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HOME > 遊戯王SS一覧 > 朝霧地影 眼鏡を装備する

朝霧地影 眼鏡を装備する 作:はにわ改

 
ーー地影がデュエル・アカデミア初等部に入学して2年目。
彼女がデュエルで一勝も出来ていないのは最早、アカデミア内でも有名な事となっており、
ここまで来ると念願の一勝目はいつ訪れるのか、あるいは初等部卒業まで全敗となるか、別の意味で期待を集めていた。

そんな地影を当初はからかったり虐めたりする者もいたが、1年目と少しを過ぎた頃には全くいなくなっていた。
それには明確な理由がある。

地影自身、1年を過ぎた頃、気持ちが荒れたり、折れかけたりと、
一時はデュエル・モンスターズに嫌気がさした時期もあった。
デュエルに1度も勝てない、となればそう落ち込むのも無理からぬところがあっただろう。

ーーしかし、彼女は辞めなかった。

悔しかったのだ。

馬鹿にされ、蔑まれーー何より結果を出すことが出来ない自分に悔しさを強く抱いた。

彼女は普段の生活にこそ、そんな様は一切見せなかったが、
見えないところで歯を食い縛り、耐え抜き、光明の見えない中でひたむきに努力をし続けていた。

ある時からデュエルの記録を取り、家で負けた原因を探り、反省点を字に書き起こす。
更にデュエル・モンスターズに関する文献はもちろん、活かせそうな様々な本を読み漁る。
ここに語る事など、地影の成した努力の一部でしかない。
そしてそれは確実に彼女の中で『地力』となって身に付いていった。

その成果こそーー。

『すげー、朝霧の奴、また学科試験満点だぜ』

『二位に30点以上も差をつけてんじゃん。
有り得ねぇよ』

『いや、それを言うなら、満点って時点で有り得ないだろ』

ーー学科試験。
春夏冬の三期に分けて行われる何科目による試験。
地影の努力はそこで目に見えて現れる形で1つの実を結ぶ。
1年目から2年目に掛けて地影は全科満点を取り、かつそれを維持した。
最下クラスのオシリス・レッドでありながら学科に於いては、最上クラスのオベリスク・ブルーを遥かに突き放す。
いつしか彼女の周りには、勉学で苦しむ生徒たちが集まるようになり、
その中には虐めに参加した者たちもいた。
だが地影はそんな面々にも区別せず分かりやすい指導を施し、そんな人柄が皆に好かれ、自然と友人は増えていった。

『あー、地影ちゃん、眼鏡かけてるーっ!』

ーーある日。
地影が眼鏡を掛けて登校したのが、皆の興味を惹いた。

「あ、うん。
暗いところとかで本読んでたせいかな?
目が悪くなっちゃって……」

『あはは!
似合ってる、似合ってるー』

『でも、眼鏡掛けると、急に真面目な雰囲気になった、って感じ』

「そう?」

『うん、なんてゆーか、見た目だけど、すごい“委員長”やってそう』

『分かる、分かるーーっ!』

「もう、何よ、それー」

地影の努力は確実に力になっていた反面、それまで良かった彼女の視力を一気に奪い去った。
そのため眼鏡を掛ける事を余儀なくされた地影だが、妙にマッチしたせいもあり、余計に優等生として扱われていくのだった。



ーーだが。

デュエル実技試験。

「く……っ、ま、負けた」

地影はまたしても膝を付かされる。

一体、何連敗しているのか、数えるのも馬鹿らしくなるほど。

これには他の生徒も、そして教諭も困惑せざるを得ない。
学科ではあれだけ優秀な成績を残す地影が、ことデュエルに限っては何故こんなにも勝てないのか。
まるで運命が悪戯、神様が意地悪をしているとしか思えない。

地影はそれからも負け続けた。
実技試験で結果を出せなくてはクラス昇格も望めるはずもなく、万年レッドのレッテルが張られたのである。

ーーそして話は冒頭へと還る。

二年目を迎えた地影。
まだ慣れない眼鏡をしきりに直しながら、ある著本に読み耽る。
とあるプロデュエリストが子供時代から、プロになるまでを描いたものだが、その中にある一節を地影はじっと見つめた。

『勝負を制する上で最も大事な事は、敵である相手を知ることである』

正直、地影はその言葉に感銘を受けたわけではない。
だが己のこれまでのデュエルに対する考え方と照らし合わせた時、そこに足りないものがあったと気付かされたのだ。

今まで地影はどのような戦略で向かえば、相手を切り崩せるのかーー言わば『攻める』事を研究し続けていた。
だがそれでは足りなかったのだ。

自分が攻めれば、当然相手はそれを受ける。
その受けに対する研究が、非常に希薄だったのだ、と。

『勝つには相手を知ること』。

地影の頭の中で『転機』が訪れた瞬間だった。
その決意の証として地影はそれまで構築していた『攻め』の自学を全て捨て去る。
2年に渡って研究し、書き起こしてきたレポートやノートの一切合切を絶った。

そしてデッキのカードもまるで新しい波で洗い流すように、『転換』させた。

朝霧地影、この時11歳。

『攻め』一辺倒の思考から『受け』に切り替えた瞬間であった。
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