FILE：002　デュエルキング　作：ハコネの達人

ベイル「なんだぁ…ありゃ…」

　ベイルは性格の割に時間にうるさく、時間をほぼ正確に記憶している。そしてよほど調子が悪くない限り、脳内時計が狂うことはない。

ベイル（18時半を回ったばっかだってのに……青空が見えるだとッ！？）

　彼が驚くのも無理はない。シンクロ召喚された『サーニャ』の周りだけ青空が広がり、燦々とした太陽が天高くで輝いていた。

　彼らの使うカード…デュエルモンスターズたちは、時に現実世界にも大きな影響を与えることで知られているが、それを成し得るのは強靭な精神力のデュエリストのみである。

　ましてや天候すら変えるとなれば、そのモンスターそのもののポテンシャルも必要になってくる。

ベイル「あのモンスターは…それほどの力を持っているっていうのか…」

　ベイルはその事実が受け入れられず、しばし思考が停止した。しかしそれに構わずユウラは言葉を続る。

ユウラ「…『サーニャ』の効果により、自分フィールド上の『Crate』モンスターの攻撃力・守備力は自分の墓地のカードの数×100ポイントアップする。俺の墓地のカードは11枚。よって1100ポイントアップする！
『サンライト・ライズ』！」

　『サーニャ』を包む柔らかな光が、ユウラのモンスターを照らし出す…。

○Crate　ムーニア:攻2400→3500
○Crate　サーニャ:攻2200→3300

ユウラ「更に墓地のカードが増えたことで、『ムーニア』の効果が増大する！」

　ムーニアを纏う影が更に濃くなり、相手モンスターの力を奪う…。

○パンキービースト・アスティ：守400→200
○パンキービースト・ ファニール：攻1900→1700

ユウラ「そして手札から『ランサス・ロイド』を通常召喚！」

○ランサス・ロイド
　地・星4・攻1500・機械族／効果

ユウラ「このカードが召喚に成功した場合、ターン終了時まで自分フィールド上の機械族モンスターに守備貫通効果を付与する！」
ベイル「何ッ！？」

　『ランサス・ロイド』が手に持った槍を掲げると、『ムーニア』と『サーニャ』に光の粉が降りかかる。

ユウラ「そして手札から魔法カード『メカニカル・タクティクス』を発動！」

○メカニカル・タクティクス
　通常魔法

ユウラ「自分フィールド上にこのターン召喚・特殊召喚された機械族モンスターのみが存在する場合、自分フィールド上の機械族モンスターの攻撃力はエンドフェイズまで1000ポイントアップする！そしてさらにデッキから1枚ドローする！」

○Crate　ムーニア:攻3500→4600
○Crate　サーニャ:攻3300→4400
○ランサス・ロイド:攻1500→2500

ユウラ「バトルだ！『ランサス・ロイド』で『パンキービースト・アスティ』を攻撃！」

　『ランサス・ロイド』は勢いよく飛び上がると、獰猛な獣に向けて渾身の刺突を放つ。『アスティ』はその一撃を受けて、一気に粒子状になって霧散した。

ベイル「グッ！」

ベイル:LP 8000→5700

ユウラ「続けて『Crate　サーニャ』で『パンキービースト・ファニール』に攻撃！
『シャイニング・レイ』！」

　『サーニャ』はどこからともなく戦斧を取り出し、太陽の力を刃のただ一点に収束させて雄叫びを上げる猛獣に斬りかかった。『ファニール』はそのアギトで応戦するも、その牙は太陽の刃に焼き折られ、一刀両断された。

ベイル「グァああああアアアッ！」

ベイル:LP 5700→3200

ユウラ「とどめだ！『Crate　ムーニア』でプレイヤーにダイレクトアタック！
『フルムーン・キャノン』！」

　『ムーニア』は背負っていたキャノン砲を脇に抱え、その照準をベイルに合わせる。

ベイル（まずい…このままやられるわけには……！）

ベイル「リバースカードオープン！『パンキービースト・ジェイル』を発動！」

○パンキービースト・ジェイル
　通常罠

ベイル「相手の直接攻撃宣言時、自分の墓地の『パンキービースト』モンスター1体をデッキに戻し、そのモンスターの攻撃を無効にする！」

　立ち上がったカードが淡く光り、重く大きい鎖が『ムーニア』を捕らえた。

ベイル「ふぅ…これでなんとか…」

ユウラ「…そいつはどうかな？」

　攻撃を止め安心したベイルにユウラはそう問いかけた。

ベイル「…なんだと？」

ユウラ「あんたはもっとあらゆる可能性を考えておくべきだったね。ゆえにあんたはこのターンで負ける」

ベイル「おいおい、さっきの効果で最後のモンスターの攻撃は終了したじゃあないか」

ユウラ「まだ…俺のバトルフェイズは終了してないぞ」

　ユウラはその残った2枚の手札から1枚のカードをそっと手に取ると、デュエルディスクにセットした。

ユウラ「俺は速攻魔法『ダブル・アップ・チャンス』を発動！」

ベイル「なっ、何ィ！？その魔法はッッ！」

○ダブル・アップ・チャンス
　速攻魔法

ベイル（ば、馬鹿な…この限られた場面において、それに全て対応できるカードを…ユウラ、奴はたったの6枚あまりの内に握っていたというのか…ッ！）

ユウラ「自分フィールド上のモンスターの攻撃が無効にされた場合、その攻撃力を倍にして、もう一度攻撃できる！」

○Crate　ムーニア:攻4600→9300

　『ムーニア』を捕らえていた鎖が緩み、機械少女は再びキャノン砲を取り出し、構え直す。

ユウラ「再び放て、『フルムーン・キャノン』！」

　そのユウラの宣言とともに、『ムーニア』は大量のエネルギーを圧縮し、一気にベイルめがけ放つ。

ベイル「グフっ……グアアアアァァァァァァ！！！！」

ベイル:LP 3200→0

YURA IS WINER!



ベイル「まさか…この俺様が1ターンキルされるなんてな…参ったぜ」

　ベイルは寝転がりながらそう言うとすぐに気絶してしまった。

ユウラ「…」

　ユウラは彼が完全に気絶すると、少女に歩み寄った。

ユウラ「君、大丈夫かい？」

少女「あなたは…一体…？」

ユウラ「まぁとにかく、君のお兄さんを起こしに行こうか」

　ユウラはそうはぐらかし、気絶している少年を揺り起こした。

少年「う…ううん…」

　少年はゆっくりと起き上がると、少年は言葉を発した。

少年「あんた…なんで俺たちを…」

ユウラ「助けたのは俺の合理的判断だ」

　そう言うと少女は震えだし、少年は少女を抱き抱える。

少年「…何するつもりだ」

ユウラ「何、単純な話さ。君たちの持つ情報を教えてほしい」

　すでに暗くなった空に浮かぶ月明かりに照らされ、彼は静かに微笑む。

少年「まさか…『王符』のことか？」

ユウラ「その通り」

　ユウラと少年はそのまま話を続けようとするが、少女の方はなんだかわかっていない様子で首を傾げている。見かねたのか少年が話し始めた。

少年「『王符』ってのは『決闘王（デュエルキング）』と呼ばれた6人の英雄が使っていたカードのことで、圧倒的な強さを持っているんだ」

ユウラ「しかしそのカードを扱う資格がなければそのテキストを理解することすらできない…まさに伝説のカードってわけさ」

少女「へぇ…でも、それについての情報って私たち何かあったっけ？」

　少女は新たな疑問を少年に投げかける。すると少年は言いにくそうに口籠もっていると、ユウラが先に答えた。

ユウラ「実は…君達2人は決闘王『青』の末裔なんだ」
少女「えっ！」

　いきなり明かされた真実に少女は驚きを隠せず思わず大声を出してしまった。彼女は信じられず少年の方を見やると少年はコクリと頷く。

少女「あれ…？でもあなたはなんで私たちが末裔だってわかったの？」

　そう聞かれるとユウラは腰に下げたデッキケースから1枚のカードを取り出すと2人に見せた。そのカード名には『1133419545・S・911231psst』と書かれている。

少女「これは…」

　流石に彼女でも分かったのだろう。このカードが何であるかを。


ユウラ「決闘王『白』…。俺の先祖の、魂のカードさ」