第１話「春の嵐」DU-3　作：フラッシュロック

「‥‥‥私はこれでターンエンドよ」

「うっ‥‥‥くぅ‥‥‥」


１ターンの間に、戦況は大きく変わった。
巴のライフはわずか100なのに対して、春香は無傷の4000。さらに巴のフィールドには攻守0で効果が使えなくなっている〈月凛剣士シッカル〉のみで、春香のフィールドには攻撃力3000の〈サクラ・ドラゴン〉が健在。その効果で貫通ダメージを与える以上、安易にモンスターを召喚できない。


「すごい、ですね」

「あら？これでも結構必死だったわよ？
あなたのモンスターと罠カードはとても強力だし、けっこう冷や汗ものだったわ」

「‥‥‥でも、その結果がこれです」


罠を発動したせいで、一体のモンスターに二回の攻撃をさせてしまった。
攻撃反応の罠だと決めつけたせいで、複数ある罠に貴重な手札を消費してしまった。
すべては自分の判断ミスが招いた結果だ、と巴は春香へ伝える。
その言葉を聞いた春香は静かに語り出す。


「‥‥‥後輩ちゃん、先輩としてアナタに１つ教えてあげます」

「？」


巴はついさっきまで、目の前に立つ決闘者の事を、“マイペースで強引な謎の先輩”という風にしか見ていなかった。
その先輩が、出会って間もないながらもキャラクター性を掴みかけていた先輩が、これまでで１度も見せたことの無い、真剣な面持ちで語りかけてきた。


「『笑ってごまかせ！』」


・
・
・。


「‥‥‥‥‥‥はい？」


巴が呆気に取られているが、構わずに春香は話を続ける。


「これはある人からの受け売りなんだけどね、決闘者はどんなミスをしたり、間違った選択だったって思っても、前を向かなきゃいけないのよ」

「‥‥‥」

「そして前を向くならば、みんながあなたの顔を見る事になるでしょう？
そんな時に見せるのが、いかにも『負けそうです』って顔じゃあ、運命の女神様だってそっぽを向いちゃうわ！」

「運命の、女神様‥‥‥」

「だからね、巴さん。笑いなさい。
勝った気でいる対戦相手を、どちらに微笑むか迷っている運命の女神様を、敗北を恐れる自分の心を、笑ってごまかしなさい！」

「‥‥‥！！」
（この人‥‥‥本気で私の事を考えてくれているんだ）


春香の言葉で奮起したのか、巴は姿勢を正し、胸を張って深呼吸をした。

吸って。

吐いて。

また吸って。

吐く。


「‥‥‥ありがとうございます、春香先輩。
できるだけ、運命の女神様をダマせるぐらいには笑ってみますよ！」

「うん！いい笑顔ね！
‥‥‥後輩ちゃん、もしかして結構腹黒かったりしない？」

（ばれたか）
「行きますよ！私の‥‥‥ッ！ターン！！」


トモエ手札：１　→　２


「‥‥‥‥‥‥来た！」

「‥‥‥」

「私は〈月凛剣士シッカル〉をリリースして、モンスターをアドバンス召喚！輝き出でよ！〈半月凛闘士フィロラース〉！！」

《オォッ！！》

〈半月凛闘士フィロラース〉
星6/光/戦士族
攻2500

その戦士の姿は、左半身を黄金の鎧で包み、右半身には黒い帯が至る所に巻きついている。
武器は持っていない‥‥‥いや、その張り詰めた筋肉こそ武器であると静かに物語っていた。


「上級モンスターの〈月凛〉‥‥‥でも、そんな攻撃力じゃ私の〈サクラ・ドラゴン〉は突破できないわ！」

「打ち破ってみせます！私は更に手札から装備魔法を発動！〈月の秘密〉！！このカードを装備したモンスターは守備力が倍になります！」

「何を言ってるの！？いまさら守備力を上げたって無意味‥‥‥」

「私だって無駄な行動はしません！このカードを装備するのは、〈サクラ・ドラゴン〉！」

「なんですって！？」


〈サクラ・ドラゴン〉
攻3000/守3000　→　攻3000/守6000


〈月の秘密〉が装備されたことにより、〈サクラ・ドラゴン〉の守備力が跳ね上がる。一見それは無意味な行為でしかない。しかし、秋月巴は勝負を投げ出した訳では無かった。

「そして〈フィロラース〉の効果！このカードはアドバンス召喚に使用した「月凛」モンスターの効果を得る！『アトラクト・チャージ』！」

「使用したモンスター‥‥‥まさか！」

「そうです！〈フィロラース〉は今！〈シッカル〉の効果を得ています！」

〈月凛剣士シッカル〉。その効果は攻撃したモンスターの守備力の半分の数値だけ、攻撃力を上げられる能力。

「〈サクラ・ドラゴン〉は今、守備力が倍増しているわ‥‥‥！」

「バトル！〈半月凛闘士フィロラース〉で〈サクラ・ドラゴン〉を攻撃！」


《ハァーーッ！！》

〈半月凛闘士フィロラース〉
攻2500　→　攻5500


「っ！墓地の〈荒魂花吹雪〉の効果発動！自分のモンスターが攻撃された時、このカードをゲームから除外して、その自分モンスターのレベルにつき200ポイント、相手モンスターの攻撃力をダウンさせる！！」

「！！」

「〈サクラ・ドラゴン〉のレベルは8！よって1600ポイントダウンするわ！」

〈半月凛闘士フィロラース〉
攻5500　→　攻3900

「‥‥‥！その効果、使わせてもらいます！リバースカードオープン！〈月の重力〉！」

「なんですって！？」

「相手のカード効果で自分のモンスターの攻撃力が下がった場合にその効果を無効にする！
さらに無効にした数値分だけ、相手モンスターの攻撃力を下げる！」


〈半月凛闘士フィロラース〉
攻3900　→　攻5500


〈サクラ・ドラゴン〉
攻3000　→　攻1400


「攻撃力1400ですって‥‥‥！？」

「ゆけ！〈半月凛闘士フィロラース〉！『フルムーン・アサルト』ォオオオ！！！！」


〈フィロラース〉が飛び上がり、はるか上空で一回転する。その軌跡はまるで夜空に浮かぶ満月のようだった。
そして高高度から流星のように浴びせた蹴りは、〈サクラ・ドラゴン〉を一撃で粉砕する。
春香はどこか満足げな顔でその攻撃を受けた。


「さすが‥‥‥あの人の妹なだけあるわね‥‥‥」


ハルカ：4000LP　→　0LP