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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#4「救い」

Report#4「救い」 作:ランペル


私は…また暗闇に戻されていた。目が映し出すのは暗闇だけ…もはや何も映してなんていないのだろう。なんとなく、ぼんやりしていた頭が冴えてきて、さっきまでのことを思い出す。

「私…死んで……

デュエルに負けて、あの人に殺されてしまった。この一筋の光も見えないこの暗闇………
これが死んだら見える世界なのだろうか…?

「…うぅ……

悔しかった。
訳の分からない場所に連れてこられ、訳の分からないままデュエルをして、訳の分からないまま、負けて…殺されてしまった…。
もっとおいしいものを食べたかった…
もっといろんな所に行って遊びたかった…
もっといろんな人と仲良くしたかった…
いろんなことがどんどん溢れてきて、自然と涙が頬を伝う…。



「……?あれ…

確かに涙が私の頬を伝っているのが分かった。死んだにしては、あまりに感触が現実と酷似している…。
我に返って、体を動かしてみるとものすごく重い…重いけれど、動く。
左腕にはあの時のデュエルディスクもまだ付けられている…。

「生き…てる?」

腕に触れると、痛みが走った。デュエルの時に受けた傷もまだ残っており、傷に気づいたとたん全身がズキズキと痛み始めた。

「痛い…けど、生きてる…死んでない…?」


最後の攻撃を受けた時、確かに意識はそこで途絶えた。
けれど、自分が思っているより体は動いており、死を連想はしたが、実際には死ぬようなことではなかったのかもしれない。

あれこれ考えていると、上の方からあのアナウンスが流れ始めた…。


ザザッ
「裏野様、お目覚めですね。それでは再びこのフロアを開放いたします」

「ぇ…」

フロアの開放…再び、またあの残酷なデュエルを私にさせようと言うのだろうか?


ピーガチャ

「ひっ」

後ろの方から何かの音がした。恐らく、ドアの鍵が開いたのだろう。

「いや…もういや……」

暗闇のせいで、頭は活発に働き、嫌な出来事が鮮明に思い出されてしまう…。また、扉から私を痛めつけに誰かが来る…。
私を殺そうと……。


こわい


もう、私の内には恐怖しかなかった。

「た、助けて…お父さん…」

恐怖で音のした方から自然と後ずさる。重い体を無理やりに引きずって、扉のあるであろう場所から少しずつ離れる。離れずにはいられなかった。
あの扉が開くとまたあの悪夢の時間が始まってしまうと思うと、何も見えない暗闇の中、どこへ向かっているかも分からず、ただただ反対の方向へと這っている。

「きゃぁあ!」

反対の方向へと這っていると、何かにぶつかり声を上げてしまった。そのぶつかったものが、部屋の壁であることに気づいて安堵と共に涙が溢れてしまった…。

「………」


暗闇の中、研ぎ澄まされた聴覚を頼りに見えもしない周囲をきょろきょろと警戒する。アナウンスの後にいくらか時間がたったが、何の音もしない…。
ただただ、自分の心臓の鼓動の音だけが鳴り響いているこの空間は、私の緊張をいつまででも高めてしまう…。



   -------


ピーー

「!!!

音が鳴り響き、緊張が最高潮になっていた私は跳ねた。
扉が開かれ、一筋の光が私に直線上に向けられる。震えながらも、その方向へと目を向ければ、目が眩んで何も見えない…。


「暗いわね…。前と内装は変わってない感じかな」

女の人の声がした。透き通った優し気な声をしており先程の男ではないようだった。
目はまだ明るさに慣れておらず、まだ見えない。けれど、先程の男と比べると私にあんな仕打ちはしないような気がしてきた。

「明かりはつくのよね?」

女の人が声を出すと共に、先ほどと同様うっすらとだが明かりがつき、周囲の状況が次第に見えてくる。明るさにもだいぶ目が慣れ、扉の近くにいる人が見えてきた。
薄暗い照明のせいで良くは分からないけれど、長い髪をなびかせた綺麗な女性だった。ゆったりとした服を着こなしており、腕から手にかけての見える部分には何故か包帯が巻かれ左手には手袋をつけていた。そして、その腕にはデュエルディスクがつけられていた…。

「い、いや…」

「ん?」

咄嗟に拒否反応が出てしまい、声が漏れてしまう。その声を聞いて女の人がこっちに近づいてくる。

「え、学生さん…?」

「え…あ…」

「う~ん…どういった目的は分からないけど、人それぞれいろいろあるわよね。そりゃ」

「あ、あの…」

「まぁ、気にしててもしょうがないわね。それじゃ、デュエルしましょ?」

デュエルという言葉とその女性がディスクを構える姿を見た途端、全身に寒気が走った。

「…!?い、いや!お願いします…!許してください…!お願いですから!」

「え?へ?」

「もう…やめてください…お願いですから、殺さないで…」

この人も私とデュエルをしに来たと分かった瞬間、今まで感じていたこの人への印象は一変した。この人もさっきの男の人みたいに自分を痛めつけに来たんだと…もう恐怖からそうとしか考えられなくなっていた。口では必死に許しを請いながら、壁を背に後ずさりをしている…。

「………」

女の人は私を見て、ずっと黙っていた。何を考えているのかが分からず、ただただ怖かった…。


「ごめんなさいね。怖がらせるつもりではなかったんだけど…」

「え……?」

予想外の言葉に思考が一時停止した。女の人はどこか寂し気な笑顔を私に向けて、続けた…。

「先を越されてたのね…。そうよね。さっき再び開放するって言ってたもんね…。
ごめんなさい、先に気づくべきだったわ」

「え…あの…」

女の人はゆっくりと私に近づき、私の前でしゃがんだ。

「とりあえず、私はあなたの敵ではないわ。落ち着いて。ね?」

「ほ、ほんとう…ですか…?」

「安心してと言っても信じてもらえるかは分からないけれど…前に来た人みたいにひどいことはしないつもりよ」

私に声を掛けてくれるこの人の表情はとても優し気で、ここに連れて来られて始めて安心できた。

「こ…こわかっ……こわかった………」

極度の緊張と恐怖が和らぎ、泣きながらその人に抱き着く。

「わわっ!」


今までにため込んできていた感情があふれ出るように、私は泣いていた。まるで子供が泣いているかのように声を上げながら、泣きじゃくった。

「……怖かったね。ゆっくりでいいからね…?」

その人は泣きじゃくる私の頭を撫でながら、ただ待ってくれた。



   -------



一通り泣き止んで、少し落ち着いてきたところで女の人が話しかけてきた。

「少しは落ち着いたかな?」

「っ……はい…」

「それはよかった。あなた、名前はなんていうの?」

「…梨沙…です。裏野…梨沙」

「そ、梨沙ちゃんね。私はアリスって言うのよろしくね!」

「…アリス…さん?」

「うん、ここではそう名乗ってるから梨沙ちゃんもそう呼んでね」

「分かり…ました」

「とりあえず、その手のけが治療しましょ。もう、大丈夫かな…?」

「あっ、すいません」

いまだに自分がアリスさんにくっついていたのに気づいて離れる。

「あぁ…消毒がないね…」

「あっ、そんな…大丈夫ですから…」

「大丈夫じゃないって!そんな大きな傷…今も痛いでしょ?」

「…は、はい……」

「待ってて、ちょっと消毒を取ってくるから

「え…

アリスさんがどこかへ行ってしまえば、また暗くなって…またあの人が来るかもしれない…。無意識に体が震え始める。
それを見たアリスさんは少しだけ元気な声を出して

「……大丈夫!本当にすぐ戻ってくるから、ね?」

「でも…」

「もし変な奴が来てたら私がやっつけてあげるから。傷も治さないとダメでしょ?」

確かに右腕は痛いが、再び一人になることを考えるとどうしても不安になる。

「…そう、ですよね…。でも…怖くて…」

「怖いよね……。ホントにすぐ戻ってくるから!少しだけ待ってて」

「分かりました…。ありがとうございます」

「いいのいいの。それじゃ行ってくるね!」

「はい、お願いします…」

何度も念押しをしてアリスさんが扉へと向かって走っていった。そして、彼女が扉を通り過ぎると扉は閉じられ、再び何も見えない暗闇が訪れた…。


「………大丈夫…。すぐ戻ってきてくれるはず…」

初めてここで救いの手を差し伸べてくれた人…。どんな人なのかも分からないが、今ここで頼れるのはあの人しかいなかった…。
あれほど、扉が開いて人が来るのを恐れていたのに、今は逆に一人でいるのが不安で不安でたまらない。

何も見えない…何も聞こえない…。変な想像ばかりが頭をよぎって仕方がない…。1秒1秒がものすごく長い時間に感じられた。

「何も…!考えちゃダメ。すぐ…すぐ来てくれるから…」



暗闇は彼女が戻ってくる時を教えてはくれない。
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ランペル
皆様、閲覧及びたくさんのいいねありがとうございます!
文章量が話によってかなり多かったり少なかったりと差がありますが、どうか温かい目で見ていただけると幸いです。 (2023-06-10 00:34)

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