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HOME > 遊戯王SS一覧 > 85話 ティアドロップ その①

85話 ティアドロップ その① 作:コングの施し

茉菜から、一通のメッセージが届いた。
あの日、喫茶海月で彼女と戦ったあの日、結局その口から『花の魔女』事件の真相が語られることはなかった。でも店を出る時、彼女はこう言った『わたし、隠し事はする。でも嘘は絶対につかない。』と。……隠し事はするんだな。でも嘘を絶対につかないと言ったことは、それはすなわち自分のことを信じろってことだと、そう思えた。

まだこっちに越してきて2週間。祖母から受け取った食事を済ませて、洗い物を済ませようとしたその時、彼女からのメッセージが自分の足を止めた。そこにあったのは、1本の動画のURLだった。送ってきたのはそれだけで、それ以外のことは何も言わなかった。だからこそなのか、自分にはそれが日中の話の続きなのだということが直感的に理解できた。『教えてくれ、花の魔女のこと。』といった、その言葉への回答が、その動画だった。

『はーい!!約束の引退式が終わりましたー!!』

暗い、学校の一室だった。そこには俯きワイシャツ姿の律歌と、囲うようにして数人の男女が笑みを浮かべている光景が映されていた。へたり込むように俯き、あられのない姿になっている彼女を見て、自分は冷たい汗がじわりと滲むのを感じた。

『ねねね時和、決闘王杯どうだった?』

男の一人が律歌の隣へと飛び込んで彼女の肩へと顔を近づける。彼女は俯いたまま何も答えない。

『なんか言えよ〜。この約束飲んで、二年一年が参加させてもらったんだからサ。感想くらい聞かせなって!!』

『おいおいまだ早えよ〜』

げらげらと、黒い笑い声が響いている。声にならない憤りと自分が信じてやまなかった彼女をそんなふうに扱おうとするその者たちを今すぐにでも殺してしまいたいと思うそんな自分を、俯瞰していた。

『ちょっと時和可哀想じゃ〜ん!
脱いでくれたんだから、男どもは見るだけで満足しなって!……あたしらはあたしらで、楽しみ方があるからさ!!』

女子生徒がそう言って彼女の胸ぐらを掴んだ。
もう理解していた。これは花の魔女事件の直前の映像だ。茉菜も蜂谷も、彼女を庇うような発言をしていたのはこの動画があるからだ。決闘王杯、実力の伴わない三年生がその出場権を占有していたところ、引退式の日に彼女がこの状況になることが交換条件となって、他の生徒は出場権を獲得している。それがこの動画の真相で、この学校のデュエル部の腐っていた面だ。
……そんなことを考えていなければ、彼女がいいようにされてしまう映像を直視することなどできなかった。

遊大「……やめろ、」

『あはは痛そー!!顔はやめるとか関係ないから!今日ほんとに5体満足で帰れると思うなよ?』

『男に下ぐっちゃぐちゃにされて、あたしらは溜まった鬱憤、あんたにぶつけるからさあ!!』

遊大「……やめろッ!!!」

女がその拳を挙げた瞬間、自分はそんな言葉を吐いていた。ただの携帯の画面に向かって。
願いは届かない。画面から鈍い音が響いて、自分もその画面から目を逸らしていた。その音から先、数秒の沈黙があった。薄く目を開くと、その光景に息を呑むことにある。

遊大「……は?」

『おい……おいおい!!えっ!?は!?!?』

拳を上げた女生徒、その手と、そして首に黒い蔦がぎっちりと巻き付いている。
蔦にはカメラから映るほどの鋭い棘が生えていて、巻き付いてそれは、確実にその体を貫いていた。撮影している生徒は固まったままそのカメラを構えていたようだが、その手がガタガタと震え始める。ざわつく彼らは完全にパニック状態になっていた。荒ぶるカメラと、彼女を囲うように発言した何本もの蔦。それらは目にも止まらぬ速度で生徒たちを打ち付け、バタバタと彼らが倒れていく。

『なんなんだよ、なんだよこれ!!これじゃまるで、』

そう言って撮影者が最後に写したのは、力無くそこに倒れた律歌の姿と、その背後に聳えた一体のモンスターだった。
一瞬でもはっきりと、その姿は映った。白い肌の女性のようなモンスターは、その手足に鬱蒼とした植物を生やし、その蔦からは赤と紫色の花を開かせている。倒れている者たちは身体中に青いアザが浮かんでいて、ゆっくりとそのモンスターはカメラへと近づいてくる。

『………………魔女じゃねえかよぉ!!!』

伸ばされた蔦は撮影者を襲い、カメラは力無く落とされ、茉菜が送ってきた映像はそこで途切れた。
同時に彼女が言いたいことが、わかった気がした。彼女は自分の覚悟を見たかったんだ。花の魔女はなぜ花の魔女であるのか、そしてなぜ生まれたのか。それを追いかけるということが、どれほど危険か。啖呵を切った自分にその重さを再認識させようとしていた。そして浮かんだのは、この事件に関わること、その意図だった。彼女は何を望むのか。律歌を貶めたものへの復讐はすでに済んでいる。……必要のないことだ。

遊大「……『それでも会うか』……ね。」






そこにいる彼は、そこにいたはずの彼女に愛をしていた。
もう、半年も前になる。自分は、いや自分がマネージャーとして共に歩いていたデュエル部は、崩壊した。

茉奈「まだあなたは、……ここにいるんですね。」

学校の背中は小高い茂みになっていて、「裏山」とまでは行かずとも年中鬱蒼とした緑が茂っていた。その中腹に、一階建ての小さな植物園がある。外には温室があって、覗くといつもどうやらきっちりと並べられた棚に花々が植えられていた。奥には手入れに使うのだろうかシャベルや空鉢、温度計なんかが収納されている。

遊大「……やっと、ってわけじゃないよな。
意外と早く見つけられたよ。」

その小さな植物園。おそらくかつて科学や生物科目で使ったであろうその場所に、ずっと彼はそこにいた。

不二原「別に……隠れてるわけじゃない。
『見つける』なんて言葉を使わずとも、私はずっとここにいる。」

不二原 千晶。
かつてのデュエル部、そのエース。そして時和 律歌のボーイフレンドであり、そして……

不二原「わざわざ『魔女』のところまで、何をしにきた?」

そして、デュエル部を崩壊させた核、『花の魔女』を名乗る人物。他でもない、いまこうして、窓の外の温室を眺めながらそう言った彼が、彼こそが自らを『花の魔女』とした人物。

遊大「噂には聞いたけど、あんたマジなんだな。……本当に『魔女』なんだな。」

不二原「質問に答えてくれないか。
名は言わなくてもいい。ただここに、何をしにきたか答えてくれ。」

茉奈「わたしたちは……あなたと話に来たんです。」

不二原はその声に、視線だけをこちらに向けて答えた。あの時、あの時代には考えられなかった、熱を帯びていない瞳。落としたであろう涙すら凍りついてしまうほどに、冷たい瞳。

不二原「古池、きみには聞いていない。」

茉奈「……!!」

不二原「尋ねているのは、彼がここに来た理由だ。
……何を求めてここに来た?今更私に、いや私達に、門外漢である君は何をさせるつもりで来た?」

尋ねられた彼は、その答えを口にすることなく黙り込んだまま歩を進める。窓際に置かれた椅子の、腰掛けた黒いスーツ姿の不二原の目の前まで。

遊大「おれは……樋本遊大だ。
花海……いや時和律歌さんに会いに来た。あの人の、ただの後輩だよ。」

不二原は、その言葉に沈黙する。
彼の目を見ることなく、視線は落としたまま。ただ小さな気泡が水面を揺らすように、彼の声はゆっくりと震え出す。

不二原「はは……ははは。」

遊大「何、笑ってんだよ。」

不二原「お門違いも良いところだ。
……私は魔女だぞ。魔女である私が、なぜ彼女の居場所を知っていなければならない?」

茉奈「不二原先輩……。」

彼の乾いた笑い声が、花の香りに混じって空気に消えていく。不二原はすっくと立ち上がって、遊大と目線を合わせた。

不二原「彼女を探しているのなら、警察でもセキュリティでもなんでも頼れば良い。
…………ただ、ここにいないだけなんだ。なにも消息を絶ってるなんてことは、ないんだからな。」

遊大「ただ会うだけなら、おれもそうしたよ。」

不二原「……何を言っている?」

茉奈「『花の魔女事件』はまだ、解決していない。……わたしたちのゴールは、事件を解決して、彼女を魔女の呪いから解放して……」

遊大「この学校の……デュエル部を再興することだ。」

その言葉を聞いた不二原は、遊大の視線から目を逸らした。訝しく歪んだ表情を隠すように、そっと手で顔を覆う仕草を見せる。

不二原「『魔女の呪い』……か。」

自分は、敢えてその言葉を選んだ。
嫌味なつもりだった。だって彼はまだ彼女を好いていて、そして自分が『魔女』であることなど、何も彼女にとっての救いではないと知っているから。

古池「嫌味です。
……勝手に救った気にならないでください。あなたの行為で救われているのは、あなただけだから。」

不二原「……そうか。」

彼はそのまま、かつかつと窓際を歩く。
引き戸を開いて、小さなテラスへとゆっくりと身を出した。外に植えられた花々は、春だというのに肌寒い今日日の風に凍えている。

不二原「樋本 遊大。君はどうする?
君は私に、何をさせたい。君にとっての理想は古池と一緒か?」

問われた遊大も続いて、テラスへ出る。
花が終わりかけのシクラメンを撫でながら問いかける不二原対し、遊大は彼を見つめながら答えた。

遊大「一緒だ。
あんたはどこまで知ってるかは、おれは知らないよ。でも知ってること、洗いざらい話してほしい。 
……律歌さんがいまどこで、なにをしてるのか。そんであんたはなんで、『魔女』になったのか。」

不二原はその言葉に、また冷たい笑みを浮かべた。小さく「舐められたものだな」と呟いた。

不二原「古池……妙なことを吹き込んだな。
……交渉決裂だ。私は自分のことも律歌のことも、話すつもりはない。帰れ。」

遊大「帰らない。」

その言葉に、不二原は黙り込んだ。
遊大の言葉があまりにも迷いなく、躊躇なく響いた。

不二原「……だったらどうする。」

遊大「闘うだろ、そりゃ。」

不二原「死ぬぞ?……殺されたいなら残れ。」

彼の声が、空を裂く。
その氷のような冷たさに、自分は一歩だけたじろいでしまった。ただ遊大は、彼は違った。

遊大「言ったな、ちゃんと殺せよ。
……『魔女』なんだろ、だったらいい。死にたくなければ帰れとか、それこそ交渉決裂だよ。」

遊大と不二原、2人は向かい合っていた。
意地でもその視界に自分を捩じ込もうとばかりに遊大が彼の元へとまた進む。テラスの角で逃げ場のない不二原も、ようやく手を花弁から離して立ち上がる。

不二原「正気か。……知らないはずもないだろう。」

遊大「大マジ。
ソリッドヴィジョンが実体化するから、『魔女』。わかるよ、『黒薔薇』の再来ってんで、『花の魔女』なんだろ。
…………その上で言ってんだ、おれたちはここから去る気はない。話す気がないなら闘うだけだよ。」

わかっている。彼には、不二原には闘う気などない。ただ自分が『魔女』だから。誰も傷つける必要のないように、ずっとこうして闘いを避けてきていた。その結果が、この植物園に籠りきりの状況なのだ。

不二原「樋本……遊大。」

自分も、なんとなく勘づいていた。
この樋本 遊大は、狂っている。通常では考えられようもない何かを背負って、今ここにいる。だからこう易々と命を賭けることができる。……それがどれほどの狂気で、いつ身を滅ぼすとも知れぬというのに。

不二原「お前の命は、そんなに軽いのか。」

遊大「違う。命は重い。
でもここで止まってたら、おれは死んでるも同然なんだ。」

不二原「律歌と会うことか。」

遊大「それと、デュエルを続けることな。」

不二原「言っておく。
……もう彼女は闘わない、闘えない。」

遊大「関係ない。あの人がいなかったら、きっとおれは途中で投げ出してる。だから感謝と、謝罪をしたいんだ。……それくらい良いだろ。」

不二原はそう続けた遊大に、乾いた笑みを漏らした。「勝手だな」と続けると、彼の横をすっと通り抜け温室の方へと歩を進める。

不二原「ああ、つくづく勝手だ。
それに、彼女に抱えてるお前の鬱屈な感情は私にとっても良い気がするものじゃない。
…………重いぞ、お前。」

遊大「あんたが言えたことじゃない。」

2人は、温室の扉を開けてその中へと足を踏み入れる。
彼の背中を追うようにして踏み込んだ自分と遊大。傍の遊大の表情が、流る温室の空気に触れた瞬間に訝しげに歪むのが見えた。温室とは本来、外界の環境に左右されることなく植物を育成するために室温や湿度を調整している場所。

遊大「……どういう趣味だよ。」

ただそこは、温室に漂う空気は、春空の外界よりもずっと寒くて、凍えてしまいそうだった。
そんな中でもある花々は緑色の葉をつけていて、花すら咲かせているものたちもいた。その草花を背にして、やっと不二原はディスクを左腕に構える。

不二原「……春は来ない。
ただ私は、止まった冬でも咲き続けなくてはならない。君たちが待ち望んでいるとしても、魔女はそれを許さない。
……それが嫌だと言うのなら、己が時を進めるのなら、私を討ってみせろ。」

遊大「悪い。
詩的すぎて何言ってんのかわかんねえ。……でもおれは暑い季節の方が好きでさ。
だから闘るよ、魔女だろうが誰だろうが覚悟はできてる。」

二人はディスクを構えて向かい合う。
かつて花の魔女として恐れられた男、そして花の魔女が救おうとした一人の女性に、心を惹かれていた者。2人の決闘者の口から、その言葉は出ていた。


『『デュエル!!!』』


凍りついた植物園は、その宣言と同時にあり様を変えていく。
2人がディスクを構えるその姿を、ただ見ていた。そして同時に伝わってくる、遊大の戦慄も。彼は狂っている。だがしかし同時に、彼は彼自身の命の重さを理解していると、確かに言った。命が重いとわかっていて彼は、魔女と戦う選択を取る。…………そう導いたのは他でも無い、自分なのだけれど。


ーTURN1ー

樋本 遊大(ターンプレイヤー)
LP   :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

不二原 千晶
LP   :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:


先攻を委ねられたのは、遊大。
彼の手に先に攻め込む権利が与えられた時点で、それは大きなアドバンテージになる。何せ彼の切り札である2枚のカードはお互いの弱点を補いながら盤面を強靭に制圧することが可能。その盤面さえ作れれば、あるいは。

遊大「おれのターン、」

自ら手札を見つめた遊大は、1枚のモンスターを手札から呼び出す。召喚されるのは《昇華騎士ーエクスパラディン》。召喚時にデッキより炎属性・戦士族かデュアルモンスターを装備する効果を持つ。

遊大「《昇華騎士ーエクスパラディン》の効果で、デッキから《焔聖騎士ーオジエ》を装備。
……さらに《オジエ》を墓地に送り、手札から《焔聖騎士ーオリヴィエ》を特殊召喚!」


《昇華騎士ーエクスパラディン》(攻)
☆:3 炎属性・戦士族/効果
ATK:1300/DEF:200

《焔聖騎士ーオリヴィエ》(守)
☆:1(4) 炎属性・戦士族/チューナー/効果
ATK:1000/DEF:1500


遊大「____現れろ、明日に続くサーキット!!」

不二原「……!!」

その言葉に、不二原の表情が一瞬揺らぐ。
チューナーと非チューナーモンスター、あらかたシンクロ召喚を予測してのことであろう。ただし彼の場合は違う。戦士族にのみ許された、デッキの核がそこにはある。

遊大「《エクスパラディン》と《オリヴィエ》をリンクマーカーにセット!!
白き指は彼の手を、黄金の糸束はその魂を撫で救う。2つの想いよ、戦火に馳せろ!!
________リンク召喚、《聖騎士の追想 イゾルデ》!!」


《聖騎士の追想 イゾルデ》(攻)
L:2 光属性・戦士族/リンク/効果
ATK:1600 [↙・↘]


可憐さすら感じてしまうほどに、戦士とは似つかない姿の少女たち。ただしその手に帆旗が握られるとき、そのデッキはまるで大海原を跋扈する荒波のように動き出す。

遊大「リンク召喚時、デッキより《炎獣使いエーカ》を手札へ。ただしこのカードはこのターン、召喚も効果使用も行えない。
…………だが《イゾルデ》にはもう一つの効果がある!!」

遊大のデッキから《天使の指輪》のカードが墓地に送られ、その旗本に小さな篝火が落ちる。剣を火元とするそれはモンスターの姿を象り、様相を変えていく。

遊大「現れろ!!
……《焔聖騎士ーリッチャルデット》、さらに効果で特殊召喚、《焔聖騎士ーオジエ》!!
《オジエ》の効果で《焔聖騎士ーテュルパン》をデッキから墓地へ!」


《焔聖騎士ーリッチャルデット》(守)
☆:1 炎属性・戦士族/チューナー/効果
ATK:500/DEF:0

《焔聖騎士ーオジエ》(守)
☆:4 炎属性・戦士族/効果
ATK:1500/DEF:2000


遊大「さらに、特殊召喚したレベル4の《オジエ》に、レベル1の《リッチャルデット》をチューニング、……シンクロ召喚!!」

茉奈「リンクからシンクロ、レベルは5……!!!」

《聖騎士の追想 イゾルデ》から《焔聖騎士ーリッチャルデット》と《焔聖騎士ーオジエ》へと繋がった展開は、さらに巨大な渦となって不二原へ降りかかる。現れるのは彼のデッキの2つ目の核……戦場へと想いを馳せるもう一人の少女。

遊大「来てくれ、《聖剣を巡る王妃アンジェリカ》!!」


《聖剣を巡る王妃アンジェリカ》(守)
☆:5 炎属性・戦士族/シンクロ/効果
ATK:1200/DEF:2400


不二原「これは……なるほど。
フィールド魔法をサーチし、さらにその効果で装備魔法を戦術に組み込む、か。無鉄砲なヤツだと思っていたが、どうもデッキは中々煩雑なようだな。」

王妃がその指にはめたリングをきらりと輝かせると、自分たちが立つフィールドが格式高い展示場へと移り変わっていく。ショーケースに鎮座する剣のうちの1つがカードとなって、遊大の手へと加えられた。彼と自分の家で戦ったときはソリッドヴィジョンがマットモードだったから目にかかることはなかったが、これがレギュラースケールになると中々に壮観である。


(LP :6800)樋本 遊大


遊大「1200LP払い、《大聖剣博物館》の効果を発動。デッキより《『焔聖剣ーデュランダル』》を手札に加える!!
さらに墓地に存在する《焔聖騎士ーオリヴィエ》の効果を、《アンジェリカ》を対象として発動!!」

茉奈「『恋するオルランド』……ね、
《アンジェリカ》……《ローラン》に深く繋がりながらも絶対に交わらない2人。まったく同じデッキで彼女周りのゴタゴタを取り入れるとなると、何が何やら。」

遊大「効果・攻撃対象になったことで《アンジェリカ》の効果をチェーンして発動。
自身をエンドフェイズまで除外!!さらにデッキから《焔聖騎士ーアストルフォ》を墓地に送り、エクストラデッキから《焔聖騎士導ーローラン》を特殊召喚!!」


《焔聖騎士導ーローラン》(守)
☆:5 炎属性・戦士族/シンクロ/チューナー/効果
ATK:2500(2000)/DEF:0


これで、遊大の墓地には《『焔聖剣ーデュランダル』》、そして墓地には《焔聖騎士ーテュルパン》。さらにはデッキから《焔聖騎士ーリナルド》が手に加わり、効果で《焔聖騎士ーアストルフォ》が墓地より回収。極め付けに《大聖剣博物館》の効果で装備状態の《焔聖騎士》を特殊召喚する効果まで獲得している。

不二原「随分と………、」


《焔聖騎士ーテュルパン》(守)
☆:4 炎属性・戦士族/効果
ATK:1900(1400)/DEF:1700

《焔聖騎士ーリナルド》(守)
☆:1 炎属性・戦士族/(チューナー)/効果
ATK:1000/DEF:200

《焔聖騎士ーアストルフォ》(守)
☆:4(1) 炎属性・戦士族/効果
ATK:1000(500)/DEF:200

《焔聖騎士ーオジエ》(守)
☆:4 炎属性・戦士族/効果
ATK:2000(1500)/DEF:2000


不二原「……派手に構えたな。」

遊大「まだまだ、……いくぞ!!
おれは、戦士族・レベル4の《テュルパン》と、《オリヴィエ》のレベルを除外しコピーした《アストルフォ》を、オーバーレイッ!!」

限界までモンスターを展開した遊大。ただしここではまだ、1体とてエースモンスターを展開していない。押し寄せるモンスターたちによる炎の波は収束し、不二原を迎え撃つ布陣になる。

不二原「レベル4が2体、来るか。」

遊大「エクシーズ召喚!!
_____《HーC マグナム・エクスカリバー!!》」


《HーC マグナム・エクスカリバー》(攻)
★:4 光属性・戦士族/エクシーズ/効果
ATK:2000/DEF:2000


茉奈「《マグナム・エクスカリバー》……!!」

かつて世界を轟かせた決闘者が使った《エクスカリバー》、その強化形態にして、同時に誰もが使えるように調整されたカードでもある。バトルで活躍する効果を持ったそのモンスターは、先攻で展開するのに適しているカードではない。そう考えたのか、不二原は訝しげに首を傾けた。

不二原「……?
戦闘の警戒?…………ああ、そうか。」

遊大「リンク2《聖騎士の追想 イゾルデ》と《焔聖騎士―リナルド》をリンクマーカーにセット!!
_______サーキットコンバイン!!」

閃光の鏃は、さらなるモンスターを生み出す。
鉄槌は大地を穿ち、破砕は奇怪な音色を奏でる。召喚条件は種族の同じモンスター2体、しかし彼のフィールドには《焔聖騎士ーリッチャルデット》と《大聖剣博物館》によって戦士族のみの特殊召喚の制限がかかっている。

遊大「______来いっ、《羅天神将》!!」


《羅天神将》(攻)
L:3 地属性・戦士族/リンク/効果
ATK:2200 [↖・↙・↘・]


遊大「続けて……行くぞ!!
おれは、レベル4の《焔聖騎士ーオジエ》に、レベル5のSチューナー《焔聖騎士導ーローラン》をチューニング!!」

茉奈「《アンジェリカ》を追って駆けつけた《ローラン》はシンクロチューナーモンスター……!!」

2人の戦士の姿は、光の粒子と鳴って霧散する。
そして浮かび上がる「4」と「5」のナンバーが記された閃光の輪。2つのリングは重なり合い、紅の炎がその中心を穿つ道となった。

遊大「幾万の熾烈征するは焔の剣、天の御許に進軍せよ。
______シンクロ召喚、レベル9《焔聖騎士帝–シャルル》!!」


《焔聖騎士帝−シャルル》(攻)
☆9 炎属性・戦士族/シンクロ/効果
ATK:3500(3000)/DEF:200


黒い鎧とマント、そこに施された装飾がフィールドに舞い上がる炎を反射してチリチリと輝いている。不二原もその光に目を焼かれたのか、眉を顰めて口を開いた。

不二原「これが、きみのエースか。」

遊大「まだ、まだまだまだ……飛ばす!!
墓地の《焔聖騎士導ーローラン》の効果を発動!!」

舞い上がった焔は《ローラン》の姿を模って王のマントへと手を差し伸べる。黒い鎧はさらに赫く、熱く、溶け出した溶岩のように煌々とフィールドを照らし、真っ赤に爆ぜた。

遊大「兵共の赫き夢、皇の元へ交わりて覇道となれ!!
_____転生しろ……《シャルル大帝》!!」


《シャルル大帝》(攻)
L:1 炎属性・戦士族/リンク/効果
ATK:4000(3000) [↓]


不二原「リンク1で攻撃力4000、、
なるほど、このターンの展開は全て……全てそのモンスターを構えるための布石か。」

遊大は手札のカードを1枚、フィールドへとセットした。ここまで大きな展開を行なっていながら、その手札は未だ3枚残っている。フェーズは切り替わる。それは彼がこの盤面で彼を迎え撃つということであり、宣戦布告に他ならない。

茉奈「《シャルル大帝》には、墓地の《焔聖騎士帝ーシャルル》を装備し、その攻撃力と効果をコピーする能力がある。」

遊大「エンドフェイズ、《アンジェリカ》が帰還し、そして《シャルル大帝》の効果が発動される!!」

その言葉と同時に、《シャルル大帝》に2枚のカードが装備される。1枚は《聖騎士の追想 イゾルデ》の効果発動のために墓地へ送られた《天使の指輪》。そしてもう一枚は…………

不二原「…………《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》……か。」


ーTURN2ー

不二原 千晶
LP   :8000
手札   :5→6
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

樋本 遊大
LP   :6800
手札   :3
モンスター:《シャルル大帝》 《HーC マグナム・エクスカリバー》 《羅天神将》
魔法罠  :セット×1 《焔聖騎士帝ーシャルル》 《天使の指輪》 《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》
フィールド:《大聖剣博物館》


遊大「ターンを渡したからって、おれの展開が止まったワケじゃない。
このスタンバイフェイズ、《羅天神将》の効果が発動する。リンク先のモンスターと同じ種族となるレベル4以下のモンスターを、手札より特殊召喚できる。
______来い、《炎獣使いエーカ》!!」


《炎獣使いエーカ》(守)
☆:4 炎属性・戦士族/効果
ATK:2000(1500)/DEF:200


茉奈「《聖騎士の追想 イゾルデ》の効果で手札に加わったカード……!!」

不二原「……練られた戦術だな、
そのモンスターには、魔法・罠ゾーンに表側表示で存在するモンスターを呼び出す効果がある……そうだろう?」

遊大「………そうだよ、
《シャルル大帝》だけがおれのエースじゃない。装備状態の《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》を対象として、《エーカ》の効果発動!」

少年は、その手をぎゅっと胸の前で合わせて祈る。炎獣ではない、それは使用者の信念に応えるように戦い続けた赫灼の剣皇。彼の、樋本遊大のエースモンスター。

遊大「神すら穿つ剣!勝利への天道よ、赫灼に染まれ!!
_______降臨せよ、《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》ッ!!」


《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》(攻)
☆9 炎属性・戦士族/効果
ATK:3500(3000)/DEF:2200


フィールドに突き刺さった刃は弾けた炎の輝きに包まれて、その手に握られた。鎧の内側から熱と火焔を漏らし、鈍い鎧の音を立てながらそのモンスターは刃を構える。

不二原「……やることはやったな。
《シャルル大帝》による魔法・罠の無効、《ゴッドフェニックス》はモンスター効果の無効。さらに《天使の指輪》によって魔法カード発動時の処理が止まる、と言ったところか。」

不二原は顔色を変えずに、公開情報となっている妨害を口にした。その表情はデュエルが始まった時と同じ、曇ったような眼で、遊大の目すら彼は見ていなかった。

不二原「…………恐れているんだな。」

遊大「…………は?」

遊大はその言葉に、呆気に取られたように声を漏らした。ふと、彼の銀色の髪から覗かせる瞳が、やっと遊大の方へと向いていることに、気づいた。カードを見て、そして初めて、彼を見た。……彼は言った。

不二原「君はきっと、私のことを知っているんだろう。
…………デュエルのことも、もちろん私が魔女を名乗っていることも。」

遊大「そりゃあ……、そうだろ。
あんたは自分で魔女を名乗った。それに昨年の決闘王杯・高校生の部でベスト16はあんただったんだ。」

不二原「だから、恐れた。」

遊大「言い方が悪いな。
おれはあんたに勝つために、盤面を構えた。デュエルってそういうものだろ。」

不二原「そうだな。……正解だ。
私が言っているのは、君の行動の一貫性の話だ。君ほどのデュエリストであるのに、なぜ、そんなものを構えた?」

彼はそう言って、フォールドに佇む一体のモンスターを指差した。
そこにいたのは、《HーC マグナム・エクスカリバー》。遊大が呼び出したエクシーズモンスターであり、攻撃力増強を主な効果とする。

不二原「君は、私のデッキを知っている。
だが私自身のことは、知った気になっているだけなんじゃないか?
……『魔女のデュエル』はそういうものだ。君はそれを知っている。だからそれを恐れた。さっきは『殺して見せろ』など言ってみせたが、君は誰よりも、それを恐れている。」

遊大「何が……言いたいんだよ。」

不二原「古池の意思は尊重しよう。
だが君はどうかな。私は君のことはもちろん、君の意思も、その強さも、信用していない。
……化けの皮が剥がれるぞ、樋本遊大。」

そこまで彼が言った時、自分も初めて気がついた。
遊大が《HーC マグナム・エクスカリバー》を構えた理由、それは『魔女のデュエル』を恐れたからだ。ダメージが具現化するとされるその戦いで、遊大は意識的か本能がそうさせたのか、戦闘ダメージを回避する手段をとった。あの状況、戦士族レベル4が2体揃っている盤面であれば、無理に戦闘ダメージ回避に振らねばデュエルの展開はもっと良かったかもしれない。

遊大「何言って……、」

彼は『魔女だったら殺して見せろよ』と言った。それでも、その行動に出た。
これはきっと、いや絶対に、自分の責任だ。自分は彼に嘘はついていない。嘘はつかない、ただし隠していることはあるのだ。それを彼自身に伝えているつもりではあった。あえて『そのこと』を伝えなかったのは、彼が自分自身で気づく必要があるからだ。それが不二原を追い詰める方法で、そして覚悟を持たせることが、遊大自身を奮い立たせることができる唯一の方法だからだ。

茉菜「樋本くん!!
……彼は、不二原先輩は……!!!」

不二原「古池、君は黙っていてくれ。
今私は、彼と話をしている。そんな意思で、そんなデュエルで、『魔女』を討つつもりか。君は本当の『魔女』を相手にして、同じことを言えるのか。…………それで、律歌に会いたいだと?……話にならない!!」

遊大「意味わかんねえんだよ、難しいことばっかり言いやがる……!!
________結局あんたは、何が言いたい!」

不二原「意思が弱いと、言っているんだ!!
________私は手札より、《蕾禍繚乱狂咲》を発動!!」

フィールドに、黒い渦が咲き乱れる。
この瞬間、《天子の指輪》の効果が適応。発動時の効果処理が無効になる。ただし、そのカードは永続魔法。真価を発揮するのは、機動効果である。

不二原「《蕾禍繚乱狂咲》の効果を発動。
デッキから《蕾禍》モンスター1体を手札に加える。ただしその後、私は手札を1枚捨てなければならない。
…………どうする、止めるのか?」

「……意思が、弱い?」と遊大は小さく言った。
昨年の全国決闘王杯、ベスト16まで駆け上がった彼のデッキを、遊大は知っている。その上で、もっとも止めねばならないカードの存在も、当然ながら遊大は知っていた。

不二原「……私は《蕾禍ノ毱首》を手札に加え、手札の《ステイセイラ・ロマリン》を捨てる。
そして効果で墓地へ送られた《ステイセイラ・ロマリン》の効果を発動。
…………デッキより《六花精ヘレボラス》を墓地へ!!」

遊大「《六花》……!!」

そのカード、というよりも言葉に、遊大が表情を曇らせたのがわかった。彼は、不二原がどんな思いでそのカードを使い続けているのかを考えてしまったのだろう。今はそんなこと、考えなくても良いというのに。

不二原「手札に加えた、《蕾禍ノ毬首》を召喚し、効果を発動。」


《蕾禍ノ毱首》(攻)
☆:1 地属性・植物族/効果
ATK:0/DEF:0


不二原「デッキより《蕾禍》モンスター2枚を手札に加え、その後手札を1枚除外する。」

遊大「《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》の効果を発動!!装備状態の《焔聖騎士帝ーシャルル》を墓地に送り、モンスター効果の発動を無効にし、破壊する!!」

茉菜「……上手い!!」

遊大にとっての最重要カードはおそらく、彼のデッキに搭載されているフィールド魔法。除去と展開を同時に行うそのカードのために《シャルル大帝》の効果はストックしておかねばならない。もっとも避けねばならないのは、モンスター効果によって《シャルル大帝》を除去される展開。このまま《蕾禍》の展開を許してしまえば、それは確実になる。不二原のデッキを知っている彼だからこそできる戦術。_______それゆえに。

不二原「君は私のデッキを知っている。だとすれば、私は……」

遊大「……!!!」

不二原の手札から、1枚のカードがディスクへと落とされる。
フィールドへと落ちた一滴の雫は、やがて巨大な波紋を生み出していく。呆気に取られた表情を隠しきれない遊大を前に、モンスターたちから色が失われていく。

茉菜「……これは!!」

不二原「速攻魔法、《禁じられた一滴》を発動。
コストとして《蕾禍繚乱狂咲》と《蕾禍ノ毱首》を墓地に送り、それと同じ数、つまり2体のモンスターの効果を無効にし、その攻撃力を半分にする。」

遊大「おれは《シャルル大帝》の効果を……!!」

不二原「わかりきっている事だろう。
《禁じられた一滴》の効果発動に対して、コストとなったカードと同じ種類のカードによるチェーンはできない。
…………敢えて言うなら、ケアできたのは《天子の指輪》だけだ。だがそれも、今となっては!!」

その影響を受けたのは、《シャルル大帝》と《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》の2体。遊大のデッキ、その盤面の核にして彼のエースモンスターの2体をピンポイントに射止めた彼は、デッキから《蕾禍ノ矢筈天牛》と《蕾禍ノ鎧蜥蜴》の2枚を手札へと加える。

茉菜「……樋本くん!!」

彼の方を見つめる。
そこには、覚悟の裏返しとも言うべきなのか、顰めた彼の顔があった。蜂谷のとき、そして自分の時に浮かべたあの不敵な笑みとはかけ離れた顔。しかしそれは恐れなのか、いや、それよりは覚悟を決めた者の、動くことのない意志と言うべきか。一瞬前に見せた揺らぎはもうそこになかったように、自分には感じられた。

不二原「《毬首》の効果を解決。
デッキより、《蕾禍ノ鎧石竜》と《蕾禍ノ矢筈天牛》を手札に加え、効果発動。
墓地の《毬首》を除外、さらにデッキへと戻すことで2体を特殊召喚!!」


《蕾禍ノ鎧石竜》(守)
☆:4 闇属性・爬虫類族/効果
ATK:0/DEF:2300

《蕾禍ノ矢筈天牛》(守)
☆:3 光属性・昆虫族/効果
ATK:1500/DEF:0


白く染まった温室は、彼が手から落とした一滴の滴によって黒く染め上がった。戦場に彷徨う魂は大地に宿り、やがて黒い蔦を伸ばした。それが《蕾禍》。

不二原「《鎧石竜》の効果を発動。
手札より《六花精エリカ》を墓地へ送り、《マグナム・エクスカリバー》を手札に戻す……!」

遊大「《マグナム・エクスカリバー》の効果を、《アンジェリカ》を対象として発動。
……《アンジェリカ》を攻撃力2000アップの装備カードとして装備するっ!!」

《HーC マグナム・エクスカリバー》のオーバーレイユニットが2つ、その剣に宿る。しかしそれはあまりに悪手に見えた。今からデッキに戻ろうというモンスターの攻撃力を上げたとしても……。

不二原「……逃すか。」

遊大「効果対象になった《アンジェリカ》の効果!自信をエンドフェイズまで除外し、デッキから《焔聖騎士ーモージ》を墓地へ送る。
……さらに特殊召喚、《焔聖騎士ーローラン》!」

湧き上がる黒い蔦によって《HーCマグナム・エクスカリバー》はEXデッキへと吸い込まれていった。だが遊大は、それを最重要リソース源である《聖剣を巡る王妃アンジェリカ》をフィールドから逃すことに繋げていた。

遊大「墓地へ送られた《モージ》のモンスター効果!
墓地・除外状態の《オジエ》、《テュルパン》、《エクスパラディン》の3枚をデッキに戻し、1枚ドローする!」

不二原「私は、《矢筈天牛》と《鎧石竜》を、リンクマーカーへセット……!」

遊大「息を吐く間も、ありゃしない。」

黒々とした渦はヒトガタを象り、ガタガタと震えよろめきながらその鎧武者姿のモンスターを産み落とした。髑髏を首に背負ったその
武者が顎をガバッと開くと、不二原の墓地から2枚のカードがフィールドへと出現した。

不二原「……リンク召喚、《蕾禍ノ武者髑髏》。
そして《武者髑髏》とリンク素材となった《矢筈天牛》の効果によって、私はレベル4以下の植物族・爬虫類族・昆虫族1体と、《蕾禍》モンスター1体を、墓地から甦らせる。」


《蕾禍ノ武者髑髏》(攻)
L:2 炎属性・植物族/リンク/効果
ATK:1600 [↙・↘]

《蕾禍ノ鎧石竜》(守)
☆:4 闇属性・爬虫類族/効果
ATK:0/DEF:2300

《ステイセイラ・ロマリン》(守)
☆:4 光属性・植物族/チューナー/効果
ATK:1600/DEF:300


茉奈「……揃った、植物族が2体………、」

不二原「樋本遊大。
君が使ったモンスター……《聖騎士の追想イゾルデ》と言ったか。デッキから後続を展開する、強力なモンスターだ。核と言えるだろう。」

遊大「……ああ、そうだな。」

不二原「私のデッキにも、存在しているんだ。核となるモンスターは!!
……《蕾禍ノ武者髑髏》と《ステイセイラ・ロマリン》をリンクマーカーへセット、リンク召喚。」

フィールドを覆った黒い蔦が一挙に色鮮やかな花々へと開花する。それは花の妖精というのに相応しいほどに可憐で、ただ《聖騎士の追想イゾルデ》と似たような雰囲気を、デュエルをしていない自分ですら感じ取れた。

不二原「……来い、《アロマセラフィージャスミン》!!」


《アロマセラフィージャスミン》(攻)
L:2 光属性・植物族/リンク/効果
ATK:1800 [↙・↘]


遊大「来たか……!!」

《アロマセラフィージャスミン》がそに手をぎゅっと握り、それを天へと広げると、開花した花々は枯れる時を忘れ、咲き誇った姿のまま白く染まっていく。一瞬にして凍りついたフィールドにひとひらの精が舞い降り、モンスターたちの呼吸すら白く濁らせた。

不二原「《アロマセラフィージャスミン》は、リンク先のモンスター1体をリリースすることでデッキより任意の植物族を特殊召喚することができる
……私は《鎧石竜》をリリースし、《六花のひとひら》を呼び出す。」


《六花のひとひら》(守)
☆:1 水属性・植物族/効果
ATK:0/DEF:0

《六花精ボタン》(守)
☆:6 水属性・植物族/効果
ATK:1000/DEF:2400


遊大「黒かったり、白かったり、……忙しい。
わかってるよ。《六花のひとひら》にはデッキから《六花》モンスターを手札に加える効果がある。
…………でもあんた、やっぱり……!!」

不二原「私はデッキから《六花精ボタン》を手札に加え、その効果を発動。
……《六花のひとひら》を墓地をリリースすることでこのカードを特殊召喚し、そして……!!」

塗り替わるフィールド。
それは《六花精ボタン》の効果によって手札に加わったカードに他ならない。デッキのエンジンとなる強力なフィールド魔法、《大聖剣博物館》を発動した遊大だからこそわかる。それに並ぶか、いやそれ以上にフィールドに残してはいけない魔法カード。

不二原「《六花来々》を発動!!」

遊大「起動効果でデッキから《六花》魔法・罠カードを手札に加えて……それに加えて_______、」

茉菜「……《六花》によるリリースを、相手モンスターで肩代わりすることができる。」

不二原「私は手札に加えた《六花絢爛》を、《シャルル大帝》をリリースすることで発動。
モンスター効果をリリースして発動したこのカードによって、《六花のしらひめ》と《六花精プリム》を手札に加える。
______《六花》よ、芽吹け……!!」

《シャルル大帝》の足元に映し出された雪結晶模様の陣。
それは淡く弾け、彼のものの体が白く、そして氷のように冷たく散っていく。その残滓の奥から、視線ぶらすことなく彼の視線が不二原を見つめていた。

遊大「大丈夫だ……《シャルル》________!!!」

不二原「さらに《ヘレボラス》は、植物属モンスターをリリースすることで墓地から特殊召喚できる。
______あとはわかるな、私は4体の《六花》モンスターを呼び出す!!」


《六花精ヘレボラス》(守)
☆:8 水属性・植物族/効果
ATK:2600/DEF:1200

《六花精エリカ》(攻)
☆:6 水属性・植物族/効果
ATK:2400/DEF:1000

《六花精プリム》(守)
☆:4 水属性・植物族/効果
ATK:800/DEF:1800

《六花のしらひめ》(守)
☆:4 水属性・植物族/効果
ATK:0/DEF:0


砕けた結晶は、可憐な4体のモンスターを生み出した。
《六花精プリム》、《六花のしらひめ》は手札から。そして《蕾禍繚乱狂咲》と《蕾禍ノ鎧岩竜》により墓地に送られた《六花精ヘレボラス》と《六花精エリカ》が墓地から呼び出された。さらに元々フィールドに存在していた《六花精ボタン》のレベルは、《六花精プリム》の効果によってレベル8へと変更されている。
不二原は両の手を重ね合わせた。同時の二人の精もお互いの手を重ね、青白い閃光が絡み合いながら天へと昇ってゆく。

遊大「魔女……これが……、」

不二原「私は、レベル4の《プリム》と《しらひめ》をオーバーレイ……!!
寒空に凛と咲き誇る一輪の花よ、その笑みと共に……私の元へ!!
_______エクシーズ召喚、《六花聖ストレナエ》!!」


《六花聖ストレナエ》(攻)
★:4 水属性・植物族/エクシーズ/効果
ATK:2000/DEF:2000


茉菜「《六花聖》……、そっか。
エクシーズモンスターになると、名前も《精》から《聖》になるんだ。」

不二原「オーバーレイユニットとなっている《しらひめ》を墓地へ送り、効果を発動。
……墓地から《六花絢爛》のカードを手札に加える。」

そうして、不二原はレベル8の《六花精ヘレボラス》と《六花精ボタン》のカードをグッと手に握った。
2枚のカードが重なり、彼のエクストラデッキから1枚のカードが、本来であれば彼女迎えるはずだったそのカードが、彼の手の中へと渡った。

遊大「なあ、不二原さん。」

それは、彼の手をぴたりと止めた。
そんな、たった一言の呼び止めで止まったしまったのは、不二原がやっと、遊大の視線に気付いたからだった。これはあくまで主観だ。古池茉菜の主観にすぎない。それでも彼の手は、その視線と声で、止まった。

不二原「……なんだ。」

遊大「いい加減、もう隠すのはやめてくれないか。」

不二原「………、」

何を隠しているのか、それを遊大は言わなかった。
自分にだって、不二原がそうあろうと、自分自身でただただそうあろうとしているだけのことは想像がついていた。自分は愚かだ、それを遊大には伝えなかった。……それでも。

遊大「わかるよ、あんたが魔女なんかじゃ無いなんてこと。……それぐらい、わかるよ。」

不二原「…………なぜ。」

遊大「想像つく。あんた庇ったんだろ、律歌さんのこと。」

不二原「彼女は、彼女は魔女なんかじゃない。
……私だ。君だって、力があればそうしただろう。私は魔女じゃない。ただ魔女であれば良かったと、思っているだけだ。
それでも、いやだからこそ、私は彼らを許してない。」

遊大「同じだ。おれだって、あの人らを許す気はない。
でも、あんたが庇ったら、それはあの人を信じるってことになるのかよ?」

実体化することのない、ただ自分たちの視界に映し出されただけのソリッドヴィジョンを掻き分けるようにして、遊大は不二原の眼前へと歩んだ。彼の目はそのまま、ただ不二原は、俯いた彼の瞳は、白い彼の髪に隠れて見えなかった。遊大もわかっていたんだ。あの映像があったら、彼女は真っ先に魔女の名を着せられる。真実にしろ嘘にしろ、その名で彼女は指を刺される。それが二人にはわかっていた。

不二原「だったら、どうすればいいんだ……!!」

遊大「不二原さん、おれたちと一緒に……!!」

そう言いかけた時、不二原の手が遊大の胸を押し込み退けた。
後ろに崩れた遊大は、まだ視線を離さない。でもその表情は歪んで、彼と距離が離れる度に崩れていく。

遊大「あんた言っただろ、『ずっとここにいる』って!!
……律歌さんのそばで言ってやれよ、あの人が泣いてもいいように!!」

不二原「私は、ずっとここにいる。
あれを見過ごして………、私に会う資格なんかあるはずないだろう!!」

ああわかった。
やっぱり彼らは似ているんだ。彼女を置き去りにした遊大と、彼女を救うことができなかった不二原。彼らはどうしようもなく似ているから、同じことを言って彼女と合わない口実を作ってしま。……わかる、自分だって一人じゃ会おうなんて思えなかっただろう。それでも彼らにはその権利があって、責務すら、あるんだ。

不二原「私は、レベル8の《ヘレボラス》と《ボタン》をオーバーレイ……!!
頬を伝う涙の雫……しん々と咲き誇れ、白銀結晶氷の微少女よ。
__________《六花聖ティアドロップ》 エクシーズ召喚……!!」


《六花聖ティアドロップ》(攻)
★:8 水属性・植物族/エクシーズ/効果
ATK:2800/DEF:2800


だって彼らはいつでも、その笑顔に救われたから。



続く
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