かくも鋭い風が梨沙の肌を撫でた。梨沙は、風の吹いてきた背後――河原が続いているはずの方向へと振り返った。
「河原……さん?」
そこに……河原の姿はなかった。代わりに居たのは、真っ黒な人型の何か。
突然の状況に、梨沙の理解は追い付かずに放心する。
その黒い影は小刻みに揺れていた。パチパチと音を響かせながら、黒いカスの様なものが地面に落ちていく。そして、黒いものが足元に落ちていくたびに強まる嫌な臭い。臭いの他に感じるのは、それから発せられる温かな空気。熱気……。
ようやく、それの足元に炎が起きてるのに気づいた。黒いそれの足元が何故か燃えていたのだ。……燃えているのは、足元だけではなかった。皮膚が溶け、髪が焼け、肉の焦げる臭い。
梨沙は気づいた。その人型が真っ黒なのは、燃えているからだという事に。燃えているからこそ、仄かな温もりと、吐き気を誘う臭いが空気へ溶けている。
何故燃えている?誰が燃えている?そんなものは決まっている。他に誰もいやしないのだから――――。
「は……ぁ…………は……?」
混乱する梨沙の目の前で、彼はその場に倒れた。自然と梨沙の視線は床に伏した彼に向けられる。着ていた白衣は炭と化し、かけていた眼鏡も燃えて破壊され、変形してしまっている。それだというのに、腕に装着されていたデュエルディスクは異様な程に綺麗なままだ。
つい先程まで、会話を交わし、共に近久達の元へ向かおうと移動を始めたのに。
「なん、なんで……なんでなんでな、んで…………」
河原は殺された。
声もなく、悲鳴もなく、ただ焼き殺された。まるで世界から存在だけが削り取られたように。
「――――――!!!」
梨沙の悲鳴は声にならなかった。吸い寄せられるように、スペクターの背から転げ落ちた梨沙は焼死 体となった河原の元まで駆け寄る。河原の手を掴み取れば、手の内に熱こそ伝われど、痛みにまで発展しない。そんな彼女の手の中で、彼の燃え焦げた手はボロボロと崩れ、塵と化す。
「っは……ぁああ!!っは、ああぁぁ!はっ……ぁああ、あああっ!!?」
まるで発作のように、梨沙の声は途切れ途切れに漏れた。感情の行方も分からず、早鐘を打つ心臓に突き動かされるまま、悲鳴とも絶叫ともつかない、情けないほどの悲痛な声が口から零れていく。
「手間をかけさせられたというものだね」
前方から、低く、どこか晴れやかな声が響いた。その微かな上機嫌が、梨沙の胸をざらつかせる。顔を上げると、左目が緑色に輝く白衣の女性が立っていた。その背後には、燃え盛る紅蓮の刀を掲げたモンスターが鎮座している。
彼女が何者かなど……とうに分かっている。
梨沙は負傷している足を構う事なく無理やり立ち上がり、眼前の女性を視界に捉えた。
ザザッピー
「ただいまよりフリーエリアにてデュエルを開始します。
ルール:マスタールール
LP:4000
モード:エンカウント
リアルソリッドビジョン起動…。」
梨沙と女性を閉じ込めるように、各所の通路がシャッターで塞がれ、逃げ場が奪われる。それは反射的な行動だった。梨沙は無意識の内にデュエルディスクを構え、白衣の女性へとデュエルを仕掛けていたのだ。
その挑戦に対し、女性の口角が不敵に持ち上がる。
「おやおや、随分と好戦的だね65の0855番。君は誰かと争うのは嫌なんじゃなかったかい?」
首を傾け、嫌らしく笑みを浮かべる女性を、梨沙は鋭く睨みつけた。皮肉に返す言葉も、冷静に受け止める余裕も……梨沙にはもう残っていない。目から零れた一粒の涙が、感情の導火線に火をつける。
怒り、悲しみ、混乱、罪悪感、恐怖――すべてが混ざり、言葉にならないほどに溢れ出した。
「なんでっ……!!!殺した!!!」
梨沙の叫びが空気を震わせる。
白衣の女性はその感情の奔流を、観察するように見つめながら……ただ、笑っていた――。
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65 | Report#5「チュートリアル」 | 600 | 0 | 2023-06-11 | - | |
76 | Report#6「楽しくデュエル」 | 482 | 0 | 2023-06-15 | - | |
60 | Report#7「報酬」 | 373 | 0 | 2023-06-18 | - | |
58 | Report#8「3人目」 | 508 | 0 | 2023-06-21 | - | |
59 | Report#9「いい性格」 | 401 | 0 | 2023-06-24 | - | |
65 | Report#10「白熱」 | 584 | 0 | 2023-06-27 | - | |
80 | Report#11「決闘実験」 | 548 | 0 | 2023-07-03 | - | |
68 | Report#12「絶好のチャンス」 | 501 | 0 | 2023-07-10 | - | |
77 | Report#13「殺意の獣」 | 434 | 0 | 2023-07-16 | - | |
70 | Report#14「生存の道」 | 447 | 0 | 2023-07-18 | - | |
64 | Report#15「自己治療」 | 451 | 0 | 2023-07-25 | - | |
79 | Report#16「勝機、笑気、正気?」 | 523 | 0 | 2023-07-29 | - | |
68 | Report#17「幻聴」 | 425 | 2 | 2023-08-02 | - | |
83 | Report#18「ハイエナ狩」 | 479 | 0 | 2023-08-09 | - | |
64 | Report#19「おやすみ」 | 558 | 0 | 2023-08-13 | - | |
74 | Report#20「クラスⅢ」 | 417 | 0 | 2023-08-18 | - | |
63 | Report#21「視線恐怖症」 | 411 | 0 | 2023-08-23 | - | |
81 | Report#22「新たな被験者」 | 568 | 2 | 2023-08-28 | - | |
57 | Report#23「天敵」 | 376 | 2 | 2023-09-03 | - | |
78 | Report#24「吹き荒れる烈風」 | 402 | 0 | 2023-09-03 | - | |
58 | Report#25「情報屋」 | 344 | 2 | 2023-09-13 | - | |
60 | Report#26「再編成」 | 399 | 2 | 2023-09-18 | - | |
78 | Report#27「見えない脅威」 | 527 | 2 | 2023-09-24 | - | |
77 | Report#28「トラウマ」 | 487 | 2 | 2023-09-29 | - | |
63 | Report#29「背反の魔女」 | 604 | 2 | 2023-10-03 | - | |
86 | Report#30「潰えぬ希望」 | 615 | 2 | 2023-10-09 | - | |
70 | Report#31「献身」 | 370 | 0 | 2023-10-15 | - | |
66 | Report#32「好転」 | 390 | 2 | 2023-10-20 | - | |
72 | Report#33「身勝手」 | 366 | 2 | 2023-10-25 | - | |
65 | Report#34「ボス戦」 | 436 | 3 | 2023-10-30 | - | |
63 | Report#35「想起」 | 384 | 2 | 2023-11-05 | - | |
70 | #被験者リストA | 584 | 0 | 2023-11-05 | - | |
63 | Report#36「ノルマ達成目指して」 | 336 | 2 | 2023-11-10 | - | |
62 | Report#37「分断」 | 437 | 2 | 2023-11-15 | - | |
90 | Report#38「旅立ち」 | 579 | 0 | 2023-11-20 | - | |
61 | Report#39「幼き力」 | 377 | 2 | 2023-11-25 | - | |
55 | Report#40「囚われし者」 | 333 | 0 | 2023-11-30 | - | |
60 | Report#41「傍に居てくれるから」 | 413 | 2 | 2023-12-05 | - | |
75 | Report#42「どうして?」 | 464 | 1 | 2023-12-10 | - | |
58 | Report#43「拒絶」 | 331 | 0 | 2023-12-15 | - | |
65 | Report#44「不信」 | 395 | 2 | 2023-12-25 | - | |
56 | Report#45「夜更かし」 | 437 | 2 | 2024-01-05 | - | |
63 | Report#46「緊急回避」 | 524 | 0 | 2024-01-10 | - | |
78 | Report#47「狂気」 | 449 | 2 | 2024-01-20 | - | |
63 | Report#48「判断」 | 401 | 2 | 2024-01-30 | - | |
81 | Report#49「白化」 | 508 | 0 | 2024-02-10 | - | |
69 | Report#50「諦め切れない」 | 401 | 2 | 2024-02-20 | - | |
62 | Report#51「錯綜」 | 460 | 2 | 2024-03-01 | - | |
81 | Report#52「計画」 | 451 | 2 | 2024-03-05 | - | |
73 | Report#53「決意」 | 543 | 2 | 2024-03-10 | - | |
60 | Report#54「抜け道」 | 417 | 2 | 2024-03-15 | - | |
90 | Report#55「死の栄誉」 | 550 | 2 | 2024-03-25 | - | |
67 | Report#56「灼熱の断頭」 | 402 | 2 | 2024-03-30 | - | |
74 | Report#57「憧れの主人公」 | 399 | 0 | 2024-04-05 | - | |
67 | Report#58「記憶にいない娘」 | 331 | 2 | 2024-04-20 | - | |
55 | Report#59「蝕みの鱗粉」 | 346 | 4 | 2024-04-25 | - | |
73 | Report#60「歪み」 | 431 | 4 | 2024-04-30 | - | |
49 | Report#61「新たなステージ」 | 380 | 2 | 2024-05-10 | - | |
76 | #被験者リストB | 449 | 0 | 2024-05-10 | - | |
58 | Report#62「狂気の残党」 | 387 | 2 | 2024-05-20 | - | |
66 | Report#63「窒息」 | 389 | 2 | 2024-06-15 | - | |
62 | Report#64「護衛」 | 344 | 2 | 2024-07-10 | - | |
65 | Report#65「格付け」 | 348 | 2 | 2024-07-20 | - | |
92 | Report#66「赤い世界」 | 516 | 2 | 2024-08-05 | - | |
98 | Report#67「悪夢の始まり」 | 627 | 6 | 2024-08-15 | - | |
63 | Report#68「見せかけの希望」 | 380 | 4 | 2024-08-25 | - | |
60 | Report#69「未来を懸けて」 | 320 | 2 | 2024-09-05 | - | |
65 | Report#70「救われたい」 | 362 | 2 | 2024-09-15 | - | |
73 | Report#71「決意の隼」 | 512 | 2 | 2024-09-25 | - | |
54 | Report#72「勝者の在り方」 | 333 | 2 | 2024-10-05 | - | |
54 | Report#73「救われない」 | 351 | 2 | 2024-10-15 | - | |
48 | Report#74「死の責任」 | 338 | 4 | 2024-10-25 | - | |
55 | Report#75「喪失」 | 361 | 2 | 2024-11-05 | - | |
44 | Report#76「黙殺」 | 264 | 2 | 2024-11-10 | - | |
48 | Report#77「残されたモノ」 | 281 | 2 | 2024-11-20 | - | |
70 | Report#78「死別反応」 | 484 | 2 | 2024-11-30 | - | |
37 | Report#79「メモリアリティ」 | 221 | 2 | 2024-12-10 | - | |
39 | 観察報告レポート | 367 | 2 | 2024-12-10 | - | |
40 | Report#80「始動」 | 271 | 2 | 2024-12-20 | - | |
40 | Report#81「不可視」 | 351 | 0 | 2024-12-30 | - | |
52 | Report#82「揺れ惑う正義」 | 438 | 2 | 2025-01-10 | - | |
41 | Report#83「研ぎ澄まされし逆鱗」 | 303 | 4 | 2025-01-25 | - | |
33 | Report#84「解と答え」 | 285 | 0 | 2025-02-10 | - | |
33 | Report#85「序曲-死という舞台」 | 310 | 0 | 2025-03-20 | - | |
32 | Report#86「終幕-道化な生き方」 | 267 | 0 | 2025-03-25 | - | |
43 | Report#87「白き魚と朱の花」 | 366 | 2 | 2025-04-25 | - | |
45 | Report#88「死線」 | 393 | 4 | 2025-05-10 | - | |
42 | Report#89「衝撃」 | 289 | 4 | 2025-05-30 | - | |
44 | Report#90「愛着障害」 | 327 | 4 | 2025-06-10 | - | |
32 | Report#91「囚われの愛」 | 737 | 5 | 2025-07-05 | - | |
32 | Report#92「募る心労」 | 285 | 2 | 2025-08-25 | - | |
25 | Report#93「父と子と娘」 | 189 | 2 | 2025-09-20 | - | |
4 | Report#94「デジタル・バグ」 | 28 | 0 | 2025-10-15 | - |
更新情報 - NEW -
- 2025/09/30 新商品 リミットレギュレーションリストを更新しました。
- 10/15 08:43 評価 8点 《D-HERO ダークエンジェル》「●特殊なロックをかける、アニ…
- 10/15 03:55 掲示板 カード画像
- 10/15 03:43 評価 8点 《最果てのゴーティス》「全体除外は気持ちいいが自分フィールドも…
- 10/15 03:26 評価 10点 《ヘルフレイムバンシー》「将来禁止されるかも知れない1枚。 《…
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- 10/15 00:22 SS Report#94「デジタル・バグ」
- 10/15 00:01 評価 6点 《グングニールの影霊衣》「レギュラーパックで登場した後発組の儀…
- 10/14 23:47 SS 遊戯王D.C②
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- 10/14 18:28 評価 8点 《天魔の聲選器-『ヴァルモニカ』》「・奪取効果は《群雄割拠》も…
- 10/14 18:23 一言 オーバーフレーム!? とうとうOCGで枠はみ出すの!?
- 10/14 16:01 評価 7点 《セレモニーベル》「・先に手札を置くのはおもしろな、ちなみに《…
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- 10/14 13:33 評価 8点 《トーチ・ゴーレム》「・昔の《ダーク・ガイア》は《モンスターゲ…
- 10/14 12:43 評価 8点 《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》「ヴァンパイアの脳筋(?)枠。自…
- 10/14 12:19 SS 第三十五話・2
- 10/14 09:35 一言 デスペラード吹雪さん、ご心配をおかけしました……。まぁ事情も何もグロ…
- 10/14 09:07 評価 10点 《DDD壊薙王アビス・ラグナロク》「 【《DDD》】の会長さ…
- 10/14 08:27 一言 おはようございます。 ガンドラPさん、おかえりです! 事情があった…
- 10/14 08:18 評価 8点 《パワー・ジャイアント》「・星3を捨てると星3なり、そのままX…
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