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HOME > 遊戯王SS一覧 > 57話 金の卵たち

57話 金の卵たち 作:コングの施し

アカデミア合宿。全国決闘王杯・各都道府県予選が終了し、その本戦が控えるこの夏。その出場権を持つ者、そしてその同校の生徒5人にのみ参加が許されるデュエルの合同鍛錬。参加のための最後のフルイとなる4時間の「スターチップ争奪戦」を戦い抜き、選ばれし者たちが今、このデュエルアカデミアに集結しようとしていた。彼らを待つ試練、そしてその果てに見出される各々の答えとは…。




13:00



『阿原 克也 9勝3敗 ☆:9
アオメ市立東雲中学校:2年
決闘杯・チバ県予選:ベスト32』


阿原「チ…クショ!」
(間に合わなかった!!…アイツらは通過できたのか?!)

日暮との戦いを終え、それでも這い上がって戦い続けていた阿原。しかしスターチップが9つ集まった時点で、その戦いは幕を下ろした。アカデミアまでの道のりの、周囲にいるデュエリストたちが目に入る。失意と絶望に打ちひしがれるもの、慰め合うもの、悔し涙を浮かべて会場に背を向けるもの、その人波の中で、自分も歯を食いしばって立ち尽くしていた。

「阿原、み〜〜っけ。」

聞き覚えのある声に振り返る。そこに立っていた見覚えのある面々。4人の決闘者たち。紫色のネクタイをワイシャツに引っ提げ、何度も東雲中と戦いを繰り広げてきた4人の戦友。

阿原「お前ら…!なんでここに!!」

キャンデ「よう、久しぶり。」

光妖中。もはや東雲中と姉妹校同然の如く練習試合を繰り返し、お互いの部員の顔も名前も当然把握している。ギチギチの制服の下に、ファンシーなクマの着ぐるみを着込んだキャンデが、その巨腕で阿原の腕を引っ掴む。

阿原「…んな!!!
てめえなにしやがるキャンデ!!!」

キャンデ「どおーどおー。ガキじゃあるまいしそんなに暴れちゃダメだろ〜?」

キャンデが阿原を肩に抱えると、その様を見つめる他の3人に目が行った。確実に言える、今までよりももっと強くなっているその3人。
《アンデット》を使いこなすレイン 恵、《六武衆》の使い手であるツァンディレ、そして家に代々伝わる《忍者》デッキを操る斬隠 輝久。

輝久「久しいね。阿原くん。」

阿原「オレの方が先輩だっつの…!せめて敬語使いやがれ!!」

ツァン「『敬う語』で『敬語』だし、敬ってないあんたには、別にいいでしょ?」

レイン「…。」

肩に阿原を乗せたキャンデを先頭に、彼らはアカデミアを離れていく。

阿原「オイ!
オメーらどこに連れてく気だ!!!!」

ジタバタともがく彼に呆れながら、輝久が答える。上がった口角を左手で押さえ、何やらその瞳にはある考えがあるようであった。

輝久「負けっぱなしは悔しいだろ?
それは僕たちも一緒ってわけだよ。」

ツァン「まったくね。
全国行くからって天狗になってこの合宿に参加してる奴らの負けてられないワケ。」

阿原「ああ…?
それってどういう…」

レイン「…早い話…対抗合宿…。」

阿原はハッとする。光妖の者たちの中に、決闘王杯で全国に出場する権利を持っているものはいない。自分たちでさえ、その切符を持っているのは龍平だけ。そのお溢れでこの合宿に参加していたのみ。だったらここにいる者達と自分では何の違いがあるだろうか。

阿原「…。
だがオレを連れてく理由はなんだよ!別にお前らに得があるってわけじゃないだろうが!」

ツァン「同市同県のよしみよ。東雲中で残ってるのがあんただけってのは予想外だったけど。それに、個人的にあんたから盗みたい技術もあるしね。」

キャンデ「まあそう言うことだ。
安心しろよ。アンタらの顧問のましろ先生には許可とってある。」

阿原(…ってことはあいつら、突破したのか、この4時間を。
だったら…)

一時は、自分が遊大や律歌に置いていかれてしまっていると考えていた。実際、それは間違いではないのかもしれない。だが、今こうしてまたとない力をつけるチャンスを目の当たりにしている。強くなろうとしている。自分という鋼を叩いて、さらに強固で鋭利な強さを得られるような、そんな予感。


阿原「いいぜ…。その話、乗らせてもらう!!」


輝久「グッド!…その答えを待ってた!」







遊大「そっかあ〜。阿原さんも光妖の奴らと一緒に合宿かあ!
あとは、先生が元プロってのは、まあ…」

ましろ「ああん!?」

遊大「…納得、します…。」

睨みを効かせるましろに遊大はしゅんとする。
しかしこの場にいない阿原も、強くなるために彼なりに道を歩んでいた。そしてその事実をましろの口から聞かされて、安堵する自分がいた。次のデュエルを想像すると、思わず口角が上がる。

律歌「せんせ、時間ですよ。こんなとこいて大丈夫?」

律歌はディスクに表示された時刻に目をやって、ましろに投げかける。そこに記された時刻は13:03。すでに合宿の開会があってもおかしくない時間である。ましろはハッとして一目散に走り出した。

ましろ「やべべっ!!お前ら、後でな!!!」

そして彼らの前に続々と登壇する、プロデュエリスの面々。数々の死闘を繰り広げ、それを乗り越えてなお、嵐の中に身を投じ続ける猛者たち。
彼らの前に並び立つ9人の決闘者と、せかせかと彼らの後につくましろ。

遊大「ほんとに…あのプロデュエリストたちと並んでるんだよな。」

並び立つ彼らの顔一つ一つに目を向ける。テレビや雑誌で何度も見てきた決闘者たち。思わず、遊大は唾をごくりと飲んだ。

御子柴「やあやあ、4時間の死闘を潜り抜けた金の卵ども!」

その中央に立っている小柄な老人。『プラチナ帯の物の怪』の異名を持つ御子柴 皇一。手元にあるマイクに、その貫禄のある声で語りかけた。その声と同時に、会場に集まった40人足らずの決闘者たちの背筋がビッと伸びる。

御子柴「ようこそ、『アカデミア合宿』へ。
3日間のスケジュールの説明は、俺の隣にいる 大石 竜也 プロから説明があるから。
…じゃ、後よろしくっ。」

そう言ってマイクを手渡した先、御子柴の隣に立っているその男に、会場の視線が一気に集まる。朱がかった赤黒い髪、その場にいる者の中では最も高い背丈、分厚い体、そして皺の寄った眉間の下にある、文字通り竜のような鋭い目。

竜也「紹介があった、大石 だ。
スケジュールの説明は私が務めよう。各自、メモの用意を。」

会場で話す彼の言葉に、東雲の彼らの背が震えた。いや、東雲中だけでなく、会場にいる『その事実』を知っている決闘者の視線が、静かに彼に寄せられた。


龍平「…親父。」


大石 龍平。
全国決闘王杯、チバ県予選の優勝者であり、『本戦出場者と同校』というこの合宿の参加権利を東雲中に持ち帰った張本人。そして遊大たちの仲間であり、数々の戦いをそのドラゴン族の展開を基調とするデッキで制して来た、まごうことなき強者。4時間のスターチップ争奪戦を、最速で突破した事実がそれを裏付けている。
しかし、それをよくは思わぬ者たちの声…


「あいつだろ?『暴竜大石』の倅って。」

「しっ、聞こえるって!」

「親譲りの目、こえー…。」

「親子揃ってドラゴン使いって…馴れ合いキっツいわ〜。」


そんな声が、会場の中で小さく響いた。小さく、しかし確かに、そんなことを言った者がいた。それが彼らの耳に入ったことも、また事実である。
遊大は、隣にいる龍平に顔を向けた。

遊大「龍平、気にすんなよあんな…」

言いかけ、肩に手を伸ばした時、その表情が目に入って言葉が止まった。
噛み締められた唇、そして、その瞳に映る父親の姿。しかし彼の視線は、親を見つめる子供のそれではなく、敵を見つめる猛獣のようであった。

嬢「龍平くん…。」

彼の後ろに立っていた嬢が、ゆっくりと彼の袖を引っ張った。振り返る龍平。そこにある大きな瞳は、彼を心配げに見つめていた。まるで彼の心のうちを掴んで、その身と心の中に渦巻く黒い感情を按ずるように。

嬢「大丈夫だからね。」

龍平「…悪い……ありがとう。」






「こそこそ人の噂とか、みっともないですよ。」





会場の後ろの方でそんな声が響いた。プロデュエリストも集まった生徒たちも、全ての注目がその一人に集められる。ぽさっとした青黒い髪。白い肌に大きな瞳。この暑い中だというのに、紺色のネクタイとワイシャツの上にジャケットを着込んだ少年。腕を組んで会場の扉の横に寄りかかっている。
もはや脳裏にすら焼き付けられたその姿に、遊大は思わず彼の者の名前を叫んでいた。

遊大「ひ、日暮ェ!?」

日暮 振士。スターチップ争奪戦の参加者であり、『エンタメデュエル』をあくまで『オーディエンス』の立場でその目に焼き付けたいという想いで闘いに臨んでいたデュエリスト。しかし大きすぎるその想い故に遊大にスターチップ10個同士のデュエルを、制限時間15分足らずの中で申し込み、彼としのぎを削ったその少年。

遊大がその場にいるのは、彼に勝利しているから。しかしならばなぜ、遊大とのデュエルでスターチップが9個になった日暮がここにいるのか。

遊大「おま…あのギリギリで、あと1勝したのか!!?」

もはや会場にいる他のものの視線すら気にすることなどなく、その体は彼の元へ走り出していた。

日暮「やあ。さっきぶりだね、遊大くん。なんとか超ギリギリセーフ…ってとこかな?」

ニコッと微笑みかけると、腕にあるデュエルディスクを胸元にかざし、そこにある10個のスターチップを指差した。遊大はそのスターチップを見つめると、少し複雑になりながらも笑顔になってしまっている自分に気づいた。スターチップ10個同士の決闘という凶行を働きながらも、彼とのデュエルは、今までにないほどに、お互いの魂に訴えかけるような、心の奥底から通じ合っているような、そんなデュエルだったから。

遊大「ほんとだ…。じゃあまた闘えるってことか…!!」

拒絶することよりも、デュエルで人を理解しようとすることの大事さを、その強さを身を持って知った闘いであったから。胸の奥が熱くなる。彼が、遊大自身が言った「もっと輝けるからさ」という言葉。お互いに切磋琢磨し、鋭く、強く、高く、文字通りお互いを磨き上げることにワクワクと胸を躍らせる自分がいた。

竜也「そこ、説明の途中だ。勝手は謹んでくれ。」

そんな折、壇上にマイクを持つプロデュエリスト、大石竜也が彼らを一喝する。「えぁ…」と言葉にならない動揺を見せた2人。周りをキョロキョロと見渡すと、会場にいる参加者、プロデュエリストの両陣営の全員の視線が、そこに集められていた。



「「すいませんでした…。」」








ましろ「…とまあ、説明だけでもつまらないでしょうから、プロ同士の有名な試合をいくつか取り上げてみましょう。まず…」

昼食を挟み、アカデミア内の講義堂に参加者の生徒たちが集められていた。各々がノートにペンを走らせ、その視線の先には、ホワイトボードに講義の要点をまとめるましろの姿があった。そんな中、律歌が小さくボソッと嬢に話しかける。

律歌「…やっぱり本業ってだけあってサマになってるよね。」

嬢「そうですよね。でも私たちはいつも受けてるからか、この環境の方が新鮮かも。」

律歌の横に座る遊大。座学に対してはどうしても身が入らない様子で、鼻と口の間にペンを挟めてタコのような顔になっている。その様子にため息をつく龍平。彼を横目に捉えながらも、そのペンは止まらずノートの上を滑らかに滑っていく。

遊大「ちぇ〜。ここまで来たのに1日目の残りはまるまる講義なんて、なーんか損してる気分。」

龍平「…ノート、見せねえからな。」


「真面目くん、『マジ迷惑』ってところかな?大石龍平…フフ。」


聞き覚えのある声、話し方、そして何より唐突に空気すら冷え込むそのダジャレ。後ろの方から感じ取った嫌な予感に、龍平がさらにため息を漏らした。後部の座席、一段高くなっている階段上の講義堂の席、東雲中の彼らを見おろす形で、彼はどっかりと座っていた。

龍平「剣城さん…あんたの方が迷惑です。」

剣城「おっとすまない。模範生は今日も反省…フフ。」

剣城 闘次。スターチップ争奪戦にて、⭐︎8の時点で一着の龍平と争った決闘者。バトルフェイズ後の展開を得意とする《剣闘獣》を使用する彼は、なんと8勝1敗、そして二着という異例の速さで争奪戦を突破していた。しかしその口から繰り出される数々のギャグに、龍平も呆れ切ってきた。身を震わせるような冷えたギャグに、遊大も恐る恐る後ろへと振り返る。

遊大「あ、龍平も知り合い?」

龍平「…認めたくないけど。」

遊大も、振り返った先にいた剣城を目にして「うへぇ、」と顔を顰める。遊大も、このスターチップ争奪戦にて、彼と闘っている。三歩進んで三歩下がる展開を強いられたその中盤、彼のギャグによって乱されるペースと、際限なく呼び出される後続によって敗北を喫していた。

剣城「なんだぁキミら、例外なく礼がないな。」

遊大はそのすんなりとギャグを吐き出す様に思わずポトンとペンを落とす。「ひょえ〜、よくまあそんなスラスラ…」と溢すと、剣城はフンと大きく息をついて腕を組んで見せた。

剣城「明日から『敵同士よ!どうしよ!?』とならんためにも、さらに知っとくとお得だぞ?…オレという男を。」

明日から敵同士。彼らはすでに、2日目3日目のスケジュールとその内容を知っていた。ましろの講義を片耳で捉え、ノートに目を向ける龍平がまた小さく口を開く。

龍平「2日目…プロ含む特別講師1人と参加生徒3〜4人がチームになって、指導のもと構築とプレイングを鍛える、か。」

遊大「そんで最終日3日目、前日のチームでの団体戦トーナメント…いやぁ、ほんとすげえ機会だよな。全国の猛者と、プロの指導の下で闘えるなんてさ。」


剣城「全くだ。しかしやって見せよう…合宿生、オレが粛清!!とな…フフ。」







『チーム3の選手は、第三デュエル場に集合してください。講師は 桐生 招平 プロです。』


数々の再会と出会い、そしてプロのもとで戦うための知識を詰め込んだ彼ら。その目に、朝日が差し込む。各々の手元に装着されたデュエルディスク、その左上に『TEAM:』のアルファベットと、1〜10の数字が刻み込まれていた。時刻は朝の6:30。本格的にデュエルの鍛錬が始まるアカデミア合宿2日目の幕が切って下ろされる。


息を切らし、宿舎から最も遠い第三デュエル場の扉を押し開ける遊大。そのデュエルディスクに映し出されているのは『TEAM:3』の文字であった。

遊大「はぁ…はぁ…!失礼します!
チバ県アオメ市立東雲中の、樋本 遊大です!!」

どくどくと高鳴る鼓動と落ち着かない息、膝に手を当て礼なのか俯いているのかわからないような姿勢から、その会場の中を見渡す。そこに構える2人のデュエリスト、そしてその奥、裏向きパイプ椅子に腰掛ける1人の男と、目が合った。

テレビで見るよりも体は細いだろうか。これといって大きな特徴はないが、その風貌はプロのデュエリストというよりも面倒見の良い教師の方が似合っている。昨日あまり眠れていないのか、うっすら目の下に鎮座するくま、そして遊大と目が合ったことを確認すると、にこやかにその手を挙げた。

プラチナ1…デュエルキングのお膝元で戦い続けるプロデュエリスト。多彩なシンクロ召喚と、基礎を裏切らない堅実なデュエルでその実力を伸ばしてきた決闘者、桐生 招平プロである。



桐生「やあ。よろしくな、トラブルメーカー。」



続く
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ランペル
遂に合宿へ突入!

日暮に敗れた事で、惜しくも☆9止まりとなってしまった阿原ですが、キャンデ率いる対抗合宿に誘われそちらへ行くことに!遊大達とは別の場所で鍛える事になるので、再開した時の彼の成長具合もなかなかに気になってくる所ですねぇ…。かなり化けてしまうかも?(期待。

そして、合宿会場では龍平の父親を含む様々なプロ選手の存在、個性的なデュエリストの面々との再会など増し増しで今後の展開の期待が高まりますね!さらには、日暮も一旦退場かと思われていましたが恐らくほぼ1キルに近いデュエルで、☆10に復活して合宿へ参加する事に。遊大とのデュエルに満たされつつも、さらに高まって行く遊大のデュエルが気になったんでしょうなぁ。

合宿2日目には、プロデュエリスト講師の元行われる指導。遊大の講師になったのはシンクロ使いの桐生プロ。堅実なデュエルをするタイプとのことで、どんな指導が入るのかが気になる所。

合宿も始まり盛り上がっていきますね!そして、合宿外でのデュエリスト達の鍛錬も期待が出来ます。
次回以降も楽しく読ませてもらいます! (2024-03-23 23:33)
コングの施し
ランぺルさん、閲覧コメントありがとうございます!

阿原、惜しくも敗退…!しかし彼もまた、かなりギラギラと勝利に貪欲な性格をしている部分があり、心配をしながらも自分を鍛えることに躊躇などしないタイプの人間です。そしてスクラップと言うデッキの拡張性。乞うご期待です。

遅ながら突入させていただきましたアカデミア合宿。それぞれがどんなプロのもとで、どんな研鑽を重ねて強くなっていくのか。書いているこちらとしても色々考えている部分があり、ちょっとテンポが悪くなってしまっている部分もあるかもしれませんが、今後の展開を楽しみにしていただけると幸いです! (2024-03-24 03:28)

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