第３２話　傷負いの男　作：提馬風

――別の山頂――

神馬「――見つけた！」

息を切らしながら、神馬は言った。
その眼が捉えたのは、傷負いの男の後ろ姿。

神馬「おじさん……いや、傷一！！」

傷一「フン、誰かと思えば可愛い社長さんか。
　　　わざわざこんな所に何の用だ？」

神馬「エルストロームを放ったのは、お前か！？」

吠えるように、神馬は問い詰める。

傷一「――いや、お前の選択が、世にエルストロームを放たせたのだ」

神馬「それは、どういう……」

言いかけた時、傷一は黒曜石のようなものでできた鋭いデュエルディスクを、神馬に向けた。

傷一「俺とデュエルしろ。俺を踏みにじった岩代家の血筋とやらを、この俺が踏みにじってやる」ｼﾞｬｷｯ

神馬「ならもう一度教えてやる――父さんの跡を継ぐのは、僕だってことを！！」ｼﾞｬｷｯ

神馬・傷一「「デュエル！！」」

SCAR LP4000
SIMBA LP4000

傷一「先攻は俺が頂く。
　　　俺は手札から封印の黄金櫃を発動し、デッキから『エルストローム・クレイ』を除外する」

エルストローム・クレイ　レベル1
岩石族／プロセス／効果
破壊されたモンスター
①：このカードがフィールドから除外された場合、自分の墓地のレベル１モンスター１体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加え、その後手札を１枚選んで除外する。
攻撃力 100　守備力 200

傷一「自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から『スカーレッド・クラスター』を特殊召喚」

球状の火花のようなモンスター。

スカーレッド・クラスター ☆1 DEF100

スカーレッド・クラスター　レベル1　闇
炎族／効果
①：自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。②：このカードが特殊召喚に成功した時、自分フィールドの「スカーレッド」カード１枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、デッキからそのカードとカード名が異なる「スカーレッド」モンスター１体を手札に加える。
攻撃力 0　守備力 200

傷一「スカーレッド・クラスターが特殊召喚に成功したことで、効果発動。
　　　スカーレッド・クラスターを破壊し、デッキから同名以外のスカーレッドモンスターを手札に加える。
　　　俺が手札に加えるのは、『スカーレッド・ゴーレム』だ」

スカーレッド・ゴーレム　レベル5　闇
岩石族／効果
このカード名の②の効果は１ターンに１度しか使用できない。①：相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から守備表示で特殊召喚し、その相手モンスターの攻撃対象をこのカードに移し替えてダメージ計算を行う。このカードはその戦闘では破壊されない。②：自分フィールドに「スカーレッド」モンスターが存在し、このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル4以下の「スカーレッド」モンスター１体を特殊召喚する。
攻撃力 2100　守備力 0

傷一「そして、破壊されたレベル1、スカーレッド・クラスターの魂が昇華する。
　　　プロセス召喚。レベル1、エルストローム・クレイ」

『スカーレッド・クラスター』は自ら炸裂したかと思うと、
土塊に黒曜石の欠片が刺さったようなモンスターに変わった。

スカーレッド・クレイ ☆1 DEF200

神馬「プロセス召喚……！」

傷一「俺は手札から『スカーレッド・リゾネーター』を召喚！」

『レッド・リゾネーター』がボロボロになったようなモンスターが召喚される。

スカーレッド・リゾネーター「ヒヒヒ……」☆2 ATK600

スカーレッド・リゾネーター　レベル2　闇
悪魔族／チューナー／効果
このカード名の効果は１ターンに１度しか使用できない。①：このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。手札から「スカーレッド」モンスター１体を特殊召喚し、そのモンスターのレベル×１００ダメージを相手に与える。
攻撃力 600　守備力 200

傷一「スカーレッド・リゾネーターの効果発動。手札からスカーレッド・ゴーレムを特殊召喚し、そのレベル×100ダメージを与える」

『スカーレッド・リゾネーター』が音叉を鳴らすと、いくつも傷のある岩のモンスター、『スカーレッド・ゴーレム』が呼び出される。

スカーレッド・ゴーレム「……」☆5 ATK2100

神馬「くっ……」LP3500

神馬「早速チューナーとチューナ以外のモンスターを揃えてきたか……」

傷一「さらに、スカーレッド・ゴーレムが特殊召喚に成功した時、自分フィールドに他のスカーレッドモンスターが存在することで、
　　　デッキからレベル4以下のスカーレッドモンスター1体を特殊召喚できる。
　　　私はデッキから2体目のスカーレッド・クラスターを特殊召喚！」

スカーレッド・クラスター DEF100

傷一「さらにスカーレッド・クラスターの特殊召喚時効果で自身を破壊し、デッキから2体目のスカーレッド・ゴーレムを手札に加える！」

傷一「——では、行こう」

傷一が不敵な笑みを浮かべる。
神馬が指摘したように、傷一のフィールドにはチューナーとチューナー以外のモンスター。
であれば、傷一がこれから行うことはただ一つ。

傷一「俺はレベル１のエルストローム・クレイとレベル5のスカーレッド・ゴーレムに、
　　　レベル2のスカーレッド・リゾネーターをチューニング！」

神馬「やはり、シンクロ召喚を……！」

傷一「王者は孤高、今天より顕れ地に立たん。覇者の怒りをその身に刻むがいい！
　　　シンクロ召喚、レベル8！ 我が魂、『スカーレッド・デーモンズ・ドラゴン』！！」

雲を突き破り出現したのは、悪魔のような角を持つ赤黒いドラゴン。
着地一つで山頂の地面に亀裂を起こし、そこには火焔が走った。

羽根はボロ布のように千切れ、片目には切り傷、胸には一度貫かれたような痕。
まさしくそれは、傷痕だらけの『レッド・デーモンズ・ドラゴン』。

スカーレッド・デーモンズ「グオオォォ！！」 ☆8 ATK3000

スカーレッド・デーモンズ・ドラゴン　レベル8　闇
ドラゴン族／シンクロ／効果
チューナー＋チューナー以外のモンスター１体以上
①：このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「レッド・デーモンズ・ドラゴン」としても扱う。②：このカードの攻撃宣言時に発動できる。フィールドのこのターン効果を発動していないモンスターを全て破壊する。その後、この効果で破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。
攻撃力 3000　守備力 2500

神馬「スカーレッド・デーモンズ・ドラゴン……
　　　変わらないな、傷一……！」

傷一「傷一……やはりデュエル中にその名を呼ばれるのは気に入らんな」

傷一はそう言って、切り傷がついて開かない右目に、右の掌をかざした。

傷一「俺は“スカー”。岩代家に傷を負わされ、復讐に燃える——、
　　　新世界の王となる、その人である！！」

傷一は吠えるように言い放った。
新世界の王。凡人が口にすれば妄言としか聞き入れられないだろうことを、堂々と。

神馬「新世界の、王……？」

神馬の問いかけに、傷一は穏やかな口調で答える。

傷一「そうだとも。エルストロームの長“ミィ”を俺の、お前たちの元いた世界に喚ぶ。
　　　軽多市を中心として、かの星・地球は転生する」

神馬「なっ……それは、どういう……」

傷一「それ以上は、お前がこのデュエルに負ければ、すぐに明らかになるだろう」

神馬「なら、僕がこのデュエルに勝ったなら……」

傷一「我が遺志を継ぐものが、世界を創り変える。それだけのことだ。
　　　つまらん。俺は世界の命運を賭けてこのデュエルをしているわけではないのだよ」

傷一「俺はカードを１枚伏せてターンエンドだ」

神馬「僕はお前が何をしようとしているのかは知らない。
　　　だが、許してはいけないことだって、それだけは感じる……！」

神馬「僕のターン！！」ﾋﾞｼｯ

神馬「僕は手札から『儀式の下準備』を発動。『獅子王の誓い』と『獣剣豪 獅子王』をデッキから手札に加える！」

獅子王の誓い　儀式魔法
①：レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、自分の手札・フィールドのモンスターをリリース、またはリリースの代わりに自分の墓地の獣族モンスターを除外し、自分の手札・墓地から「獣剣豪」儀式モンスター１体を儀式召喚する。この効果で特殊召喚した「獣剣豪 獅子王」は効果では破壊されない。②：自分の「獣剣豪」モンスターが戦闘を行うダメージステップ開始時からダメージ計算前までに、このカードを自分の墓地から除外して発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで倍になる。

獣剣豪 獅子王　レベル7　地
獣族／儀式／効果
「獅子王の誓い」により降臨。①：１ターンに１度、このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にして破壊し、このカードの攻撃力は５００アップする。②：このカードが戦闘を行う場合、戦闘を行う相手モンスターの効果はダメージステップ終了時まで無効化される。
攻撃力 2300　守備力2100

神馬「僕は手札に加えた獅子王の誓いを発動し、手札の『ダーク砂バク』と『デーモン・イーター』をリリース！
　　　これは魔物を斬りし妖刀、その付喪神なり。
　　　儀式召喚、レベル7。抜刀せよ、『獣剣豪 獅子王』！！」

神馬のフィールドに一振りの太刀が突き刺さる。
その周囲には魔法陣が浮かび上がり、やがてそこから上がった炎が太刀を包む。

炎の渦。巻き起こる旋風。
炎が吹き飛ばされた時、その中から現れたのは、長い赤毛を持つ、老いたライオンのようなモンスターだった。
裂けた和服を肩で羽織ったそれが、突き立てられた太刀を引き抜き、構える。

獅子王「グルル……」☆7 ATK2300

神馬「バトルだ！ 獣剣豪 獅子王で、スカーレッド・デーモンズ・ドラゴンに攻撃！
　　　『獅子王鉄鎚』！！」

傷一「俺とて岩代コーポレーションの社長を務めた男だ、そのデッキのカードのことは知っているとも。
　　　トラップ発動、『スカーレッド・コクーン』！」

神馬「スカーレッド・コクーン……ドラゴン族シンクロモンスターに装備するトラップカード。
　　　装備モンスターの戦闘時に相手の効果を封じるカードだったか」

傷一「そうとも。俺はスカーレッド・コクーンをスカーレッド・デーモンズ・ドラゴンに装備！」

神馬「スカーレッド・コクーンが墓地に送られたターンのエンドフェイズ、レッド・デーモンズ・ドラゴンを蘇生できるが……」

神馬「それでも、この攻撃を通さない意味はない。
　　　墓地より儀式魔法、獅子王の誓いを除外して効果発動！
　　　ターン終了時まで、獅子王の攻撃力を倍にする！」

獅子王「ぐおおぉっ！！」ATK4600

力強いオーラを纏った太刀が、鮮やかに『スカーレッド・デーモンズ・ドラゴン』を両断する。

傷一「フン……この程度」LP2400

神馬「僕はカードを1枚伏せて、ターンエンド！」

傷一「エンドフェイズ、スカーレッド・コクーンの効果発動。
　　　墓地よりスカーレッド・デーモンズを特殊召喚」

スカーレッド・デーモンズ ☆8 ATK3000

SCAR LP2400 手札2
SIMBA LP3500 手札2

神馬「っ……。わかってはいたが、スカーレッド・デーモンズを突破しきれなかったか……」

傷一「突破しようと思う方が悪いさ。墓地からだろうが絶望からだろうが、俺の魂は何度でも蘇る……」

神馬「……」

神馬は少しの沈黙の後、ふっと笑みを浮かべる。

神馬「蘇る、か」

傷一「……何がおかしい？」

神馬「貴様は蘇ると言ったな。墓地からも、絶望からも」

傷一「ああ、言ったとも」

神馬「ならひとつ教えてやる。
　　　――自分の魂も守り通せない奴に、岩代の長を務めさせるわけにはいかない！
　　　ましてや世界を任せるなど言語道断だ！！
　　　失われても次があるなんて精神を、許す訳にはいかない！！」

傷一「なるほど。そう言うか。
　　　では、俺も教えてやろう」


傷一「世界でさえも、破壊された次があるのだということを！！！」

傷一「俺の、ターン！！」ﾋﾞｼｨｯ