第２５話　銀龍アクロマ　作：提馬風

アクロマ・スピリット「キュウウウゥゥ！！」☆9 ATK4000

シル「相棒……！」

（……シル）

ゆっくりと、深い声が響く。

遊陽「誰……？」

アクロマ・スピリット（私だ。今、確かにアルの力が弱まってきている。
　　　ゆえに、私自身も少しずつ取り戻されようとしているらしい……）

狒々木「おお、アクロマ……久しぶりじゃのう……」

アクロマ・スピリット（まだ再会を喜ぶ時では無かろう、狒々木よ。
　　　我が命運はまだ、この少女に託されたままだ）

アクロマ・スピリット（慢心するでないぞ、遊陽よ。当時はまだ未熟だったとはいえ、私とシルでも歯が立たなかった相手だ。
　　　先程の戦いで分かったが、奴は昔よりも力を強めている。私とエレメントロードの力を持ってしても、勝てる相手では無かった）

遊陽「はい……油断はしません。なぜなら」

アクロマ・スピリット（……脅すだけ無駄か。もう勝ち筋なら見えているからな）

アル「……メインフェイズ2、エンドフェイズ、ターンエンド」

Alu DEF4000

遊陽「行きますよ、アクロマさん！ あなたの力と、私の『再生のデュエル』で！
　　　私のターン……ドローッ！！」ﾋﾞｼｨｯ

遊陽「私は墓地のエルフ・ソーサラーの効果発動！
　　　墓地のこのカードを除外し、墓地から通常魔法1枚を手札に戻します！
　　　私が手札に戻すのは、鬼の形相！！」

遊陽「そしてそれを発動！
　　　Aluの守備力は、その攻撃力分ダウン！ よって0となる！」

Alu DEF0

遊陽「そして――、バトルフェイズ！」

遊陽「私はEl-死霊銀龍アクロマ・スピリットで、エルストロームの喰らうもの Aluを攻撃！」

アル「我は戦闘、効果では破壊されない」

遊陽「でも……この瞬間、鬼の形相の効果が適用される！
　　　自分のモンスターが、その攻撃力以上の元々の守備力を持つモンスターを攻撃する場合、相手に貫通ダメージを与える！」

狒々木「アクロマ・スピリットの攻撃力は4000、対するAluの元々の守備力は4000……」

セン｢等しいということは、“以上”の条件を満たしている……｣

シル「そして、Aluの今の守備力は……0！！」

遊陽「貫通ダメージは4000！ アクロマさん、仇敵を消し去りますよ……！
　　　『滅却のヴァニティ・スクリーム』！！」

アクロマ・スピリット「ぬおおおぉぉぉ！！！」ｺﾞｳｯ

『El-死霊銀龍アクロマ・スピリット』の放つ銀の炎が、化け物の巨体を包み込む。

アル「グ……グオオォォ！？！？」

ALU LP0

ゴオオォォ……


アルのライフが0になっても、アクロマは炎を吐き続けた。
今までどんな攻撃を受けようとも傷一つ付かなかったアルが、ついに灰と化していく。


灰すら消えて無くなった時のことだった。
さらさらと、シルとセンの紋様の一部紋様が、ほどけていくような現象が起こり始めた。
それはアクロマの方へと流れていく。

アクロマ・スピリット（……私の灰か。貴様らが持っていてくれたのだな）

灰は、アクロマの身体を作り直し始めた。

シル「……力は、戻ってきた？」

アクロマ「……ああ。喋れるほどにはな」

シル「相棒……よかった……！」

アクロマ「シル、言うことはそれだけか？」

シル「……相棒、何を言わせたい？」

アクロマ「ギルドを抜けようとしたことだ。今もまだ、拭いきれてないだろう」

セン｢シル、それって一体……！｣

アクロマ「口出しはするな。私はシルに訊いている」

シル「……アクロマ、君はやっぱりボクの相棒であるべきじゃない。
　　　遊陽こそ、君の力を使いこなしてアルを倒したじゃないか」

アクロマ「ほぅ……まだ言うのだな」


アクロマ「……私に選ばれたからとていい気になるなよ小娘！！」ｶｯ

肉体全てを取り戻したアクロマは、ビシッとシルを指した。

アクロマ「だいたい察しはつく。貴様はそんなことをほざいて、私から「そんなことはない」と擁護されるのを待っておるのだろう？」

シル「なっ……」

アクロマ「遊陽とは違い、シルは私に選ばれて力を得たのだと！
　　　だから自信を持ってよいと、そう慰められたいのであろう！？」

アクロマ「……だが現実はそうではない。
　　　なんの力も持たないこの遊陽でも、既に貴様よりも私の力をモノにしている！
　　　そして今、私の真の力を取り戻すことに成功した！」

シル「だったら、遊陽がアクロマの相棒になればいいって、そう言ってるだろ！？」

アクロマ「……そうもいかんのだ。カードの精霊である以上、デッキの住み心地というものがある。
　　　私が住むには、私の力の宿ったシルのデッキでなければならない」

シル「……だったら！ ボクのデッキを遊陽に……」


シル「……いや、それはできない。遊陽だって、そのデッキが好きだから、デュエルを楽しんでるんだ」

アクロマ「それに、貴様も自らのデッキを大切にしているだろう」

シル「……うん」

アクロマ「ならば、貴様が力を使いこなせるようになるまでだ。その努力を怠ってはならんし、チャンスを逃してもならん」

セン｢……チャンス？｣

アクロマ「……勘がよいな、セン」

アクロマ「ついさっきの事だ。アルと同レベルのエルストロームの気配を、遠くで感じたのだ」

シル「……まさか」

アクロマ「岩石族のエルストローム、『イゾック』が目覚めたとみて間違いない。
　　　既に何者かと交戦を始めている模様だ。場所も遠い。
　　　すぐに駆けつけ、狩るぞ。シル」

シル「……うん」

シルの眼の色が変わった。
エルストローム狩りの、誇りを取り戻した眼だった。


セン「……そういえば、さっきのハイエナ男に精神寄生体のカードを仕組んでおいた。
そいつを調べれば何か手がかりが得られるかもしれない」

遊陽「確かに、エルストロームの力を狙っていたみたいですしね」

セン「うん。じゃあ、ホログラムで映像履歴を受信する」ｼﾞｬｷｯ

ヴ……ン

青みがかった映像が、センのディスクから浮かび上がる。


遊陽「嘘……」

その映像が始まるや否や、遊陽は戦慄した。
遊陽の予想を超えた光景が、そこには映っていた。