第09話　夏休みの終わり　作：トマトところてん

前回のあらすじ

　面会も終わり、そろそろ新学期への準備。

本編


　2024年、夏の終わりが近づいて、といっても残暑厳しく続くかもしれない。セミが鳴かなくなったり、夏休みが終わって新学期が始まるという、寂しさと期待を感じるころ、女の子は病院の大部屋で過ごしていた。そろそろ夏のスペシャルテレビ番組の時期だが、大部屋の患者達は募金にも参加せず見ようともしない。とにかく病人の自分が食い物にされてるようで、女の子の向かいのベッドのおばちゃんも中国ドラマを見ていた。挿入歌の歌詞が壮大だなと思いながら女の子もテレビを見ていた。

　この夏休みをほとんど病院で過ごした。基本ベッドに居て、朝食や昼食を看護の人に持ってきてもらったり、医師に診察を受けたり、検温、血圧や体重の測定、その後はデイケアと呼ばれるリハビリをしていた。その時々、色んな患者達とコミュニケーションをして過ごすのだが、闇マリクのように抑圧された女の子の心は、絶対にここはあたしの居場所なんかじゃないねぇ、必ず元気になるんだと強い反骨精神を持っていた。
　リハビリを終え、大部屋のベッドに戻ると夕食が運ばれ、風呂に入ったのちにパジャマに着替えて就寝する前に、女の子の親友からラインの通知が来ていた。
「きなこちゃんが好きそうな動画を見つけました。イヤホンをつけて見てください。」
　とリンクが貼ってあった。スマホにイヤホンをつけてタップすると動画が再生された。
「世界の命運を託されて不安げなあなた。決断すること。人生はその連続。」
　続けて、
「決断力のある人は運がいい。金持ちは縁にも恵まれている。そんな幸せの法則が嫌いなあなたへ。」
　女性の声がする。どうやら音声だけの動画で、いわゆるASMRというやつか。なんとなくこういうものを一人で聴いていると寂しさや虚しさを感じるのだが、リハビリに疲れて人肌のぬくもりを求めた女の子は続けて聴いた。
「ひそひそ、、、ごにょごにょ、、、うーん、どうしよう。デッキは完成したんだけどなー」
　なにやら左右から天使と悪魔の囁き声、両方から中央にかけ女性の声がそれぞれ聴こえてくる。左から悪魔が言う。
「デッキは定まった。あとは対戦してひたすら練度を上げるんだ。ほら、こんな風に。」
　そうして左から、
「シャカシャカシャカシャカシャカ、パチパチパチパチ」
　と音が聴こえてきた。これは……シャカパチの音だと女の子は興奮した。親友とのデュエルの風景がよみがえる。手札誘発を引けなくて親友の使うトリスタにバーンされてベラマドンナを出されてターンを渡された挙げ句、倒したらコルチカのバーンで負けたっけ。
　しばらくシャカパチの音に浸っていると、右から天使の声が聴こえてきた。
「そんなことより、新しい強いカードを手に入れてデッキを更に強化よー。」
　そうして右から、箱がパコッと開けられる音がしてからジャラジャラとこすれる音がした。それがバラバラとばらまかれる。それを聴いてこれは……ボックスを開封した時のパックの音だ、と女の子はワクワクした。親友とパックを開けた情景がよみがえる。パックを勢いよくビリビリと剥いたっけ。
　しばらく、ビリビリと開封する音に浸っているとまた左から悪魔の声が、
「そんなんじゃいつまでも対戦できないぞ。シャカシャカシャカシャカシャカパチパチパチパチ」
　また右の方から天使の声が、
「ほーれほれほれほれーい。バラバラバラバラ」
　と聴こえたのちに、真ん中あたりから女性の声がして、
「うーん、どうしよう、、、とりあえず、チャンネル登録だ。」
　と言って動画が終わった。
　女の子は自ら、あたしも俗人だねぇと思いながらも満足げにベッドに横になって就寝した。

続く

全年齢向けヴァルモニカ風パクリASMR