凌斗VS『黒騎士』を操る女！⑥　作：はにわ改

　
「私はこのままターンエンド、だよ」

『女』がターンを終わらせるが、凌斗は未だ地面にうつ伏せで倒れたままである。
『闇のゲーム』による『痛み』が余程苛烈だったのか。

『女』は何も言わずじっと凌斗が立つのを待つ。
しばらくしてようやく凌斗が手の平を地面に付いて、上半身を起こそうとする。
まるで腕立て伏せでもしているかのように、身体を小刻みに振るわせながら少しずつ地面との距離を開けていく。

「あ、あんた、結、局……何者なんだ……。
先輩の、何なんだ……？」

「私と透矢くんは友達、だよ」

「し、信じられ、ねぇ……。
せ、先輩の友達に、あ、あんたみたいなのが、いる、ってのか……」

「あはは、そんな言い方は酷いなぁ。

ま、でも透矢くんの名誉のために言っておくと、
透矢くんが知ってる私は黒く染まる前の私、だから」

思えば唐突に、なし崩し的に自分の身に起きた今回の出来事。
まるで分からない事だらけだが、１つ確かな事がある。
それは先輩・透矢が関係しているということ。
加えてもう１つ。

このままデュエルに敗北したなら、恐らく自分はただではすまないだろうということ。

ーーデュエルが終われば解放してくれるーー。
その事にどれだけの保証があるか分からないが、とにかくこのまま負けるわけにはいかない。

凌斗は気力を振り絞り、身体を起き上がらせて、地面に釘のように足を打ち付けて立ち上がらせる。

「お、俺の、ターン……ドロー！」

そしてカードを引く。
『女』はそんな凌斗の懸命な姿に何度か頷いてみせる。

凌斗が引いたカードを一瞥すると、苦しい中でその目に光が灯る。

「俺は！
手札から、『融合』を発動！
場の『グリード』モンスターと、手札のドラゴン族モンスター１体を素材にして、
エクストラ・デッキから『暴食の竜王 ギガムント』を特殊召喚！」

凌斗のフィールドにいた『グリード・バルサー』、そして手札の『ドラコニュート』。
その２体を融合させてエクストラ・デッキから現れたのは、黒い鱗に覆われた今まで以上に巨大なドラゴン。
鋭い爪が地面を突き刺すように伸び、横に大きく裂けるように広がったその口は、どんなものでも丸呑みにしそうだ。
レベル８、攻撃力２９００。
巨大な体躯に合ったその攻撃力は、やはり『女』が使う騎士の攻撃力を大幅に上回る。

「『ギガムント』の効果！
このモンスターの融合素材にしたモンスターのレベルの合計に、２００を掛けたダメージを相手に与える！

レベルの合計は８！
よって１６００ポイントのダメージだ！」

『ギガムント』が口を開き、そこから放射された薄緑色の光線が『女』の身体全体を撃射する。

「うぅ……っ！」

『ギガムント』の効果により１６００のダメージを受け、ライフを４５５０から２９５０へと減らす。
『女』も『痛み』を感じたからだろうか、苦しそうな声が一瞬凌斗の耳に聞こえた。
散々酷い目に合わされたからだろうか、その事に凌斗は少し優越感を覚えたのである。

「このままバトルだ！
『ギガムント』で『アリアス』を攻撃する！」

『女』に浴びせた光線を、続けて『アリアス』にも浴びせる。
『ギガムント』の攻撃力２９００に対して『アリアス』は１４００。
その差１５００ポイントが『女』に降りかかる事になった。
すなわち残り２９５０から１４５０へ。

「く……っ！

ふふ、中々効いたよ、今のは」

また『痛み』を負って声を漏らしはするが、凌斗のように倒れ込んだりはしない。
そして『アリアス』に至っては攻撃を受けながら、まるでダメージを受けていないかのように嫌みな笑みを見せたままだ。

「戦闘破壊、出来ないのか？」

「そう。
私の『アリアス』は戦闘と効果で破壊されない。
透矢くんの方は回数制限が付いてるかな」

「なるほど……」

戦闘・効果破壊に完全耐性を持つ『アリアス』。
１度場に出てしまえばフィールドから引き剥がすのは困難。
しかもこのままでは次の『女』のターンに、『アリアス』のもう１つの効果で凌斗のライフは尽きる。

ーーしかしこの状況下で凌斗が『笑った』。

「はははっ！
先輩と同じモンスターだ、やっぱり同じような効果が付いていたな！」

「どうしたの、急に」

「俺は墓地にある『ドラコニュート』の効果を発動！
墓地にこのカードが３枚存在し、相手フィールド上にモンスターが存在する時！
このターン攻撃したドラゴン族モンスターで、２度目の攻撃が出来る！」

「ーー２回攻、撃？！」

凌斗が然り気無く墓地に３体揃えていた『ドラコニュート』。
それはこのモンスターに秘められた効果を使うためにあった。
墓地から『ドラコニュート』３体の魂が赤い光となって現れ、それが『ギガムント』の身体に溶け込んで内に宿る。

「俺を相手に舐めプなんてしやがった事を後悔しやがれっ！！

『ギガムント』２回目の攻撃！」

再度攻撃態勢へと移行した『ギガムント』。
『アリアス』に対して２度目の攻撃を加えれば、その戦闘ダメージは同じく１５００ポイント。
『女』のライフをぴったり削り切れる。
そして今、『ギガムント』口から放つ光線が『アリアス』を撃ち抜き、それはそのままその背後にいる『女』をも貫く。

「う、嘘っ！
そ、そんなぁああっ！！」

『女』のライフが０を刻む。
『アリアス』の能力を逆手に取った起死回生の一撃が決まり、凌斗に勝利をもたらした。

「ははは、ははははっ！！
どうだ、どうだぁ！
思い知ったかっ、この野郎！
ざまぁねぇぜ、はははははっ！！」

ーー倒れ込む『女』。
それを見た凌斗がこの上ない喜びを露にして、亡骸を蹴るかのように罵倒し続ける。

ーーそれは透矢と出会う前。
彼が周りの人間を相手に常勝を続けていた頃、やはり今と同じことをしていた。

だが勝つということは嬉しい。
デュエリストとしての自分が何よりの渇望であり、それを得ることこそがこの上ない喜びなのだ。

凌斗はその本能に従うように高笑いを続けた。
喉、枯れ果て、声が尽きるまで。