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HOME > 遊戯王SS一覧 > 53Turn 怨嗟積り秘号と成す

53Turn 怨嗟積り秘号と成す 作:ジェム貯めナイト

 精霊世界の王宮では、遊無が建物からせりだした広場で宙に浮くユーメイと対峙
し、その手前で王宮を守るよう建てられた砦の屋上では、遊陽が同じく空中で佇む
ゴルイニチとデュエルを繰り広げていた。


 Turn1終了時点

 遊陽LP4000。手札5

 プロリファレイツ・ワナクライ守備力0。

 ゴルイニチLP4000。手札1

 プロリファレイツ・マイドゥーム攻撃力3000。

 伏せカード1枚


 Turn2 遊陽手札6(デッキ枚数27)


 「俺のターンだ! 墓地から《ワッショイ・オフィリタリー・ラプトル》の効果
発動! 俺の墓地から闇属性の《ワッショイ・喪服蝶》と、お前の墓地から闇属性
のワナクライを除外し、墓地から蘇る……!」


 双方の墓地から1体ずつモンスターが除外されるとともに、遊陽の場には賽銭を
くすねる捕奪者の恐竜が現れた。


 オフィリタリー・ラプトル攻撃力1800。


 『モンスターを2体揃えたか――』

 「最初から全力で行く! 俺はワナクライとオフィリタリー・ラプトルをリリー
ス! 俺の元に現れろ! 掛け声響く祭りの竜――《ワッショイフェスタ・ドラゴ
ン》……!」


 遊陽の場から捕奪者の恐竜と砦に巻き付くワームが消滅し、空へと光の粒子が昇
っていくと、やがて金色の鱗に覆われた竜の姿が雲間から現れ、ゴルイニチへと口
を開いて威嚇する。


 ワッショイフェスタ攻撃力2500。


 「こいつとともに、お前達の野望を打ち砕く!」

 『だが、お前のフィールドもしくはデッキからモンスターが墓地へ送られる度に
、我がマイドゥームはその効果を発動するのだ……!』


 ゴルイニチが従える大量の配線が絡まり成した巨大なワームは、電子音の唸り声を辺りに響かせるとともに、全身から飛び出した配線の先端から黒い閃光を遊陽に浴びせる。


 「何ッ……!?」

 『お前の墓地へ送られたモンスター1体ごとに、このターン攻撃力を300アップし、お前に300ダメージを与える! グルーサム・クラック……!』


 マイドゥーム攻撃力3000→3300。 遊陽LP4000→3700。


 「っ……!?」


 無数の光線を浴びて足場となる砦の床が一部崩れ、遊陽が慌てて後退すると、ゴ
ルイニチは宙に浮かんだまま腕を組み一瞥する。


 『我がマイドゥームは、確実にお前を追い詰める』

 「……秘号の分身たるマイドゥームは破壊できずとも、お前のLPは不死身じゃ
ない! 魔法カード《クロス・イリディセント》をワッショイフェスタへと発動!
 このターン相手モンスターと戦闘する場合、攻撃力を1000アップする……!



 遊陽が発動させたカードは、精霊世界の夜空に薄っすらと虹を掛けさせるととも
に、祭りの竜の鱗に虹彩が差し込み輝き始めた。


 「続けてワッショイフェスタの効果発動! このターン俺の墓地に眠るモンスターが持つ属性の数だけ攻撃力を500アップし、種族の数だけ相手の上級モンスターの攻撃力を200ダウンさせる! リバイタライズ・カーニバル……!」


 祭りの竜を中心として、周囲に黒や黄色に青――緑の四色の光の球が浮かび上がり、それぞれから波及する光がゴルイニチが従える巨大なワームから力を吸収していく。


 ワッショイフェスタ効果(地 風 水 闇) (植物 機械 爬虫類 恐竜)
 ワッショイフェスタ攻撃力2500→4500。マイドゥーム攻撃力3300→2500。


 『……その程度か?』

 「少しでも削る! バトルだ! ワッショイフェスタでマイドゥームを攻撃――
隆盛のプロスペリティ・バースト……!」


 そして遊陽の攻撃宣言を受け、祭りの竜が魔法カードの効果で強化された虹色の
光線を開いた口から放つと、ぜん動運動で後退する巨大なワームは眩い光に飲み込
まれていく。


 ワッショイフェスタ攻撃力4500→5500。


 『マイドゥームは、レベル8以下のモンスターに破壊されることは無い! ――
だがダメージは受けると言いたげだが、宵は罠カード《ディナイアル・ワーム》を
発動する……!』


 遊陽が次に言うだろう台詞を先読みし、ゴルイニチは場に伏せた罠カードを発動
させた。

 攻撃の余波が巨大なワームを通過し、ゴルイニチを飲み込もうとするも、黒い龍
の鱗で覆われた彼の身体は、新たに配線が絡まって成ったワームが取り囲んでいく



 「何ッ……!?」

 『宵が受けたダメージ1000毎にカードを1枚ドローしつつ、宵の場に秘号が
存在する場合は受けたダメージ分のLPを取り戻す!』


 ディナイアル・ワーム 通常罠
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分が戦闘ダメージを受けた場合に発動できる。その数値1000に付き
 デッキからカードを1枚ドローする。その後自分フィールドにレベル8以上のサ
 イバース族モンスターが存在する場合、自分が受けたダメージの数値分LPを回
 復する。


 ゴルイニチLP4000→1000→4000。 3枚をドロー。


 「そんな――与えたダメージが……!」


 光線を浴びて傷付いたゴルイニチの身体は修復され、何事も無く佇む様に、遊陽
は渾身の一撃が効かなかったと落胆する。


 『これが力の差というものだ。精霊の力宿そうとも、将軍であった宵とお前では
その差は歴然――』

 「……俺はカード1枚を伏せターン終了だ」


 苦々しげにカードを伏せターンを渡した遊陽を確認すると、宙に浮くゴルイニチ
はカードをドローし自らのターンを開始した。


  Turn3 ゴルイニチ手札5


 『宵のターン! 永続魔法《トラフィック・イントルード》を発動し、発動時の
効果で新たな“プロリファレイツ”を手札に加える』


 トラフィック・イントルード 永続魔法
 このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから「プロリファレイツ」
 モンスター1体を手札に加える事ができる。
 (2):戦闘・効果で自分がダメージを受けた時に発動できる。(同一チェーン上
 では1度まで)。相手のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。


 『カードを1枚伏せ、再び手札からワナクライの効果を発動する! よって手札
より《プロリファレイツ・エモテット》をお前の場に特殊召喚だ……!』


 ゴルイニチの場に細い配線の束が集まり始め、1つに絡まり始めると、再び場に
は人工物でできたワームが現れ、目となる電源ランプの部分を点滅させた。


 プロリファレイツ・エモテット
 効果モンスター
 /闇/レベル7/サイバース/攻撃力2000。
 このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 (1):「プロリファレイツ・エモテット」は自分のモンスターゾーンに1体しか
 表側表示で存在できない。
 (2):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。手札の「プロリファレイツ
 」モンスター1体を相手フィールドに守備表示で特殊召喚する。
 (3):このカードが「プロリファレイツ」モンスターの効果で特殊召喚に成功し
 た場合に発動する。フィールドのカードの枚数だけ自分のデッキの上からカード
 を墓地に送り、墓地へ送ったモンスターの数×100ダメージを受ける。


 「また俺の元に――」

 『エモテットがお前の場に現れたため効果発動。宵とお前の場のカードを合わせ
た枚数、お前のデッキの上からカードを破壊する』


 遊陽の元に現れたワームは目となるランプを点滅させ信号を発したことで、遊陽
のD・フェースがそれをキャッチし墓地送りを促す。


 フィールドのカード 遊陽 ワッショイフェスタ エモテッド 伏せカード1枚

 ゴルイニチ マイドゥーム トラフィック・イントルード 伏せカード1枚

 墓地送り(吟詠剣舞 騎射三物流鏑馬 祭場巡行 結占御籤 近衛猪 アイスバ
ーグ・シェーバー)


 「次々に俺の仲間達が……」

 『我がデッキ破壊により、お前は全てを失い敗北するのみ。そして墓地に送られ
たモンスターの数だけ100ダメージ! 更にマイドゥームの効果も合わさる! 
グルーサム・クラック……!』


 墓地へ送られたモンスターは3体――闇の秘号の象徴たる巨大なワームはその全てを感知し、胴体から分かれた無数の細い配線から、再度黒い閃光を遊陽へと浴びせる。


 マイドゥーム攻撃力3000→3900。 遊陽LP3700→3400→2500。


 『バトルだ。宵はマイドゥームでその竜を攻撃――』

 「やられるわけには……! 罠発動――」

 『トラジェック・シャットダウン……!』


 今にも崩れ落ちそうな足元に危惧した遊陽は、飛来した祭りの竜に掴まり舞い上
がると、砦から離れ王宮の屋根に飛び移った。

 直後、巨大なワームが頭部の配線を解き、砲身状に再錬成させると、強力な黒い
光線を発して遊陽がいた砦を消し飛ばした。


 「罠カード《神輿奉戴》は、俺の“ワッショイ”モンスターが攻撃、効果対象と
なった場合、それを無効にする」

 『……まあよい。いずれにせよお前に残されし道は破滅のみ――』


 ターンを終えたゴルイニチは、再び頭部を無機質な配線が絡まった姿に戻した巨
大なワームとともに、カードをドローしターンを開始した遊陽を見据える。


 Turn4 遊陽手札4 デッキ枚数20


 「俺のターン! ……来た――」


 引いたカードを確認した遊陽は、既に引き込んでいた自らの相棒と合わせ、この
ターンで一気にゴルイニチを倒すべく動き始めた。


 「いくぞ。俺は《ワッショイ・ヨリマシ》を召喚だ!」


 召喚に応じ、狩衣に袴――鳥帽子を被った彼ら“ワッショイ”の氏神が依り付く稚児が場に現れた。


 ヨリマシ攻撃力300。


 「僕に氏神様――やるつもりだね?」

 「ああ! 俺の場から幻竜族とレベル1魔法使い族の“ワッショイ”2体をリリ
ースすることで、このカードは手札から特殊召喚できる! 氏神宿りし依巫よ! 
その身に神威を宿し“繁栄”をもたらせ……!」


 上空の祭りの竜とともにヨリマシは光の粒子となり消滅していくと、2体が残し
た光の粒子が渦巻いて合わさり、やがて額に竜の角を有し、瞳を竜のようにした宿
り子の姿でヨリマシは再び現れた。


 「奴を倒す――来い! 氏神を使役せし宿り子! 《ワッショイフェスタ・ヨリ
マシポゼスト》……!」


 ヨリマシポゼスト攻撃力2500。


 『……パズズを追い込んだというお前の切り札か』


 ゴルイニチは従えし巨大なワームが微かに委縮する様を眺めると、宙に浮くヨリ
マシが片腕を上げるとともに、彼の指先から迸った気が祭りの竜へと変わり、辺りに咆哮を轟かせる。


 『再びマイドゥームの効果――グルーサム・クラック……!』


 ヨリマシと祭りの竜がリリースされ墓地へ送られたことで、再び無数の黒い閃光
が遊陽を襲う。


 マイドゥーム攻撃力3000→3600。 遊陽LP2500→1900。


 「ヨリマシポゼストが自身の効果で現れた時効果発動! このターン攻撃力を2
500アップさせる! チューティラリィ・ブレス……!」


 氏神の加護を得たヨリマシは、まるで祝福されるかのように全身が煌々とした輝
きに包まれた。


 ヨリマシポゼスト攻撃力2500→5000。


 『僕達の世界をこんなにして……その報いは受けてもらうよ……!』

 「バトル! 俺はヨリマシポゼストでマイドゥームを攻撃だ……!」


 即座にバトルフェイズへと入った遊陽は、祭りの竜が宿りしヨリマシで巨大なワ
ームの姿をした闇の秘号――マイドゥームへと攻撃を仕掛ける。

 一方、ユーメイのターンが終了したことで、遊無も自らのターンを開始しようと
していた。


 Turn1終了時点

 遊無LP4000。手札6

 予幽鬼 海彦攻撃力300。

 ユーメイLP4000。手札1

 No.A Vユーメイ攻撃力3000。

 伏せカード2枚 モニタリング・アイピーセック


 「ユーメイ……本来この世界の宰相だった貴方は、秘号(エンクレーブ)という
この世界に渦巻く闇に囚われ、その際に自らが宿す繁栄をもたらす力を貴方から隠
すため、私を生み出した――」

 『天子(われ)は五行相剋――この世の万物が循環する際に零れ落ちた滓が形を
成した者だ。その成り立ちは輝光(きこう)ら人間が密接に関わっているのだ』

 「――人間が?」

 『本来完全だったはずのこの世の理は、人間に芽生えた感情によって狂わされた
。その歪みからは人間どもの悪い感情が零れ落ち、そして幾千年が流れ、積もり積
もった滓から天子は生まれたのだ』


 遊無が表情を引き締める中、人類の誕生以来、善悪の定義がされた時から人間達
が抱いてきた邪念が永き時を得て秘号を生み出したのだと、ユーメイは語った。


 「……なら貴方が従える者達は……?」

 『――天子もまだ数百年しか経ておらぬ。だからこそ天子の代行として人間ども
のマイナス感情を増大させるべく、幾人かの人間を秘号と化して動かしたのだ』


 ユーメイは自らに仕えし今は回復最中の4体の秘号を指折り数え、最後に遊陽と
デュエルを繰り広げるゴルイニチを見下ろし語る。


 『罪人を過度に責め立てた者は“地獄”を司るスチュパリデス、欲望のまま取り
立てた税を浪費し破滅した者は“畜生”を司るミダース、蝗害による飢饉に苦しん
だ者は“餓鬼”を司るパズズ、そして世の善悪に翻弄されし者は“人間”を司るト
モカヅキとなったのだ』


 これまで自らが変異させた元人間達を挙げたユーメイに、遊無は微かな怒りを浮
かばせつつも、遊陽と対峙する残った一人の秘号を見て呟いた。


 「……そしてあの者は、戦いを求める“修羅”――」

 『奴は他の者とは違い、自力で天子を探し当て、自ら我が力を受け入れたのだ』

 「――仲間を増やしてまで、貴方はこの世を混迷に陥れている。一体何を目論ん
でいるの……!?」


 遊無は許しがたいという見解は崩さずも、彼らを動かしてまで、自分達や精霊世界の平常を脅かす理由をユーメイに問いただした。


 『――雨雲が発生するように、火山が噴火するように……蓄え続けた人間どもの
マイナス感情も、発散する時が来たということだ。大きく歪んだこの世を修正する
ためにも、天子は人間どもに抱かせた悪意を高めたのち、これまで積み上げてきた
マイナス感情を爆発させることで、傾いた世の理を均衡に引き戻す!』


 この世界に一度滅びをもたらす――その後新世界を復興するためにも、破壊し尽
くした世界を再び“繁栄”させる精霊遊明に宿った力が必要だと、ユーメイは力説
する。


 「……だとしても、今を生きる人達を巻き込むのですか……!?」

 『致し方ない犠牲だ。天子はこの世の新陳代謝を促す――古き時代の者は消え去
り、新たに生まれし新人類が未来を培っていく――』

 「――だとしても、犠牲の上に成り立つ世界なんて認めない! 私のターン!」


 Turn2 遊無手札7


 『娘よ……輝光に理解できずとも、この世の歪みを修正するべく必要なのだ。罠
カード《クローズ・アイソレーション》を発動する!』


 伏せたカードのうち1枚をユーメイが発動させたことで、遊無が立つ王宮からせ
り出した広場には光の回路が刻まれていった。


 『このカードの発動ターン、お互いにモンスターを同時に呼び出すことはできな
い』


 クローズ・アイソレーション 通常罠
 このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 (1):相手スタンバイフェイズに発動できる。ターン終了時までお互いのプレイ
 ヤーは2体以上のモンスターを同時に特殊召喚できない。
 (2):バトルフェイズ開始時に墓地のこのカードを除外して発動できる。次のタ
 ーン終了時までお互いにモンスター1体でしか攻撃できない。


 「……“No.A V(ノーサライズ・ベッセル)”は、モンスター1体が場に現
れた時墓地から蘇る効果を持つ――」

 『同時に特殊召喚するという抜け道は封じた。さあ、どうする……?』

 「だったら踏み抜くまで……! 魔法カード《妖魔彷徨》を発動し、手札から下
級“幽鬼”モンスターの《憑幽鬼 飯綱》を特殊召喚します!」


 発動したカードの効力によって、遊無が掲げた管狐が場に現れるも、召喚を感知
した長方形の箱舟が再び場に浮上してきた。


 「そしてレベルと攻撃力が低い《除幽鬼 姫魚》を墓地に」

 『レベル7以下のモンスターが場に現れたことで、墓地のブロックの効果発動。
墓地より蘇りそのモンスターの効果をこのターン封じる』


 箱舟が輝くことで遊無が呼び出した妖の狐の全身に電流が走り、効果を封じられ
るとともに身をうずくませる。


 ブロック守備力2300。


 「なら私は飯綱を対象に海彦の効果発動! 飯綱のレベルは4――レベル×10
0LPを回復する! 退疫の魚拓……!」


 3本の尾びれで空中を泳ぎ回る予言獣が猿叫を発すると、管狐を光が包み込むと
ともに、遊無へと癒しがもたらされる。


 遊無LP3500→3900。


 「続けて永続魔法《現界の丑寅門》により“幽鬼”の召喚権を得た事で、《洗幽
鬼 小豆研》を召喚……!」

 『再びフィルタの効果発動。墓地より蘇り小豆研の効果を無効。蘇生したことに
よって飯綱を選び手札へ戻す』


 永続魔法の発動で鬼門となる巨大な門がせり出し、鬼門をくぐって川辺で小豆を
洗う老婆が呼び出されるも、再度浮上した箱舟の側面が開き、飛び出した錨に絡め
とられて妖の狐は箱舟の中へ収容された。


 フィルタ守備力2400。


 「だけどこれでモンスターが2体――私は海彦と小豆研をリリース! 妖の妙技
で敵を惑わし、襲い来る者を薙ぎ払え!」


 尾びれが三本の予言獣と小豆を洗う老婆が消滅していくとともに、遊無はもう一
人の自分の力を表在化させた赤い両目から妖火を迸らせた。


 「“アドバンス召喚”――現れて! 《妖幽鬼 玉藻前》……!」


 そしてカードを液晶盤へと置き、色鮮やかな着物を身に纏う“斜国の妖狐”が宙
へと浮かび上がると、豹変した遊無を見下ろし、かつての因縁を思い出しつつ身震
いする。


 玉藻前攻撃力2400。


 「――貴様も本気で奴に挑むか……」

 「……出し惜しみする余裕はありません。遊明を救うためにも……!」


 アドバンス召喚で現れた玉藻前が効果を発動し、墓地に眠る3体の“幽鬼”分デ
ッキの上からカードを墓地へ送りながらも、遊無は自らの“所縁の精霊の力”によ
り赤く滾った瞳でユーメイを見据えた。


 墓地の幽鬼(小豆研 海彦 姫魚) 玉藻前墓地送り(一本踏鞴 妖言惑衆 施
餓鬼供与) 1枚をドロー。


 「玉藻前の効果――斜狐転生によって1枚をドロー! そして“幽鬼”がアドバ
ンス召喚したターン、墓地の下級“幽鬼”は自身の効果で蘇る……!」


 遊無が片腕を上げるとともに、異空間との間を繋ぐ回廊がこじ開けられ、中から
髷を高い位置で結った美女の人面魚と、小豆を洗う老婆が飛び出してきた。


 姫魚守備力200。小豆研守備力200。


 『大妖怪に従者がぞろぞろと……』

 「墓地より小豆研と《除幽鬼 姫魚》を蘇生! そして小豆研が現れた時、私が
従える“幽鬼”の数だけ200ダメージが発生します……!」


 ざるを使い軽やかな手つきで小豆を洗う音が反響し、不穏な音色がユーメイのL
Pを減少させていく。


 ユーメイLP4000→3400。


 「更に姫魚が現れた時、私が従える“幽鬼”の数だけ未来を先読みし、新たな“
幽鬼”――《鬼幽鬼 大嶽丸》をデッキの一番上に予約する……!」


 除幽鬼 姫魚
 効果モンスター
 /闇/レベル1/アンデット/攻撃力200。
 このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 (1):このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。自分フィールドの「
 幽鬼」モンスターの数だけ自分のデッキの上からカードを確認し、その中から「
 幽鬼」モンスター1体を選んでデッキの一番上に置き、残りのカードはデッキの
 一番下に好きな順番で戻す。
 (2):「幽鬼」モンスターをアドバンス召喚したターンに発動できる。墓地のこ
 のカードを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカード
 がフィールドを離れる場合、デッキの一番下に戻る。


 「そして残る1枚はデッキの下に――」

 『カードの並びを操作するだけの能力など、我が“No.A V”を転覆させるに
は至らない』

 「未来とは掴み取るもの――続けて墓地から《鍛幽鬼 一本踏鞴》を蘇生! 一
本踏鞴は現れた時、デッキの一番上のカードが“幽鬼”なら呼び出せる……!」


 再び浮かんだ妖火が宙で一周し、空間に生じた穴から隻眼隻足の妖が飛び出て広
場へと着地すると、遊無はデッキの一番上のカードを引き、それをユーメイへと見
せつけた。


 『成程――輝光のデッキトップは操作されている』

 「私がめくったのは、当然大嶽丸! 玉屑を刃へと変え、攻め入る敵を突き倒せ
……!」


 そして液晶盤へとめくったモンスターを置くことで、玉藻前や集った幽鬼を上回
る筋骨隆々とした身体に、白目を剥いた風貌の鬼が見参した。


 大嶽丸攻撃力2800。


 「永続魔法《軒轅狐墳》を発動し、手札の飯綱を捨てて大嶽丸の効果発動! 捨
てた“幽鬼”1体に付き貴方の魔法、罠カード1枚を破壊する……! 紫焔降雪…
…!」


 巨大な鬼――大嶽丸が空気中の水分を凍らせ生み出した氷の槍を掲げると、上空
の黒雲から降り始めた雪は、ユーメイに触れるや否やその身を猛毒で侵していく。


 モニタリング・アイピーセック破壊。ユーメイLP3400→3000。


 「そして1枚に付き400ダメージを与える! バトル――」

 『バトルが始まるとともに、墓地の《クローズ・アイソレーション》を除外し効
果発動。互いに発動後1回目の戦闘で2体以上のモンスターによる攻撃はできない



 だがユーメイも、身に纏う腐食し始めたフードを脱ぎ捨て、丸裸の頭頂部と垂れ
下がり口髭と一体化した眉を晒すとともに、既に使用したカードの更なる効果を発
動した。


 「だったら大嶽丸でユーメイを攻撃――この攻撃時《軒轅狐墳》の効果によって
、この戦闘でのみ攻撃力を大嶽丸のレベル×200アップさせる……!」


 大嶽丸は雪の結晶のように交差する無数の氷の刀や槍を生成し、一斉にその切っ
先を宙に浮く箱舟へと差し向けるとともに、数十もの刀や槍が光の秘号たる箱舟へ
と襲い来る。


 大嶽丸攻撃力2800→4200。


 「氷刃で貫いて! 六花槍剣……!」

 『甘い! こちらも罠カード《トレース&パシュート》をブロックとフィルタを
墓地へ送り発動――ユーメイに装備し攻撃力を墓地へ送った2体のレベル合計×1
00アップさせる……!』


 トレース&パシュート 通常罠 
 (1):自分フィールドのレベル7以下のサイバース族モンスターを任意の数だけ
 墓地に送り、自分フィールドのサイバース族モンスター1体を対象に発動できる
 。このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。装備モンスタ
 ーは相手の効果によっては破壊されない。
 (2):装備モンスターの攻撃力は、このカードの(1)の効果で墓地へ送ったモンス
 ターのレベル合計×100アップする。


 ユーメイ攻撃力3000→4400。


 「嘘っ……!?」

 『迎撃せよ! コントロールド・アーク……!』


 遊明を括りつけた箱舟は、船体を中心に異空間へと通じる無数の穴を空間に生じ
させると、その穴から伸びてきた触腕で襲い来る刀や槍を弾き、攻撃力が逆転した
大嶽丸を捉えた。

 そして締め上げ圧殺すると、触腕の一本が伸びてきて遊無がいる広場へと叩きつ
けた。


 遊無LP3900→3700。


 「――っ!?」


 素早く横に飛んでかわした遊無は、植樹された木をなぎ倒し石畳を割った触腕が
空間を裂いて現れた穴に戻るのを見届けると、残る手札2枚のうち1枚を場に伏せ
た。


 「カードを1枚伏せ、私はターン終了――」

 『見た事か。諦めろ――所詮入れ物でしかない輝光に天子は倒せん』


 Turn3 ユーメイ手札2


 『天子は魔法カード《拡散する煽動》をユーメイに対して発動。このターンユー
メイでしか攻撃できない代わりに、全ての相手モンスターを蹴散らせる!』


 拡散する煽動 通常魔法
 (1):自分フィールドのレベル8以上のサイバース族モンスター1体を対象とし
 て発動できる。このターン、そのモンスター以外の自分のモンスターは攻撃でき
 ず、対象のモンスターは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。


 「前のターン発動した罠の効果で、1体でしかモンスターの攻撃は行えないけど
……」

 『このカードならば関係ない! バトル――天子はユーメイで輝光の全モンスタ
ーへと攻撃――』


 宙に浮く箱舟は再び異次元に通じる穴から多数の触腕を生み出し、遊無が従える
モンスターへと一斉にその魔手を伸ばした。


 「再び《軒轅狐墳》の効果を玉藻前の戦闘時に発動――うっ……!?」


 だが霊力を増した玉藻前は触腕の叩きつけで潰され、残る幽鬼達も触腕による薙
ぎ払いで一斉に蹴散らされ消滅した。


 玉藻前攻撃力2400→3800。遊無LP3700→3100。玉藻前、姫魚、小豆研、一本踏鞴 戦闘破壊。


 『天子は残る手札1枚を伏せターン終了。輝光が全力を出し並べたモンスターも
、我が力の前にあっけなく全滅した』


 戦闘により増々荒らされてしまった広場だったが、遊無は尚も立ち続け、発動中
の永続魔法を墓地へ送るとともに何とか切り返しを図る。


 「私の“幽鬼”が破壊され墓地に送られたエンドフェイズに《軒轅狐墳》を墓地
へ送ることで効果発動! 再び破壊された墓地の“幽鬼”――玉藻前を呼び戻す…
…!」


 発動とともに妖狐が集う古墳から玉藻前の魂が解き放たれると、黒い瘴気が渦巻
き再び斜国の美女の姿となって場に舞い戻った。


 「更に私の墓地に罠カードが無く、モンスター、表側で存在していた魔法が墓地
へ送られたターンのエンドフェイズに、罠カード《仙桃木-オオカムヅミ》を発動
。次に私がドローする枚数は3枚となる!」


 発動するために必要な3つの条件を満たし、発動された罠カードによって広場に
魔を払う霊力秘めし桃の木に実が3つ実るとともに、遊無はその数と同じ3枚をドローするべくデッキに手を掛けた。


 「……ユーメイ、いいえ――人々の積もり積もった心の闇! 未来とは常に今を生きる者が切り開いてきた! 借り物の身であれど、今という時代を生きる私にも未来を掴み取る力が宿っている……!」


 遊無は器の身体に魂を宿してから、遊陽達が過ごしてきた境階町での永い出来事
を思い返しつつ、継続している戦闘で荒廃した精霊世界を一望し、再びユーメイを
見据えて彼を指差した。


 「このターンに私の全てを賭ける! 貴方に打ち勝って遊明を解放して見せる…
…!」


 同じく戦う遊陽とともに、遊陽と遊無の2人――そして闇と光の秘号であるゴル
イニチとユーメイのデュエルは佳境に差し迫った。

 このターンが最後だと宣言した遊無のターンが訪れる。2人は所縁の精霊の力で
結びついた祭りの竜が憑依したヨリマシと、式神の力与えられた玉藻前の2人を向
き、言葉を介さずとも2体を倒す意思を確認し合うと、ヨリマシは巨大なワームへ
と迫り遊無はカードをドローするのであった。





 「遊陽と――」

 「遊無の――」

 『二人はビナリウス!』


遊陽「ゴルイニチが仕掛けるデッキ破壊によって、俺のカードは次々と墓地へ送ら
れていく。だがヨリマシポゼストの召喚から、俺は一気に攻勢へと転じた」

遊無「ユーメイ……いえ、秘号の源は世界の均衡を保つため、一度この世界をリセ
ットしようとしている。しかし今を生きる私達は、一方的な滅亡宣言など認めませ
ん」

遊陽「そうだ――奴の決定がこの世界の意思だとしても、俺達は抗う。俺達が生き
る世界は俺達自身が勝ち取るんだ! いくぞ――ヨリマシポゼスト……!」


遊無「次回――第三章最終話 -遊明の力-」

遊陽「ユーメイ達との戦いは決着を迎える。その時立っているのはどちらか……そ
して精霊世界への旅も、帰還の時が訪れる」
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