21話　魂を繋ぐ龍　作：コングの施し

大会1回戦、遊大vs篠木の決闘が幕を開けた。先攻を握った遊大は、後攻でのエースモンスターの展開を目論む篠木の戦術を罠カードで捌く作戦を決行する。対する篠木は召喚権を使い、頼みの『溟界妃–アミュネシア』も除外されてしまったが、、？


篠木「これは1年のやることじゃないですね。」





篠木「ですがこの瞬間！コストで墓地に送られたゾーハの効果を発動するです！不本意ながらあなたにドローさせることになりますが、デッキから『溟界の滓－ナイア』を手札に加え、お互いのプレーヤーは手札を一枚墓地に送るです。」

遊大はカードを１枚ドローし、そのカードをじっと見つめる。

遊大（『魔の量産工場』のカード、、このデッキのリソース確保の要の１枚！だったら手札から墓地に送るカードはこれしかねえ！）

篠木「僕は『溟界の昏闇−アレート』を墓地に送るです！」

遊大「俺は『重起士道ｰゴルドナイト』を墓地へ送る！」

篠木「さらに手札のナイアを墓地に送り、効果を発動です。デッキから『溟界神−オグドアビス』を墓地に送るです！」

遊大（墓地を肥やしていくタイプのデッキ！だが通常召喚権は使った上にモンスターももういない！だったらこのまま！）

そう考えた刹那、篠木の口角がニッと上がる。

篠木「僕は手札から『溟界の邪睡蓮』を発動です！デッキから爬虫類族モンスター1体をさらに墓地に送るです！僕は『溟界の漠−フロギ』を墓地に！さらにこの効果を処理した時、墓地に爬虫類族が5種類以上あれば、墓地から爬虫類族もモンスターを特殊召喚できるです！」

篠木の足元に黒い洪が巻き起こり、フィールドを飲み込んでいく。

遊大「墓地に存在するのはゾーハ、ヌル、ナイア、アレート、オグドアビス、そしてフロギの6種類、、！通常召喚からの展開は止めたってのにまだ動けんのかよ！！」

篠木「僕のデッキはカウンター1枚で止まるほど甘くないです！現れよ！『溟界神−オグドアビス』！！」

黒い渦は再び巨大な蛇の貌を持って地上へ現れた。天へと伸びるそれはどんよりとくすんだものから金色に輝く羽へと姿を変え、遊大に向けて咆哮する。


溟界神−オグドアビス
☆10
光属性・爬虫類族／効果
3100/2200
（攻撃表示）


オグドアビスを背に、篠木は両手を大きく広げた。

篠木「見るです！今からオグドアビスがキミのライフを喰らい尽くすですよ！」

オグドアビスは真っ直ぐに遊大を睨みつけ、今にも襲い掛かろうと身を翻している。
遊大は追い詰められながらもその表情を曇らせることなく、額に汗を浮かべて頬えんだ。

遊大「嬉しいぜ！一回戦から本気で来てくれて！」


遊大（焦らるな、、！どんな状況も楽しむ！だから今は落ち着く！霧は吹っ切れたんだ！このデカブツをもっとも素早く合理的に片付ける方法を見つけ出せ！）

遊大は一度、目を閉じて深く息を吸い込み、胸を撫で下ろしながらそれをゆっくりと吐き出した。濁りきった恐怖や焦燥が呼吸に合わせて外へ出るのを感じ取ると、再び目を開いた。澄んだ視界でデュエルディスクの情報を確認する。


溟界神−オグドアビス
☆10
光属性・爬虫類族／効果
3100/2200
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドのモンスター３体をリリースして発動できる。このカードを特殊召喚する。
(2)：このカードがフィールドに表側表示で存在する限り１度だけ発動できる。墓地から特殊召喚された表側表示モンスター以外の、自分・相手フィールドのモンスターを全て墓地へ送る。この効果は相手ターンでも発動できる。



遊大（墓地から特殊召喚したモンスター以外のモンスターを全て墓地に送る効果か、、。だがこれはフィールドに存在する限り１度だけ！なんにせよフリーチェーンでの発動だからノーリスクで躱すのは難しい。だったら発動させるタイミングをこっちが作ればいい！）

篠木「バトルです！オグドアビスで、業火の重騎士に攻撃するです！」

オグドアビスが黒い渦へとその身を落とし込み、業火の重騎士へと急接近する。獲物を見つけた蛇は姿を再び見せると、それを飲み込まんと大きく口を開けた。

遊大「この瞬間！リバースカードオープン！速攻魔法『ライバル・アライバル』！お互いのバトルフェイズに、モンスター１体を『召喚』する！」

篠木「特殊召喚ではなく召喚です！？」

遊大「俺が召喚できるのは手札からだけじゃない！デュアルモンスターである業火の重騎士は、フィールドでの再度召喚によってその真価を発揮する！業火の重騎士を再度召喚！」

業火の重騎士が纏う炎が、一層強く赤く燃え上がる。

遊大「業火の重騎士は、再度召喚することで特殊召喚されたモンスターとの戦闘によるダメージステップにその相手モンスターを除外する効果を獲得する！」

篠木「なかなか厄介な効果です、、！だが今は攻撃宣言時！オグドアビスの効果を使えば間に合うです！オグドアビスの効果を発動！業火の重騎士を墓地に送るです！」

オグドアビスが咆哮すると、足元の黒い渦が無数の蛇の形を呈して業火の重騎士をその深くへと吸い込んで行った。

篠木「戦闘の巻き戻しです！オグドアビスでダイレクトアタックです！」

遊大「ぐあっ！！」
LP8000→4900

篠木（相手ターンでも発動可能なオグドアビスの効果をここで使わされた！故意でやったならやっぱり1年の実力じゃないです、、！）
「僕はカードを１枚伏せてターンエンドです！」

篠木
LP：8000
手札：1
モンスター：『溟界神−オグドアビス』
魔法罠：セット×１

遊大
LP：4900
手札：2
モンスター：
魔法罠：


遊大「俺のターン！」
（このカード、、、！とりあえず突破口は見えた！）

「俺は手札から『魔の量産工場』を発動！墓地に存在する通常モンスターを2体選択し、手札に戻す！」

篠木「通常モンスター？でも墓地の２枚は『業火の重騎士』と『重起士道ｰゴルドナイト』のはずです！」

遊大「デュアルモンスターは再度召喚していない状態でフィールド・墓地に存在するとき、通常モンスターとして扱う！対象の2枚を手札を加えるぜ！」

2人の戦士はカードとなって光輝き、吸い込まれるように遊大の手に収まる。

遊大「さらに俺は手札からこの魔法カードを発動する！『融合』のカードだっ！！」


ギャラリーでデュエルを見つめるマシロは目を丸くした。律歌の顔にも笑みが溢れる。

律歌「融合召喚をものにしたんだね。遊大。」


遊大「俺は手札の『業火の重騎士』と『重起士道−ゴルドナイト』を融合！
2つの魂は、真力を呼び覚ます竜へと受け継がれる！
融合召喚！
『超合魔獣ラプテノス』！」


ゴルドナイトと業火の重騎士はそれぞれその身を輝かせながら複雑に絡み合い、収束した光が弾けるとその竜は姿を現した。

体は縫合されたようにツギハギで、しかしその翼を広げて雄々しく咆哮した。


超合魔獣ラプテノス
☆８
光属性・融合／効果
2200／2200
（攻撃表示）


篠木「融合モンスター！？でも攻撃力はオグドアビスの方が上です！」

遊大「まだ終わってない！さらに俺は、手札から『エヴォルテクター　エヴェック』を通常召喚！」


エヴォルテクター　エヴェック
☆４
炎属性・戦士族／デュアル／効果
1500／1000
（攻撃表示）



遊大「本来、デュアルモンスターは１度の召喚ではその効果を発動することはできない。だが、ラプテノスがフィールドに表側表示で存在する限り、俺のデュアルモンスターは再度召喚された扱いになる！召喚・特殊召喚時にエヴェックの効果を発動し、墓地から業火の重騎士を再び特殊召喚する！」

炎を纏った司祭が一度その鉄球を振えば、フィールドに炎の嵐が巻き起こり、業火の重騎士が再び炎の内より姿を現した。


業火の重騎士
☆４
炎属性・アンデット族/デュアル/効果
1800／1200
（攻撃表示）


残されたリソースをフルに使い、モンスターを3体展開する遊大を見て、篠木は汗をぽたりと垂らす。


篠木（やっぱり1年の実力じゃないです！こちらの妨害、効果の誘発、そしてモンスターの展開までの流れに全く無駄がないです！）


遊大と篠木とのデュエルは佳境に突入し、流れが遊大へと大きく転じていた。一方そのころ、シード権を持った律歌を除く他のデュエル部員達の試合も既に始まっていた。


龍剛院嬢vs伊藤泰久

ターン4

龍剛院嬢
LP8000
手札：１枚
モンスター：
ドラグニティナイトｰガジャルグ
ドラグニティナイト−ゴルムファバル
ドラグニティｰギザーム
魔法罠：
ドラグニティ・ドライブ
セットカード×１

伊藤泰久
LP：2200
手札：０枚
モンスター：
雲魔物−タービュランス
雲魔物−アルトス
魔法罠：
雲魔物のスコール
セットカード×１



阿原克也vs西野浩三

ターン3

阿原克也
LP：6200
手札：4枚
モンスター：
スクラップ・ドラゴン
スクラップ・ドラゴン
魔法罠：
スクラップ・ファクトリー（フィールドゾーン）

西野浩三
LP：8000
手札：１枚
モンスター：
ミスティック・ソードマンLV４
イグザリオン・ユニバース
魔法罠：



マシロはコーヒーを片手にタブレット端末を操作し、生徒達のデュエルの内容を記録する。

マシロ（嬢は順調に連続シンクロで押し切れそうだな。阿原の方も戦闘破壊されないセットモンスターをミスティックソードマンで突破こそされたが、返しでスクラップドラゴンを2体までシンクロ召喚できている、、。遊大もうまくオグドアビスをさばけたみたいだし、とりあえず一回戦は問題無いか。）

そう考えをめぐらせ、はーっと深く息を吐く。閉じた目を細く開き、会場の中央で行われている試合に横目を合わせる。

マシロ（逆の意味で問題なのは『アイツ』だよな、、。相手は県でベスト8争ってる鳥居だぞ？やっぱバケモンじゃん。）


大石龍平vs鳥居彩香

ターン5

大石龍平
LP：7200
手札：１枚
モンスター：
巨神竜フェルグラント
幻創龍ファンタズメイ
黒熔龍騎ヴォルニゲシュ
魔法罠：
セットカード×１

鳥居彩香
LP：1400
手札：０枚
モンスター：
王神鳥シムルグ
ダークネス・シムルグ
魔法罠：
神鳥の列戦
神鳥の霊峰エルブルズ（フィールドゾーン）


彩香（ふええ、、王神鳥シムルグの効果で自身をヴォルニゲシュの効果から守れたし、攻撃も烈戦の効果でできないのに、、何かいい予感がしないよお、、。）

龍平「魔法カード『復活の福音』を発動。墓地から『アークブレイブドラゴン』を特殊召喚する。」


アークブレイブドラゴン
☆７
光属性・ドラゴン族／効果
2400／2000


フィールドに金色の光が差し込み、白銀の翼を携えて竜が飛来する。その咆哮は会場とフィールドを激しく揺らした。永続罠『神鳥の列戦』、そしてフィールド魔法『神鳥の霊峰エルブルズ』の２枚は光の粒となり弾け飛んだ。

龍平「アークブレイブドラゴンが墓地から特殊召喚に成功した時、相手フィールドの表側表示の魔法罠カードを全て除外し、そのカードの数×200ポイント、攻撃力をアップさせる。」

彩香「わああああっ！ごめんなさいごめんなさい！私なんかが姑息なカード使ってごめんなさいい！！」

龍平「、、これで攻撃は行える。バトルだ。巨神竜フェルグラントで、ダークネスシムルグに攻撃。」

フェルグラントは高く天まで駆け上がると、目にも止まらぬ速さで、その鋭利な牙を持って黒の巨鳥を切り裂いた。

彩香「ひいいいいっ！」
LP：1400→900

龍平「アークブレイブドラゴンで、王神鳥シムルグに攻撃。」

白銀の竜も続いて、太陽のような紅い炎で風を纏った巨鳥を焼き払った。

彩香「ひいいいいいい！！！」
LP：900→600

龍平「これで最後だ。幻創龍ファンタズメイでダイレクトアタック。」

彩香「私の負けですうううう！！」
LP：600→0


彩香は泣きじゃくりながらぺたりと膝をついた。しかし、その姿とデュエルの結末に驚きを隠せないものは決して少なくなかった。鳥居彩香、市内でも屈指の実力を誇るデュエリストである。弱々しい性格とは裏腹に、完全に相手を封じ込めるための強力なロック戦術を用いる。

枠と人数の関係から今回は彼女はシードを外されており、1回戦の相手が龍平であった。しかし、市内の人間からすれば彼女が１回戦で負けることは全く驚くべきことであり、同時に彼女を破った龍平に大きな注目が集められた。

そしてこの男も、彼のデュエルをじっと見つめていたものが１人であった。小さな体ですっくと立ち上がり、懐から１枚のカードを取り出す。名は、

『冥界龍ドラゴネクロ』

？？？「へえ〜。あやちゃん負けちゃったか。戦えたら楽しいだろうなあ〜！大石龍平くん！いや、りゅうちゃんかな？」

まだ遊大たちが知らない脅威が、黒く微笑む。



続く