朝霧地影 ９歳の冬②　作：はにわ改

「ーーこの攻撃が通れば！
プレイヤーにダイレクトアタック！」

『リバース・カード、オープン！
“魔法の筒（マジック・シリンダー）”！』

「あ……」

地影の上級モンスターによる攻撃。
だが、その一撃は罠によって阻まれる。
『魔法の筒』の効果により、地影自身がそのモンスターの攻撃力分のダメージを受けて、ライフが０。

ーー敗北。

（また……勝てなかった）

週に一度行われる生徒同士の実技試験。
これで結果を出さなければクラスを上げる事は出来ず、また成績にも大きく響いてくる。

ーー入学して数ヶ月。
地影は未だ思うような結果を出せず、最下クラスのオシリス・レッドに留まっていた。
学科は標準より少し上の評価。
だがいざ実技試験、となると地影は結果を出せない。

「（この……攻撃が、通れば！）

ーーモンスターに攻撃！」

『手札から“オネスト”を墓地へ送る！
その効果で相手モンスターの攻撃力分、俺のモンスターの攻撃力がアップだ！』

「あ……あ……」

ーー膝を付く地影。
またしても。
またしても通らない『攻撃』。

どんなにリバースカードを警戒しても。
どんなに自分のデッキに於ける最高の態勢を築いても。

相手はそれ以上の動き、もしくは『これしかない』という、結果論に近い『不運』に見舞われ、勝ちを逃す。

言わば、『負け癖』が付いた、ということか。
地影は実技試験はおろか、普段のデュエルでも勝てない期間が続いた。

結果、地影は最下クラスのオシリス・レッドの中でも最も成績の悪い生徒となり、周囲からは馬鹿にされるなど、辛い学園生活となる。

ーーだが、地影は諦めなかった。

人一倍、勉学に力を入れ、暇な時は図書館などで様々なデュエル・モンスターズに関する書物を読み漁った。
その甲斐があってか、学科に於いては飛躍的に成績が向上する。
筆記試験では満点を取る事すら珍しくなくなり、デュエル・モンスターズに関する知識では頭一つも二つも抜けた存在となった。

ーーだが。

（また……勝てなかった……っ！）

事、実技試験に於いては不思議な程に結果は出せず。
あろうことか、入学時より実技試験全敗、という不名誉な記録を打ち立てる事となる。
自分のデッキは決して相手に劣っていない。
自分なりに学んだ事を活かし、盛り込んだ自慢のデッキであるはず。

だがそれでも。

それでも、地影は勝てなかった。

少女の目に大粒の涙が光り、それを拭う日々が続いた。


「ーーバカバカバカっ！！」

ーー寒い冬の季節。

地影は自分の部屋の壁に、己の熱意が籠ったデッキを投げつける。

床に散乱するカードをたち。
その上に座った地影は、カードが折れ曲がるのも気にせず、わしづかみに拾うと、再びそれを壁に向かって投げつけた。

ーーカードのせいではない。

そんな事は分かってる。

だがそうせずにはいられなかった。

勝てない悔しさ。
やり場のない怒りを、どこかにぶつけなければ地影は己の理性を維持できなかった。

くしゃくしゃに折れ曲がったカードを見て、地影は泣きじゃくる。
両親の前ですら見せないその姿。
なかなかクラスが上がらない事を心配する両親に、地影は子供ながら精一杯虚勢を張っていた。

そんな積もり積もったストレスのはけ口があろうことか、情熱を持ったはずのカードだったのである。

ーー長い、長い地影の『冬』。

それはこれから約１年半以上も続く事となる。