30話　決闘の導火線　作：コングの施し

7月、年内最大規模の公式大会、全国決闘王杯中学の部の市予選が2週間後まで迫る。じりじりと照り付ける太陽の元、遊大たち東雲中メンバーは、こんもりとした緑に包まれた光妖中に再び訪れていた。
甲冑をまとった狸モンスター《No.６４ 古狸三太夫》と、光り輝く鱗の鎧を携えた《神竜騎士フェルグラント》が対峙する。《No.６４ 古狸三太夫》を従える熊の着ぐるみを着込んだキャンデと、《神竜騎士フェルグラント》を駆る龍平のデュエルが始まっていた。合同の練習会では、EXデッキの召喚法ごとにメンバーが分かれてデュエルをしており、この2人はエクシーズモンスターを操っている。


TURN:2

龍平（ターンプレイヤー）
LP:8000
手札：3
モンスター：《神竜騎士フェルグラント》《星導竜アーミライル》
魔法・罠：
フィールドゾーン：

キャンデ
LP：8000
手札：2
モンスター：《No.64 古狸三太夫》《影武者狸トークン》《花騎士団の白馬》
魔法・罠：セット×1
フィールドゾーン：

キャンデ「呼び捨てでいいって言われたからいうけどよ龍平。お前がX召喚の特訓ってのがなんだか意外だな。この前の大会じゃそりゃ融合もシンクロもリンクも使っちゃいたが、一番使ってたのはX召喚だし、別に特訓する必要もねえんじゃねえのか？」

熊の着ぐるみのおかげで表情こそ見えないが、キャンデはわかりやすく首をかしげるボディランゲージを見せる。龍平は表情を変えずに答えた。

龍平「召喚法の多さは手数の多さに直結するわけじゃないんです。それどころか、EXデッキのモンスターを呼び出すためのカードがノイズになってしまうことすらある。」

キャンデはその意味がいまいち呑み込めていないのか、今度は逆方向に首を傾げた。

キャンデ「ン…？まあいいか、さすがにつええやつの思考は深いなァ。」

龍平「というか、今日は斬隠輝久は来てないんですか？」

キャンデは疑問のたびにメトロノームのように頭をゆらゆらさせる。

キャンデ「…ああ？なんで龍平が気にするんだよ？」

龍平は左手を首の後ろに回し、困り顔を浮かべた。

龍平「いや、あいつの妹とは戦ったことあるけど、なんだかんだ本人とはやったことないなあ、って。」

キャンデはその言葉を聞くと手をポンと叩き、納得したようにうんうんとうなずいた。

キャンデ「ああなるほどそういうことか。アイツなら、今日はライバルからお忍びで秘密の特訓だとさ。」

そう言うと、着ぐるみの自由の利かない手を、シンクロ召喚の特訓中の遊大の方へと指した。
～



キャンデが指さすその先、S召喚のスペースでは、『六武衆』使いのツァン・ディレと『デュアル』の遊大が戦士同士の鍔迫り合いのようなデュエルを繰り広げていた。

TURN：5

ツァン・ディレ　（ターンプレイヤー）
LP：7400
手札：4
モンスター：《真六武衆－カゲキ》《六武衆の影武者》
魔法・罠：
フィールドゾーン：

遊大
LP：6300
手札：3
モンスター：《重起士道－ゴルドナイト》
魔法・罠：《金剛真力》セットカード×１
フィールドゾーン：


ツァン「ボクはレベル3の《真六武衆－カゲキ》にレベル2の《六武衆の影武者》をチューニング！シンクロ召喚！現れて！《真六武衆－シエン》！」

《真六武衆－シエン》
☆5 闇・戦士族/シンクロ/効果
2500/1400

蒸し暑い体育館の中で、光妖の生徒と東雲の生徒がデュエルに汗を流す。ツァンディレの高々とした宣言とともに紅の鎧武者がフィールドを引き裂く。

遊大「来やがった！」

遊大の《重起士道－ゴルドナイト》がシエンに真っ二つに裂かれる。ターンこそ回ってくるが、次の動きを考えるべく、いったん手を止める。

遊大(まずい...!Sのシエンは魔法罠を一回止めるんだよな。こっちのキーカードの《デュアル・アブレーション》を通せねえ！)

黙り込む遊大を前に、ツァンディレは誇らしげに口を開く。

ツァン「ふん。各召喚法ごとにセクションを分けての練習試合なんだから、はやくS召喚しなさいよね。キミ、別にこの前の大会だって《アームズ・エイド》しか出せてないじゃない。」

遊大「いやいや、そんなこと言ったって…」

眉を顰める遊大だったが、そこまで言ったところで言葉を止めた。頭の中で浮かんだ可能性の影をしっかりと目に捕えるために自然と口が止まっていた。

遊大（これなら…、いけんのか？）
「俺は永続罠《デュアル・アブレーション》を発動！」

宣言の瞬間に、その罠カードはシエンの斬撃で3枚に卸された。

ツァン「ボクはシエンの効果を発動！そのカードの発動はさせないわ！」

切り裂かれたカードの影から、遊大が得意げに表情を覗かせる。

遊大「やっぱりな。
俺は《金剛真力》の効果を発動！手札から《エヴォルテクター エヴェック》を特殊召喚し、さらに再度召喚！」

ツァン「狙い通りってわけね。」

渦巻く炎の中から鎖がこすれる金属音が鳴り響く。炎をまとった戦士が、モーニングスターを振りかざしながらフィールドに姿を現した。

《エヴォルテクター エヴェック》
☆4　炎・戦士族/デュアル/効果
1500/1000

遊大「その効果により、墓地から《チューンド・マジシャン》を特殊召喚！そして装備魔法《スーペルヴィス》を《チューンド・マジシャン》対象に発動！」

《チューンド・マジシャン》
☆4　風・魔法使い族/デュアル/効果
1800/1600

その瞬間、風をまとった魔導士が杖を地面に突き立てる。その身が薄い光の粒子となり、その4つの光は緑色の閃光の輪を描く。風を纏った光の輪と、炎の戦士の身が重なり同調する。まばゆい光の奥に、黒い龍を模った巨大な影が垣間見える。

遊大「《チューンド・マジシャン》は、再度召喚している場合、チューナーモンスターとして扱える！！目ん玉ひん剥いて見ておけよ！これが俺のシンクロ召喚！」

〜
斬隠家、遊大と会った時とは打って変わって白い装束に身を包んだ輝久がデュエルディスクを手にだだっ広い道場に佇んでいる。その足元には鉛筆の書き殴りあるノートが何冊も散乱している。そんな輝久を、扉の影から見つめる典子の姿があった。

典子（もう明け方から8時間…。ずっとデッキを回してはノートにメモを取って、それも飲まず食わずで。『才能』だのなんだのと騒いでいた前の兄様とは大違いですわ…。）

輝久は何も言わずに淡々とカードをプレーする。しかし体力に限界が来たのか、一瞬ふらついたと思えば、ついにはガックリと膝をついてしまった。手にあったカードがバラバラと床に飛び散る。邪魔をしないよう努めていた典子も、彼の身を案じて道場の輝久の元へ飛び出す。

典子「兄様！無理しすぎですわ！」

膝をつく輝久の肩を、しっかりと支える。装束の上からでも、熱った体と滲んだ汗を感じることができた。真っ白い顔をした輝久が息を切らしながら立ち上がる。典子の方へと微笑むと、優しく語りかけた。

輝久「はぁ、はぁ…。ありがとう典子。水、持ってきてくれないか？」

典子はその言葉で驚きを隠せない。もうフラフラだというのに、この人はまだ続けるつもりなのか、と。

典子「ちょっと！まだ続けるつもりなんですの！？最近無理を通しすぎですわ！もう1週間も家にいる間はこんな調子じゃないですの！」

頬に伝う汗を手の甲で拭い、床に散らばったカードを拾い上げる。

輝久「心配してくれてたのか…。ありがとうな。
でも遊大たちに負けてられないからね。それに、『このカード』で…新しいデッキで戦いたいんだよ。」

そんな彼の手の中には『戎の忍者－冥禪』のカードが握られていた。

典子「それって…、次期斬隠家当主の兄様のみが使うことを許されたカードですのよね。だったらそんなに急がなくても…。」

輝久は白い顔を再び典子の方へと向け、精一杯得意げな表情を作ってみせた。

輝久「今まで、『才能』に驕っていた僕が目を背け続けてきたカードなんだ。僕なんかじゃ使えないって。でも…！」

輝久はゆっくりと前を向く。誰を見るでもどこを見るでもなく、ただただまっすぐに進もうという意思が、その目に宿っているように典子は感じた。

輝久「そんな言い訳、彼らの前じゃカッコ悪くて言えないじゃないか…！」

どこまでも進み続けようとする決闘者たちの物語。彼らの戦いの導火線は、全国決闘王杯で交差する。決闘者のプライド同士の火花が飛び交うその戦いが、幕を上げようとしていた。