19話　この世界に散らばる異界の科学者　作：ヒラーズ

※この話だけ神様目線となります。

九重が行動を起こして数週間、今までの動画を見ていた人物の中に、何人か研究者がいた。

同じく魔術や錬金術に長けた研究員で、デュエル動画には興味は微塵もないし、関係も持たないその人物が見たその動画に、言葉が出た。

「ココノエ……ふぅん？諦めたんじゃなかったの？ココノエと言ったら「白皇九姉妹」の末っ子で、通称「多術の悪魔」と呼ばれてるんだったね」

その人物は男であった。煙草でも電子煙草というアイテムを使って、一服をしていた。

「しかも、サポートAIまで連れていると……対戦相手は茜か。あの花と鉄の王国の科学者相手に圧勝……流石に化け物過ぎるね。けど……手加減されているとはいえ、世界のトップ4に勝つとは放っておけないな」

男は立ち上がり、白衣を着る。
そして荷物を纏め上げ、自室の扉を開けた。

「白皇九重……何の目的でこの激戦地に来たかは知らないけど。来たのなら、その実力を見せてもらうよ」

男は充電が完了したサポートAIが入った小型ポッドを起動させ、建物を後にした。

＊

一方、別の国でも九重が活躍した動画を視聴し、闘志を燃やす者もいた。
シャワールームから出て、リトルシグマのスタッフが上げた動画を何度も見直して、笑っていた。

「ククク、成程？レクス公国は完全に諦めたわけではなかったのか…！面白い！どうしてもこの世界が欲しいのなら、ワタシを倒して貰わねばならんなぁ？彼女が来たのであるならば、研究を続けなければならん。今の実力では茜の足元にも及ばん！さぁ、楽しくなってくるぞ！！」

髪を乾かし、整えた後に無数の書類とカードを魔法で浮かせ、まるで明日は何をして遊ぼうと考える子供のように、その人物ははしゃいでいた。

＊

時刻　22：00
茜は動画の撮影の後、考え事をしていた。
九重の目的はこの世界の掌握でも破壊でもなく「元の世界に帰る」事だった。
心理学を持つ自分自身の腕が落ちたのか？意外な答えに疑ったのは初めてではないが、恐れていた相手の目的が全くもって別なのは彼女にとっては予想外だったのかもしれない。

「（帰る事、か。時空磁場の嵐をどうやって取り除くかの方法までは教えてもらえなかったが、他の国の刺客たちが跋扈しているこの世界で戦っても意味はない。どのみち、国からの救援は困難を極めている以上、ココノエは敵にならない。むしろ、協力すべき相手なのだけど、それを認めない自分がいる）」

ノートに書き記し、作戦を模索する。
心理学を持つというのは相手の出方を把握する能力が高いという事になる。

「（もし、私がココノエと同じ状況なら、敵を作るのは得策ではない。運よく、この世界には特異点の存在が数名ほど確認された。ユウネという人物もその一人。ココノエは彼女を守るために行動するはず。エリスもまた特異点であることから、私もついてるけど、他国の乱入もある。エリスには明日は我が身が果てるを思い知らせるわけにはいかない）」

ノートに書き記し終えた茜はベッドに飛び込み、就寝に入る。
今後、他国の陰謀が特異点達に襲い掛かるだろうという、予見をしながら。