Case11 焼きそばエンド　作：トマトところてん

遂に謎の男一平がこのペルレイノに帰ってくる。彼はまた旅に出るのだろうか。一平探訪貼最終章、今作の謎の男はゴルゴ13のような男ではなく孤独のグルメの井之頭五郎のような男だ。孤独のグルメのイントロダクション、時間や社会に囚われず幸福に空腹を満たす時、つかの間彼は、というものがある。謎の男一平は見つけた店に入ると店内には店員のヘカトンケイルヤドエルと客のティアラメンツハゥフニスが何やら話していた。

本編

　謎の男一平は静かに盗み聴きをしていた。
　すみません。焼きそば一つ頼むハゥフ
　今日は焼きそばはないのよ。スパイスカレーがおすすめね、それにするといいわ
　じゃあライスとスパイスカレーとギョーザを頼むハゥフ
　一度に頼み過ぎよ。一品ずつ食べてから決めなさい。それと、ライスはメニューにないでしょ
　え？　ライスないハゥフ？　カレーライスにできないハゥフ？
　そうよ
　なんか塩対応でムカつく店員ハゥフ。私は客ハゥフ
　残念な客ね。スパイスカレーを食べてからにしなさい
　ふん。よほどスパイスカレーに自信があるのかハゥフ。私は焼きそばを食べたいところハゥフ。焼きそばは無敵の完全食ハゥフ。ギョーザが完全食なのは知ってるハゥフ？　それと同じ。肉ともやしとキャベツとソースで無敵ハゥフ
　あっそ。今日は焼きそばはないのよ
　(チクショー、主導権を握られているハゥフ。これが噂のヘカトンケイル？　私は客だぞ)
　見えざるスパイス、救済の一品、やどえる。その店は最近話題の料理店だった。謎の男一平も静かにスパイスカレーを頼んだのだった。店内はなんと占い師がやってる店のように黒い布でおおわれて、小さなあかりが少しだけ。机の上にランタンが置かれ、手元はなんとか見えるようになっていたが、こんな暗いところで食事をするのかと驚くほどだ。店はヤドエル一人で切り盛りしているように見えて奥の方には料理人が何人かいた。秘密主義なのかミステリアスな店だ
　しばらくするとガラガラと音のなるワゴンでスパイスカレーが運ばれてきた。ヤドエルが金属のワゴンを手でおして運んできた。まるで宮廷料理のようだった。ハゥフニスはガラガラとなるワゴンの音をきいて黙った。雰囲気にのまれた。さっきまでの塩対応からいきなり優遇されたように錯覚する
　(なんかヤバそうな店だと思ってたけど凄いハゥフ)
　救済の一品。おそらく人生観を変えてしまうスパイスカレーなのだろう。その魅力にとりつかれて一生をかけてしまうような。やたらと人生を語ってしまうのはこの作品の作者の明らかに悪い癖だ
　ハゥフニスはおそるおそる一口スパイスカレーをスプーンですくって食べてみた。すると　以下　孤独のグルメの五郎の独白に似た何か

　俺は確かボクシングの試合に負けたんだ。強烈なBKアッパーカッターをくらって宇宙へと吹き飛ばされた。オーバーレイネットワークを構築した衝撃で発生したブラックホールに吸い込まれて、これまでの価値観を押し潰されたんだ。俺が試合前に減量をして試合が終わったあとにご褒美で食べていたあのカップ焼きそばが、思い出が、全てスパイスカレーに変わっていく。俺の中の思い出のカップ焼きそばは全てスパイスカレーに刷り変わっていった。おそるべしスパイスカレー。俺のカップ焼きそばなんて風の前の塵に同じだ

以上

　店をあとにするとハゥフニスは生まれ変わっていた。焼きそばのハゥフニス完結編。ティアラメンツハゥフニス焼きそバーニング最後の戦い。最強の敵ヘカトンケイルの前に瞬殺。ヘカトンケイルは見えざる手による救済を唱えるものたち。彼らは救済した者たちの名前を一人残らずおぼえている。生命の繋ぎ手を一人としておろそかにしない。しかし、ヤドエルはつぶやく
　焼きそばのハゥフニス？　え？　誰？　知らないわね
　ハゥフニスの行方を誰も知らない
　一方そのころティアラメンツシェイレーンはラジオ番組に届いたお便りを読んでいた。そしてつぶやく
　せ、洗脳エンドなの？　この作品って
　芥川龍之介の羅生門という作品だった
　最後の一文、下人の行方を誰も知らないってやつ。ぶっちゃけカッコつけてるけど誰か知ってるでしょ。洗脳エンドってより悪堕ちエンドかな。えっと次のお便りは
　シェイレーンやメイルゥはてっきりハゥフニスは旅行にでも行ってるものだと思って大して心配もしていなかった。謎の男一平とともに店をあとにしたハゥフニスは涙を流し、走り出した。あの夕日に向かって。赤い地平線の彼方まで。カルチャーショック。いや、自分の考えが甘かったのだ。最後の戦いが終わっても明日はくる。鬼滅の刃のお館さまやガンダムWのトレーズのように関わったものの名前を全ておぼえている記憶力の良い賢いヘカトンケイルヤドエルにおぼえられすらしなかったハゥフニスと謎の男一平。自らのお金を払ってまで続けたいこと、やりたいこと、わくわくすること。孤独のグルメのイントロダクションの続き　つかの間彼は自分勝手になり自由になる。誰にも邪魔されず気をつかわず物を食べるという孤高の行為、この行為こそが現代人に平等に与えられた最高の癒しと言えるのである
　つまりカップ焼きそばは癒しだったのか。しかし、より強力な力に出会いそれに押し潰されてしまった。負けた理由を考えればキリがない。カップ焼きそばばかりを食べてどこか誤魔化していた日々もこれで終わり。これからはよりうまいものを食べていく。
　でも楽しかっただろ？　あともう少しだけ続けたいのか？　カップ焼きそばを食べることだけが、カップ焼きそばを守ることじゃないだろ？　(それでも　私は)
　しばらくしてハゥフニスはまたヤドエルの店にやってきた。謎の男一平と一緒に
　あら、いらっしゃい。初の来店ね
　違うハゥフ。私は一度スパイスカレーを食べて思い知ったものハゥフ、忘れるな
　そうなの。今日は焼きそばあるわよ。食べていく？
　あ、はい
　救済の一品。ここの焼きそばも別格なのだろう。それでもカップ焼きそばを諦めたくない。またワゴンで料理が運ばれてきた。ハゥフニスと謎の男一平は、ズズズと勢いよくすすって食べてみた
　うますぎる。これが好きなことにお金をかけてきたまさに結晶だ。何処からか声が聴こえてくる
　残念だけど、あなたの食べてきたカップ焼きそばの味なんて赤ん坊と同じよ
　それを聴いてハゥフニスは叫ぶ
　負けるもんか！　私は諦めない！　命あるかぎりカップ焼きそばを守りたいんだ！
　そこに、謎の男一平はついにつぶやく
　お前は一人じゃない
　え？
　それはおひとりさまの男のつぶやく、孤独のグルメその人らしからぬ言葉だった
　人が戦い、争うのにわけがあるのならそれは何かを守るためだ。戦え！　限界を迎えたその時に見えてくるものもある
　謎の男が光り輝く。光に向かってハゥフニスは手を伸ばす。
　うおおおお！

次回予告

　ところであのおっさん誰ハゥフ？
　知っているか？　ピカソの絵のファンの女性が休日にオフのピカソに偶然出会ってファンだから絵を描いてと頼んで描いてもらった。ピカソは30秒でサラサラと描いて絵を100万ドルで売るよと言ってきて女性にはとても払えなかった。ただでくれといってもピカソは拒否した。プロには対価が発生する。そこに友達だからだとかお金で買えないものだとかはないのだ。30秒にはピカソの30年がつまっていたから。君たちはプロのお笑い芸人に出会ってもやすやすと面白いことを言ってよといってはいけないよ。一瞬に人生全てもしくは生きた証がつまっているから
　焼きそばのハゥフニス。彼女がカップ焼きそばを湯切るまでの待ち時間3分。そこに彼女の全てがつまっていた。
　次回、一平探訪貼最終話　光の跡
　いや、私は食事を提供しただけなんだけど、やられちゃうの？
　と、つぶやくヤドエルであった

続く