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80話 花の海 作:コングの施し
日暮「感心だね、お二人とも。」
ツァン「ゲッ……」
レイン「…………。」
自分は、学校法人デュエルアカデミア・童実野校に進学した。2年半前のアカデミア合宿の舞台が自分の学び舎になると考えると、時は短く憧れと目標は表裏一体であることを実感させられる。デュエルアカデミア、全国からデュエルに置いて優秀な成績を持つ生徒のみを募り育成する私立教育機関。数々の伝統と伝説を残し、今やアカデミアを卒業すればデュエルという側面においては将来の絶対的な安泰が保証されるとまで言われた学園。私立校の中でもダントツ1位の試験を通過したその先、休み時間のアカデミア校舎内の廊下で、自分たちは顔を合わせている。
レイン「……あなたも、……受けるの…?」
ツァン「やめときなって、こんな変態決闘者に関わることないわよ!!」
日暮「邪険だねえ。でもそう、コース選択科目に『決闘システム学Ⅰ』を取ろうと思ってね。」
同じチバ県勢から入学を決めたのは、意外な2人だった。私立光妖中等学校出身、ツァンディレとレイン恵。同校にはライバル関係であり一応は彼女らのまとめ役だった斬隠 輝久がいたはずだった。しかし彼は街に残り、そんな中虎視眈々と機会を伺っていた彼女ら2人が、自分と同じアカデミアの受験を勝ち取った生徒になる。
ツァン「全くボクら、妙なやつと一緒に受験通っちゃったみたいね。」
レイン「……同意。」
ひどいじゃないか、さっきから人のことを変態だとか妙なやつだとか。
元々アカデミア合宿当時では、彼女らとは面識はなかった。輝久とは腐れ縁だったから話す機会はあったものの、彼と一緒にいると一人称が被って気持ちが悪い。ツァンディレやレイン恵と知り合ったのは、アカデミア合宿後のさらにあと、龍血組との一悶着のケガ復帰後だった。
日暮「ふふ……そうかい?
ぼくは嬉しいよ、ツァンの《六武衆》もレインさんの《アンデット》も、素晴らしいデッキだ。……どんどん輝かしく、美味しく育っている…。」
ツァン「きっしょ、……それになんでボクだけ呼び捨てなわけ?」
日暮「愛嬌だよ、可愛らしいじゃないか。
ぼくはきみたちのような決闘者……大好きだから、好きに呼ばせておくれよ。」
もちろん知り合う前からリストには入れていた。
それでもいざ一度手を合わせてみるとやはり彼女たちのデュエルは輝かしいもので、展開力と柔軟性を奇跡的に組み合わせ多彩な妨害・突破手段でバランス良く立ち回る《六武衆》、そして絶対条件となるフィールド魔法を死守しながら相手の動きを封じ無尽蔵に湧き出るモンスターを操る《アンデット》という2人のデッキの魅力に目を奪われた。
レイン「……それは……欲情………?」
日暮「失礼だね、リスペクトだよ。
何度も言わっているよね。ぼくはみんなのファンなんだ。『推し』というやつさ。
特別な感情を抱いた相手のことを追いかけ、その輝きを目に焼き付け、声を耳に刻み込み、輝きを全身で感じて魅力を語る……なんてことない、ただの推し活だよ。」
ツァン「きっっしょ!!アンタほんとにマジ!?」
どうやら自分はよく思われていないらしい。
ツァンディレはあいも変わらず、大きなリボンと整った顔からは信じられないほどの毒舌だ。レイン恵も変わらず、無口で無愛想。でも顔は可憐で入学3日目だというのにもう人気の生徒だ。女の子のタイプとかそういった趣向は無頓着だったけれど、いわゆるツンデレと無口キャラというやつで、男子からの人気華々しい彼女らの後ろを歩いている自分が見窄らしく思える。
レイン「……この人……嫌……。」
ツァン「色んなやつに目ぇつけて尻追っかけるんだもん、もうこの学校でもアンタ危険人物扱いよ。」
日暮「目をつけなきゃいけない決闘者が多いことは、素晴らしいことだよ。それだけみんな輝かしく実っているということだからね。……ぼくは誇らしさすら感じるんだ、自分の審美眼にね。」
ツァンディレは春なのに凍えるようなジェスチャーをして口を尖らせる。
自分のことは横目で捉えながらも、前を歩く足は早まっていく。幸い自分の方が身長は高いので小走りの彼女らにだって早歩きで追いつく。
ツァン「そんなだからフラれるのよ、誰だってそんなこと言われたらキモがるわ!」
レイン「講堂……過ぎてる……、」
日暮「あはは、ありがとうレインさん。
デュエルシステム学Ⅰ、受けなきゃだろう?それに、みんながみんなぼくのことを嫌いってわけじゃないみたいだよ。少なくとも1人は知っている。」
廊下をツカツカと歩く3人の足音が、反対方向に響きかえる。
ツァンは歩きながらも少し考えている様子だった。教室の前まで来ると手をポンと叩いて、首を傾げて自分に問いかける。
ツァン「ああ、あいつ?……仲良しなんだっけ、えーっと、えーーーと……樋本……ゆうと……ゆうた?」
レイン「樋本 ……遊大…。」
日暮「そう、少なくとも彼はぼくを理解しようとしてくれていた。」
ツァン「過去形?」
日暮「最近、めっぽうご無沙汰でね。
ぼくも彼と闘りたくて闘りたくて仕方がないんだけれど、今は我慢……一度崩れてまだ立ち上がっている最中。」
レイン「……事件のこと、……2年半前の…、」
ツァン「ああそっか、そうね。……東雲中は大変だった。」
光妖中は、東雲中と同じアオメ市にあった学校だ。事件のことは自分と同じくらい知っているかもしれない。それだけに、事件のことを掘り返している時の彼女らの顔は心なしか暗く見えた。暗い2人の表情を、講堂のプロジェクターの光が淡く照らしている。すでに半分以上の席が埋まっていて、ちょうど3席並んで空いていた場所に自分たちは着席した。
日暮「そんな顔をしないで、
言ったでしょ、彼はまだ立ち上がっている最中。彼がちゃんと立ち上がるまで、彼への想いはまだ溜める、もっともっと溜めて、彼のエンタメデュエルでぼくが果てる………素敵じゃないか…」
ツァン「やっぱ、きもいね。」
日暮「でもそれじゃぼくが欲求不満になっちゃうから、ここで素晴らしいデュエルを摘み食い。一番美味しい、メインディッシュは彼で決定さ。…………それまでぼくの相手をしてくれるのは、君たちでも良いんだけどね?」
レイン「……拒否…、」
ツァン「ボクも御免ね、付き合ってらんない。
全くあんた、話し方が輝久に似てるからアイツまで嫌いになりそうだわ。」
講堂正面のスクリーンに『デュエルシステム学Ⅰ』の講義名が映し出される。登壇しているのは講師と1人の助手生徒。講義内容は、デュエルシステム学の入門に欠かせないソリッドヴィジョンの歴史と変遷について。ちょうどシラバスで見た内容を、講師が講義概要として紹介している。
『えーー……システム学Ⅰを担当します、芹沢と申します。
本講義では、デュエルSAコース導入科目として、SA知識の前提を築きますソリッドヴィジョンが現代まで歩んできた歴史、そして絶対に回避できない道であります『現代決闘技術の扱いに関する絶対3条』について触れます。……講義の方お間違い無いでしょうか。』
ツァン「『絶対3条』、受験でよく解いたわね、概要しか知らないけど。
……①はディスクへの不正防止機能の搭載義務」
レイン「②……Dホイールおよびその他ライディングデバイスの速度規定。」
日暮「そして……③接触可能現実への干渉……つまりリアルソリッドヴィジョンの規制。
全く、かつて発展していたエンタメデュエルにこれほど深く根付いた法令も無いね。」
『えーーー………講義の誤登録などが無いのであれば第一回の内容に移ります。
とその前に、講義のサポートを担当してくれる学生助手の紹介がまだでした。それじゃ、軽く自己紹介だけよろしく。』
そう言われて、講師の斜め後ろで立っていた生徒が2歩、前へと出た。
自分たちが座っているのは、一番後ろの席だ。流石にデュエルアカデミア、皆活気で溢れているのか授業に置いて行かれんと食いつく姿勢なのか、3人掛けができる席はここしかなかった。かなり距離があって、自分もツァンディレも、普段表情が変わらないレインでさえも、目を細めて彼らを見ている。女性のようだが、制服に白衣を重ね着している大方の格好しか見えない。髪は肩までは行かないミディアムボブで、身長はレインと同じ程度だろうか。………やはり目を凝らしても見えない。
ツァン「遠いわね……」
日暮「そうだね…。」
レイン「……あの人は、」
『芹沢先生のデュエルシステム学Ⅰの学生助手を務めます。
高等部2年の「時和」と申します。まだ日の浅い未熟者ですが、よろしくお願い致します。』
『時和さんは優秀です。
高等部2年時点でSA専門コースの講義もトップで単位獲得が狙える猛者なんですよ。ぜひわからないことがあったら、彼女に聞いてください。』
ツァン「……え?」
3人が、マイク越しに響いた彼女の声に固まっていた。
深い中であったわけじゃない。でも、その声を知っている。2人は同じ街で切磋琢磨したライバルとして、自分は龍血組の騒動の際に手を組んだ仲間として、そして遊大の恩人として、絶対にその声を知っているはずだった。そして目を凝らしても見えなかったその姿に声が重なった瞬間に、その姿がはっきりと3人の目に飛び込んで来ていた。
レイン「……違う、……はず……『花海 律歌』………姓が……」
ツァン「確かに『時和』って、ボクは知らない……でも……!!」
日暮「2人とも……、
見紛うのが1人ならぼくも納得したよ。でも現に、彼女を知る3人が固まっちゃったんだよね。
それに……あり得ない話じゃ無いだろう、ほら改姓とか?」
ツァン「わかるわよ、似過ぎてるのはわかる。
でも……在学生のリストは入学前に公開されてるのよ。花海 律歌がいたらわかるんじゃない?」
日暮「そういうツァンだって、もうあの人が彼女に見えてしまってるはずだよ。
入学と同時に改姓か、そもそも在学生リストだって昨年度入学式時点のものだ。編入だってあり得る。
…………どっちにせよ現にぼくは、彼女が花海 律歌に見えて仕方がない。どうしようもないほどにね、」
『そこの御三方、講義が始まります。お静かに。』
当たり前だ。
学生助手の紹介でざわついていたのは自分たちだけだ。バツが悪そうなツァンとレインの顔を横目に、「時和」と名乗った彼女のことを凝視する。やはり、自分の知っている花海 律歌と全く同じ人物だった。でもこの距離だ。もしかしたらそのせいでそう見えているだけかも。
レイン「……!!?」
ツァン「ちょっと日暮…!?」
気づいた時には立ち上がっていた。
この学校で、何かが起きている。そんな予感に突き動かされている。あり得ない話ではない。しかしここまで勉強と鍛錬と情報収集を欠かさずに進んできた3人でも知らない場所に、見知った彼女はそこにいた。でも実際に、眼前と言えるほどの距離にその姿を収めなければ飲み込むことができない。いや、飲み込みたいから近づくしかない。
日暮「面白いことが……起きる予感がするね、」
階段上の講堂を、一段一段と踏みしめて降りていく。
ざわつき始める生徒たち、そしてそれを見つめる講師と時和、全ての人間の視線が自分に集中している。目立つのは好きじゃない、しかし今の自分の知りたいという欲求を抑えることができなかった。
日暮「いやあ、すいません。……先生。
自分たちの席に配布されたレジュメなんですが、白紙だったものですから少し混乱してしまいまして。
……予備のものがあれば、3人分いただけませんか?」
『白紙のものが配られてましたか、
それは申し訳ない。こちらから取っていってください。でもそういうことは、講義開始前に言ってくれると助かります。……えーーと、きみ名前は?』
自分が言ったことは真っ赤な嘘だった。
しかしもう、講師と時和が登壇している最下段まで降りている。しっかりと、この目で彼女のことを確認できた。綺麗な黒茶の髪、ほっそりとした首元、そして柔らかい目元。間違いなかった。
日暮「日暮 振士、と申します。……先生。
……それと学生助手の方、『時和』さんでお間違いありませんか?」
時和「日暮……振士、くん。」
*
カタカタと、手元にあるノートPCのキーボードを鳴らす。
『樋本 遊大』、公式戦のデータはたった3つ。それはどれも2年半前のものであり、一番新しいデータで『アカデミア合宿』の参加選手。出身校はチバ県アオメ市立東雲中学校。それは彼女が居た場所、そして2年半前の『龍血組一斉検挙事件』が起きた街。
茉菜「東雲中………。」
蜂谷の言っていたことの意味がわかった。
彼女がしきりに時和のことを話に出していた理由も。もし彼が時和に何があったのかを知った上でこの学校に来ているのならば当然の怒りだ。しかし現に彼はそんな素振りは見せなかった。それどころか、「時和」の響きすら彼は意に介さない様子を見せた。まさか……しかし可能性はある。
遊大「あの〜……。」
カララン、とドアベルが来客を告げた。
自分の家は『喫茶 海月』。祖父と母がずっと続けている喫茶店だ。別に繁盛しているわけではないのだが、祖父の人柄もあってか地元の人から愛さている場所なのだということはわかる。母が入院して、自分が店の手伝いをすることが増えた。職業病というものなのか、このドアベルを聞くと背筋がピッと伸びる。
茉菜「……早かったじゃない、」
遊大「朝、お爺さんからお弁当受け取ってるもん、場所覚えてますよ。」
樋本 遊大、部トップ3に喰い込んでいた蜂谷 加奈子とのデュエルを制した少年。
元々、蜂谷の「これ以上デュエル部に関わらない」という条件と「デュエル部が消えた原因を言う」の2つの条件があって成立したデュエル。その約束は今、自分に引き継がれている。自分は今、彼に対してデュエル部で何があったのかを話す必要がある。そしてその中心にいる、時和 律歌の存在を。
茉菜「……座ったら?」
遊大「お邪魔します、すごいっすね。
こんなにレトロっていうか、映画みたいな雰囲気のお店初めてだ。」
彼はショルダーバックを握り締め、店内をじろじろと見ている。時代が進んでもレトロな雰囲気を崩したくないのは祖父の趣味だ。遊大は入り口横、棚上の灰皿の装飾を撫でる。店内に灰皿が3枚置いてあるけれど、どれも綺麗な銀色のままだ。「喫茶」という名目上置いてるけれど、母が肺を患ってからは客も店内の喫煙を控えるようになった。
茉菜「祖父の趣味よ。いらっしゃい、『喫茶 海月』へ。」
遊大「それじゃお言葉に甘えて、」
遊大は肩掛けをおろすと、そそくさとビニルソファへと腰掛ける。バッグを窓際まで寄せると、そこから自分の学生証を取り出し、テーブルの上を滑らせた。朝に、彼に学生証を預けた。それは自分の遅刻登録を防ぐためで、完全に彼に対しての借りだったのだけれど。
茉菜「学生証ありがとう、」
遊大「いえいえ、大丈夫っすよ!後輩なんでパシッちゃって、」
ここに彼を呼んだ目的は2つ。「デュエル部解散の事由」を話すこと、そして「樋本 遊大という人間が何者か」を聞き出すこと。そしてそれは同時進行であることが望ましい。デュエル部が解散した目的について話すのであれば、絶対に時和 律歌のことを話す必要がある。それを話していい人物なのか、見極める。
遊大「あの……」
茉菜「えと……」
お互いに、空気を埋めるように間投詞を漏らした。
年端も行かぬ男女が2人きりで改まって話をしようというのだ。これくらいは初心な反応として捉えてどうか大目に見ていただきたい所存である。切り出しに困った自分は席を立っていた。裏からカップを2つ取り出し、カウンターのメーカーから注ぎ入れる。
茉菜「はい、とりあえず珈琲どうぞ。」
遊大「ありがとう、…ござます。」
茉菜「飲めないんだっけ?
人に注いでもらったものくらい、飲んでみるものよ。意外と苦く無いから、むしろちょっと酸味を感じるかも。」
そう言って卓上の上をすすす、とカップが滑っていく。
遊大は口をへの字に曲げながらも、カップに口をつけた。アメリカンだ。しかもここはそもそも浅煎りで抽出する方法をとっている。薄めた苦味よりも、豆の植物っぽさが際立つ淹れ方だと思う。……と、
遊大「うぐ……ありがとです。確かに思ったよりも苦くは無いかも。」
苦い顔をしている。
なんだか無理やり飲ませたみたいじゃないか。自分の淹れ方が悪かっただろうか。でも現に自分が口に運んでいるものは、この店のアメリカンって感じがするし、いたっていつも通りのはずだ。
茉菜「全く蜂谷先輩、後輩に押し付けるなんて人遣いが荒いわ。」
遊大「あ、……!!
意外に思ってたんですよ、2人が面識あるんだって。」
茉菜「改めまして、元デュエル部のマネージャーよ。潰れちゃったから今は帰宅部だけど。」
遊大「マネージャー……そっか。
やっぱ結構な規模だったんですよね、この学校のデュエル部って。」
茉菜「そうね……だからこそマネージャーのわたしなら色々答えられるって、先輩の判断なんでしょう、
じゃあその上で、単刀直入に訊くわね。何が知りたいの?」
わかり易く咳払いをして、そんな問いを投げかけた。
1on1の雑談よりも、若干事務的な方が自分も助かる故だ。情報が端的で拾いやすい。きっとこれから話すことの『ほとんど』が、彼にとって初めてのものであるはずだから。彼はその問いに数秒黙り込んで、すっと息を吐いて答えた。
遊大「『デュエル部がなんで無いか』……それが一番知りたいです。」
茉菜「『一番知りたい』ね。
………うん、わかった。でも全部を話す前に、お互いのことを話しましょうか。」
遊大「ええっ、お互いっておれのことですか?」
茉菜「そうよ。
わたしもあなたに聞きたいこと、たくさんある。……そこで提案。」
遊大「提案?」
茉菜「蜂谷先輩に勝ったあなたに勝手に条件を追加するのは忍びないとは思う、
でもあの人じゃ答えられなかった部分も、わたしは話せる。
………だからここで条件を追加。…お互いに交互に質問をしましょう?」
実際にそうだ。
彼が蜂谷と繰り広げたデュエルは、あの一戦だけでその実力がかなりの高レベルであることを知らしめるものだった。それを鑑みればこれは平等な条件とは言えない。しかし実際にこの話をするのであれば、蜂屋よりも自分の方が詳細を語り易いのは事実だ。蜂谷と違い、デュエル部解散の件についてであれば、私情を挟まずに返答できる自信はある。
遊大「交互に質問……質問1つに回答1つ、それをお互いに繰り返すってことでいいんですよね。」
茉菜「ええ。
でも蜂谷先輩とのデュエルに勝ってるのはあなただし、流石にあなたから先に質問していいわ。別にこれはデュエルでも尋問でも無いからそこまで厳格に考えなくていい。
……ただお互いに、知る機会を作りましょうって話よ。」
遊大「……うす。」
この形式を提案したのには、理由がある。
お互いに知らないことが多すぎるゆえに、話をしている途中で絶対に新たな問いが生まれる。そしてもう一つ、これは勘でしか無いが、2人の疑問はいずれ1つに収束する。デュエル部が消えた原因と時和のこと、そして樋本 遊大という人物のこと、これらはどこかで繋がっている。この場でそれを可視化することはできずとも、その繋がりを、温度を、音を感じ取るだけでも良い。きっとそれはお互いのためにある。
遊大「じゃあ質問一個目、行きます。……なんで葛馬高校のデュエル部は無くなったんですか?
ざっくりでいいです、全部知るには、前提になっているものすらおれは知らないから。」
茉菜「結論から、ってことね。
解答は、『ある生徒』によってデュエル部員数人が、身的・精神的に被害を被ったため。デュエル部は生徒会から活動停止通知を受けた。………これでいい?」
遊大「それは、『いじめ』とか……ですかね?」
茉菜「質問は1つずつ。次でお願いね。」
遊大「あ、そうでしたね。……じゃあ質問どーぞ。」
『いじめ』という言葉が出てきた。
この言葉だけを聞けばそう思えるだろう。無理もない。そもそもその言葉の定義自体が怪しい上にデュエル部での案件に関しては常識を脱している。こちらとしても言語化をする前に解答を用意しておきたい。そういう面でもこの方式は悪くない。彼にとって平等感を与えつつ、自分が知りたいことははっきりと口に出せる。
茉菜「じゃあわたしの1つ目の質問。
あなたが、ここ数年デュエルの表舞台に立っていないことは知っている。さっき調べたけど、一番古いデータは3年前の『アカデミア合宿』。この前提があっての質問よ。
………あなたはこの2年半もの間、どこでデュエルについて学んでいたの?」
彼は軽く握った拳を下顎に添える。目線は卓上のシュガーポット、ちょうど左下にある。人は相手の目を見ながら迷いはしない。人間観察が好きというわけではないが、こういう店の手伝いをしていると、人の神妙な顔で考えていることはわかってしまうものだ。
遊大「どこで……学んでいた、か……」
彼は今、迷っている。確かにこの質問はあまりに抽象的すぎる。蜂谷とのデュエルでも情報戦を重んじていた彼にとって、これはどこまでが解答範囲なのか考え込む気持ちもわかる。しかし知りたい、あのデュエルをどこで身につけたのか。あの目をできるデュエリストはそういない。ともするとこんな雑把な質問が、2人の疑問を繋ぐキーになるかもしれない。
茉菜「答えられないなら、言い方を変えたって濁したっていいわ。
『母校のデュエル部』とか、『決闘塾』とか、『誰かの弟子だった』とか。別に固有名詞を引っ張って来て欲しいわけじゃないから。」
遊大「そっか、じゃあ……『誰かの弟子だった』が解答になるかもです。
でもそれはこの2年半の間ですけどね。それ以前は普通に『母校のデュエル部』でした。」
茉菜「そう、ありがと。じゃあ質問していいわよ。」
『誰かの弟子だった』。これは最もメジャーとは遠い場所にある解答だ。
部にも塾にも指導者はいるけれど、あえて『弟子』を選ぶというのは、特定の集団に属さずにあくまで個人的に第三者から指導を受けていたことになる。これができるのは中々いない。プロデュエリストだって、公式に弟子を抱えている者は決して多くない。
遊大「質問です。
その、デュエル部の人たちを傷つけた『ある人物』って、誰ですか?」
茉菜「これは答えられない。」
遊大「………へ?」
茉菜「言い方を変えるわね、
厳密には『答えること』はできるけど、『言い切ること』はできない。間違っている可能性があるの、事実であると断言ができない。」
遊大「わかっていない……ってことですか、」
茉菜「それでもいいなら答えるけど、どうする?
あとは……そうね。事実である情報を伝えるなら、その人物がなんて呼ばれてたかなら、100%答えられる。」
遊大「なんて呼ばれてたって……なんかこう2つ名みたいな?」
茉菜「ええ、
連日で発生したデュエル部員が病院送りになる事件。その犯人と噂された人物がなんと呼ばれていたか。いわゆる学校の七不思議みたいなものね、」
遊大「なんかすごい方向に話が進んできたな、
じゃあそれでおっけーです、なんて呼ばれてたんですか?」
茉菜「『花の魔女』
……病院送りにされた生徒の証言から学校に広がった噂にして、その犯人の2つ名。『花の魔女』と呼ばれる者が、デュエル部員数人の心身を追い詰めた。」
遊大「花の……魔女。」
彼はバッグからメモ帳を引っ張り出すと、胸ポケットのボールペンをかちりと鳴らして『花の魔女』の文字を殴り書いた。デュエル部の解散事由、その内情ではなく対外的情報を彼に伝えた。きっと彼の中では今、数々の疑問が渦巻いている。しかしそれゆえに、ここから先は自分の抱えた疑問の解消をいかに彼を刺激せずに成すかが問題になる。
茉菜「質問よ、
元々あったこの学校のデュエル部で知っているメンバーの名前を教えて。」
遊大「ウス、
県予選に出場していた『蜂谷 加奈子』さん、『時和』さん、それに全国本選まで出場した『不二原』って人たち3人です。面識があるのは蜂谷さんだけでしたけど。……これだけで大丈夫すか?」
茉菜「ええ、」
やはり、違和感の正体はこれだ。
蜂谷は、荒唐無稽なことを口走るようなデュエリストではない。少々狡いところはあるが、思い当たる節の何もない場所に、怒りを込めて疑問をぶつけるような人間ではない。それゆえに、デュエル中の彼らの会話には、無視できない違和感があった。しかし今の問答で、その正体がはっきりしたように思える。彼は知らないんだ。彼女が彼女であることを、まだ遊大は知らない。だから蜂谷と噛み合わなかった。
遊大「じゃあこっちの番ですよね。
……その『花の魔女』っていうのは、『時和』さんだったり______
茉菜「いいえ。」
遊大「え?」
茉菜「誓って彼女ではないわ。『花の魔女』は彼女ではない。
食い気味に答えてごめんなさい。でも、彼女じゃない。蜂谷先輩が怒っていたように、彼女はそんな人じゃない。」
遊大「はい、……あの、すいません。」
地雷を踏み抜かれたような、そんな気がする。
自分は嘘をついていない。しかしどうも、彼の質問に腹の中にグツリと気泡が浮かぶのを耐えきれなかった。蜂谷もきっと、こんな感覚だったのだろう。彼女が多くの人に慕われていただけに、その問いがまるで刃物のような切れ味を持って、自分の喉元に突き刺さった。食い気味に答えたのはわざとだ。感情が出るギリギリのところで、口から出るその答えに理性を乗せた。そうでもしなければ、この静かな怒りがやがて彼自身に返ってくることになってしまう。
茉菜「こちらの質問よ、どうしてチバの東端からこの学校に入ろうと思ったの?」
遊大「はい、
この学校にさっき言った3人の実力者がいること、父方の祖母がこっちに学生アパートを持ってること、決闘連盟指定のフリーランク戦会場が近いこと。
…………それに『会わなきゃいけない人』がいること、ですかね。」
茉菜「紛らわしい言い方をするのね………まったく。」
遊大「ええっ、そんな紛らわしいこと言ってないすよ。さっき言ってた、おれの師匠みたいな人です。
じゃあこっちの質問!いいですね、」
妙な言い回しをする。
自分の脳みそがロマンチスト成分に侵されてしまったのかと心配になってしまった。後の補足で確定した。彼の『会わなきゃいけない人』とは彼女ではない。そうでなければ話の辻褄が合わない。会いたい人物とはおそらく彼のプライベートの側面ではない。『師匠』と、所々に滲み出るストイックさの延長線上にその人はいる。今は違う、その人物にタッチするのは今じゃない。
遊大「蜂谷さんが、どうしておれに怒っていたか知りたい。
そのために訊かせてください、『時和』さんって人物は、どんな人ですか?」
来た、この質問だ。
真っ直ぐに自分の目を見ている。迷っていない。純粋に知りたいんだ。純粋すぎるゆえに、蜂谷との間に生まれた誤解と確執。その答えは、全て自分の解答にかかっている。何を話す、何を話せばいい。いや、何を話してはいけない?
茉菜「………どんな人、っていうのは?」
遊大「下の名前、学年、性格……そんなとこがわかればもう大丈夫ですよ。
おれはその人の苗字と、デュエル部に所属してた事実、そんで解散の時に何かがあったってことしか、……わかんないから。」
勘がいい。
この条件の中で、一番最初にファーストネームを出してきた。性格や学年を聞きたがるのは当然と言えるかもしれない。時和という人物が中心にあって蜂谷が感情的になったのであれば、どんな性格で、何年生なのか、彼女らの関係を知ろうとするのは当たり前だ。しかしこの中で名を聞くことは、頭で考える前に口から出ていた動物的直感と言えるだろう。それとも、もしかすると彼の中で事態の察しがついているのか。
遊大「答え……られませんか。」
茉菜「答えるわ。……でも、少し……待って、」
遊大「なんか、ざわつくんです。
『時和』って、その人が話題に出てくるたびに、胸騒ぎがするんですよ。デュエル部解散の理由の『花の魔女』がその人じゃ無いのはわかってます……でも中心人物だ。それに、純粋におれ自身がその人のことを知りたい。」
はあ、とため息が漏れた。
未だに彼の目は、自分の目を覗き込んだままだ。言葉を詰まらせながらも、彼の中での動物的な勘の正体を言語化した。本当に知りたがっているんだ、自分の中で渦巻く胸騒ぎの正体を、彼は今知ろうとしている。
茉菜「落ち着いて、聞いてね。」
遊大「はい、」
お互いに、カップを掴んで口に含む。
豆のフレッシュな酸味を感じれるのがこの店のアメリカンの特徴だ。苦味が強く無いから、減バターの塩胡桃クッキーを一緒におすすめしているくらいである。でもその一杯は、いやその一口は違った。エスプレッソなんかよりもずっと苦い。まるで言ってはいけないと、お互いに後悔することになると言わんばかりに口の中が苦い汁でいっぱいになる。
遊大「教えてください。」
何か、覚悟をしたような言い方だった。
ここまで出ている情報の中で、彼にとっての彼女が彼女である確信など掴めようはずもない。含みを持たせることは行ったかもしれないが、それでもここまで腹を括ったような表情ができるのは頭じゃなくてもっと原始的な部分がそうさせるからだ。きっと今、彼は、自分が何をい言うのかを本能で察している。
その上で……覚悟をしている。
茉菜「彼女の名は、『時和 律歌』…………旧姓『花海 律歌』よ。」
続く
ツァン「ゲッ……」
レイン「…………。」
自分は、学校法人デュエルアカデミア・童実野校に進学した。2年半前のアカデミア合宿の舞台が自分の学び舎になると考えると、時は短く憧れと目標は表裏一体であることを実感させられる。デュエルアカデミア、全国からデュエルに置いて優秀な成績を持つ生徒のみを募り育成する私立教育機関。数々の伝統と伝説を残し、今やアカデミアを卒業すればデュエルという側面においては将来の絶対的な安泰が保証されるとまで言われた学園。私立校の中でもダントツ1位の試験を通過したその先、休み時間のアカデミア校舎内の廊下で、自分たちは顔を合わせている。
レイン「……あなたも、……受けるの…?」
ツァン「やめときなって、こんな変態決闘者に関わることないわよ!!」
日暮「邪険だねえ。でもそう、コース選択科目に『決闘システム学Ⅰ』を取ろうと思ってね。」
同じチバ県勢から入学を決めたのは、意外な2人だった。私立光妖中等学校出身、ツァンディレとレイン恵。同校にはライバル関係であり一応は彼女らのまとめ役だった斬隠 輝久がいたはずだった。しかし彼は街に残り、そんな中虎視眈々と機会を伺っていた彼女ら2人が、自分と同じアカデミアの受験を勝ち取った生徒になる。
ツァン「全くボクら、妙なやつと一緒に受験通っちゃったみたいね。」
レイン「……同意。」
ひどいじゃないか、さっきから人のことを変態だとか妙なやつだとか。
元々アカデミア合宿当時では、彼女らとは面識はなかった。輝久とは腐れ縁だったから話す機会はあったものの、彼と一緒にいると一人称が被って気持ちが悪い。ツァンディレやレイン恵と知り合ったのは、アカデミア合宿後のさらにあと、龍血組との一悶着のケガ復帰後だった。
日暮「ふふ……そうかい?
ぼくは嬉しいよ、ツァンの《六武衆》もレインさんの《アンデット》も、素晴らしいデッキだ。……どんどん輝かしく、美味しく育っている…。」
ツァン「きっしょ、……それになんでボクだけ呼び捨てなわけ?」
日暮「愛嬌だよ、可愛らしいじゃないか。
ぼくはきみたちのような決闘者……大好きだから、好きに呼ばせておくれよ。」
もちろん知り合う前からリストには入れていた。
それでもいざ一度手を合わせてみるとやはり彼女たちのデュエルは輝かしいもので、展開力と柔軟性を奇跡的に組み合わせ多彩な妨害・突破手段でバランス良く立ち回る《六武衆》、そして絶対条件となるフィールド魔法を死守しながら相手の動きを封じ無尽蔵に湧き出るモンスターを操る《アンデット》という2人のデッキの魅力に目を奪われた。
レイン「……それは……欲情………?」
日暮「失礼だね、リスペクトだよ。
何度も言わっているよね。ぼくはみんなのファンなんだ。『推し』というやつさ。
特別な感情を抱いた相手のことを追いかけ、その輝きを目に焼き付け、声を耳に刻み込み、輝きを全身で感じて魅力を語る……なんてことない、ただの推し活だよ。」
ツァン「きっっしょ!!アンタほんとにマジ!?」
どうやら自分はよく思われていないらしい。
ツァンディレはあいも変わらず、大きなリボンと整った顔からは信じられないほどの毒舌だ。レイン恵も変わらず、無口で無愛想。でも顔は可憐で入学3日目だというのにもう人気の生徒だ。女の子のタイプとかそういった趣向は無頓着だったけれど、いわゆるツンデレと無口キャラというやつで、男子からの人気華々しい彼女らの後ろを歩いている自分が見窄らしく思える。
レイン「……この人……嫌……。」
ツァン「色んなやつに目ぇつけて尻追っかけるんだもん、もうこの学校でもアンタ危険人物扱いよ。」
日暮「目をつけなきゃいけない決闘者が多いことは、素晴らしいことだよ。それだけみんな輝かしく実っているということだからね。……ぼくは誇らしさすら感じるんだ、自分の審美眼にね。」
ツァンディレは春なのに凍えるようなジェスチャーをして口を尖らせる。
自分のことは横目で捉えながらも、前を歩く足は早まっていく。幸い自分の方が身長は高いので小走りの彼女らにだって早歩きで追いつく。
ツァン「そんなだからフラれるのよ、誰だってそんなこと言われたらキモがるわ!」
レイン「講堂……過ぎてる……、」
日暮「あはは、ありがとうレインさん。
デュエルシステム学Ⅰ、受けなきゃだろう?それに、みんながみんなぼくのことを嫌いってわけじゃないみたいだよ。少なくとも1人は知っている。」
廊下をツカツカと歩く3人の足音が、反対方向に響きかえる。
ツァンは歩きながらも少し考えている様子だった。教室の前まで来ると手をポンと叩いて、首を傾げて自分に問いかける。
ツァン「ああ、あいつ?……仲良しなんだっけ、えーっと、えーーーと……樋本……ゆうと……ゆうた?」
レイン「樋本 ……遊大…。」
日暮「そう、少なくとも彼はぼくを理解しようとしてくれていた。」
ツァン「過去形?」
日暮「最近、めっぽうご無沙汰でね。
ぼくも彼と闘りたくて闘りたくて仕方がないんだけれど、今は我慢……一度崩れてまだ立ち上がっている最中。」
レイン「……事件のこと、……2年半前の…、」
ツァン「ああそっか、そうね。……東雲中は大変だった。」
光妖中は、東雲中と同じアオメ市にあった学校だ。事件のことは自分と同じくらい知っているかもしれない。それだけに、事件のことを掘り返している時の彼女らの顔は心なしか暗く見えた。暗い2人の表情を、講堂のプロジェクターの光が淡く照らしている。すでに半分以上の席が埋まっていて、ちょうど3席並んで空いていた場所に自分たちは着席した。
日暮「そんな顔をしないで、
言ったでしょ、彼はまだ立ち上がっている最中。彼がちゃんと立ち上がるまで、彼への想いはまだ溜める、もっともっと溜めて、彼のエンタメデュエルでぼくが果てる………素敵じゃないか…」
ツァン「やっぱ、きもいね。」
日暮「でもそれじゃぼくが欲求不満になっちゃうから、ここで素晴らしいデュエルを摘み食い。一番美味しい、メインディッシュは彼で決定さ。…………それまでぼくの相手をしてくれるのは、君たちでも良いんだけどね?」
レイン「……拒否…、」
ツァン「ボクも御免ね、付き合ってらんない。
全くあんた、話し方が輝久に似てるからアイツまで嫌いになりそうだわ。」
講堂正面のスクリーンに『デュエルシステム学Ⅰ』の講義名が映し出される。登壇しているのは講師と1人の助手生徒。講義内容は、デュエルシステム学の入門に欠かせないソリッドヴィジョンの歴史と変遷について。ちょうどシラバスで見た内容を、講師が講義概要として紹介している。
『えーー……システム学Ⅰを担当します、芹沢と申します。
本講義では、デュエルSAコース導入科目として、SA知識の前提を築きますソリッドヴィジョンが現代まで歩んできた歴史、そして絶対に回避できない道であります『現代決闘技術の扱いに関する絶対3条』について触れます。……講義の方お間違い無いでしょうか。』
ツァン「『絶対3条』、受験でよく解いたわね、概要しか知らないけど。
……①はディスクへの不正防止機能の搭載義務」
レイン「②……Dホイールおよびその他ライディングデバイスの速度規定。」
日暮「そして……③接触可能現実への干渉……つまりリアルソリッドヴィジョンの規制。
全く、かつて発展していたエンタメデュエルにこれほど深く根付いた法令も無いね。」
『えーーー………講義の誤登録などが無いのであれば第一回の内容に移ります。
とその前に、講義のサポートを担当してくれる学生助手の紹介がまだでした。それじゃ、軽く自己紹介だけよろしく。』
そう言われて、講師の斜め後ろで立っていた生徒が2歩、前へと出た。
自分たちが座っているのは、一番後ろの席だ。流石にデュエルアカデミア、皆活気で溢れているのか授業に置いて行かれんと食いつく姿勢なのか、3人掛けができる席はここしかなかった。かなり距離があって、自分もツァンディレも、普段表情が変わらないレインでさえも、目を細めて彼らを見ている。女性のようだが、制服に白衣を重ね着している大方の格好しか見えない。髪は肩までは行かないミディアムボブで、身長はレインと同じ程度だろうか。………やはり目を凝らしても見えない。
ツァン「遠いわね……」
日暮「そうだね…。」
レイン「……あの人は、」
『芹沢先生のデュエルシステム学Ⅰの学生助手を務めます。
高等部2年の「時和」と申します。まだ日の浅い未熟者ですが、よろしくお願い致します。』
『時和さんは優秀です。
高等部2年時点でSA専門コースの講義もトップで単位獲得が狙える猛者なんですよ。ぜひわからないことがあったら、彼女に聞いてください。』
ツァン「……え?」
3人が、マイク越しに響いた彼女の声に固まっていた。
深い中であったわけじゃない。でも、その声を知っている。2人は同じ街で切磋琢磨したライバルとして、自分は龍血組の騒動の際に手を組んだ仲間として、そして遊大の恩人として、絶対にその声を知っているはずだった。そして目を凝らしても見えなかったその姿に声が重なった瞬間に、その姿がはっきりと3人の目に飛び込んで来ていた。
レイン「……違う、……はず……『花海 律歌』………姓が……」
ツァン「確かに『時和』って、ボクは知らない……でも……!!」
日暮「2人とも……、
見紛うのが1人ならぼくも納得したよ。でも現に、彼女を知る3人が固まっちゃったんだよね。
それに……あり得ない話じゃ無いだろう、ほら改姓とか?」
ツァン「わかるわよ、似過ぎてるのはわかる。
でも……在学生のリストは入学前に公開されてるのよ。花海 律歌がいたらわかるんじゃない?」
日暮「そういうツァンだって、もうあの人が彼女に見えてしまってるはずだよ。
入学と同時に改姓か、そもそも在学生リストだって昨年度入学式時点のものだ。編入だってあり得る。
…………どっちにせよ現にぼくは、彼女が花海 律歌に見えて仕方がない。どうしようもないほどにね、」
『そこの御三方、講義が始まります。お静かに。』
当たり前だ。
学生助手の紹介でざわついていたのは自分たちだけだ。バツが悪そうなツァンとレインの顔を横目に、「時和」と名乗った彼女のことを凝視する。やはり、自分の知っている花海 律歌と全く同じ人物だった。でもこの距離だ。もしかしたらそのせいでそう見えているだけかも。
レイン「……!!?」
ツァン「ちょっと日暮…!?」
気づいた時には立ち上がっていた。
この学校で、何かが起きている。そんな予感に突き動かされている。あり得ない話ではない。しかしここまで勉強と鍛錬と情報収集を欠かさずに進んできた3人でも知らない場所に、見知った彼女はそこにいた。でも実際に、眼前と言えるほどの距離にその姿を収めなければ飲み込むことができない。いや、飲み込みたいから近づくしかない。
日暮「面白いことが……起きる予感がするね、」
階段上の講堂を、一段一段と踏みしめて降りていく。
ざわつき始める生徒たち、そしてそれを見つめる講師と時和、全ての人間の視線が自分に集中している。目立つのは好きじゃない、しかし今の自分の知りたいという欲求を抑えることができなかった。
日暮「いやあ、すいません。……先生。
自分たちの席に配布されたレジュメなんですが、白紙だったものですから少し混乱してしまいまして。
……予備のものがあれば、3人分いただけませんか?」
『白紙のものが配られてましたか、
それは申し訳ない。こちらから取っていってください。でもそういうことは、講義開始前に言ってくれると助かります。……えーーと、きみ名前は?』
自分が言ったことは真っ赤な嘘だった。
しかしもう、講師と時和が登壇している最下段まで降りている。しっかりと、この目で彼女のことを確認できた。綺麗な黒茶の髪、ほっそりとした首元、そして柔らかい目元。間違いなかった。
日暮「日暮 振士、と申します。……先生。
……それと学生助手の方、『時和』さんでお間違いありませんか?」
時和「日暮……振士、くん。」
*
カタカタと、手元にあるノートPCのキーボードを鳴らす。
『樋本 遊大』、公式戦のデータはたった3つ。それはどれも2年半前のものであり、一番新しいデータで『アカデミア合宿』の参加選手。出身校はチバ県アオメ市立東雲中学校。それは彼女が居た場所、そして2年半前の『龍血組一斉検挙事件』が起きた街。
茉菜「東雲中………。」
蜂谷の言っていたことの意味がわかった。
彼女がしきりに時和のことを話に出していた理由も。もし彼が時和に何があったのかを知った上でこの学校に来ているのならば当然の怒りだ。しかし現に彼はそんな素振りは見せなかった。それどころか、「時和」の響きすら彼は意に介さない様子を見せた。まさか……しかし可能性はある。
遊大「あの〜……。」
カララン、とドアベルが来客を告げた。
自分の家は『喫茶 海月』。祖父と母がずっと続けている喫茶店だ。別に繁盛しているわけではないのだが、祖父の人柄もあってか地元の人から愛さている場所なのだということはわかる。母が入院して、自分が店の手伝いをすることが増えた。職業病というものなのか、このドアベルを聞くと背筋がピッと伸びる。
茉菜「……早かったじゃない、」
遊大「朝、お爺さんからお弁当受け取ってるもん、場所覚えてますよ。」
樋本 遊大、部トップ3に喰い込んでいた蜂谷 加奈子とのデュエルを制した少年。
元々、蜂谷の「これ以上デュエル部に関わらない」という条件と「デュエル部が消えた原因を言う」の2つの条件があって成立したデュエル。その約束は今、自分に引き継がれている。自分は今、彼に対してデュエル部で何があったのかを話す必要がある。そしてその中心にいる、時和 律歌の存在を。
茉菜「……座ったら?」
遊大「お邪魔します、すごいっすね。
こんなにレトロっていうか、映画みたいな雰囲気のお店初めてだ。」
彼はショルダーバックを握り締め、店内をじろじろと見ている。時代が進んでもレトロな雰囲気を崩したくないのは祖父の趣味だ。遊大は入り口横、棚上の灰皿の装飾を撫でる。店内に灰皿が3枚置いてあるけれど、どれも綺麗な銀色のままだ。「喫茶」という名目上置いてるけれど、母が肺を患ってからは客も店内の喫煙を控えるようになった。
茉菜「祖父の趣味よ。いらっしゃい、『喫茶 海月』へ。」
遊大「それじゃお言葉に甘えて、」
遊大は肩掛けをおろすと、そそくさとビニルソファへと腰掛ける。バッグを窓際まで寄せると、そこから自分の学生証を取り出し、テーブルの上を滑らせた。朝に、彼に学生証を預けた。それは自分の遅刻登録を防ぐためで、完全に彼に対しての借りだったのだけれど。
茉菜「学生証ありがとう、」
遊大「いえいえ、大丈夫っすよ!後輩なんでパシッちゃって、」
ここに彼を呼んだ目的は2つ。「デュエル部解散の事由」を話すこと、そして「樋本 遊大という人間が何者か」を聞き出すこと。そしてそれは同時進行であることが望ましい。デュエル部が解散した目的について話すのであれば、絶対に時和 律歌のことを話す必要がある。それを話していい人物なのか、見極める。
遊大「あの……」
茉菜「えと……」
お互いに、空気を埋めるように間投詞を漏らした。
年端も行かぬ男女が2人きりで改まって話をしようというのだ。これくらいは初心な反応として捉えてどうか大目に見ていただきたい所存である。切り出しに困った自分は席を立っていた。裏からカップを2つ取り出し、カウンターのメーカーから注ぎ入れる。
茉菜「はい、とりあえず珈琲どうぞ。」
遊大「ありがとう、…ござます。」
茉菜「飲めないんだっけ?
人に注いでもらったものくらい、飲んでみるものよ。意外と苦く無いから、むしろちょっと酸味を感じるかも。」
そう言って卓上の上をすすす、とカップが滑っていく。
遊大は口をへの字に曲げながらも、カップに口をつけた。アメリカンだ。しかもここはそもそも浅煎りで抽出する方法をとっている。薄めた苦味よりも、豆の植物っぽさが際立つ淹れ方だと思う。……と、
遊大「うぐ……ありがとです。確かに思ったよりも苦くは無いかも。」
苦い顔をしている。
なんだか無理やり飲ませたみたいじゃないか。自分の淹れ方が悪かっただろうか。でも現に自分が口に運んでいるものは、この店のアメリカンって感じがするし、いたっていつも通りのはずだ。
茉菜「全く蜂谷先輩、後輩に押し付けるなんて人遣いが荒いわ。」
遊大「あ、……!!
意外に思ってたんですよ、2人が面識あるんだって。」
茉菜「改めまして、元デュエル部のマネージャーよ。潰れちゃったから今は帰宅部だけど。」
遊大「マネージャー……そっか。
やっぱ結構な規模だったんですよね、この学校のデュエル部って。」
茉菜「そうね……だからこそマネージャーのわたしなら色々答えられるって、先輩の判断なんでしょう、
じゃあその上で、単刀直入に訊くわね。何が知りたいの?」
わかり易く咳払いをして、そんな問いを投げかけた。
1on1の雑談よりも、若干事務的な方が自分も助かる故だ。情報が端的で拾いやすい。きっとこれから話すことの『ほとんど』が、彼にとって初めてのものであるはずだから。彼はその問いに数秒黙り込んで、すっと息を吐いて答えた。
遊大「『デュエル部がなんで無いか』……それが一番知りたいです。」
茉菜「『一番知りたい』ね。
………うん、わかった。でも全部を話す前に、お互いのことを話しましょうか。」
遊大「ええっ、お互いっておれのことですか?」
茉菜「そうよ。
わたしもあなたに聞きたいこと、たくさんある。……そこで提案。」
遊大「提案?」
茉菜「蜂谷先輩に勝ったあなたに勝手に条件を追加するのは忍びないとは思う、
でもあの人じゃ答えられなかった部分も、わたしは話せる。
………だからここで条件を追加。…お互いに交互に質問をしましょう?」
実際にそうだ。
彼が蜂谷と繰り広げたデュエルは、あの一戦だけでその実力がかなりの高レベルであることを知らしめるものだった。それを鑑みればこれは平等な条件とは言えない。しかし実際にこの話をするのであれば、蜂屋よりも自分の方が詳細を語り易いのは事実だ。蜂谷と違い、デュエル部解散の件についてであれば、私情を挟まずに返答できる自信はある。
遊大「交互に質問……質問1つに回答1つ、それをお互いに繰り返すってことでいいんですよね。」
茉菜「ええ。
でも蜂谷先輩とのデュエルに勝ってるのはあなただし、流石にあなたから先に質問していいわ。別にこれはデュエルでも尋問でも無いからそこまで厳格に考えなくていい。
……ただお互いに、知る機会を作りましょうって話よ。」
遊大「……うす。」
この形式を提案したのには、理由がある。
お互いに知らないことが多すぎるゆえに、話をしている途中で絶対に新たな問いが生まれる。そしてもう一つ、これは勘でしか無いが、2人の疑問はいずれ1つに収束する。デュエル部が消えた原因と時和のこと、そして樋本 遊大という人物のこと、これらはどこかで繋がっている。この場でそれを可視化することはできずとも、その繋がりを、温度を、音を感じ取るだけでも良い。きっとそれはお互いのためにある。
遊大「じゃあ質問一個目、行きます。……なんで葛馬高校のデュエル部は無くなったんですか?
ざっくりでいいです、全部知るには、前提になっているものすらおれは知らないから。」
茉菜「結論から、ってことね。
解答は、『ある生徒』によってデュエル部員数人が、身的・精神的に被害を被ったため。デュエル部は生徒会から活動停止通知を受けた。………これでいい?」
遊大「それは、『いじめ』とか……ですかね?」
茉菜「質問は1つずつ。次でお願いね。」
遊大「あ、そうでしたね。……じゃあ質問どーぞ。」
『いじめ』という言葉が出てきた。
この言葉だけを聞けばそう思えるだろう。無理もない。そもそもその言葉の定義自体が怪しい上にデュエル部での案件に関しては常識を脱している。こちらとしても言語化をする前に解答を用意しておきたい。そういう面でもこの方式は悪くない。彼にとって平等感を与えつつ、自分が知りたいことははっきりと口に出せる。
茉菜「じゃあわたしの1つ目の質問。
あなたが、ここ数年デュエルの表舞台に立っていないことは知っている。さっき調べたけど、一番古いデータは3年前の『アカデミア合宿』。この前提があっての質問よ。
………あなたはこの2年半もの間、どこでデュエルについて学んでいたの?」
彼は軽く握った拳を下顎に添える。目線は卓上のシュガーポット、ちょうど左下にある。人は相手の目を見ながら迷いはしない。人間観察が好きというわけではないが、こういう店の手伝いをしていると、人の神妙な顔で考えていることはわかってしまうものだ。
遊大「どこで……学んでいた、か……」
彼は今、迷っている。確かにこの質問はあまりに抽象的すぎる。蜂谷とのデュエルでも情報戦を重んじていた彼にとって、これはどこまでが解答範囲なのか考え込む気持ちもわかる。しかし知りたい、あのデュエルをどこで身につけたのか。あの目をできるデュエリストはそういない。ともするとこんな雑把な質問が、2人の疑問を繋ぐキーになるかもしれない。
茉菜「答えられないなら、言い方を変えたって濁したっていいわ。
『母校のデュエル部』とか、『決闘塾』とか、『誰かの弟子だった』とか。別に固有名詞を引っ張って来て欲しいわけじゃないから。」
遊大「そっか、じゃあ……『誰かの弟子だった』が解答になるかもです。
でもそれはこの2年半の間ですけどね。それ以前は普通に『母校のデュエル部』でした。」
茉菜「そう、ありがと。じゃあ質問していいわよ。」
『誰かの弟子だった』。これは最もメジャーとは遠い場所にある解答だ。
部にも塾にも指導者はいるけれど、あえて『弟子』を選ぶというのは、特定の集団に属さずにあくまで個人的に第三者から指導を受けていたことになる。これができるのは中々いない。プロデュエリストだって、公式に弟子を抱えている者は決して多くない。
遊大「質問です。
その、デュエル部の人たちを傷つけた『ある人物』って、誰ですか?」
茉菜「これは答えられない。」
遊大「………へ?」
茉菜「言い方を変えるわね、
厳密には『答えること』はできるけど、『言い切ること』はできない。間違っている可能性があるの、事実であると断言ができない。」
遊大「わかっていない……ってことですか、」
茉菜「それでもいいなら答えるけど、どうする?
あとは……そうね。事実である情報を伝えるなら、その人物がなんて呼ばれてたかなら、100%答えられる。」
遊大「なんて呼ばれてたって……なんかこう2つ名みたいな?」
茉菜「ええ、
連日で発生したデュエル部員が病院送りになる事件。その犯人と噂された人物がなんと呼ばれていたか。いわゆる学校の七不思議みたいなものね、」
遊大「なんかすごい方向に話が進んできたな、
じゃあそれでおっけーです、なんて呼ばれてたんですか?」
茉菜「『花の魔女』
……病院送りにされた生徒の証言から学校に広がった噂にして、その犯人の2つ名。『花の魔女』と呼ばれる者が、デュエル部員数人の心身を追い詰めた。」
遊大「花の……魔女。」
彼はバッグからメモ帳を引っ張り出すと、胸ポケットのボールペンをかちりと鳴らして『花の魔女』の文字を殴り書いた。デュエル部の解散事由、その内情ではなく対外的情報を彼に伝えた。きっと彼の中では今、数々の疑問が渦巻いている。しかしそれゆえに、ここから先は自分の抱えた疑問の解消をいかに彼を刺激せずに成すかが問題になる。
茉菜「質問よ、
元々あったこの学校のデュエル部で知っているメンバーの名前を教えて。」
遊大「ウス、
県予選に出場していた『蜂谷 加奈子』さん、『時和』さん、それに全国本選まで出場した『不二原』って人たち3人です。面識があるのは蜂谷さんだけでしたけど。……これだけで大丈夫すか?」
茉菜「ええ、」
やはり、違和感の正体はこれだ。
蜂谷は、荒唐無稽なことを口走るようなデュエリストではない。少々狡いところはあるが、思い当たる節の何もない場所に、怒りを込めて疑問をぶつけるような人間ではない。それゆえに、デュエル中の彼らの会話には、無視できない違和感があった。しかし今の問答で、その正体がはっきりしたように思える。彼は知らないんだ。彼女が彼女であることを、まだ遊大は知らない。だから蜂谷と噛み合わなかった。
遊大「じゃあこっちの番ですよね。
……その『花の魔女』っていうのは、『時和』さんだったり______
茉菜「いいえ。」
遊大「え?」
茉菜「誓って彼女ではないわ。『花の魔女』は彼女ではない。
食い気味に答えてごめんなさい。でも、彼女じゃない。蜂谷先輩が怒っていたように、彼女はそんな人じゃない。」
遊大「はい、……あの、すいません。」
地雷を踏み抜かれたような、そんな気がする。
自分は嘘をついていない。しかしどうも、彼の質問に腹の中にグツリと気泡が浮かぶのを耐えきれなかった。蜂谷もきっと、こんな感覚だったのだろう。彼女が多くの人に慕われていただけに、その問いがまるで刃物のような切れ味を持って、自分の喉元に突き刺さった。食い気味に答えたのはわざとだ。感情が出るギリギリのところで、口から出るその答えに理性を乗せた。そうでもしなければ、この静かな怒りがやがて彼自身に返ってくることになってしまう。
茉菜「こちらの質問よ、どうしてチバの東端からこの学校に入ろうと思ったの?」
遊大「はい、
この学校にさっき言った3人の実力者がいること、父方の祖母がこっちに学生アパートを持ってること、決闘連盟指定のフリーランク戦会場が近いこと。
…………それに『会わなきゃいけない人』がいること、ですかね。」
茉菜「紛らわしい言い方をするのね………まったく。」
遊大「ええっ、そんな紛らわしいこと言ってないすよ。さっき言ってた、おれの師匠みたいな人です。
じゃあこっちの質問!いいですね、」
妙な言い回しをする。
自分の脳みそがロマンチスト成分に侵されてしまったのかと心配になってしまった。後の補足で確定した。彼の『会わなきゃいけない人』とは彼女ではない。そうでなければ話の辻褄が合わない。会いたい人物とはおそらく彼のプライベートの側面ではない。『師匠』と、所々に滲み出るストイックさの延長線上にその人はいる。今は違う、その人物にタッチするのは今じゃない。
遊大「蜂谷さんが、どうしておれに怒っていたか知りたい。
そのために訊かせてください、『時和』さんって人物は、どんな人ですか?」
来た、この質問だ。
真っ直ぐに自分の目を見ている。迷っていない。純粋に知りたいんだ。純粋すぎるゆえに、蜂谷との間に生まれた誤解と確執。その答えは、全て自分の解答にかかっている。何を話す、何を話せばいい。いや、何を話してはいけない?
茉菜「………どんな人、っていうのは?」
遊大「下の名前、学年、性格……そんなとこがわかればもう大丈夫ですよ。
おれはその人の苗字と、デュエル部に所属してた事実、そんで解散の時に何かがあったってことしか、……わかんないから。」
勘がいい。
この条件の中で、一番最初にファーストネームを出してきた。性格や学年を聞きたがるのは当然と言えるかもしれない。時和という人物が中心にあって蜂谷が感情的になったのであれば、どんな性格で、何年生なのか、彼女らの関係を知ろうとするのは当たり前だ。しかしこの中で名を聞くことは、頭で考える前に口から出ていた動物的直感と言えるだろう。それとも、もしかすると彼の中で事態の察しがついているのか。
遊大「答え……られませんか。」
茉菜「答えるわ。……でも、少し……待って、」
遊大「なんか、ざわつくんです。
『時和』って、その人が話題に出てくるたびに、胸騒ぎがするんですよ。デュエル部解散の理由の『花の魔女』がその人じゃ無いのはわかってます……でも中心人物だ。それに、純粋におれ自身がその人のことを知りたい。」
はあ、とため息が漏れた。
未だに彼の目は、自分の目を覗き込んだままだ。言葉を詰まらせながらも、彼の中での動物的な勘の正体を言語化した。本当に知りたがっているんだ、自分の中で渦巻く胸騒ぎの正体を、彼は今知ろうとしている。
茉菜「落ち着いて、聞いてね。」
遊大「はい、」
お互いに、カップを掴んで口に含む。
豆のフレッシュな酸味を感じれるのがこの店のアメリカンの特徴だ。苦味が強く無いから、減バターの塩胡桃クッキーを一緒におすすめしているくらいである。でもその一杯は、いやその一口は違った。エスプレッソなんかよりもずっと苦い。まるで言ってはいけないと、お互いに後悔することになると言わんばかりに口の中が苦い汁でいっぱいになる。
遊大「教えてください。」
何か、覚悟をしたような言い方だった。
ここまで出ている情報の中で、彼にとっての彼女が彼女である確信など掴めようはずもない。含みを持たせることは行ったかもしれないが、それでもここまで腹を括ったような表情ができるのは頭じゃなくてもっと原始的な部分がそうさせるからだ。きっと今、彼は、自分が何をい言うのかを本能で察している。
その上で……覚悟をしている。
茉菜「彼女の名は、『時和 律歌』…………旧姓『花海 律歌』よ。」
続く
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112 | 21話 魂を繋ぐ龍 | 747 | 0 | 2022-04-03 | - | |
101 | 22話 原初の雄叫び その① | 716 | 2 | 2022-05-02 | - | |
88 | 23話 原初の雄叫び その② | 716 | 2 | 2022-05-04 | - | |
73 | 24話 焼け野原 その① | 546 | 2 | 2022-11-10 | - | |
67 | 25話 焼け野原 その② | 627 | 0 | 2022-11-11 | - | |
63 | 26話 蒼の衝突 その① | 519 | 0 | 2023-02-28 | - | |
67 | 27話 蒼の衝突 その② | 489 | 0 | 2023-03-24 | - | |
66 | 28話 憧れゆえの | 628 | 2 | 2023-04-15 | - | |
65 | 29話 黒い暴虐 | 400 | 0 | 2023-07-20 | - | |
90 | 30話 決闘の導火線 | 637 | 2 | 2023-07-30 | - | |
59 | 登場人物紹介 〜光妖中編〜 | 479 | 0 | 2023-08-03 | - | |
52 | 31話 開幕!決闘王杯! | 375 | 0 | 2023-08-12 | - | |
63 | 32話 ガムシャラ | 604 | 2 | 2023-08-25 | - | |
49 | 33話 目覚める龍血 その① | 373 | 2 | 2023-09-02 | - | |
58 | 34話 目覚める龍血 その② | 412 | 2 | 2023-09-06 | - | |
80 | 35話 雨中の戎 その① | 541 | 4 | 2023-09-19 | - | |
50 | 36話 雨中の戎 その② | 344 | 2 | 2023-09-23 | - | |
53 | 37話 チャレンジャー | 482 | 2 | 2023-09-30 | - | |
70 | 38話 心に傘を | 480 | 2 | 2023-10-07 | - | |
48 | 39話 龍の瞳に映るのは その① | 438 | 3 | 2023-10-22 | - | |
53 | 40話 龍の瞳に映るのは その② | 432 | 2 | 2023-10-26 | - | |
64 | 41話 花と薄暮 | 492 | 2 | 2023-10-30 | - | |
56 | 42話 燃ゆる轍 その① | 509 | 2 | 2023-11-07 | - | |
49 | 43話 燃ゆる轍 その② | 364 | 1 | 2023-11-09 | - | |
49 | 44話 襷 | 354 | 1 | 2023-11-14 | - | |
50 | 45話 星を賭けた戦い | 472 | 3 | 2023-11-17 | - | |
50 | 46話 可能性、繋いで その① | 407 | 2 | 2023-11-28 | - | |
62 | 47話 可能性、繋いで その② | 419 | 2 | 2023-12-07 | - | |
46 | 48話 揺れろ。魂の… | 334 | 2 | 2023-12-28 | - | |
46 | 49話 エンタメデュエル | 367 | 2 | 2024-01-07 | - | |
59 | 50話 乗り越えろ! | 410 | 3 | 2024-01-26 | - | |
90 | 51話 Show Me!! | 455 | 0 | 2024-02-01 | - | |
51 | 52話 モノクロの虹彩 | 472 | 1 | 2024-02-08 | - | |
51 | 53話 激昂 | 358 | 2 | 2024-02-22 | - | |
48 | 54話 火の暮れる場所 その① | 319 | 0 | 2024-03-02 | - | |
88 | 55話 火の暮れる場所 その② | 483 | 2 | 2024-03-07 | - | |
50 | 56話 赫灼の剣皇 | 510 | 2 | 2024-03-11 | - | |
74 | 57話 金の卵たち | 364 | 2 | 2024-03-18 | - | |
60 | 合宿参加者リスト 〜生徒編〜 | 347 | 0 | 2024-03-20 | - | |
64 | 58話 一生向き合うカード | 405 | 2 | 2024-03-24 | - | |
51 | 合宿参加者リスト〜特別講師編〜 | 392 | 0 | 2024-03-31 | - | |
53 | 59話 強くならなきゃ | 377 | 2 | 2024-04-03 | - | |
62 | 60話 竜を駆るもの | 279 | 0 | 2024-04-20 | - | |
76 | 61話 竜を狩るもの | 424 | 2 | 2024-04-22 | - | |
60 | 62話 反逆の剣 | 301 | 2 | 2024-04-26 | - | |
57 | 63話 血の鎖 | 365 | 1 | 2024-05-01 | - | |
73 | 64話 気高き瞳 | 449 | 2 | 2024-06-02 | - | |
50 | 65話 使命、確信、脈動 | 528 | 2 | 2024-06-16 | - | |
58 | 66話 夜帷 | 320 | 0 | 2024-07-14 | - | |
52 | 67話 闇に舞い降りた天才 | 380 | 2 | 2024-07-18 | - | |
58 | 68話 陽は何処で輝く | 372 | 2 | 2024-07-30 | - | |
48 | 69話 血みどろの歯車 | 510 | 2 | 2024-08-16 | - | |
44 | 70話 災禍 その① | 372 | 2 | 2024-08-28 | - | |
48 | 71話 災禍 その② | 423 | 2 | 2024-09-01 | - | |
44 | 72話 親と子 | 256 | 2 | 2024-09-09 | - | |
57 | 73話 血断の刃 | 325 | 2 | 2024-10-10 | - | |
56 | 74話 血威の弾丸 | 333 | 2 | 2024-10-17 | - | |
46 | 75話 炉心 | 376 | 0 | 2024-11-01 | - | |
43 | 76話 ひとりじゃない | 335 | 2 | 2024-11-03 | - | |
48 | 77話 春風が運ぶもの | 399 | 2 | 2024-11-06 | - | |
38 | 78話 天道虫 その① | 467 | 2 | 2024-11-19 | - | |
38 | 79話 天道虫 その② | 355 | 2 | 2024-11-21 | - | |
50 | 80話 花の海 | 522 | 2 | 2024-12-03 | - | |
40 | 81話 寂しい生き方 | 291 | 2 | 2024-12-16 | - | |
44 | 82話 飛べない鳥の見た景色 | 304 | 2 | 2024-12-24 | - | |
31 | 83話 意思の足跡 | 334 | 2 | 2025-01-24 | - | |
28 | 84話 種 | 213 | 1 | 2025-02-08 | - | |
29 | 85話 ティアドロップ その① | 271 | 0 | 2025-07-17 | - | |
12 | 86話 ティアドロップ その② | 218 | 0 | 2025-08-27 | - |
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Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。




デュエルアカデミア・童実野校へと進学した日暮。そして、そこには光妖中のツァンディレとレインも進学しているという意外な組み合わせが。決闘システム学Ⅰの受講を共にする事が分かった2人は日暮を煙たがる。妥当な評価を下す彼女達を余計に逆なでる日暮が語る美学。
君が相変わらずのクレイジーなファンのままで、私は安心しました。まぁ、いろいろと大変な竜血編を経て、良くも悪くも変わった人が多かった中、不変を貫いているというのもある意味では安心の材料です。それはそれとして、輝久にも風評被害が行きそうだから興奮しすぎるんじゃないぞ!
そんな3人が受講する講義の学生助手として、律歌が姿を見せる。姓が時和へと変わっている事で、別人の可能性も考えられますが、彼女の姿をその場の3人が花梅 律歌として認識している事で確定ですね…。
場所は変わって蜂谷とのデュエルに勝った遊大は、約束を受け継いだ茉菜の元へ。味わい深い喫茶店に、彼女の淹れたコーヒーを片手に一問一答形式で互いに知りたい事を話して行く事に!
遊大としても一番の問題点である何故デュエル部がなくなっているかという部分は、身体、精神へ異常をきたし病院送りにされた生徒が居た事で部としての活動を禁止されたとのこと。そして、その元凶として《花の魔女》とうわさされる人物…。異名から、女性を連想されますが果たして…?少なくとも、時和もとい律歌とは別人である事が茉菜から断定されましたね。さすがにその通りだろうとは思いつつも…って気分ですねぇ。
遊大側にされた質問は、デュエルの師匠的な存在とその人に会う事を含んだもろもろの事情でこちらへ転入してきたという事が示唆されましたね。それが誰なのかというのも気になる所です。
最後にとうとう遊大にも、時和が律歌である事実が伝えられましたね。律歌さんを軸にした新章…これからどうやって話が進んでいくのか気になる所でございます!無理なく執筆したいただければこれ幸いであります! (2024-12-09 21:53)
日暮と彼女の邂逅がアカデミアで果たされました。元々ツァンやレインはタッグフォース時点でアカデミアの学生ですし、2人のデッキが強化されているのも事実。日暮はまあ、性格的にアカデミアでニヤニヤしているのが妥当です。この3人の絡みも少しずつ書いていこうと思います。そしてもちろん時和のこともですね。
ちょっと情報過多になってしまいそうな喫茶海月。《花の魔女》という存在と律歌が葛馬高校にいたという事実が、茉菜の口から明かされました。このへん時系列的な矛盾がないように注意を払いながら執筆していきます。ちょっと構想上お話しできない部分が多いのですが、本当にコメントいただけるのは嬉しいです!以前と比べるとちょっと話g複雑化してしまいそうなのですがなるべくわかりやすくゆっったり腰を据えて書きますので、次回以降もゆるく待っていただけると幸いです! (2024-12-16 01:06)