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HOME > 遊戯王SS一覧 > 4話 暗く冷たく

4話 暗く冷たく 作:コングの施し

フィールド全体に銀河のような、光の渦が現れ、2体のモンスターはお互い紫色の閃光となり、お互いの絡み合いながらその渦の中に吸い込まれていった。

「私は、☆4のヴェルズモンスター2体で、オーバーレイ!」

「おーばーれい!?」

「そう…。オーバーレイ…懐かしい響きだな。2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

光の渦が弾け、鱗を青黒く輝かせる竜が、その姿を現した。

「全てを凍りつかせる黒き翼!《ヴェルズ・バハムート》!」

ヴェルズ・バハムート
★4 2350/1350

春とは信じられないほどの冷気がフィールドを包み込む。その冷気は、悴むようなヒリヒリとした痛みを遊大にもたらした。

「…つ、冷てえ!なんだこのモンスター!冬の夜に放り込まれたみたいに全身がヒリヒリ悴んでくる…!だが、この召喚法は…!?」

「まだ入学したての新米デュエリストだもん知らなくたっておかしくはないか。これはエクシーズ召喚。同じレベルを持つモンスター2体、または条件によってはそれ以上のモンスターを重ね、さらにその上にこの《モンスターエクシーズ》を重ねてXデッキから特殊召喚する召喚法だ。そして…!」

フィールド全体に青黒い霜が立ち、フェニックスギアフリードの体が地面から氷に侵食され、フィールドからに吸収されてゆく。

「お、おい!フェニックスギアフリード!どうしたんだよ!?」

その全てが氷に侵食され、フィールドから姿が消えると、ましろの場に氷柱が出現し、それを引き裂くようにしてフェニックスギアフリードが姿を現した。
白と赤を基調としたカラーリングだったその鎧は、青黒く変色し、冷徹な輝きを放っている。
赤く鋭い目は、まっすぐに遊大を睨みつけていた。

「こ、これは、フェニックスギアフリードなのか…!?
な、なんであんたのフィールドにいるんだァーッ!?」

「モンスターエクシーズは、自らの魂であるオーバーレイユニットを取り除いて墓地に送ることで、新たな能力を得る!ヴェルズバハムートの場合、ORUを1つ消費し、手札のヴェルズモンスター1体、私は《インヴェルズモース》を捨てることで、相手フィールドの表側表示モンスター1体のコントロールを得る。」

「そ、それじゃあ俺のエースモンスターは奪われたってことかァ…!?」


空気は凍るほど冷たいのに、遊大の頬には汗が垂れていた。
ガタガタと震える手足は、その寒さではなく、ヴェルズバハムートと黒く染まったフェニックスギアフリードの殺気から来ていることは明白であった。

「…遊大、なかなかいいデュエルだっった。私は、フェニックスギアフリードで、樋本遊大にダイレクトアタック!!ゴッドブレイズクローズ!」

フェニックスギアフリードは、その大剣に青い炎を宿し、遊大に目掛けて斬り掛かる。

「こ、これがエクシーズ召喚…モンスターエクシーズの力ってかァ!?」

防ぐカードはない遊大は、大剣での攻撃をその身に受けた。

遊大 LP:0

Winner:侵介ましろ

ピピピピッっという電子音と共に、遊大のデュエルディスクのLPゲージが《0》の表記を指し示した。
遊大はその場に片膝をつく。

「はァ、はァ、さすがだぜ先生。」

息を切らし、汗を滴らせた彼は、口角をにいっとあげていた。

「ま、中一にしちゃあ、メインデッキのほうはまずまずってとこだな。」

ましろは長い髪をさらりとなびかせた。デュエルディスクの展開をオフにすると、すくっとしゃがんで遊大に手を差し伸べた。

「デュアルデッキ。なかなか面白いデッキだった。最上級のデュアルモンスターとなると、かなり召喚に手間がかかるが、それを上手く調節したのは関心だな。」

「ハハ…。ボッコボコにしといてよく言うッスよねぇ。サンキュー!先生!」

そういうと、差し伸べた手をがっしり掴んで、立ち上がる。

「…だがな!先生!」

遊大はその言葉を放ち、少し目を閉じていた。
「…?」

「…わかってますって。今のデュエル、エクシーズ召喚とやらを使わなくても勝てたんでしょ?」

ましろはまた、ため息をついてそっぽを向く。
「さあて、なんの話だかなぁ…。」

「…まあ、感謝ッスよ先生。これでなんとなく、新たな召喚法についてのヒントが得られた。大会の練習、いい滑り出し…って!聞いてるんすかァー!?」

ましろはすでに格技場の出口のほうへ向かっていた。

「もう18時だ。部活ない生徒は帰れよ〜。」

「もぉ〜!待ってくださいよォー!」














その晩

アパートの一室で1人、ましろは頬を赤く染めて空のウィスキーグラスをカラカラと揺らしていた。

「(デュエルなんて久々にやったなぁ。高校以来か…。エクシーズ召喚!ハハ、酔ってるな私、ウィスキーとか強すぎたわ…)」

卓上のデュエルディスクに手を伸ばし、夕方のデュエルのログに目を通す。

「(…さっきのデュエル、最初の《亜空間バトル》の効果で墓地に落とした《インヴェルズの斥候》の効果を使っていれば、モースを再度アドバンス召喚して、勝負をつけることもできた…。だったらなんでかな、エクシーズ召喚を選んだのは…。)」







(きっと遊大は、いや、「ああいう年齢でデュエルをしてる奴」ってのは…どこか似ているんだろうな…、『あの野郎』に…だから私は…。)







そのまま、机に顔を伏せて眠りに落ちた。
















「…少年ッ!」

昼休み、屋上にてパラパラとカードをめくっていると、そんな大きな声がして、ギョッとして遊大は振り向く。

カッチリと逆さにたった短髪、凛々しい眉、薄く赤みがかった大きな瞳、彫りの深い彫刻のような顔、そして身長が190cmはあるような男が、そこで腕を組んで立っていた。

黒い制服をきっちりと第1ボタンとノックまで締め、金色のボタンが、キラキラと太陽を反射している。

「…な、なんか御用でしょうかァ…?」

遊大は、そのあまりにビッシリと決まった姿に気を押され、思わず低姿勢に出た。

男はコツコツと遊大のほうへ歩き出し、目の前でキチッと止まる。

「君かね!!」

「!?!?」
遊大はニッコリと笑っているが、その額には汗が浮かび、頭上には、間違いなくクエスチョンマークがずらりと並んでいた。

男はビシッと遊大を指さし、
「樋本遊大というのは、君かッ!?」
と叫ぶ。

遊大の頭上のクエスチョンは全てエクスクラメーションに変わった。
「は、はイィ!樋本遊大と申しますッ!なにか御用がおありでしょうかァッ!」

「そうかッ!ならばきたまえッ!」
そう言って男は遊大の腕をがっしり捕まえ、階段を堂々と降りてゆく。

「ちょ、ちょ!?
なになに、なんなんすかァー!?」

腕を引っ張られた先にあったのは、部室棟2階の角にある『デュエル部』の表記のある一室であった。

男は中に踏み入り、入口の遊大のほうへ振り向く。
「俺は『双剛 拳斗』!ここの去年まで、この『デュエル部』で部長として活動していた者だ!」

「(…え、デュエル部ってこの学校にあったのか…!?いや、無かったよな。例年大会には参加してないって…)」

「デュエル部なんてないだろ!と考えているようだな!君!」
拳斗はまた腕を組む。

「そう、確かに例年、大会への団体、つまりこの学校での参加は見送っていたが、個人での出場ならばこの学校でも認められていた。そしてその部の元部長が俺、双剛拳斗だ!」
ビシッと親指を自分の方へ向けている。

「は、はァ、あの、デュエル部があったってのはわかったんですが、その部長さんが、いったい俺に何の用ッスか…?」

拳斗は片目の目をつむり、遊大の方を見つめた。
「フム、ならば単刀直入に言おう、数学科の侵介ましろ先生からの伝言だ。」

「え、あの人からァ!?」
遊大はなんとなく、言うことがわかった気がした。というか状況から察せてしまった。
同時に、別に嫌ではないが、『そんなこと俺にできるのか!?』という疑問が頭の中でバチバチ弾ける。




「いいか、樋本遊大クン、この学校に、再び『デュエル部』を作り直して
くれッ!!」



「だあぁァーー!!やっぱそうなるのかァーーッ!!」











続く
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