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HOME > 遊戯王SS一覧 > 64話 気高き瞳

64話 気高き瞳 作:コングの施し

7年前のある夜のことだった。龍血組と誠剛会の闘争をめぐったその戦い。嬢はこのデュエルに立ち会っているだけに過ぎなかった。元々、小金井が頭目である栄咲の指示のもと、そのデッキを握っていた。

『そのモンスターさん、タイミングをのがしています。』

嬢が放った言葉。おおよそ6つの子供では理解に苦しむであろう内容を聞いた時、その場の全員が戦慄した。そして栄咲の指示により、躊躇う小金井を後目に、嬢は初めてそのデュエルディスクを握らされた。



TURN3 メインフェイズ

龍剛院 嬢 (ターンプレイヤー)
LP   :6800
手札   :2
モンスター:《ドラグニティナイトーゴルムファバル》
魔法罠  :《ドラグニティ・ドライブ》
フィールド:

柏井
LP   :8000
手札   :1
モンスター:《聖戦士 カオス・ソルジャー》
魔法罠  :《リビングデッドの呼び声》
フィールド:



「わたし、やっぱりこのデッキがすきです。
おともだちのちからをかりるデッキ………すきです、だいすき!!」


違う。そのデッキは違う。『友の力を借りるデッキ』などではない。それは力の象徴。相対する敵を奪い、侵してきた証。曇りのない笑顔と共に、《ドラグニティ》のカードに目を輝かせているこの純粋な少女に、それだけでも。それだけでも。

小金井「お嬢……そのデッキは!!」

続けようとした自分の声を、栄咲の手が止めた。いや止めたいうよりも自分の首に刃物を突き立てられたようなそんな悪寒が全身を駆け抜けた。その身が警鐘を鳴らす。この男は、彼女の父親は、龍血組の長は……

小金井(自分の娘を……!!)

蹂躙だった。でもそれは序曲に過ぎなくて、女神なんていうものがその時に微笑んでいたならば、それは嘲笑で嗤笑だろう。小金井は、この世界がいかに赤黒く染まっているのかを知っていた。何かを信じることへの恐怖も、それを学ぶ術も頭も持っていなかった。しかしだからこそひたすら残酷に、凄惨に、それは目に映った。

嬢「《アキュリス》さんのこうかですっ!
《せいせんしカオス・ソルジャー》さんを、はかいっ!!」

赤い稲妻が、白銀の聖戦士の鎧を慈悲なく貫く。結果など、わかっていた。弱った獣の首元に齧り付いて、その生き血を啜るような戦いだった。しかしその残酷さを、幼い少女が理解できるはずもない。

嬢「えへへ、ありがとう、みんな!」

そこに相手をどうこうしようなどと言う考えはない。ただそこには、ただ鳥獣と竜の繋がりを体現したようなそのデッキに目を輝かせる少女と、唇を噛み締める対戦相手、そしてただそれを見つめることしかできない小金井の姿があるのみだった。

嬢「ぼちから《アキュリス》さんと《レガトゥス》さんをじょがいっ!
……きて!《ドラグニティアームズーグラム》さん!!」

小金井(お嬢……。)

小金井の目の前の少女、もっと幼いころから彼女を見守り続けてきた自分にとって、彼女の手が汚れていく様は、一つの尊厳すら歪めていく。赤い嵐が吹き荒れ、見上げるほどの大剣を携えた竜の剣士がフィールドにでかでかと出現する。藍色に輝く瞳は柏井をゆっくりと見下ろし、その牙から熱った煙が溢れている。

嬢「そうびまほう、《ドラグニティのせいそう》を、グラムさんにそうび!!
こうげきりょくが1000アップし、さらにこうかで、《ブランティストック》さんもそうびです!!」


(ATK:2900→3900)《ドラグニティアームズーグラム》


小金井(……!!)

握りしめる拳に汗が滲む。
何をすることもできなかった。それは自らの背後に立つ栄咲の存在と、純粋さゆえにそのデュエルを楽しんでいる彼女が、そこにいたから。しかし自分は知っていた。そのデュエルの意味を。そしてそのデッキの意味を。

嬢「バトルですっ!!」
《ドラグニティナイトーゴルムファバル》さん、ダイレクトアタックっ!!」

巨槍、末端の刃が雷鳴を纏い、守る術のない柏井のLPを貫く。白刃が煌めき、その命とLPの灯火に、鮮緑の疾風が慈悲なく吹き荒ぶ。


(ATK:2600)《ドラグニティナイトーゴルムファバル》

(LP :5400) 柏井


柏井「うォああああああぁああぁあぁぁーーー!!!」

対戦相手の、柏井の顔が恐怖に歪んでいく。6つの少女が、命と裏の世界の権利を賭けたこのデュエルを征している。彼女の背中は誰よりも小さいのに、無垢であるがゆえの慈悲の無さが、小金井自身にも伝わってきていた。「お嬢」と彼女を呼ぼうと無意識に開けたその口が、彼女の発言によって上書きされた。喉を通ろうとした声が絶句に負けて呼吸が浅くなる。

嬢「《ドラグニティアームズーグラム》さん、ダイレクトアタックですっ!!」

『ダイレクトアタック』、と。幾度となく聞いてきたその言葉が響いた。カードを握った子供が、純粋に最もそれを楽しむ瞬間。勝利のダイレクトアタックの宣言がなされた。学校で、デパートの屋上で、公園で、家で、デュエルを楽しむものに、その勝者に許されたその言葉が、この闇の世界の底でも、響き渡った瞬間だった。


(ATK:3900×2)《ドラグニティアームズーグラム》

(LP :0) 柏井


赤い刃がLPを引き裂いた。柏井が、対戦相手が敗北した瞬間、それを確信した。それだけはあってはならない。栄咲の手が彼の胸ポケットに伸びていることを横目で捉えたから。だから体は咄嗟に動いた。デュエルだけだ。せめて彼女には、デュエルだけを。彼女の目は、その手は自分が守ると、そう思考と体の目的が一致した。


彼女がそれを目にすることなど、あってはならない。







一週間前、嬢が倒れ、搬送された次の日に、この病院の近くまで訪れている。彼女の容態も原因もわかっていない状況で面会など頼み込むのはお門違いというものだろう。しかし、今は違う。あれから10日の時を経て、童実野市内で最も大きなその病院の受付に、遊大と律歌、そして阿原は訪れていた。

遊大「いない……?」

耳を疑った。病院のロビーに、そんな遊大の声が響く。彼女が入院しているはずのそこに足を運んだにもかかわらず、その一言で徒労に終わってしまう。カウンター越しに話す看護師が不思議そうにこちらを見ている。

「はい。
龍剛院 嬢 さん、というお名前の方は当院にはいらっしゃいません。ちょっとご案内の方ができかねる状況なのですが……」

何が起きているのか理解できなかった。学校にはその容体や生死さえも伝えられていなかったのに、目の前の真面目そうな看護師が困惑気味にそれを話している。

律歌「ちょ、ちょっと……もう一度確認お願いできませんか…!!」

「いえしかし……」

学校まで、ましろの元まで『彼女が入院している』という情報はこの場所から届いている。逆に言えばそれしかないから今こうして足を運んでいる。しかし実際に伝えられたのは『龍剛院 嬢はいない』と言う矛盾した現実。

阿原「オイオイ…話だけ聞いてりゃ無法もいいとこだろうが!!
オレはともかく2人は倒れた当日にココの前まで来てんだぞ!?」

何かが起きている。異常な何かが。この病院に何かがあるのか。それともその裏にまた別の何かがあるのか。直視していいものなのか。一体自分たちは何に触れようとしているのか。謎が謎を呼び、思考と足を絡め取っていく。

遊大「阿原さん!!!」

奥から訝しげな顔で別の看護師が窓口のものへと耳打ちする。だんだんロビーとカウンター内外からの3人への視線が冷ややかなものになっていき、空気が冷えていく。

律歌「……遊大、阿原、いくよ。」

異端の者よ、ここを去ね、そう言わんばかりの周囲の視線が刺さった。自分たちは何もおかしいことをしていない。それだけに、ここにいてはならないという空気感に胸が苦しくなる。

「やっぱりここを訪れるよね。」

院の自動ドアをくぐった先にいた、その少年。
失意に肩を落とす3人、遊大と律歌、そして阿原の背中を、聞き覚えのある声が叩いた。やんわりとした声なのに、その声は以前よりもトーンが低く、その声の持ち主の思いがより鋭くなっていることを察させた。

遊大「……!!」

阿原「……お前…」

2人がそこにいた人間へと振り返る。ぽさっとした青黒い髪。白い肌に大きな瞳。彼の背に病院の窓から差し込む暁が、その目の輝きを奪っている。

律歌「日暮 振士くん、だよね。嬢の対戦相手だった……!!」

一週間前に合宿で顔を合わせたときよりも、彼の顔は痩せているように見えた。彼女が倒れたあの闘いの対戦相手だった日暮。2人はその表情を見た時に察しがついた。きっとこの一週間、そのことで頭を悩ませていたのだろう、と。

日暮「ひさしぶりだね。」

その一言と一緒に、彼の目は2人を見つめている。オレンジ色の光を背に、彼は2人へと歩み出そうとした。その時だった。

どかっ……
先に足を動かしていたのは、阿原だった。律歌が制止する間も無く、彼は日暮の胸元に手を伸ばしていた。掌が彼の頬まで迫り、その襟をがっしり掴んでいる。

律歌「ちょ、ちょっと阿原!!」

遊大が焦って飛びかかった阿原の袖を掴んだ。しかし、思えば当たり前のことだったのかも知れない。最後に嬢とデュエルをした張本人であり、その戦いの最中に、彼女は意識を失った。なぜ。それすらわからない状況で、白羽の矢が立ってしまうのが自分という存在であることを、日暮は熟知していた。

日暮「……。」

彼の胸ぐらを掴む阿原の手が震えている。日暮が嬢に何かをしたのであれば、許すはずがない。無理だったことはわかっている。それ以外の何かであっても、守護ってやってほしかった。何もできなかった情けなさと、やりようのない怒りで、冷静さを失っていた。

阿原「てめェ……拳斗じゃ飽きたらねェってかよ!!」

日暮「……わかってます。
ぼくがしてきたことを思えば、当然ですから。」

日暮は目の前の3人から目を逸らした。スターチップ争奪戦のこと、拳斗のこと、自分のデュエルで苦しめてきた人たちが大勢いること、自分が信頼をおける人物ではないことなど、彼自身が最もわかっていた。

律歌「落ち着いてっ!!」

遊大の手が阿原を日暮から引き剥がした。息を切らす彼の肩をがっしりと掴んだまま続けた。

遊大「日暮……お前が嬢に何かしたワケじゃないって、わかってるつもりだよ。」

律歌「だいたい、彼女になんかしてたら私たちの前になんか来ないからね。でも…」

日暮「ありがとうございます。でも、ごめんなさい。」

彼は、深々と頭を下げた。なぜ謝ったのかなど、彼は言わなかった。自分のせいで彼女を危険に晒してしまったと言わんばかりの謝罪に、頭を冷やしたのか阿原も手を離した。

律歌「でも!!
わざわざここにいて、私たちに話しかけたってことは、用があるんだよね。」

日暮「……場所、変えましょう。」







あの時、何かが弾けた。
嬢には、何も見えなかった。《ドラグニティアームズーグラム》の直接攻撃で対戦相手LPをゼロにした時、目付役だった小金井が、その大きな手で自分の目を塞いだから。今まで聞いたことがないほど大きな音がして、その後何十秒も、耳がキーンとしたノイズに覆われた。そこから何があったかはあまり覚えていない。
ただ一つ、彼の声が、狼狽える自分を宥めていた。

ずっと、「すいませんお嬢、俺にはこれしかできません。」と、それだけを何度も何度も繰り返していた。

灰色の四方に囲まれた部屋で、嬢はあの夜のことを思い出していた。
物心がつくにつれ、自分が組の武器の1つとして数えられることの、その理由の1つ1つが明るみになっていく。もう血に染まっているであろうその手が震えている。「私は…」と言いかけたその声が、止まっていた。

小金井「……お嬢?」

言葉の続きがなかった。小金井が低いゆっくりとした声で聞き返すと、嬢は今にも溢れ出しそうな涙を飲み込んで、続けた。

嬢「初めてのデュエルの時を思い出してたんです。」

小金井「あの夜のことは思い出さなくていい。
……思い出したいものじゃないでしょう、お嬢。」

小金井は、あの夜に彼女の目を覆った自分の右手を見つめた。あの時の彼でさえまだ高校生ほどの歳だった。でもそれを見るのはあまりに残酷だと、だからその目に手を翳したのだろう。彼女自身も、そこで何があったのかなど暗に理解している。わかっているからこの7年間、その話はしてこなかった。

嬢「あの時、小金井さん言いましたよね。『そのデッキは』、って。」

それ以上は彼女自身を苦しめてしまう。だからあの夜の話はしたくなかった。嬢の肩に手を置いてそう言った。しかしその甲に自分の小さな手を重ねた嬢は、真っ直ぐに小金井を見つめて言った。

嬢「……知らなきゃいけないんです。
私は《ドラグニティ》が好きだから。ドラゴンと鳥獣の絆がターミナルの世界で紡がれたあのデッキと一緒に戦ってきたから……!!」

小金井「……。」

嬢「教えて、小金井さん。
同じデッキを握ったことのある貴方から聞きたいんです。
倒すために!!自由を取り戻すために!!龍血組にとっての《ドラグニティ》はなんなのか、教えて…!!」

その言葉に、全身が引き裂かれてしまいそうな気がした。「倒す」とまで言い切った彼女の強さに、心と体が奮い立って、鼻筋の頭がぐっと熱くなった。自分を信用しているから、味方だと確信しているから、こう言ってくれているから、彼女の思いを信じるしかなかった。







1人だった。両親も、兄弟も、自分は知らなかった。ただ、「小金井 敦弘」と言う名前だけを、物心ついた頃には既に身を置いていた施設から与えられた。誰も相手をしない。誰の相手をして良いかもわからない。そんな時に自分の手にあったのは、1つのデッキだった。

『なんだ、デュエルできんのか。しかもまあいい腕してんじゃねえか。』

その声が、龍血組の頭目である龍剛院 栄咲との出会いだった。組に拾われるような形で、1人の自分に残ったデュエルの腕だけを徹底的に叩き上げられた。翌る日も翌る日も、灰色の部屋でデュエルをさせられた。子供だと、容赦する人もいれば手加減なしに勝負を取って、負ければ癇癪と暴力に身を任せるものもいた。しかし考える余地などなかったから。自分には、それしかなかったから。

『なァ小金井よ。お前のデュエルで、人を動かしてみたくはねえか?』

また、彼の声だった。今思えば、初めて裏の世界でのデュエルをしたのは、彼女と、龍剛院 嬢と同じ6つの時だった。それが因果だったのか、それともこの先に抱えなければならない罪だったのか、きっと、どちらも正解であり不正解だった。しかし、確かに、自分が一生涯背負わなければいけないデュエルだったと言うことは変わらなかった。変えられなかった。

かねてよりデュエルマフィアとして、勢力とシノギを拡大し続けていた『龍血組』と『霞乃会』。その2つの勢力の衝突の最後の砦として龍血組から駆り出されたのが自分であった。そして、霞乃会より、自分と同じロールを背負わされた人は。その人は。


その人は、対戦相手は、龍剛院 嬢の母親となる人だった。


戦いは熾烈だった。ドラゴン族で塗り固められた自分のデッキ、龍血組の戦士として自分に握らされたデッキと、霞乃会が最高戦力としていた《ミストバレー》のデッキ。

『《霞の谷の巨神鳥》の効果を発動。その効果、咎めさせて頂きます。』

高潔な声だった。大きな瞳と長い髪を振り乱し、風を切ってデュエルをするあの人の姿が、自分の瞳孔に焼き付いていくのを感じた。しかし自分を追い詰めんとする手の一つ一つに、自ずと自分の中に回答が生まれてしまっていた。

『《レベルダウン!?》発動。《LV7》をデッキに戻し、《アームド・ドラゴンLV5》を墓地から特殊召喚。』

噛み合っていた。相手と自分の、一手一手が。それゆえに、まるで力の差をしらしらしめとするように、龍血組と霞乃会の優と劣の幅はみるみる広がっていく。幼かった自分であっても、そのデュエルの攻勢の1つ1つが、人間を殴りつけているような、生々しく痛みを伴っているものだと実感できてしまった。そして、その瞬間は訪れる。

『《アームド・ドラゴンLV10》のダイレクトアタック。アームドビッグパニッシャー…!』

ほろろ、と、遠雷が彼女の体を貫いた。霞乃会の敗北を告げる儚い電子音と共に、傍でその戦いを見ていた龍血組の男たちが、懐から黒いの筒鉄を抜く音が聞こえた。デュエルが決着すれば、その先に待っている結果などわかりきっていた。硝煙が赤く染まってしまうほどに凄惨な光景。目の前で、それは確かに起こった。

『霞乃会はこの瞬間より、龍血組に吸収合併。……消失とする。』

栄咲の、低い声が響いた時に、ようやく耳を破るほどの鉄の声が止んだ。真っ赤に染まったその場に立ち尽くしていたのは、自分を含めた龍血組の者と、対戦相手であった「その人」だけだった。黙って立つことしかできない彼女は、組の男たちに手を引かれて去っていった。

あの日以来、「その人」がどこで何をしているのか、知る由などなかった。しかし、その数年後に顔を合わせた赤子に、その目に彼女を感じ取ってしまった。だからこそ、彼女の、嬢の教育役として名乗り出て、ずっと嬢と同じ時を過ごしてきた。

『お嬢………小金井です。俺の名前は。』

『こがねー!!』

これは罪だ。自分があの時、彼女の人としての命を絶ってしまったからことへの罪だと、そうとしか思えなかった。滅ぼすしかない。彼女の、龍剛院 嬢の血が呪われているならば、せめて自分が、自分の手で彼女を、生きたい方向に、彼女のしたいようにできるようにするしかない。

『小金井……これは、現状でウチの最高戦力のお前に持たせる。
………お前が一番持っとくべきモンだろ?』

そんな折に、自分の手に渡されたそれは、最大の皮肉だった。身を削ってでもここから彼女を自由にしたい自分と裏腹に、『霞乃会』を破った証である《ドラグニティ》のデッキと、龍剛院 嬢の身だけが、自分の手の中にあった。

『喜べよ……実際お前の手柄だ。嬢も、その《ドラグニティ》もな。』

勲章だと、そんな生やさしいものではない。自分の中にあるのは、殺した相手が最後に紡いだ命と、その生首とも言えるデッキ。自分の中で煮えたぎる罪悪と、行き場のない怒りを溢しそうになりながら、この日まで生きてきた。しかし、目の前にいる嬢に諭されるように、自然と自分の口は動いてしまっていた。







小金井「お嬢……俺なんです。
《ドラグニティ》のデッキと、あの人の生きる道を奪ったのは……!!」

震える声が、灰色の部屋に響いた。全てを、この15年間の全てを、彼女に告げた。告げてしまった。彼女自身の母親のこと、《ドラグニティ》のこと、そしてそれらを全て奪ってしまった自分のこと。きっと彼女は、現実に絶望するかもしれない。今この瞬間にも、命を絶ってしまいたいと思うかもしれない。

嬢「……ありがとう。」

こぼした言葉に表情を歪めながらも、嬢はゆっくりと頷いた。その目の先にある小さな手は、もう綺麗な少女のものではない。しかしだからこそ、彼女は小さくゆっくりでも確かに、言い切った。

嬢「……もう迷い無く、《ドラグニティ》を倒し切れます。」

一つ、誤算があった。それは、彼女の強さ。彼女は、もう自分の手が汚れていることなど、知っていた。そして、その手に握っていた《ドラグニティ》のことも、きっと察していたのだろう。だからこそ、自分の母親の生きる術を絶った男に怒りなど向けることをせず、熱い涙と共に、それを飲み込もうとしている。その、自分の運命を変えんとするその姿が、何よりも美しく、高潔に思えた。

小金井「教えてください。俺にできることを……!!」

気高き瞳を継ぐ、勇き者。美しいその背中を追いかけていたのは、真っ赤に手が染まった自分だった。ここから、この世界から出んとする彼女のために、自分にできることは。龍の血に汚された1人の男が、立ち上がる。



続く
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ランペル
なんと…重たいのか…。

子どもとは純粋で無垢で無邪気なもの。だからこそ、デュエルを真っすぐ楽しめる…。
そもそもデュエルの裏で人がうぴゃーしてるのが、常識はずれって事を認識するんだ!(動悸。

小金井へと話を聞き、過去を知った嬢。
それにより、ドラグニティというデッキが意味するものの全てを理解しましたね…。彼女の母親の命を実質的に奪ってしまった小金井の心労を考えると、やはり苦しいものがあります…。話してしまったことで、嬢の心を殺しかねない選択をした小金井でしたが、その前にはとても強い少女が居るだけでしたね。
自らの手が汚れている事も承知の上で、真実を聞き出した嬢。そして、母の命を奪った形になる小金井へ感謝を告げるだけ…。
嬢の姉御ぉぉぉぉと叫びたくなってしまう程に、お強くなられました。

彼女に感化され小金井も立ち上がる事を決意!!
果たして龍血組は、嬢の未来は?次回も楽しみにしております!! (2024-06-08 00:01)
コングの施し
ランペルさん、閲覧とコメントありがとうございます!

今回、そして前回は嬢の過去編でした。組長の意向とあれど、嬢の母親の生きる道を閉ざしてしまったことが、彼が罪滅ぼしとして彼女に付き添うことにリンクしていることを汲み取っていただいて嬉しい限りです!常人では想像することすらできないような、本当に常識離れした生まれと過去を持っているからこそ、温め続けてきた嬢の強さ。小金井の心配をすでに通り越し、彼女は自分が生きる道を決めるフェーズを見越しています。龍血組と嬢の運命、見届けていただけると幸いです!

本当にいつもコメントいただいて励みになっております!ゆっくりとではありますが、更新も頑張らせていただきます! (2024-06-16 00:46)

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