turn36:困ったコト3つ　作：どらっせ

　破滅の光は消滅した。夢中のあまりか、気力を振り絞ったためかデュエルが終わった後放心状態になっていた遊児は、気づくとボナパルト教頭が倒れていただけの場を見渡していた。
　謎の男はもう立ち去っており、《失楽園》も七精門もない殺風景な場が広がっている。静かな風に木々が揺れる音しかないこの場は、先程までデュエルしていた場とは思えない程に静かだった。

　「って！あの人の名前聞くの忘れてたー！」

　静寂を破ったのは遊児の大声だった。慌ててボナパルト教頭に駆け寄り、ホワイト寮に戻る。
　そこで目にしたのは、正気に戻り慌てふためくブルーの生徒達だった。

　「これは…もしかして皆元に戻ったのか!?」

　広間には大勢のブルーの生徒が自らが白い制服を身につけていることに戸惑う光景が飽きるほどに見られていた。白いからか、青や黄色の制服が目立つため、連戦でくたびれていた欠流と大禍津先生の姿があった。

　「も、もう…懲り懲りじゃ…。あんな奴らの相手など…してられるかッ…」

　「全く…。同感です…。」

　くたびれ、愚痴をこぼす2人の姿を見て喜びに満ちる遊児は2人の様子を他所に駆け寄る。

　「2人共ーッ！無事だったか！良かったーッ！」

　柄にもなくはしゃぎ2人に抱きつく遊児を嫌々受け入れ、しかめっ面になる大禍津先生と、無事に帰ってきた友の顔を見て笑みが溢れる欠流。3人はそのままホワイト寮、いや、ブルー寮を後にする。
　玄関先で、気絶している蚕先生とそれを抱える天上院先生と、明鈴と再会する。

　「遊児！皆無事だったんだ！」

　「明鈴！天上院先生！蚕先生…は気絶してるけど皆無事か！良かった！」

　「蚕先生を気絶させちゃったのは私だけど…。こっちに戻ってきた明鈴さんとなんとか運ぼうとしたんだけどね。皆、何事もなくて良かったわ。」

　各々、それぞれの無事を確認し、安堵する。

　「あ！そうだ、聞いてくれよ皆！さっき教頭とデュエルした時、ある人が一緒にデュエルしてくれたんだよ！俺と同じHERO使いでさ！今度あったらデュエルしてぇよ！」

　一瞬、HERO使いと聞いて少し興味を持った天上院先生。しかし何かを察したのか、笑みを浮かべる。
　賑やかなブルー寮前に、見かけない人物が現れる。

　「アナータ達がこのホワイト寮事件を解決してくださったのデースネ？ワタークシが居ながら力になれず申し訳ないノーネ」

　「誰だアンタ！」

　敵意を向け、デュエルディスクを構える遊児。しかしその人物を知っている大禍津先生と天上院先生は遊児の手を下ろさせる。

　「特に！シニョール遊児！アナータが教頭に入り込んでた邪悪なナニーカを祓ってくれたらしいノーネ。本当に感謝しかないノーネ！」

　「え？なんで俺の名前を…？」

　「あぁ、遊児君は知らなかったのね？この人はクロノス校長。このデュエル・アカデミアの校長よ」

　「えぇ!?この人が!?こんな顔が漂白したみてぇに白くてフリフリフリルのイタリア被れが!?」

　「初対面に対して失礼なノーネ！被れじゃなくて本物なノーネ！
　…オホン！とにかくシニョール達には感謝してもしきれないノーネ。教頭に幽閉されられて困っていた所を懐かしいドロップアウトボーイが助けてくれたのはいいものの、ワタークシだけではきっと教頭達を止めれなかったノーネ…。」

　校長を助けた奴って誰だ？という疑問は飲み込んで、遊児は校長の姿に相変わらず疑問を持っている。特にフリルに。

　「しかーし！一件落着という訳にはいかないノーネ！」

　「え？」

　「実は困ったことがあるノーネ…
　だいたい3つくらーいは。1つ目ーは！レッド寮が廃寮するかどうかの処置ーをどうするかなノーネ！」

　「そういえばそうだったー！」

　「しかもブルー寮の生徒に勝たなきゃいけないのに倒してたのホワイト寮の人達だー！」

　どーしよどーしよと慌てふためく遊児と明鈴をよそに、ふと思った疑問が天上院先生の頭の中によぎる。

　「そういえば、龍ヶ崎君と誠弥君はどこへ？私が最後に見た時は玄関前に居たけど…」

　「そのセニョール達なら、ここに来る前に見かけたノーネ。洗脳解けたはずなノー二デュエルしてたノーネ」

　「そ、そうなの…。で、2つ目の困ったこととは何ですか？」

　「2つ目ーは、教頭の処分なノーネ。やってしまったことは到底許されることではないノーネ…」

　深刻な問題だが、遊児は少し考え込んでいた。

　「でもさ校長先生。教頭があんなことになったのは俺達にも原因がある気がするんだ。
　落ちこぼれの俺達を見て学校を良くしたいって思ってたようだったし、ホントは学校を良くしたいって思って暴走しちゃったんじゃないかな。だからあんな感じになっちゃって。
　そう思うとさ、教頭のことは悪いようにしてほしくないんだ」

　「ムムーム…。確かにシニョールの言い分も一理あるノーネ…。
　とにかーく、アカデミアから追い出すーなんて事はしないノーネ！安心してほしいノーネ！」

　ニカリと笑顔を見せる校長。安堵したのか、遊児はほっとした。

　「そして3つ目ーに、ホワイト寮の処分なノーネ！あんな真っ白けっけーに染められたーラ、元に戻すのに時間かかっちゃブルノーネ！　　　
　そのたーめ、暫くブルー寮には立ち入り禁止なノーネ！」

　「まぁ俺達はブルー寮には用ないからいいけどさ…。天上院先生はどうすんの!?」

　「またしばらくの間、レッド寮にお世話になるわ。
　いいでしょう？校長」

　「ウーム…。まぁ別に大丈夫なノーネ…。他にも色々問題はあるのデースが…。って愚痴っテーモ仕方ないノーネ！不在のうちーに色々あったカーラ忙し忙しなノーネ！ｲｿｲｿｲｿ」

　勝手に何か言ったと思ったらそそくさと、どこかへ行ってしまった。
　ともかく、遊児と明鈴は、レッド寮を廃寮にさせまいと大急ぎでブルー寮に戻る…。