turn38:サイバー流の後継者　作：どらっせ

　｢誰か俺とデュエルしろ〜！！｣

　叫ぶ遊児の前にオベリスク・ブルーの制服を着た男が現れる。

　｢よければボクが相手になろうか？｣

　その男は背が低く、具体的には明鈴より少しだけ高いくらいで、左右にはねた水色の髪と鼻眼鏡が特徴だ。それより遊児の目をひいたのは、ブルー寮の制服、それも裾がロングコートのように長い制服を着ていることだ。

　｢ぶ、ブルー寮だ！よっしゃ！よーやくツキが回ってきたぜ！｣

　｢確かにブルー寮だったけど、もしかしてブルー寮の生徒とデュエルしたいだけだったら、ボクじゃダメかな｣

　｢え、何で｣

　｢だってボク、卒業生だからここの生徒じゃないもん｣

　一方その頃、校長室にて。校長室ではクロノス校長と、ある教師が話をしていた。

　｢…というワケなのーで、アナータにはその試験デュエルを見届けてほしいノーネ。病み上がりで申し訳ないーのですが、お願いできまーすカ？蚕先生｣

　｢…わかりました。私も、本人も辛く苦しいデュエルになると思われますが、何としても見届けます。
　それに、私は彼に教師として何かを教えるなんてことがあまりできませんでしたから、些細なことでも寄り添ってあげたいのです｣

　深く眠っていた蚕先生。今朝目覚めたようで、目覚めて早々にクロノス校長に呼ばれていたのだ。

　｢校長、蚕先生、何か用でもあるんスか？｣

　扉開けて校長室に来たのは誠弥だった。彼も呼ばれていたのだ。

　｢実は会わせたい人がいるノーネ｣

　｢人って…。今朝起きたばっかの蚕先生かよ？起きてるってのはさっき装介から聞いたから別になんも思わねぇけど｣

　｢あー違う違う、確かーにそっちも大事デスーガ…ってホント遅いノーネ…｣

　クロノス校長が微妙な顔をしていると、遊児と鼻眼鏡の男が校長室にやってくる。

　｢遅れてすみません。お久しぶりですクロノス先生｣

　｢シニョール翔！待っていたノーネ！シニョール誠弥、君に会わせたかったのはこの人なノーネ！｣

　丸藤　翔。かつてデュエル・アカデミアを首席で卒業、その後は新しいプロリーグを立ち上げ、自らもプロとして絶え間なく成長を続け、いつしか｢カイザー｣と呼ばれるようになった男だ。

　｢え？この人そんなに凄いのか？｣

　｢凄いも何も、有名人ですよ！｢カイザー翔｣はプロの世界では知らない人が居ない程に有名なんです！｣

　デュエルしとけば良かったな、と思う遊児を置いといて、クロノス校長が本題に舵を切る。

　｢さて、蚕先生には既に伝えましーたが、誠弥くん。アナータはプロリーグへの推薦を受けたのです。ついてはその推薦をかけてシニョール翔とデュエルしてほしいノーネ！｣

　｢…なんだそんなことか。ケッ、せっかく来てくれて悪ぃけど俺はプロなんて興味ねぇよ。
　それに、俺はここを出るならもっと強くなってからだ。この前の騒動や、装介とのデュエル…まだまだ俺は弱い。だから強くなりたい。プロなんて、まだ早ぇよ｣

　そう言い残し、去ってしまう。どことなく冷めた雰囲気の誠弥に遊児は違和感を覚えていた。

　｢…皆さん、ここはボクに任せて。…大丈夫。彼の気持ちはボクもわかる。｣

　…
　そう言ってカイザー翔が向かったのはレッド寮付近の釣り堀だった。

　｢まだ何か用かよ？プロって暇なのか？｣

　｢君と話をしたいんだ。…君にとって、デュエルってなんだい？｣

　｢俺にとって…。楽しいものだ。勝ったら嬉しくなるし、負けてもまた強くなろうってのが湧いてくる。
　…ついこの前まで忘れてたな。こんな気持ちを。遊児に会ってからだ。こんなの思い出したのは。
　こんなくだらなくて、ダサくて、かっこ悪くて、…熱い気持ちはよ。
　今だってそう思いたい。けど今はただ負けるのが嫌で嫌で仕方ねぇ。前みたいに負けに負けてこんな気持ちすら忘れちまってくたばるのを待ってるだけになるのが嫌だ。そうだ、勝ちてぇ。誰相手でも！例え遊児でも装介でも蚕先生でも！…でもよ、そんなの俺の思ってるデュエルじゃねぇんだよ｣

　｢君はどこか昔のお兄さんに似てるね。勝ちたい本心と、勝敗に拘らない心持ちに板挟みになっている。
　決めた！ボクとデュエルしよう。そうすれば何か解決するかも｣

　｢へっ。なんかテメェの手のひらの上って感じでやな感じ。でも受けて立つぜ！｣