EP22　熱き萌え萌えデュエル！？　作：ター坊

「白朧院 梓。…今日も欠席か」
高校入学以降、１度の欠席はおろか遅刻すらない梓の４日連続の欠席に担任を始め、クラス中でざわつきが尽きない。何か重い病気に掛かったとか実は海外留学の準備で忙しいとか様々な臆測が飛び交う。
「今日も白朧院さん、来ませんでしたね」
「そうだなぁ。大丈夫かなぁ」
親に勘当されて行方不明という真相を知ってる遊季都と盛雄だが、白朧院家のメイド達の頼みで口止めされていた。
「チャレンジャーＺ…どうなるんでしょうか」
「うーん…」
そんな心配をする二人に一通のメールが届く。

《明日の１０時に愛葉原駅前、ポチ公像前集合！持ち物はデュエルディスクとデッキ！　遊路》





翌日の土曜日。愛葉原は若者の街と言うだけあり、賑わっていた。トレンドアイテムで着飾ったＪＫ･ＪＤ、オシャレを意識し始めた遊季都達と同い年くらいの男子、アニメキャラのＴシャツを着こんだヲタクなど、色んな若者が行き交う。
その愛葉原で待ち合わせ場所の定番、忠犬ポチ公像の前で遊季都と盛雄が待っている。
「待たせたな」
「あ、風峰プ」
後ろから遊路の声がして遊季都は振り返るが言葉が止まる。茶色のパンプスと黒のニーソックスに赤のプリーツスカート、ピンク色の植物の蔓のような模様がプリントされた白いＴシャツにデニムの短めアウター、大きめの鞄を持ち、髪は金髪で黒のハンチングを被った、少しギャルっぽさの入った女の子が立っていた。
「…？」
遊季都は不思議に思った。確かに遊路の声がしたがそれらしい姿はない。しかも気のせいか、声はこの女の子から発せられた気さえするのである。
「あの…」
「…ふふん」
「ええっ！？」
そう、この女の子こそ、遊路なのだった。




遊路と合流を果たした遊季都と盛雄は人が行き交う愛葉原の街を歩く。
「…」
遊季都も盛雄も言葉にしようがない奇妙な感覚に囚われていた。憧れの世界一のデュエリストが可愛い女の子の姿になっている―。声こそ男だが、黙っていたら誰も男と疑わない程に女の子、いや、人によっては低めな女の子の声ということで納得するかも知れない。それくらいメイクも服装も自然な女の子に化けているのだ。
遊路曰く、人目を欺く為の変装らしい。一人だと人が殺到して移動が鬱陶しいらしく、それならば性別ごと変装して気付かれないようにしたことが始まりだと遊路は面白そうに語った。
「ところで風み」
「出来ればこの格好の時は遊子さんで頼もうか」
「えっ…はい。…遊子さん。それで今日はどういう…」
「気にならないのか？梓が何処にいるか、とか」
「ほぇっ！？し、知ってるのかぁ！？」
「ああ。今、そこに連れて行くところだ」




遊路、もとい遊子に連れられて遊季都達が訪れたのは雑居ビルの２階だった。廊下を進むとカラフルなチョークで色付けされた黒板の看板が置かれている。
「デュエルメイド喫茶…Honey Angel ？」
「ああ。ジョセフィーヌ龍美さんって覚えてるだろ？その人が経営してる喫茶店だ」
「あの人が！？」
「淹れてくれるコーヒーが結構美味しいからちょくちょく寄ってるんだ。とりあいず入ろうか」
遊子がそのドアを開く。
「おかえりなさいませ~♪御主人さ」
「は、白朧院…さん？」
遊季都達がドアをくぐって最初に目にしたのは行方不明の筈の梓であった。ミニスカのメイド服のコスプレをして満面の笑顔で迎えようとするが相手が遊季都と盛雄と分かって思わず固まる。
「えっと…これは違うんですのよ…」
「ほら、席の案内してよ。…あずにゃん」
「うぅ…はい。こちらになります、御主人様」
急に気恥ずかしくなったのか、梓は声を震わせながら遊子達を席に連れて行く。
「それでは注文が決まりましたらお呼び下さいませ」
梓はそそくさとその場を去る。
「あの…遊子さん。これってどういう」
「あいつが家出したのは知ってるよな」
「はい」
「それで住む場所が無いから、遊月が大家をしてる魅河荘ってところに住まわせる事になってな。実質一人暮らしを始めたわけだし、こうして生活費や家賃を稼ぐバイト先としてここを紹介したってわけだ」
「はぁ」
「あれぇ？でも、オイラ達の学校はバイトって禁止されてるんじゃ…」
「政府相手に一夫多妻制を承諾させたんだから、学校の校則の１つや２つ、いくらでも…ねぇ？」
「…はぁ」
少し悪い笑みを浮かべる遊子に遊季都も盛雄もそれ以上突っ込む事が出来なかった。
「…とまぁお前達も梓がここにいるって事で安心しただろ？」
「はい。じゃあ家にも知らせた方が」
「それなら俺の方でもう知らせたよ」
「そうですか」
「それともう１つ用件があってな。これを渡そうと思って」
そう言って遊子は鞄から何かを取り出した。
「これは…！」
「んん？」
遊季都と盛雄の前にそれぞれ封筒が突き出された。遊季都の方は薄く、盛雄の方は遊季都の数十倍は分厚い。
「開けてみてくれ」
「はい。…これって…」
「んお！これは…」
遊季都と盛雄は全容を見るために封筒を逆さにして中身を取り出す。遊季都の封筒からはカード数枚が、盛雄の封筒からは紙帯で留められたカードの束が出てきた。
「これは…新しい焔獄のドラゴン…」
「オイラのは見たことの無いカードばっかりだ…」
「お前達を補欠として推薦した身としては頑張って欲しいからな。余計なお世話だったか？」
「いえ！ありがとうございます！」
「ありがとだぁ！」
まさかの新カードに遊季都も盛雄も心が踊る。
「遊季都のは焔獄のデュエルを見て、戦術の幅を広げる為に新規を作らせたものだ」
「はい！ありがたく使わせて貰います！」
「盛雄のは元々使ってたデッキから使い勝手が変わらないようにエクシーズのオーダーカードのデッキだ」
「オ、オ、オーダー…！す、すごく高いんじゃ…」
「いや。古いオーダーカードをリメイクしたものだから安上がりでな。お前もこれで遊季都と梓がオーダーカードを使う中で自分だけ…なんて負い目を感じず、存分に戦えるだろ？」
「はい！ありがとございます！」
晴れて新カードを手に入れた喜びに笑みを溢す遊季都と盛雄であった。
「そうだ。折角来たんだし何か奢るぞ」
「え！？良いですよ、そんな…」
「子供が遠慮するな。それに世界チャンピオンの懐が高校生二人に奢ったくらいでどうにかなるとでも？」
「い…いいえ」
遊子の返しづらい問い掛けに競り負けて遊季都と盛雄はメニュー表に目を通した。
「誰か付けるか？」
「え？どういう事ですか？」
「実はここゴールド会員ならメイドさんの指名が出来て席に着かせる事が出来るんだよ」
「そんな事が…」
「一緒にお喋りしたりはい、あーん♪って食べさせてもらったりとかのサービスをしてくれるんだ」
「えっ！いや、でも、僕達は…その…」
「何事も経験だ。ほら、あそこに今日出勤してる娘達の写真があるから気に入った娘がいるなら」
「いえ、ですから」
「むぅ…。ノリが悪いなぁ。それじゃあ俺のお気に入りの娘呼ぶからな」





しばらくして、注文した食前のドリンクと共に遊子がセレクトしたメイドが席に着く。
「よろしくお願いします…」
「せんせいこんにちは」
やって来たのは梓と小さい女の子だった。小さい女の子は薄いオレンジっぽい茶髪を大きいリボンでツインテールに結って後ろに流し、幼い笑顔が人形のように可愛らしい、遊子のお気に入りと言うのも頷ける娘だった。
「それじゃ、あずにゃんは遊季都と盛雄の間に入って」
「は、はい…」
梓は遊子に言われるままの位置に着く。
「あの…白朧院さん…」
「いいえ。店内では…その、あ、あずにゃんって呼んで…ください」
「はぁ…」
梓は恥ずかしさで声を震わせるがメイドとしての責務を果たそうとする。一方、小さい女の子は遊子の方の席に着く。
「きょうは女の子モードなんですね」
「まぁな」
「あの…遊子さん。その子は？」
「マリアって言うんだ」
「マリアです。よろしくおねがいします」
マリアは初対面の遊季都達にも礼儀正しく頭を下げる。
「あの遊子さん。もしかして」
「…遊季都。俺の事を可愛い女の子なら見境なく手を出す男だと思ってるのか？」ｼﾞﾄｯ
「い、いえ！滅相もありません！」
遊子の目だけ笑ってない凍てつくひと睨みに遊季都は縮み上がる。
「嫁とか愛人というよりペットや娘として愛でたいタイプかな。保護欲を掻き立てるような小動物感、良いだろ？」
「そ、そうですね…」
遊子はマリアの頭を撫でながら満足げな笑みを浮かべる。
「…あ、そうだ。遊季都、盛雄。早速新カードを試してみるか？」
「え？」
「ほぇ？」
「看板に書いてあっただろ？デュエルメイド喫茶って」
「…そう言えばそうですね」
遊季都と盛雄もつい十数分前に見た看板を覚えている。
「このメイド喫茶にはデュエルスクールや事務所に通ってる子も多くいてな。マリアもニューサニーアップ事務所でデュエルモンスターズを習ってるんだ」
「そうなんですか？」
「腕前も良くてな。来年、マリアが高校生になったら高校を卒業して出れなくなる詩音の補充メンバーとしてデュエル甲子園に出て貰おうかな、って考えてるくらいだ」
「え！？そんなにですか！？」
「えへへ…」
あの時のデュエル甲子園出場を賭けたテストデュエルで詩音の強さを痛いほど知っている遊季都は、その詩音の後釜となるだけの実力があるのかと驚くばかりである。
「そういった事情で意外とデュエリストとしてのレベルが高くてな。特訓とかにはちょうど良いんだ」
「なるほど…」
「やってみるか？」
「はい！」
「オイラも頑張るぞぉ！」
「よし。それじゃあマリアは盛雄の相手をしてやってくれ」
「はい」
そう言って遊子は財布から千円札を取り出してマリアに渡した。それを見て遊季都は遊子に訊いた。
「え、お金払うんですか？」
「ここでのメイドとのデュエルはチャレンジイベントでな。勝ったらご褒美タイムで写真撮影とか耳掃除とかをして貰えるんだ」
「え…はぁ…」
遊季都が若干引いてるうちに盛雄とマリアは店の奥側にある対戦ステージへと上がっていく。その様子に他の客達も空気を察し始める。
「おお。マリアたんのデュエルでござる」
「今日も可愛いお…」
「マリアたん…僕らのマイリトルエンジェル…ﾊｧﾊｧ」
ステージに上がったマリアはマイクを持って話し始める。
「えっと。これからごしゅじんさまとデュエルします。その…他のごしゅじんさまも楽しめるようにがんばりますので、こちらのごしゅじんさま共々、応援よろしくおねがいします。…それでは、いきます」
「よ、よぉし。オイラ、やるぞぉ」
マリアと盛雄がデュエルディスクを構えると客達が示し合わせたかのように一斉に口上を始める。
「「「男の夢とロマンと希望を賭けてぇぇ！」」」
「「「熱き戦いが幕を上げるぅぅ！！」」」
「「「目指せ！メイドさんとのご褒美タイムゥゥゥ！！」」」
「「「萌え萌えデュエルゥゥゥ！！！」」」
「「「レディィィ、ゴォォォウ！！！」」」
「「「ホ ァ ァ ァ ァ ッ ！！」」」