90 大女優の本性　作：ギガプラント

（クリスティアホール・会場）



夏武斗（くっそ～…さっきジュース飲み過ぎたせいかな。）


夏武斗（こんなんだったら始まる前にトイレ行っとくんだったぜ…。）


夏武斗（流石に劇中に抜け出す訳には……。）


周りを見渡すと、周囲の席の女性ファン達は真剣に舞台に見入っている。
その視線は、舞台上を歩く演者達の瞬き一つ見逃すまいと全神経を集中させている。
夏武斗の座っている場所はズラリと横一列に並んだ席の丁度中間あたりで、通路に抜けるには左右どちらかの客の前を通過しなければならない。


夏武斗（こんなとこ抜けたら怒られそうだしなぁ…。）




夏武斗「っ！？」



夏武斗（ぐぐっ！けどやっぱりもう我慢できないぃ！！）


夏武斗（ｽ､ｽｲﾏｾ～ﾝ）

出来るだけ客等の顔を見ないように通路へと抜けていく。




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（控室）


最初の出番を終えメイク直しに移る平留。
軽く髪型を直しながらメイクの女性が話しかける。


平留「ふぅ…。」


メイク「今回も満員御礼、流石ですね。」


平留「えぇ。」


メイク「会場中がグレイシアさんに釘付けでした。なんていうか神様が降りてきた時の信者のようで。」


平留「そうね。」


メイク「よし、ＯＫです。失礼しま～す。」


部屋を後にするメイク係。
一人残った平留はフンと鼻を鳴らす。




平留「…………」


平留「神を見た信者？………馬鹿馬鹿しい。」


平留（あんなのは餌に群がる豚同然。忌々しい事この上ない。）


控室に設置されたモニターから舞台上を見る。


平留「…その舞台が貴女達が見る最後の光景になる。」


平留（さて………）



ゆっくりと部屋を出ていく。



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（クリスティアホール・エントランス）


やっとの思いで会場から抜け出してきた夏武斗は、エントランスでホッと一息ついていた。


夏武斗「あ～怖かった～…。」


夏武斗「皆ギロギロ睨んでくるんだもんなぁ。寿命が縮んだぜ…。」


夏武斗「って帰ってきたらまたあの席まで戻らなきゃなんねえじゃん！！」


夏武斗（うげぇ……もう帰っちゃおうかな。いやでも大迫力デュエルシーンは見たいし…。）


夏武斗「…………」


夏武斗「…折角蘇芳がくれたチケットなんだし、最後まで見てくか。」


夏武斗「えートイレトイレっと………あっちか？」


夏武斗「あれぇ？行き止まりか？ってことはあっち？」



真逆方向に走っていく夏武斗。




夏武斗「だあああ！広すぎるんだよ～！！」




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（クリスティアホール・Ｍ.Ｃ.Ｃブース）


天音（例の組織…アインヘリアルがアブソーバーを使ってくるとしたら、やはり舞台の後半でしょうか。）


天音（アストベリーさんのお話によると、機器の特性上このホールなら内部に侵入しないと使用できないとの事でしたね。）



天音「侵入経路…。」



天音（普通に入り口から入るとすれば、あんなに大きなものを運んでいれば間違いなく目立ちますし、まず不可能に思えます。）


天音（屋上や裏口部分にもセキュリティが配置されていますし、何かあれば緊急信号が飛んでくる筈。）


天音（彼等は高いデュエルの実力があるようですが、複数人のセキュリティを一度に相手するのは難しいでしょうし…。）





天音「そういえば、奏さん達はもう目を覚ましたでしょうか…。」



天音（あれ？でも奏さん達はどうして此処に来ていたんでしょう…）


天音（アインヘリアルにやられたのだとすると……。）


天音「まさか……」








？「だあああ！広すぎるんだよ～！！」






天音「あれ？今の声って……夏武斗君？」


声のした方向から足音が遠ざかっていく



天音（いやそんな筈……ここはチケットが無いと入れない筈なのに…。）


天音（それに夏武斗君は…。）


天音「………」


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天音「あの……夏武斗君は…。」



仁「……さあな。」


天音「さあなって…。」


仁「俺はアイツにデュエルで負け、なんの収穫も無く無様に帰ってきた。」


仁「今のアイツが何をどうしているのか……そんなことは分からん。」


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天音（仁君はああ言っていましたけど、もう元気になったんでしょうか…。）


天音「だったら、嬉しいんですけど…。」




天音（もしかして夏武斗君、舞台を見に来たんでしょうか。）


手元にあったパンフレットを改めて見直す。


『霞の谷より愛をこめて～愛と涙のダイレクトアタック～』


天音「…夏武斗君が見るには、ちょっと難しすぎるような。」



天音（あれ？でももう舞台は始まってるのにどうして…。）


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？「だあああ！広すぎるんだよ～！！」

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天音「あっ…（察し）」




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（クリスティアホール・内部）


平留（作戦の段取りは……）


平留（私が舞台上に居ないタイミング…つまり今の内に、予め持ち込んでおいたアブソーバーを舞台天井裏付近に設置。）


平留（そしてマヘルが取り付けた追加ユニットを作動させておく。）


平留（このユニットは一定以上のオーラ値を感知すると自動でアブソーバーが最大出力で起動するようになっている。）


平留（後は私が舞台に戻り、本作最大の見せ場であるデュエルシーンを盛大に行うだけ。）


平留（客が熱狂した際に発せられる『力』とやらは、声を出さずともデュエルで興奮状態になれば身体中から発せられるらしいから、間違いなくアブソーバーは起動する。）


平留（アストベリー杯程ではなくとも此処は完全なる室内。天井が崩れれば客席は地獄絵図となる。）


平留（あの雌豚共には忌々しく悲痛に泣き叫んで消えてもらう…！）


舞台の大道具等が仕舞われていた物置のような部屋に足を踏み入れる。部隊が始まっている今、中には誰も居ない。

物が所狭しと並べられた部屋の片隅にひっそりと置かれていたそれを確認すると、覆いかぶさっていたビニールシートを取り払う。


平留「双葉でもこの程度の仕事はできるようね。」




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天音「夏武斗君！居たら返事してくださ～い！」


天音（流石にホール内で会場が分からないなんて事はないでしょうけど……。）


天音（こっちの方向には何もありませんし…直ぐに見つかるといいんですが。）


ホールの裏側へと続く通路に差し掛かる。
道の真ん中に立てられた看板に「関係者以外立ち入り禁止」と書かれている。


天音（まさか……いや、流石に…。）



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夏武斗「あーっと……なんか２階に来ちまったけど、こっちにあんのかなぁ？」


広けた通路には役者に送られた祝い花が沢山飾られている。


夏武斗「なんだかトイレの気配がしねえ！やべえよ漏れちまうよおおお！！」


２階通路を小走りで移動する夏武斗。



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立ち入り禁止の看板を通り過ぎ、楽屋側へ繋がる通路に向かう天音。


天音（まさかこちらまで来たという事は……ないですよね？）


天音（幾ら夏武斗君が極度の方向音痴とはいえ、あの看板を見逃がしたりする筈はないと思うんですけど。）


天音（私も一応Ｍ.Ｃ.Ｃスタッフで来ているとはいえ、こちらの立ち入りが許可された訳ではないのであまり此処に居るのは良くないんですよね…。）


天音「…考えすぎ、でしたね。」


天音（戻りましょう。もしかしたらブースの近くに居るかもしれませんし。）




天音「えっ？」


戻ろうとした天音だが、少し先に見える小部屋からガサゴソと音が聞こえてくる。



天音「夏武斗…君？」




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（クリスティアホール・Ｍ.Ｃ.Ｃブース）


周囲の見回りから帰ってきた仁。


仁「今戻った。」


Ｍ.Ｃ.Ｃスタッフ「あぁ夜見原さん見回り行ってたんでしたっけ。乙でーす。」


仁「…花田の姿が見えないが。」


Ｍ.Ｃ.Ｃスタッフ「花田さんは……あれ？何処行ったんだろ？さっきまでそこに居たんだけどな。」


仁「………」


Ｍ.Ｃ.Ｃスタッフ「もしかしたらお手洗いかな？多分直ぐに戻ると思うよ。」


仁「…だといいがな。」


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（クリスティアホール・小部屋）


平留（あとはこれを天井裏に運び入れてユニットを起動させておくだけ。）


平留（今は外に誰も居ないので見られる心配もほぼ０、この程度猿でも出来る。）


平留「…やはり初めから私が動いておくべきだった。」


平留（アリスや双葉のような小娘に作戦を任せるのがそもそもの間違いだったということ。）


平留（さぁ、もう……）
天音「失礼します……」



平留「っ！？誰だ！！」


平留（なんだと！？どうしてこの時間に人が居る！？）


天音「あ、えとっ…すみません！！」


天音（この人……グレイシア平留さん！？どうしてこんなところに…。）


平留「なんだ貴様！ここは関係者以外立ち入り禁止だ！とっとと去れ！」


平留（迷い込んだ一般人か？ったくこれだから頭の悪い女はっ…！！）


天音「どうもすみませんでした、直ぐに戻ります！あの、此方に中学生くらいの男の子を見ませんでしたか？」


平留「そんな奴は知らない！愚図愚図せず今すぐに戻りなさい！！」


天音「は、はい！！失礼しまし………え？」


部屋自体は碌に電気も付けられず薄暗いままだったが、天音の目ははっきりとそれを捉える。




天音「Ｄオーラ………アブソーバー？」


平留「っ！」


天音「どうしてそれが此処に！？やっぱり……！」


天音（昨日の段階で既にホール内に運び込まれていたんですね…！奏さん達はその作業中に彼等と遭遇してしまったということですか。）


天音「平留さん！それはとても危険な物です！今すぐセキュリティに連絡するのでそのまま触らないでください！！」


dPhoneを取りだし連絡を試みる天音。


天音（これが此処にあるという事は、アインヘリアルは既にホール内に潜入している筈…！早くしないと…！）





平留「…何故だ。」




天音「え？」


平留「…何故お前たちはいつもいつも私の邪魔をする？」


天音「平留さん…？」


平留「…いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも、軌道に乗り始めてから邪魔をする。踏みにじる。台無しにする！！」


平留「…だから貴様等女は、嫌いなんだよおおおおおお！！！！！！」



叫びながら拳を強く前へ突き出す。
すると一瞬でその腕を氷の塊が覆い尽くす。


天音「！？」


その後一気に氷が砕け散ると、腕にはデュエルディスクが装着されている。



平留「はあああぁぁぁ！！！！」


低く唸るような声をあげると、部屋中を黒い濃霧が包み込む。


天音「一体何が……まさか！貴女が！」



平留「漸く全部終わるんだよ終わらせられるんだよ！！！邪魔はさせないぞ！女あああ！！！」


天音「くっ……通信が切れて…。」


天音「平留さん…貴女がアインヘリアルだったんですか！」


平留「なんだ、私達の名まで知っているのか。さてはセキュリティの差し金が客に化けて紛れていたか！卑怯者の女がやりそうなことだ！」


天音「アストベリー杯の時のように、この会場もボロボロにする気ですか！」


平留「だったらなんだ！！卑しい雌豚共を虫けらみたいに潰す！その邪魔はさせない！！！」


天音（まさか演者側に紛れていたなんて……しかもグレイシア平留さんが…！）


平留「貴様もデュエリストなんだろう女……とっとと構えろ！！磨り潰してやる！！！」


天音（これが……あのグレイシアさんの本性だっていうんですか…？）


天音（止めなきゃ……この戦い、絶対に負けられない！）





dPhoneモードチェンジ！Ｄパッドモード！



ターゲットロックＯＫ！



ビジョンリンクＯＫ！



ファーストディールＯＫ！



デュエル！！




終









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（次回予告）


天音「グレイシア平留さん……まさか劇団内の人物がアインヘリアルだったなんて。」


天音「相手はアストベリー杯で優勝候補と言われていた実力…！本気でかからないと。」


天音「っ！あれはエクシーズモンスター！？毎ターンオーバーレイユニットを増やして強くなっていく…！」


天音「次回！『天音ＶＳ平留！浮上せし氷山の一角獣』」


天音「まさに氷山の一角ということですか…。」
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・殆どが独り言というかモノローグな件。