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HOME > 遊戯王SS一覧 > 49Turn 下される審判

49Turn 下される審判 作:ジェム貯めナイト

 精霊世界のプイスの王宮。精霊界を代表する者達が集い、この世界を良くするた
め日夜政務に取り組んでいるこの場所では、精霊長を補佐する宰相――御仰(ぎょ
こう)とイーサ、そしてサバスが一室を借りて会談を行っていた。


 「――というわけじゃ。人間世界では秘号(エンクレーブ)を名乗る人間の心の
闇を糧とする者達によって、洗脳や支配など悪影響を受けた者が急増した」

 「成程――この精霊世界も、ここ最近は害なす魔物との遭遇が増えております」


 机を挟んで座るイーサから人間世界の近況を知った御仰は、彼らの証言を書きと
どめつつ、2つの世界で起きている異変について考え込む。


 「その秘号について、他に知っていることは……?」

 「それに関しては、このサバスが実際にかの者と対峙したとのことじゃ」


 イーサが隣に座るサバスへと振り向くと、サバスは頷き境階町で出くわした秘号
の主犯について語りだす。


 「私は秘号の首謀者を、この眼でしかと確かめました」

 「――続けなさい」

 「人々の心の闇は、彼らに選ばれた人間へと宿ることで異形の怪物と化していた
。その力を操り人間世界に脅威をもたらす者――前宰相である遊明を乗っ取ったこ
の世界の闇そのものが“ユーメイ”です」


 かつての宰相――遊明は、人間世界でこの世界の闇に支配されていた。

 サバスからの報告にはさしもの御仰も僅かに動揺を見せ、息を呑み表情をこわば
らせる。


 「……そうですか。遊明様は悪の存在に敗北し、失踪したのですね――」

 「ユーメイの側近らしき怪物は、自らをゴルイニチと名乗った。黒い鱗で全身を
覆った龍人――それが事実ならその者は……」


 ゴルイニチという闇の秘号――その外見と一致する者について、御仰は半信半疑
ではあるものの、サバスの証言からその正体を察する。


 「……トゥゴルカン・ズメエヴィチ」

 「それがゴルイニチの正体。前精霊長を手にかけ、行方をくらました裏切り者と
いうわけですね?」


 明らかに動揺を浮かべた御仰の反応から、元は精霊世界の中核を担う者が一連の
騒動を引き起こしていると、3人は改めて確信する。


 「私達は人間世界に被害をもたらした者の出生について、貴方方に責任を求めま
せん。重要なのはこれからどうするか――」

 「……イーサに――サバスさんですね? 貴方方の証言は、精霊世界を大きく変
える結果を生むでしょう」


 御仰は椅子から立ち上がると、保管されていた書物に手を伸ばし、その中に記さ
れていた内容にサッと目を通すと、再び顔を上げ2人を見据えた。


 「現在の精霊世界は、森の魔物達が攻め込もうと撃退できるほどの戦力を有し、
秘号などに遅れは取らないと信じております。……ただ貴方方とともに戦うために
は、最終的に精霊長を説き伏せる必要がありますね」


 精霊世界との協力関係を構築するには、各諸侯も集まる精霊会議で多数を取った
上、精霊長に認可されなくてはならない。

 御仰から精霊会議について改めて説明されたイーサとサバスは、人間を憎む精霊
長を説得する方法について考える。


 「精霊会議は、50人もの精霊世界に貢献した諸侯が投票権を持つ」

 「多くの諸侯にこの危機を納得してもらえるか、それが重要じゃな」

 「個人的には、自分は貴方方の警告を信じております。しかし議長を務める自分
は、各諸侯――そして精霊長の判断を信じるしかありません」


 そして時間が来たと御仰は立ち上がり、2人へ時間まで与えられた部屋に戻るよ
う告げたのち、次の公務に向かうため部屋を後にしようとする。


 「御用があらば、付けている精霊へとお申し出ください。大図書館の利用も結構
です。両世界の平穏のため、貴方方の演説が功を奏すことを祈っております」


 そして御仰が部屋から去ると、イーサとサバスは一人でも賛同する諸侯を増やす
ため、精霊会議での演説に向けた原稿の制作に取り掛かるのであった。





 「あっ! ユーヒ! そっちはどうだった……?」


 日が傾きつつある集落で、再び合流した遊陽と遊無、マノンは、それぞれが聞き
出した情報についてすり合わせる。


 「俺はゲラシモフさんから聞き出した。精霊長はマリアさんが災厄の原因だと決
めつけ、亡くなるまで牢に閉じ込めたとのことだ」

 「ケ ス ク テュ ヴ ディール!?(どういうこと) 教えて……!」

 「……前精霊長が亡くなり、遊明とズメエヴィチ家の将軍が消えて混乱に陥った
精霊世界は、この異変はマリアさんが来てからだと彼女を生涯幽閉したことで、収
束を図ったんだ」


 マノンからの問いかけに、遊陽はゲラシモフの情報から差し測れる過去の出来事
について解説する。


 「だから俺は、不当に迫害されたマリアさんやゲラシモフさんの名誉を回復させ
たいんだ」

 「そうでしたか。マリアさんについては、私達も情報を得られました」


 遊無とマノンは、集落で多くの精霊の面倒を見る“託霊所”の院長――ダーナか
ら教えて貰ったマリアの評判や、家事手伝いの最中に偶然見つけた情報を遊陽にも
提供する。


 「マリアさんは普段から日記をつけていたようで、保管されていた物から彼女が
集落の方とも良い関係を築き、やがて集落を訪れた遊明に恋焦がれるようになった
経緯を知りました」

 「で、2人は一緒に王宮で暮らし始めて……イーサお爺ちゃんも生まれたんだけ
ど、突然遊明は彼女の前から姿を消したみたいだね」

 「遊明のその後は、もう一人の遊無が以前話した通りか……」


 互いに話をすり合わせ、それ以降の日記は王宮の大図書館に保管されていると知
った3人は、明日には王宮の大図書館までマリアの日記を探しに行くと決めるとと
もに、遊陽達を呼びに2人の獣人が歩み寄って来た。


 「あんた達、そろそろご飯食べるから集まりなさい」

 「今行く。……あれ、君は……?」


 遊陽は勲章付きの軍服に似たワンピースの上からエプロンを付けたクイネに返答
すると、隣の同じ犬耳に尾を生やした彼女の弟――フンドに視線を移した。


 「あっ……人間の方ですね」

 「フンドから伝言よ。明日には精霊会議があるから、王宮に帰還しなさい」

 「分かった。実は俺達、王宮の大図書館で日記を見つけたいんだ」


 調べ物があることをクイネとフンドに告げるとともに、事情を把握したクイネは
軽く頷くと、フンドに視線を移しつつ提案する。


 「だったら、明日からはフンドを付けなさい」

 「大図書館なら、ぼくの方が姉ちゃんより詳しいよ。ぼくか姉ちゃん――どっち
かが監視に付いていればいいんでしょ?」

 「ありがとう。じゃあ明日、マリアさんの日記を探す手伝いをしてほしい」


 遊陽達からの申し出をフンドは了承するとともに、一行は精霊達が集まる託霊所
へと移動し、他の精霊とともに食事を共にする。


 「食料と水は……残り2日分――」


 託霊所の食堂で、リュックに詰めていた食料と水で夕飯を済ませた3人は、精霊
世界に滞在できる限界が刻一刻と近づいてきた事に危機感を覚える。


 「夕飯美味しかったね。姉ちゃん」

 「同然でしょ? ダーナの料理にクイネの手伝いが加わったんだから!」


 他の精霊達とともに炊き出しを頂いたクイネとフンドは、広々とした食堂の片隅
で長い耳のノウサギの獣人や、両目を囲うように母斑が残るタヌキの獣人と会話し
駄弁っていた。


 「あっちは獣人……向こうは翼人で繋がりができているみたい」


 遊無が見る視線の先には、小さなスズメの翼人を連れたキツツキの翼人や、カワ
ウの翼人が食後のお茶を嗜んでいた。

 親しい者同士で寛ぐ精霊達だったが、ふと遊陽が室外のバルコニーを見ると、そ
こではゲラシモフが壁にもたれて座り込み、黒い龍の尾をスカート付きレオタード
の尾ていから伸ばした龍人の女性とともにひっそりと過ごしていた。


 「ゲラ……今日はあーし、お皿洗いを頑張ったの」

 「そうか。父さんは人間と一緒に畑を耕したよ。アネーチカ」


 バルコニーの片隅に座るゲラシモフは、肩から手首にかけて黒い竜の鱗で覆われ
た娘の龍人とともに、目立たぬよう過ごしていた。

 時折外を眺める者はいる者の、寒空の中過ごす2人を気遣う者は現れず、遊陽は
いてもたってもいられなくなり2人のいるバルコニーへと飛び出した。


 「ゲラシモフさん……」


 声掛けられたことでゲラシモフは娘のアネーチカとともに遊陽へと振り向くも、
首を横に振り遊陽を諭す。


 「……昼間はありがとう。僕達の事なら気にしなくても大丈夫だよ」


 室内に戻るようゲラシモフに促され、遊陽は視線が合ったアネーチカがぎこちな
い笑みを浮かべたのを眺めつつも、彼らに背を向けて遊無とマノンの元に戻った。


 「遊陽――」

 「……早めに寝よう。マリアさんの手がかりを探るのに、時間がかかるだろうか
ら」


 身内が犯した罪の意識に苛まれ続ける2人を気にしつつも、遊陽達は明日に備えて団らんとした食堂から退出し、それぞれが貸し与えられた部屋で早めの就寝に着くのであった。





 「サリュ!(はぁい) ユーヒ!」

 「ああ……おはよう」


 翌日になり、目覚めた遊陽は遊無とマノンの2人と合流すると、クイネとフンド
が目覚めるのを待ち、全員で食堂に集まり朝食を共にする。


 「あんた達も早いねぇ」

 「はい。私達はこれから王宮に戻ります」


 食事を終え、既に仕事にとりかかっていたダーナに別れを告げると、一行は外で
待機していた精霊犬とともに王宮へ向かおうとする。


 「あの2人は――」


 既に起床し、花や農作物への水やりを済ませていたゲラシモフとアネーチカの親
子は、集落を発とうとする遊陽達に気付くと、相互に手を振って別れを惜しむ。


 「……それじゃクイネはここから分かれるわ」

 「クイネさん、ここまでありがとうございました」


 枝廊に辿り着くと、集落の見回りに向かうクイネへと遊無が代表して礼をいう姿
を眺め、彼女はそっぽを向きながら3人へと告げた。


 「まあ……あんた達悪い奴らじゃなかったわね」

 「姉ちゃんは3人の事、結構気に入ったみたいですよ」


 クイネの言葉にすかさずフンドがフォローを入れると、彼女は頬を赤くし、照れ
隠しするかのようにフンドを小突いた。

 そしてクイネと分かれると、4人は第一層を目指して枝廊を進み、再び王宮へと
帰ってきた。


 「昨日集落へ向かう前に聞きましたが、今日の午後に精霊会議が開かれることが
決まりました」

 「そこで俺達の処遇が決められるのか」

 「はい。イーサ様やサバスという人間の方が演説も行うようです。……ですがぼ
くは、あの精霊長がお二人の話で方針を転換するとは思えません」


 結果は火を見るより明らかだと、フンドは正直に会議の予測を遊陽達に伝えるも
、3人はそれでも最後まで相互理解を諦めないとフンドに告げる。


 「心配ないって! サバスやイーサお爺ちゃんなら精霊達の共感を得られるよ…
…!」

 「あの二人なら、きっと支持を集められるだろう。俺達はマリアさんの痕跡を探
すことに集中しよう」


 それぞれやるべきことを果たす。サバスやイーサが協力関係を構築する間、マリ
アの生きた証を辿り、自分達人間は脅威ではないと伝えるため、4人は大図書館へ
到着すると受付でメンフクロウの精霊に話しかける。


 「――ええ。確かにその人間が書いた日記は、蔵書として納められたと記録にありますな」


 司書を務める眠そうに目を細めたメンフクロウの翼人――撰修(せんしゅう)は
、自らの霊力を広げた大図書館内の地図へと注ぎ込む。


 「……反応が無い。おかしいですね」

 「マリアさんの自筆だからなのかな? センシューも探すの手伝ってくれる……
?」


 マノンからの要請に撰修は渋々と答え、5人は手分けして大図書館の壁中に並ん
だ天井にまで届く高い本棚をしらみつぶしに探し始めた。


 「ホホー。確かに存在しましたな」

 「これで全部みたいですね」


 合間に昼食も挟みつつ、午後に差し掛かった頃には遊陽達は探索を終え、マリア
が残した日記全てを見つけ出すことに成功した。


 「文字が解読できない。マノン、これ全部読めるか……?」

 「えーっと、全部マグナ ヌメンの言語で書かれてるね。なら翻訳は任せて!」


 表題を読み上げ、積み上げられた本の中から最初の一冊を見つけたマノンは、早
速その内容を読み上げようとする。


 「かつて訪れた人間の日記ですか。わたくしにも聞かせて貰えますかな?」

 「分かった。読むね。……私はこの世界の牢に閉じ込められた。おそらく一生こ
こを出ることはできないかもしれない――」


 マノンは最初の一行を読み上げるとともに、遊明を失い牢の中で余生を過ごした
マリアが残した言葉を翻訳し、遊陽に遊無、フンドや撰修へと伝える。





 ――私は遊明と出会い、イーサを授かることができました。私にとって2人との
暮らしは、正に幸せの絶頂でした――。


 ――ですが突然、遊明は私とイーサの前から姿を消しました。この牢に押し込ま
れる前、彼に近い精霊から失踪する前の遊明について聞くことができました――。


 ――彼によれば、遊明は人間世界に降りると言い残していたようです。その者が
言うには、遊明は深刻な顔つきをし焦っていたようにも見えたとのことです――。


 ――私は考えました。遊明は一人で人間世界に降りざるを得なかった。何者かに
そう迫られていたのなら、おそらく私やイーサに危害を及ぼすと脅されていたので
しょう――。


 ――いえ、きっとそうに違いません。私に宿るこの力は私が眠っている間、何度
も黒い闇に飲まれる遊明の姿を見せるのです――。


 ――それは遊明の末路を知らせる予知夢にも思えました。この事は精霊長にも伝
えたい……そう考えましたが、あの方は私からの面会の要請に応じることはありま
せんでした――。


 ――あの方はかつての精霊長がお亡くなりになって以降、常に深い悲しみを抱え
ているように思えます。それも当然かもしれません。私や遊明に良くしてくださっ
た将軍様が、あのようなことを――。


 ――トゥゴルカン様。なぜあのような凶行に及んだのか、私には全く想像もつき
ません。どうか再び帰ってきて、罪を償うことを望みます――。





 ――私が牢に閉じ込められ、5年が経過しました。食事や生きていくために必要
な物は配給されるものの、ある日途切れやしないか……常に不安は付きまといます
――。


 ――見張りの者は、外の変化を私に教えてくださります。私の元から離されたイ
ーサは王宮で育てられ、今では精霊世界を良くするべく日々勉学に努めているよう
です――。


 ――イーサの成長は母である私にとって誇らしく、この牢で過ごす中で数少ない
幸せをもたらしました。しかし見張りの彼によれば、新しく就任した将軍様は、精
霊長に従僕の首輪なるものを着けられたそうです――。


 ――既に遊明の後任となっていた御仰様も、その措置には疑問を呈したそうです
。しかし精霊長や賛成された精霊方は、遊明達を失ってから生じた混乱を恐れたの
でしょう。それを了承しました――。


 ――何と恐ろしいことでしょう。それでは将軍様は精霊長の意向に逆らえないで
はありませんか。果たしてそれがこの世界の安寧に繋がるのでしょうか――。


 ――御仰様の申し出で、従僕の首輪に関する制約は和らげられたようです。です
が首輪の呪いに苛まれ、将軍様は体調を崩し将軍を降りることとなりました――。


 ――新たに将軍となったのは、精霊長直々に白羽の矢を立てた獣人の姉弟とのこ
とです。彼らも従僕の首輪を着けられ、更には精霊長の能力を分け与えられたよう
です――。





 ――長らく陽の光を浴びず、牢の中で過ごすうちに私は病を患いました。私がこ
の世界に訪れて、もう20年が経過したのですね――。


 ――これを書いた時点で、私の病状は悪化しつつあると王宮の医師から告げられ
ました。それでも精霊長の意思に変わりはないそうです――。





 ――私がこの世界に訪れ、23年が経過しました。体調を崩し始めて早や3年…
…おそらく先は長くないでしょう――。


 ――書くことすら間もならなくなる前に、私の考えをここに残しておきます。イ
ーサ、貴方の幸せを母は常に祈っています。遊明、私はこの牢で生涯を終えますが
、もし生まれ変われるのならまた貴方と共に過ごしたい――。


 ――最後に精霊長。貴方の悲しみは、同じく遊明を失くした私にも痛いくらい良
く分かります。ですがこれ以上、罪なき者への枷を締めるのはおやめください――



 ――私達は悲しみに区切りをつけることで、未来へと歩むのです。これ程永き時
を経て、その苦しみも幾分か和らいだでしょう? どうかお願いですから、将軍様
やそれ以外の者に恩赦をお与えください――。


 ――私は死後も、元の世界やこの世界の者を温かく見守ります――。





 既に日が傾き始め、マノンが目に涙を浮かべながらマリアが残した日記全てを読
み終えるとともに、遊無も手で顔を覆いフンドもすすり泣いている。


 「マリアさん……最後まで精霊長や皆を気にかけていた」


 マノンの読み上げを聞いていた撰修もハンカチで目元を覆う中、遊陽は決心しマ
リアの日記を手に大図書館から出ていこうとする。


 「遊陽――」

 「――お待ちを。精霊会議に乗り込むことは不可能です」


 ハンカチをしまった撰修から呼び止められるも、遊陽は拳を握りしめたまま首を
左右に振り、再び会議が行われている精霊長の仕事部屋へ向かおうとする。


 「そんなの……ぼくの一声で踏み入って見せるよ……!」


 遊陽に続き、涙を流し続けるフンドが会議の場へ向かおうとしたことで、遊無と
マノンも立ち上がり、撰修も後を追って大図書館を飛び出していった。


 「――続いて我々の世界へ遥々訪れたサバスさんより、この世界への警告を発言
することを認めます」


 精霊会議が行われている精霊長の仕事部屋では、議長である御仰が進行を務める
中、精霊長アラウンが遊陽達の危険性について述べ終わると、サバスは席から立ち
自分達が精霊世界を訪れた目的について語りだした。


 「私はこの世界へ訪れた人間の一人――サバスと申します。私達は今回、皆様方
に我々と同等の危機が迫りつつあることを知らせるべく、ふつつかながらもこの世
界の敷居を跨らせて頂きました」


 それぞれ席に座る諸侯が、馬鹿にしたような態度でサバスを見下す中、サバスは
動じず彼らに理解を求めるため、演説を続けた。


 「人間である我々が危機を知らせるなど、皆様方の目にはさぞ滑稽に映ることで
しょう。それもそのはず、皆様精霊は我々人間よりも長く生きておられるだけあっ
て、我々より理知に優れ超常の力も宿しております」


 彼ら精霊が宿す霊力は、自分達人間を凌駕するとサバスは改めて浮き彫りにする
とともに、同時に自分達人間も決して遅れは取らないと弁解する。


 「しかしながら、短命で力を持たざる我々は、自分達の身に降りかかる危機を察
知することに関しては、貴方方に負けない自信があります。それも当然――弱者と
は、迫り来る危機から逃げることで弱肉強食の世界を生き抜いてきたのです」

 「……そして我々人間が直面した脅威は、こちらの世界だけに及ばず、貴方方の
世界にまで被害を及ぼそうとしている。それ程の脅威を秘めた者が我々の繁栄を妨
げていると、その者達と対面し逃げおおせてきた我々の結論を、どうか支持して頂
きたい」


 サバスの演説に、初めは馬鹿にしたような態度を見せていた諸侯達も、次第に真
摯な態度で語るサバスの言葉を真剣に聞き入り始める。


 「そして我々は、ともに協力し合うことでその者がもたらす脅威から互いの世界
を守りたいのです。その脅威をもたらす者の名は、遊明……そしてトゥゴルカン…
…!」


 サバスが発した者の名前を聞き、数人の諸侯がその場で立ち上がり御仰に着席を
求められるも、彼らは座る代わりに動揺を浮かべながら拳で机を叩いた。


 「どういう事だ!? 行方不明となった遊明と裏切り者が、貴様達の前に現れた
とでもいうのか……!?」

 「はい。間違いありません――」


 再び諸侯達が席に座り直すとともに、サバスは遊陽達の町に現れた秘号について
、自分達が体験した通りに語り始めた。


 「彼らはそれぞれユーメイ、ゴルイニチと名乗り、多くの人々を操り街並みに被
害をもたらしました。彼らの目的は、私達がともに引き連れこの世界に訪れた“遊
無”という少女が宿す力を狙っております」


 ユーメイ達の目的を明かすとともに、サバスは遊無が彼らの目的を達成させる鍵
だと説明したところで、1人の精霊から遊無を精霊世界へと連れ込んだことについ
て言及される。


 「サバスと言いましたね? 貴方はその少女が遊明と裏切り者が求める者と知り
ながら、この精霊世界へと連れてきた。貴方がそうお考えになくとも、この世界に
とっては災いの種を持ち込まれたようなもの――」

 「客観的に見れば、貴方のおっしゃる通り彼女の誘致はこの世界に災厄を持ち込
むも当然でしょう。しかし彼女は意志を持つ人間であり、ただ守られるだけではな
く、自らの運命に立ち向かおうとしています」

 「それは裏切り者達と戦うという意味ですか?」

 「彼女は我々人間から見ても、秘号(エンクレーブ)と名乗るユーメイ達と戦え
る力を有しております。それに加え、同等以上の力を有す仲間に恵まれ、貴方方と
ともに秘号と戦い、そして打ち勝つことができると断言できます」


 遊無を信じるサバスの返答に、質問を放った精霊はサバスの言葉を信用したかの
ように頷き、それとともにサバスは言葉を続ける。


 「我々の仲間は必ずや、両世界に脅威をもたらす者達を貫く槍となるでしょう。
改めてお願い申し上げます。我々とともに遊明とトゥゴルカン率いる秘号を撃ち倒
すべく、ここに同盟を結ぶことを承諾頂きたい! ……私の話はこれにて終わりで
す」


 サバスが一礼し再び着席するとともに、何人かの精霊から彼への拍手が上がり始
め、議長を務める御仰もしばし拍手で応じる中、アラウンは不服そうな表情でサバ
スを睨んでいた。


 「……サバスさん、ありがとうございました。それでは精霊長とイーサ――双方
の意見に対する投票を求めたいと思います」


 御仰が両手を広げ自らの霊力を発揮し、各精霊達の机にそれぞれ鳥の羽根を出現
させるとともに、諸侯達へと配られた羽根について説明する。


 「既にご存じかもしれませんが、改めて説明させて頂きます。自分の合図ととも
に、皆様には二択の選択肢のうちどちらかを念じながら、その羽根を掴んで頂きま
す。それでは今回の議題について、まずはこの世界に訪れた人間達について――」


 御仰が腕を突き出し念を送るのに合わせ、各諸侯は差し出された羽根を掴み、そ
れと同時に羽根の色が赤と青――2色に分かれて変化していく。


 「……採決の結果は同票。25対25のため、最終判断は精霊長へと委ねられま
す」

 『フン――ワシの考えは変わらぬ、人間共はこの世界から追放。元の世界に返す
とともに、奴らを招いたイーサには拘禁の判決を下す』


 相も変わらず、遊陽達人間達をこの世界から排除するとの意思を見せた精霊長に
、御仰と賛成した精霊達は落胆した表情へと変わる。


 「イーサ様――」

 「儂なら気にせずともよい。次はこの世界との協力じゃ」


 イーサが自らの処遇について、案ずることはないとサバスに答えると、続けて
御仰は人間と精霊世界――脅威へ立ち向かうための同盟についての是非を各諸侯達
に説いた。


 「それでは次は……彼ら人間達とともに、襲い来るだろう脅威に備えての同盟を
結ぶか――」


 御仰が腕を突き出すとともに、各諸侯達がそれぞれ羽根を掴む中、仕事部屋の扉
が開き遊陽達が中に入って来た。


 「お待ちください! 精霊長……!」


 第一声を上げたフンドを見た途端、アラウンが怒りを顔に浮かべるとともに、御
仰は一瞬遊陽達へと意識を向けるも、再び示された判断を確認するとともに遊陽達
へと問いかけた。


 「……またしても25対25――同票となりました。フンド将軍――貴方が開け
させたのですね……?」

 「御仰様……! ぼく達はマリアさんの残した日記を読みました! どうか彼ら
との関係についてお考えを改めて下さい……!」


 マリアの残した日記を掲げ、真っ先に御仰の元へと歩み寄るフンドだったが、突
如としてフンドは首元を押さえ苦しみだした。


 「っ……!? がっ……!」

 『精霊長……!?』

 『――フンドよ。まさか再び将軍が、ワシらの理を侵害するとはの……』


 床に倒れのたうつフンドを見下ろしながら、アラウンは彼の首輪へ込められた呪
いを発動させつつ、示された判断の是非について判決を下した。


 『ワシは認めん! 人間との同盟などな。貴様達の申し出になど絶対に応じん…
…!」』

 「――っ……!」


 アラウンが下した決定に、遊陽は遂に我慢ならず大勢の諸侯や御仰が呆気にとら
れる中、フンドの元に駆け寄りアラウンへと言葉を発した。


 『この――頑固ジジイ……! マリアさんだって遊明を奪われたのに……!』

 「おやめください遊陽さん。それに精霊長も……!」


 御仰が厳粛にするよう呼び掛けるが、怒りが頂点に達した遊陽とアラウンは互い
に激しく睨み合い、一歩も譲らぬ構えを見せる。


 『貴様に――貴様などに何が分かる! この世界が支配者を失い混迷に陥ったの
も、全てはあの人間が訪れてからだ……!』

 『それはあんたの思い込みだ! マリアさんは最後まで、自分を生涯牢に閉じ込
めたあんたが悲しみを乗り越えられるよう、願っていたんだ!』 

 「精霊長! ……もう終わりにしようよ。アタシ達の真の敵はゴルイニチ――ト
ゥゴルカンでしょ!?」


 マノンもマリアを想い、涙を流しながらアラウンへと訴えかける姿に、遊無や撰
修も感化され、アラウンへと許しを与えるよう願い出た。


 「マリアさんが直接の原因じゃないのは、あんただって分かっているはずだ。な
のに最後まであんたの事を想い亡くなった彼女の事を、あんたは認めようとしない
! それにゲラシモフさんやアネーチカだって、このまま永遠に裏切り者の一族だ
って迫害し続けるのか……!?」

 『黙れ……』

 「――デュエルだ。俺が勝てばマリアさんやゲラシモフさん、アネーチカへの責
任は、撤回してもらう――」


 頑なに人間を認めようとしないアラウンに対し、遊陽は腕のD・フェースを展開
させ、デュエルでの決着をつけようとする。それは精霊世界の方針――その行く末
が、2人のデュエルの結果に委ねられた瞬間でもあった。





 「私と遊陽――」

 「そしてアタシ、マノンとフンド君が送る――」


 『ビナリウス回顧録!』


マノン「サバス達は、少しでもアタシ達人間と精霊が歩み寄れるよう全力を尽くし
てくれた」

フンド「お二人の演説で、心を動かされた諸侯も多くいました。……ですがやはり
精霊長は納得してくれません」

遊陽「俺達に宿る精霊の力の始まりの者の1人――マリアさんは、精霊世界の混乱
を収めるための生贄にされたようなものだ。精霊長――何でこんな酷いことを……
!」

遊無「――気持ちは分かります。精霊長は悲しみで敵を見誤っている。あの方を正
すためにも、勝って! 遊陽……!」


 『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -猟犬従えし灰の王-』


フンド「精霊長は、ぼくや姉ちゃんが従える迫狗群達とともに戦うデッキだ」

遊陽「何度も蘇り、敵を滅するまで追い続ける精霊長のモンスター。だったら俺も
“切り札”を使うしかない。なんとしてでも精霊長に勝つ……!」
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45 第一章 キャラクター紹介 381 0 2022-12-02 -
46 9Turn  開幕! 影鬼劇場! 381 0 2022-12-03 -
57 10Turn 花形役者と斜国の悪狐 438 0 2022-12-04 -
32 11Turn 陶酔へと誘う酒処 318 0 2022-12-09 -
47 12Turn 特別への自覚 351 0 2022-12-10 -
34 13Turn 波間に揺らめく波止場 354 0 2022-12-16 -
34 14Turn 命育む赤き血汐 416 0 2022-12-17 -
51 幕間 遊無 落第の瀬戸際 400 1 2022-12-24 -
41 15Turn 供養と円寂の儀 433 0 2023-01-14 -
60 16Turn 石の塔が崩れる時 311 0 2023-01-27 -
47 17Turn 盤上のアーティスト 458 0 2023-02-12 -
39 18Turn 夜空に咲く“賑やか”なる華 402 0 2023-02-21 -
48 19Turn タッグデュエル大会 開幕! 487 0 2023-03-09 -
34 20Turn ウフトカビラ&サギラ 399 1 2023-03-15 -
43 21Turn 岡と浪花 花よりたい焼き 324 0 2023-03-21 -
52 22Turn 徹頭徹尾の覚悟 403 1 2023-03-24 -
41 23Turn ビナリウス対バウンティフル 360 0 2023-04-12 -
36 24Turn 決着と新たな予兆 336 1 2023-04-13 -
51 今までの話が丸分かり! 第一章のあらすじ 395 0 2023-04-14 -
35 25Turn 異国からの訪問者 316 0 2023-05-26 -
27 26Turn 天上の採火 207 0 2023-06-02 -
36 幕間 3人の交流生 306 0 2023-06-04 -
62 27Turn 魘夢の魔族 291 0 2023-06-10 -
34 28Turn 羅漢の竜王 253 0 2023-06-21 -
35 29Turn 聖夜のマノン 320 0 2023-06-25 -
30 幕間 もう一人の遊無 267 2 2023-06-28 -
32 第二章 キャラクター紹介 289 1 2023-07-01 -
60 幕間 闘諍の予兆 335 0 2023-07-06 -
33 30Turn 狂課金(ミダース) 259 0 2023-07-10 -
60 31Turn 舞い上がる不死鳥の輪舞 369 0 2023-07-14 -
43 32Turn 巻き上げる関捩 309 1 2023-07-17 -
37 33Turn 夢に堕ちる仲間 361 0 2023-07-22 -
31 34Turn 友を取り戻せ! 267 0 2023-07-30 -
28 35Turn 堕ちた雷と涙雨の天河 292 0 2023-08-03 -
26 36Turn 伝えたい言葉 277 1 2023-08-11 -
27 37Turn 夢を喰らう獏 212 0 2023-08-26 -
26 38Turn 深淵のトモカヅキ 221 0 2023-09-03 -
77 39Turn 最遠のパズズ 297 0 2023-09-11 -
24 40Turn 所縁が結ぶ絆 208 0 2023-09-18 -
18 41Turn 活火激発の鍛人(かぬち) 219 0 2023-09-22 -
20 42Turn 巣林一枝のブルーバード 162 0 2023-09-23 -
28 今までの話が丸分かり! 第二章のあらすじ 254 1 2023-09-24 -
22 43Turn 次の関係(ステップ)へ 231 0 2023-10-20 -
28 44Turn 竜の駒 大洋を統べる 302 0 2023-10-22 -
32 45Turn マグナ ヌメンへの往訪 213 0 2023-10-26 -
25 46Turn 跳躍-精霊世界へ 206 0 2023-10-29 -
38 幕間 強化訓練と異界の住人 264 0 2023-11-02 -
29 47Turn 精霊世界 マースの森で 195 0 2023-11-05 -
26 祝一周年! 今後の展望など 244 0 2023-11-11 -
25 48Turn 精霊長アラウン 172 0 2023-11-15 -
23 第三章 キャラクター紹介 207 1 2023-11-16 -
34 49Turn 下される審判 220 0 2023-11-20 -
20 50Turn 猟犬従えし灰の王 216 0 2023-11-28 -
27 幕間 精霊世界の平生 281 0 2023-12-07 -
21 51Turn 最善の選択 176 0 2023-12-18 -
24 52Turn 立ちはだかる使者達 226 0 2023-12-28 -
23 53Turn 怨嗟積り秘号と成す 192 0 2023-12-30 -
21 54Turn 遊明の力 206 0 2024-01-02 -
24 今までの話が丸分かり! 第三章のあらすじ 223 0 2024-01-03 -

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