フレッド、オーストラリア校との戦い③　作：はにわ改

　
ーーワシントン代表フレッド、オーストラリア代表ジェフリーによる中堅戦。
その戦いは始まって早々、大きな緊張が走る。
後攻・ジェフリーが猛攻を仕掛け、この一撃が決まれば決着するという事態。
だがそんな中、フレッドの目は未だに光を失ってはおらず、
迫り来る敵を見たまま２枚の内、１枚の手札を掴む。

「ーー手札から！
『竜珠（ドラゴンオーブ） 群青（ぐんじょう）』を墓地に送る！」

「手札誘発か！」

「この効果で、自分が受ける戦闘ダメージを１度だけ０にする！」

フレッドが手札からそのカードを墓地に送り、彼の周りを濃い青色をした半球状の光が包み込む。
それが『イエローデビル・フィッシュ』の一撃を阻み、直接攻撃を食い止めたのだ。

「（ぐ……！
さすがに簡単には決めさせてはくれない！）」

ジェフリーが握る拳、その皮膚に爪が食い込む。
通常ならば決まりのところを、紙一重で避けられた。
さすがに優勝候補にされる学舎にいる生徒だけある、と改めて認識する。

「バトル、終了。
メイン２に入る！

魔法カード、『紺碧の海域』を『イエローデビル・フィッシュ』をリリースして発動！」

頭を切り替えたジェフリーは、メイン２に於いても行動を起こす。

「この魔法効果により、次の自分のターンのスタンバイフェイズに！
デッキから魚族モンスター一体を自分フィールドに特殊召喚出来る！」

「む……高レベルのモンスターを呼ぶつもりか」

「更にカードを１枚セットしてターンを終了！」

『紺碧の海域』による、言わばモンスター召喚の予告を付けたジェフリー。
わざわざモンスターをリリースしてまで発動したとなればフレッドの読み通り、高レベルのフィニッシャー級のモンスターが出てくるであろうことは予想に難くはない。
同時に次のフレッドのターンを凌げるという自信の表れに他ならないのだ。


「ーー今のは危なかったね、フレッド。
何とか凌いでくれたけど……」

フレッドのデュエルを後ろで見守る久遠たち。
メリッサが自分事のように安心したような表情でそう口にした。

「『竜操姫（エゼルミア）』を倒されて、一本取られたかと思えば、すかさずフレッドも切り返したな」

「うん。
でも今の攻防、フレッドの方がダメージがでかいかな、って感じ」

「ライフを削られたのはまだしも、『竜操姫』を失ったのは痛いな。
何らかのカードでカバー出来ればいいがーー」

シェリル、メリッサが頷き合いながら言葉を交わす。
二人の見地ではフレッドがやや不利、という意見で一致しているようだ。

「（フレッド……）」

そんな声を聞きながら、クリスはフレッドの背をじっと見守っている。

「……ふん」

そして久遠。
何か気に入らなさそうに鼻を鳴らした。
その様子を見逃していないクリスは一瞬久遠に目を向けるが、すぐに視線をフレッドに戻す。

すると今から彼の２ターン目が今、始まろうとしていた。

「俺のターン、ドロー！」

背後で仲間が心配する中、フレッド自身は全く覇気を失っていない。
刀を鞘から振り抜くように、勇ましくデッキからカードを引く。

「スタンバイフェイズ！
永続魔法『臥竜鳳雛』によって除外していた５枚のドラゴン族モンスターを墓地へ送る！」

ジェフリーの『ネオセラトダス』の効果によって無効にされたフレッドのカードも、彼のターン開始と共に復活している。
『臥竜鳳雛』の残存効果がこのスタンバイフェイズに適用され、一時除外していたフレッドのドラゴン族モンスターが墓地へ送られた。

「ーーメイン！
手札から魔法カード、『竜珠の解放』を発動！
墓地の『琥珀』・『暗礁』・『群青』、計３種類の『竜珠』モンスターを除外して、デッキから２枚ドロー！」

墓地へ送られたばかりのドラゴン族を直ぐ様活用し、手札を３枚に増やす。

「更に！
『琥珀』が除外された時の効果で、俺は更に一枚ドロー！」

１ターン目にも使用した『琥珀』の効果でまた手札を増やし、手札はこれで４枚。
そしてそのドローした１枚を見て、フレッドの指先に力が籠る。

「俺は手札から『竜操姫（ドラグーン・マイスター ）レイア』を通常召喚！」

フレッドのデッキの要である『竜操姫』。
このモンスターがいなければ彼のデッキは機能しない。
新たなそのモンスターを召喚して、その戦術を見せようとするがーー。

「ーー待った！
リバース・カード発動！
カウンター罠、『シャーク・パニック』！」

「カウンター罠……っ！」

「自分フィールド上に魚族モンスターが存在するときに、相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動。
それを無効にして破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分だけライフを回復する！」

ジェフリーがまるで待っていたかのようにそのカードを発動させた。
『レイア』は召喚を成功させる事すらままならず、破壊されて墓地へと消えてしまう。

ちなみに『竜操姫 レイア』の攻撃力は不定の『？』。
召喚に失敗した『レイア』の攻撃力はこの場合『０』として扱われるため、ジェフリーのライフは回復しない。
だがそんなことよりも、『竜操姫』を破壊された事の方が重要だ。

これにはフレッドの気迫も弱まり、後ろにいるシェリル・メリッサもまさかの展開に驚きを隠せない。

「……カードを２枚、セット」

さっきとは違い、静かな調子でその２枚をゆっくりとディスクにセットさせる。

「ターン、エンド……」

そしてターン終了。
二回目のターンだというのに、バトルフェイズすら行わずターンを終わらせるに至ったフレッドの立ち回り。
ジェフリーは表情には出さないが、気持ちを強く昂らせていた。
相手の動きを止め、ほぼ何もさせなかった事に対して、自分に強い流れを来ているのを感じたからだ。

すなわちこのデュエル、いけるーーと。

「ーーふん」

ーー久遠がまた鼻を鳴らす。

「……しっかりしなさいよ、フレッド。
お姉さまが見てるんだからーー」

小さく呟く。

「ん、久遠？
今、お前……何か言ったのか？」

「いえ、別に」

「そうか」

クリスに訊かれるが、敢えて言葉を繰り返さない久遠。
クリスはそんな久遠に何を思ったのだろうか。
外面には特に気にした様子は見せず、彼女もまたそれ以上何も聞かなかったのだった。