蓮華VSダニエル 武装侍女VS斬閃帝！⑤　作：はにわ改

　
「あちゃー、やっぱさすがにトッププロだよなぁ。
蓮華さん、ピンチだぜ？」

ーーデュエルを外から見守る透矢が思わず声を上げた。
場のカードを破壊し尽くされ、ライフも残り４００ポイント、しかも手札は１枚。
対してダニエルはライフを減らしておらず、蓮華の常に一歩先を行っているかのようなカード運びで、全く危なげない。
やはり現役のトッププロと、１０年以上ブランクのある蓮華では厳しいのだろうか。

透矢の声はそんな風に語っているようでもある。

「蓮華さんはね、透矢くん。
『ここから』なのよ」

「ここから、って？」

そんな透矢に刹那が声を上げる。
不利に陥っている蓮華を、そうとは思わない刹那の信頼に満ちた眼差し。

「私も久遠も小さい頃から蓮華さんとは、何百、何千とデュエルしてきたの。
でね、こういう状況を私たちも作り上げるんだけど……」

「ーーここからがしぶといんだよね、蓮華さんって。
本当に嫌になるくらい……」

刹那の言葉に繋げるように久遠が重い口取りで言う。
こういった意思疏通は正に双子だから出来る事であろう。

「私ね？
昔、２００対４０００の蓮華さん手札１枚、フィールド０から、負けたことあるの」

「ま、マジかっ！？」

「あの時はさすがに凹んだな～。

久遠もそういう事あったよね？」

「ふん、そんなの覚えてない」

「ふふ。
久遠ったら、凄く悔しがって大泣きしたこともあったかな？」

「余計なこと言わないでっ！
姉様の馬鹿！」

「ははは、やっぱ久遠にもそういうとこあるんだな」

「っるさいな！悪いっ？！」

頬を膨らませながら地を出して怒る妹を見て、姉と透矢が可笑しそうに笑う。

「でも、いいよなー！
俺も１度お手合わせ願いたいなっ！」

「あはは。
それだったら頼んであげよっか？」

「ああ、是非頼むよ、刹那！」

「はいはい。
透矢くんってば、がっつきすぎ」

透矢とのふれあいで常に明るい表情の刹那。
そんな姉とは違い喜怒哀楽の激しい妹の久遠。
何が気に食わないのか、さっきから表情をむっつりとさせたままだ。

「ーーでもさぁ、やっぱ気になるよなぁ」

「何が？」

「いや、何で蓮華さん、そんなに早くプロ辞めちゃったんだろうな？」

刹那の話によれば１５でプロになったという蓮華。
将来を期待されながら、若くしてプロ界を去ったその理由とは果たして何なのか？

「さぁね。
だって蓮華さん、それだけは私たちにも絶対教えてくんないだもん」

「そうなのか？」

「うん。

でも、これは私の想像なんだけど……。
きっと何か蓮華さんにとって辛い過去のような気がするの」

興味ないという久遠と、感慨を深めるように神妙な面持ちを見せる刹那。

「辛い過去……か」

「私も何度か聞くんだけどね？
その度に蓮華さん、何となくだけど悲しそうな表情見せるから」

刹那のその言葉を聞いて、透矢はふとさっき蓮華に言われた事を思い出していた。
それば言わばプロになった後の厳しさ、心掛けについての事。
あの言葉は蓮華自身の経験が言わせた事ではないだろうかーー。

「勝たなきゃ……いけない、んだろうな、プロってさ」

「透矢くん？」

「自分が楽しくて満足してるだけじゃ、プロじゃやってけねぇんだろうな」

蓮華に言われた事を復唱するように、ぽつりと呟く透矢。

「ま、プロ、だもん。
勝たなきゃ商売にならないのは当たり前でしょ」

さらっと返した久遠。
透矢が難しい表情を見せる。

「でも、楽しんで出来ないんだったらやってる意味なんてないと思うけどな。

結局、そういうのって個人の努力次第なんじゃないの？
本当に好きなんだったら、どんなにキツくたって続けていける筈なんだし」

「好きなら続けていける筈、か。

久遠、お前いいこと言うな？」

「別に？

……ま、でも蓮華さんがプロ辞めたのって、そういうのとは違うような気がするけど」

久遠が蓮華を見つめながら、そんな事を口にすると、刹那もそれに頷く。

「実際、蓮華さんはプロ界で活躍してたわけだしね。
なのに、プロをいきなり辞めたのは……多分、かなりデリケートな理由があったからじゃないかな？」

刹那が言う。
刹那も久遠もそう理解したからこそ、蓮華にその事を深く追及しないのであろう。

ーーデュエルはこれから追い詰められた蓮華のターン。
姉妹の言う通りならば蓮華はここからが本領を発揮するというのだろう。
透矢は再び眼前のデュエルに集中する事にした。




ーー蓮華のターン。
ドローして手札を２枚にし、スタンバイフェイズを迎えた。
普段ならば特に何も行わず流されがちなこのフェイズだがーー。

「スタンバイフェイズ。
私の場にカードが存在しない時、墓地の『オーレリア』は復活します」

蓮華が宣言すると、彼女のフィールドに復活する金色の女騎士というべき侍女（メイド・アームズ）・『オーレリア』。

ダニエルは前のターンで、この『オーレリア』を含む蓮華のフィールドのカードを破壊し尽くしたがために、その蘇生条件を満たしてしまったという不本意。

一騎とはいえ、『オーレリア』の攻撃力は３０００。
その力はやはり脅威という外ないだろう。

「このままバトルを行います。

『オーレリア』で『フローゼス』を攻撃致します」

メインフェイズを省略し、いきなりバトルに入る蓮華。
前のターンでその刃に倒れた『オーレリア』が雪辱を晴らすべく、果敢にダニエルのフィールドに迫る。

「リバース・カード！
ーー『攻撃の無力化』！」

ーーだが通らない。
２枚のリバース・カードの内の１枚であるそれを発動。
攻撃を無効にしてバトルフェイズを強制的に終了させられてしまう。

「……メイン２。
カードを１枚伏せて、ターンを終わらせます」

そのままターンを終わらせるしかなかった蓮華。
変わらないその表情は一体、何を示しているのか。

「レンゲ、僕は着実に君を追い詰めているよ？
君のライフは残り僅かだ。
次の僕のターンで止めをさして、１０年前のワールドカップの雪辱を晴らさせてもらおう」

そんな蓮華を見て、ダニエルが笑みを作りながら挑発するような言葉を口にする。

「……その言葉、昔のあなたなら不自然ではありませんでしたがーー。

今のあなたには似合いませんね」

「くく……はははっ！
そう言わないでくれよ、僕だってこういう台詞は久しぶりなんだ。

ただ、君があまりに無表情だから、少し怒らせてみたくなってね」

「そうですか。

それでしたら私も一言、お返しさせて頂きます」

蓮華が息を大きく吸い込む。

「そういうセリフは私にきっちり勝ちきってから言いなよ。
本当の勝負はまだここからなんだからね！」

口を尖らせながら、少女のような甲高い声で放たれたその啖呵。
だがダニエルはすぐに吹き出してしまう。

「なるほど、今の君には似合わないな」

「……失礼致しました」

「でも懐かしいよ。
少し、昔の君を見れた気がした」

「そうですか」

向かい合う二人が笑い合う。
デュエルの中で何度となくこうして向き合い、そしてそれがずっと続く筈だった未来を、なぜ蓮華は自らそれを閉ざしたのか。

その理由が今、語られようとしている。