第七十九話　 咲の隠れ特性　作：くちなし

・文化祭のゴタゴタと幻魔の件で焦り気味の咲夜。文化祭の途中で見つけた手紙の事が気になって、夕方に一人で寮に向かう。


咲夜は現在寮へ向かっている。辺りは薄暗くて誰も居ない。

咲「日常を壊すなよ～♪俺は普通に怠ける♪目標とかいいから、どうでも良いから⋯⋯♪」
　咲夜は「涼宮ハルヒの憂鬱」の「倦怠ライフ・リターンズ！」のサビを口遊む。

そしてメモに書かれた通り部室へ行く。すると部室には明かりが灯っている。誰なのか？

咲「入るよ」
ドアを開けるとそこに居たのは⋯⋯音梨さんだった。彼女は外を見ていて、気が付くと咲夜の方を向く。音無さんは西荻さんと比べると少し地味なイメージがある。

梨「来たわね⋯⋯」
咲「何の用ですか？」
梨「話しておきたい⋯⋯いや、話さなきゃならない事がある⋯⋯」
咲「なんだ⋯⋯？」
　まさか、私は宇宙人ですとか言うなよ。

梨「早柿ハルヒの事⋯⋯どこまで知ってる⋯⋯？」
咲「とにかく、あいつが普通じゃないってところかな」
梨「そう⋯⋯」
咲「ハルヒの事と君に何の因果がある？」
梨「私は⋯⋯」
咲「⋯⋯」
梨「私は彼女の監視役にあたる存在⋯⋯そして、あなたを守る存在⋯⋯」
咲「監視役⋯⋯？何を監視するんだ？それになぜ僕が守られなきゃならない」
　また面倒な話か。

梨「早柿ハルヒは環境を超越する創造力がある⋯⋯これを私は『創造課』と呼んでいる⋯⋯」
咲「『創造課』⋯⋯？」
梨「そう⋯⋯あなたは彼女に選ばれた⋯⋯正しくは気に入られた唯一の存在⋯⋯そして彼女が暴走しない
　ように監視するのが私の使命⋯⋯」
咲「⋯⋯」
　またかよ。『選ばれた』ってどういうことだ。西荻さんと同じことを言ってるよ。

咲「それなら、一緒にじゃれてる朝比奈さんに教えてあげた方が良いんじゃないか？」
梨「その必要はない⋯⋯彼女も少しは知っているはず⋯⋯」
　どういう事なのか。さっぱりだ。

咲「それで、『○○課』ってのはなんなんだ」
梨「正確にいうのは難しい⋯⋯けど特別な者に備わったいわば『隠れ特性』のような物だと定義している⋯⋯
　それは色々な物があり⋯⋯調査能力に長けたもの、早柿ハルヒの様に創造などの超次元的な物、
　他にも色々ある⋯⋯生まれつき備わっている者も居るし、途中から備わる者も居れば、何時の間にか
　使える様になっていた⋯⋯と様々な事例がある」
　そうか。「隠れ特性」か。なかなか解りやすい例えだ。

咲「で、音無さんはその特性はあるのか？」
梨「私は途中からこの特性が備わっている事に気付いた⋯⋯その特性は『情報採集課』」
　情報⋯⋯ね。

梨「ルシアスは⋯⋯早柿ハルヒを狙っている⋯⋯」
咲「あのルシアスがか⋯⋯ルシアスを直接倒せないのか？」
梨「それはムリ⋯⋯でも、ルシアスの配下を倒し兵力を減らすことはできる⋯⋯」
咲「どれくらいいる？」
梨「けっこう」
咲「それじゃわからない」
梨「たくさん」
咲「⋯⋯」
　　「けっこう」も「たくさん」も同じようなもんだ。もっと詳しく知りたい。

咲「なぜハルヒを狙ってるんだ？」
梨「言った様に彼女には『創造課』がある⋯⋯それの暴走がルシアスの狙いだと踏んでいる⋯⋯そして」
咲「ここから僕が居なくなればハルヒは何らかの感情を表し、暴走の可能性がある、という事か」
　音梨は頷いた。

梨「ルシアスは遊戯王界の『神』を従えて世界を我が物にしようとしている⋯⋯」
咲「⋯⋯全世界の神⋯⋯ね⋯⋯」
梨「現にここから三幻魔のカードが奪われている⋯⋯それを奪った次の目標は⋯⋯」
咲「まさか⋯⋯」
梨「そう⋯⋯『三邪神』または『三幻神』を狙う可能性が高い⋯⋯けれど『もう一つ』ある⋯⋯」
咲「もう一つ⋯⋯？」
梨「それは力を持って制する混沌の幻魔⋯⋯」
咲「幻魔⋯⋯！４つ目の幻魔が居るのか！？」
梨「それとは違う⋯⋯三幻魔の力を集約させたのがそれにあたる⋯⋯」
咲「それについては何かあるのか？」
梨「残念ながらそれに関してはまだわからない⋯⋯けれど、幻魔が向こう側にある以上、何かしら起こる⋯⋯」
　咲夜は考え込む。幻魔さえ強力なのにそれを集約させた物とは嘸凄いんだろうな。

梨「今の所、私が分かるのはそれだけ⋯⋯あなたには早柿ハルヒに選ばれた者として知ってほしかった⋯⋯」
咲「そうか⋯⋯だが、正直に言おう。まだ状況は呑み込めそうにないよ」
梨「⋯⋯でも、ルシアスは必ずあなたに影響する何かしらを仕掛けてくる⋯⋯最悪、私達全員を巻き込んで⋯⋯」
咲「ハルヒを暴走させないために僕が気を付けろ、そういう判断でいいの？」
梨「少し違う気がするけど⋯⋯それでいい⋯⋯」
　そう言うと部室のドアを開ける。

咲「最後に1つ聞かせて」
梨「なに⋯⋯？」
咲「なんでこのSDA団に入ったんだ？」
梨「早柿ハルヒが自ら立ち上げた団なら行動範囲を多く確認する事が出来る⋯⋯そう予測した⋯⋯」
咲「どうなっても知らないからね」
梨「⋯⋯」
　咲夜の頭の中はモヤモヤしている状態。理解した所もあるが、未だに解せぬところもある。

梨「遅くにありがとう⋯⋯」
咲「気にしないで。僕は比較的夜系なんで」
　そう言って咲夜は部室を出て、寮へ戻った。

咲「何だよ、西荻さんの次はヤンデレ(➡独断)の音無さん。となると次は朝比奈さんか擬宝珠さんなのか？」
　なんてくだらない予測をする。『創造課』⋯⋯ハルヒは僕が思ってたよりかなりすごいんだな⋯⋯
　だが、音無さんがヤンデレ要素ってのはまったくもって関係ない。
　そう思いながらその日を終えた咲夜だった。


第八十話へ続く