朝霧地影vs神楽坂刹那　作：はにわ改

　
アカデミア対抗国内大会。
昼食休憩を挟んで大会再開、残すは準決勝２戦とその勝者による決勝戦のみ。
その準決勝第１戦目で波乱が起きた。
優勝候補と目される神楽坂姉妹の妹・久遠が敗れたのである。

その相手はーー千歳真希。
彼女もまた後に地影と並んで四天王の一人に数えられる事になり、刹那との出逢いで運命を大きく揺れ動かされた者の一人である。

久遠と真希のデュエルは、僅か１ターンの勝負だった。
先攻を取った久遠が様子見、と無難にターンを終えたその直後、
真希が電光石火の速攻で久遠に粘る余地を与えずにワンターンキルを決めたのである。
神楽坂姉妹に注目が行きがちで目立っていなかったが、
真希もまたこの頃から既に頭角を現しつつあったのだ。

決勝戦に於ける姉妹対決が期待されただけに、この番狂わせは会場に大きく衝撃をもたらしたのであった。

「すごい……手札１枚残さない、正に無駄のない『攻め』……」

真希の戦術を目の当たりにした地影が素直に感嘆の声を漏らす。
ワンターンキル自体はこれまでに友達のデュエルや、プロアマの大会で何度となく見たことはあったが、
真希のそれはそのいずれにも属さない鮮やかさがあり、
また本来の自分のスタイルを志す上で、地影には大変参考になるものだった。

「あ……」

一方、敗れた久遠。
地影が肩を落としたその姿に、思わず同情する。

まさかワンターンキルを決められるとは思ってもいなかったか、
何より敗退した悔しさに頬を濡らし、そんな妹を姉の刹那が慰めているようだ。
昼食休憩の時はあんなに明るい様子だっただけに、地影は在りし日の自分と重ね合わせて、胸を締め付けられる思いである。

周りにはマスコミの姿もあり、姉妹に何かを聞いてる様子が見て取れ、
泣く久遠に代わって、姉の刹那が受け答えしているようだ。

地影は妹を思いやる姉の姿に温かいものを感じると同時、マスコミの連中にデリカシーがない人たちだ、と素直に思ったのだった。


ーーそしてそれからすぐ。

準決勝第２戦。
地影の出番がやってくる。

相手は神楽坂姉妹の姉・刹那。

まだ気分が落ち込んでいる久遠を置いて、地影と向き合う。
その佇まいは自分や他の選手にはない優雅さと同時、
敗れた妹の分まで戦う、という気迫が地影には感じ取れた。

だが地影は特に気圧されることなく、
例え相手が誰であろうと、今、自分が貫くべきスタンスに従うだけであった。

即ち、堅牢なる岩の如く、相手の攻めを受け潰す。
それが本来自分がやりたい事でないにしろ、いずれそこに行き着くための『調整』。
『攻め』の極意とは、『受け』の極意を知ること。
地影はただストイックにそう考えていた。

『ーーデュエル！』

地影VS刹那。
現代の地影にとって忘れもしない二人の初にして、思い出のデュエル。
今日、初めて出逢った二人が早くもその雌雄を決すべく向き合い、開始の合図を告げた。