凌斗VS『黒騎士』を操る女！⑤　作：はにわ改

　
「ーー私は『アリアス』の効果を発動。
墓地の素材、『黒騎士 アリアス』１枚をデッキに戻して、デッキから『ベアトリーチェ』を墓地へ送る」

解き放たれた『黒』の『アリアス』。
同時に覚醒したその能力が凌斗を襲うこととなる。

「ーー『ソウル・スティール』！！」

デッキの『ベアトリーチェ』を墓地へ送ると、『アリアス』の持つ黒い剣が波打つ紫色の光を帯びた。
すると『女』の声に合わせて『アリアス』が剣を袈裟掛けに振りかぶると、その紫色の光が半月状の鋭い刃となって飛空する。
それは『グリード・バルサー』を突き抜け、凌斗の身体へと食い込む。

「ぐぁあっ？！」

ーー刺すような激痛。
後ろに仰け反ったあと、堪らずその場で片ひざを付く。
しかし更にその凌斗の身体から紫色の光が飛び出すと、今度は『女』の方に向かって回帰する。
その光を身体で受け止めた『女』のライフが３４００から４５５０へ回復。
逆に凌斗のライフは２８５０へ減少する。

「『アリアス』の効果。
今の効果で墓地に送った『黒騎士』モンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与え、同じ数値だけ私のライフを回復。
『ベアトリーチェ』の攻撃力は２３００だから、１１５０だね」

「ぅうぁああああぁ！い、いい、痛ぇっ！痛ぇよっ！！
な、なんだ……何が、起き……うぐ……」

凌斗の身体に走る予想だにしない、『痛み』。
そのあまりの痛さに悶絶し、苦悶の声を上げるしかない。

「君、『闇のゲーム』、って聞いたことない？」

「や、『闇のゲーム』……？」

『闇のゲーム』。
凌斗はその単語を知っていた。
だがそれはデュエルモンスターズを題材にしたお話の中で出てくる、創造の産物に過ぎないはずである。

「今、私たちがやってるのもその『闇のゲーム』ってやつなの。

だから……ライフが減ると、その数値分、現実的な『痛み』として返ってくることになるわ」

「そ、そんな……」

「大丈夫、大丈夫。
『痛み』、だけだから。
別に本当に身体が傷つくわけではないもの。

でも……『痛み』がある、ってのはスリルがあるでしょ」

「お、お前、一体何者なんだっ！？
なんでそんなことが！」

にやり、と口元が笑みを作る『女』。
だが凌斗が感じた『痛み』はとてもスリル、なんて言葉では片付けられないほど強いもの。
この先、これから何度も同じ痛みに耐えられる自信など、凌斗には到底持つことはできなかった。

「ーーだ、だとしたら、さっきお前のライフも大きく削られた！
なのに、何でお前は全然平気なんだっ？！」

「あら、『痛み』なら私も感じたよ。

ーーでもね、私は『慣れてるの』」

「な、『慣れてる』って……」

「うん、『慣れ』。
この程度の痛みなんて、過去に散々味わってきたもの。
むしろこの痛みがあるからこそ……私は耐える事が出来たわ」

「い、意味分から、ねぇ……。
あんたが、言ってる事は、ちんぷんかんぷんだ……」

未だに立ち上がれない程、強いダメージを負った凌斗。
しゃべる言葉も息も絶え絶えである。

「私のターン、続けるね。
私は『メルセディア』を攻撃表示にして、装備魔法『ロゼェリム』を装備」

「さ、さっきの装備魔法……！」

「本当は『アリアス』に装備するところなんだけど、『アリアス』が自身の効果を使ったターン、攻撃は出来ないからね」

前のターンに凌斗の直接攻撃を防いだ、『メルセディア』を攻撃表示にして『ロゼェリム』を装備させた『女』。
『メルセディア』の手に黒い剣が握られ、元々６００と低い攻撃力が装備効果で０になる。
だが『ロゼェリム』を装備したモンスターが戦闘して発生するダメージは相手が受ける事になるのだ。

「バトル。
『メルセディア』、色々こき使って悪いけどーー。
自爆特攻、よろしくね」

壁としての役割を終えた『メルセディア』に下された命令は、特攻。
すなわち攻撃力２７００の『グリード・バルサー』に攻撃力０で敗北必至のバトルに挑む。

全身鎧で顔をも覆った『メルセディア』の表情は見えないが、軽い調子で指令を下した『女』に従い『ロゼェリム』を構える。

「ぐ、ちょ、ちょっと待て……」

「ふふ、待てない、かな♪

ーー行って、『メルセディア』！」

『メルセディア』が『グリード・バルサー』に立ち向かう。
だが、『グリード・バルサー』の口から放たれた火炎が呆気なく『メルセディア』を鎧ごと焼き尽くした。

『グリード・バルサー』の攻撃力は２７００ポイント。
本来『女』が受けるはずのダメージは『ロゼェリム』の効果で、代わりに凌斗が受けなくてはならない。

『ロゼェリム』が砕けると同時に、放たれた黒い光が凌斗の胸の中心を貫いた。

「うがぁああっ！？」

まだ前の『痛み』が引かない内から、新たな『痛み』が襲いかかる。
しかもそれは前の痛みを更に上回り、身体の中心から全身に向けて電流の如く激しい痛みが突き抜けた。

「うぅおおおおぉおおっ！！」

そして痛みは絶叫へ。
凌斗は中腰の姿勢から前のめりに倒れ込む。
凌斗のライフは残り１５０。
正に風前の灯、というべき命。

「ほらほら、頑張って、君。
折角、敢えてライフを少しだけ残してあげたんだから」

ーー『残してあげた』。
『女』は魔法カード『黒の断章』で攻撃力の高い『グリード・デバウアー』を葬ったが、
逆に残しておけば今の攻撃で凌斗のライフは尽きていた。

だが凌斗にそれを考える余裕などない。
辛うじて意識はあるが、倒れたまま跳ねるように身体を震わせるだけである。

「君、まだ見せていないコンボがあるんでしょ？
この状況を逆転出来るコンボがね。
楽しみだな」

麦わら帽子に隠れた瞳で凌斗を残酷に見下ろす。
恐るべき相手に魅入られ、そして追い詰められた凌斗。
本当にこの状況を逆転出来るのか。
そもそも立ち上がることすら、出来るのか。

だが倒れながらその手は未だしっかりとカードを掴んでいる。

それはまがりなりにも、彼がデュエリストである事の証明であり、プライドの表れでもあったのだ。