11話 託す者　作：コングの施し

ましろ「ハイお疲れ！いいデュエルだったぞ〜」

夕暮れの屋上で行われたタッグデュエルは、律歌のアークロード・パラディオンによるワンショットキルで幕を閉じた。

各々疲れたのか、部室に戻るとぐったりとしていた。

嬢「律歌先輩、強いんですね。私ももっと勉強しなくちゃ…」

嬢は悩んだように自分のデッキのカードを1枚1枚めくっている。

律歌はパイプ椅子に座ったまま1年2人のほうへ振り向いた。

律歌「デッキの強化の仕方はね、大きくわけて2つなんだ。」

遊大「2つ？」

律歌「1つは確かな勝ち筋を持った上で、その成功率をあげる構築方法。これは嬢ちゃんのデッキに向いてる気がする。」

遊大「じゃあ、もうひとつは？」

そこまで言ったとき、窓際に寄りかかっていた阿原が口を開いた。

阿原「1つの勝ち筋が潰えても大丈夫なように、2手目3手目を用意するやり方だ。
遊大、負けたオレがとやかく言うモンでもないが、お前のデッキは1本目が潰れやすい。」

遊大はその言葉を聞いて、過去のデュエルを思い出した。

遊大(1手目の勝ち筋…フェニックスギアフリードで相手を圧倒するやり方か…。確かにましろ先生の時はコントロールを奪われたし、阿原さんの時も、背反の料理人がいなきゃ負けていた…)

遊大「ウス…。なんとなく自分でもわかってます。」

律歌「そこで、だよ。ちょっとデュアルモンスターとか通常モンスターの2手目3手目のエースを探してみたらどうかな。」

ましろ「ヨシヨシ。なかなか部活らしくなってきたじゃないか。まあお前ら、今日はもう解散していいし私も帰るけど、週末には光妖中との練習試合を予定してるから、まそのデッキ強化とやら、終わらせておくよーに。じゃあまたな！」

何気なく飛び出した「週末の練習試合」。
そのワードに各々驚きを隠せなかった。

嬢「エッ！早くないですか！？そもそも練習試合って案もさっき…タッグデュエルの前に出たばっかりじゃ…。」

ましろ「ああすまん。さっきお前らがタッグデュエルに夢中になってる間に、もう光妖中の顧問にオペとっちった…。」

阿原「はっや…。」

遊大「先生って、普段すっげえドライなのに、デュエルのことってなると、めっちゃエキサイトしますよね…。」

ましろは部室のドアの前で部員たち全員の顔を見つめる。

ましろ「エ…だめだったか？ま、まあ決めちゃったし…ゴメンな？…じゃあそういうことで！」

そう言って足早に帰っていった。

律歌は少々呆れたように立ち上がる。

律歌「まあ決まっちゃったものはしょうがないよね。今日はこれで解散でいい？」


〜



部員たちが部室を去り、遊大が鍵をかけていると、廊下の奥からコツコツを足音が聞こえた。

「少年！」

その声は、以前遊大に声をかけた男のものだった。

遊大「双剛…拳斗先輩？」

拳斗「覚えてくれていたか。感謝するよ。」

2人は部室棟外のベンチに腰掛けた。

拳斗は遊大を見ると、少々つらそうな表情を浮かべ、うつむいた。

拳斗「俺が、俺が臆病で、そのあまりに君に後継を任せてしまって、悪かったよ。」

遊大「いいや、別にいいんすよ。俺だって、デュエルは好きですから。だから声をかけたんでしょう？」

拳斗「でも、それが君の本意でなかったら、俺は本当に君に悪い事をした。いや、たとえデュエルが好きであったとしても、無責任だよな…。」

遊大「まだ始まったばっかだけど、俺はきっと、デュエルをやってて後悔なんてしませんよ。」

拳斗「そうか…。ならよかった。」

拳斗はつらい表情から、少しずつ笑みを取り戻していった。

拳斗「さっきのデュエル…本校舎の屋上から見ていたよ。阿原も律歌も、元気そうでよかった。」

そこまで言うと、拳斗は制服の胸ポケットから一封の封筒を取り出した。

拳斗「これは餞別だよ。受け取ってくれ。きっと君の力になる。」

遊大「え、いやなんかこう、いいんですか？」

拳斗「君には遠慮は似合わないよ。さあ。」

遊大は少し申し訳なさそうに封筒を受け取った。
封筒は軽く、中には2枚ぐらいのカードが入っているようだった。

遊大「これって…。」

拳斗「君になら使いこなせるだろ。古いカードだし、探すのに苦労したんだ。力になってくれると幸いだよ。」

遊大が封筒を鞄にしまったのを見ると、拳斗は立ち上がり、背を向けた。

遊大「ありがとう。拳斗さん。」

拳斗「礼はいいさ。時間を取らせてすまなかった。君なら、きっとこの学校のデュエルの歴史を塗り替えてくれるはずだ。ありがとう。期待しているよ。」

そう言って、拳斗は校門を後にした。

遊大は再び封筒を取り出し、中のカードを確認した。

『融合』そして『超合魔獣ラプテノス』のカードがそこにはあった。