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第2話「枯れ尾花」ST-1 作:フラッシュロック
〜前回までのあらすじ〜
桜庭春香との戦いを制した秋月巴。
春香に勝利する事を引き換えに決闘の理由を聞けなくなったが、勝利のご褒美に決闘の理由をヒントととして伝えるという。いくつかヒントを教えられた巴はその一環で春香から抱き寄せられる。興奮したのも束の間、巴は突然春香を突き飛ばして決闘場から逃げ出していった。
決闘場から逃げ出した後、巴は自分の寮の部屋へ戻っていた。
制服のままベッドに寝転がる。わきめも振らずに走ったからか、髪も乱れたままだ。
(あったかいなんて思ってない、綺麗なんて思ってない、うれしいなんて思ってない)
春香に対して生じた感情をことごとく否定していく。
(お姉ちゃんみたいだなんて‥‥‥)
自分を罰するかのように込められた力がシーツにシワを生んだ。
ガチャリ
と、不意に部屋のドアを開ける音が聞こえてきた。
巴は醜態を晒すまいと乱れた髪を手ぐしでざっと整える。
来訪者はひょいと顔を覗かせ、巴の姿を見るやいなや声を掛けてきた。
「あ!あずきちゃん!部屋に戻ってたんだ。あちこち探したよ」
「‥‥‥おかえり。マコちゃん」
声を掛けた人物の名前は芒野真琴(ススキノ マコト)。
巴と同時期に入学し、寮部屋を共有して使っている。
彼女は巴が入学してから初めてできた友人だ。
気さくな性格で「誰とでも友達になれる」と自負しており、事実人と接するのが苦手な巴ともすぐに打ち解けた。
そんな彼女と同室になればあだ名で呼び合うようになるのも無理はない。
秋月を縮めてアヅキちゃん。つまりあずきちゃん。
好きなように呼んでと言われて出たのがマコちゃん。
真琴だからマコちゃん。
巴は己のネーミングセンスの凡人凡骨さを恥じたが、真琴は「お、いいね。昔からの付き合いみたい」だのと言うので巴は体の奥をくすぐられるような感覚を持ちながらも以降はそのあだ名で呼ぶようになった。
閑話休題
部屋に戻ってきた真琴は巴のことを探していたという。
「私のこと探してたみたいだけど、何かあったの?呼び出しとか?」
「ううん!そんなんじゃなくてね!‥‥‥実は、ちょっとお願いがあってね?」
「お願い?」
お願いとは一体なんなのだろうか。
言い出しづらい用件であるのは容易に想像できた。
真琴が部屋に戻ってからだんだんと、険しい表情になったからだ。
「うん‥‥‥同室のよしみでアタシのデッキ調整、手伝ってくれないかな?」
「調整を?」
「うん‥‥‥」
デッキの調整を手伝って貰う事はそう珍しい事ではない。
初心者はデッキの枚数が多くなりやすいので、余計なカードを削って40枚に近づけたり、実際に決闘を行なってデッキの回り具合を確認したりする。
しかし、ここはデュエルのエキスパートが集う学園。
他人に手の内を見せるということは、相手にとって対策が容易になるだけではなく、チグハグな構築を勧められて決闘の成績を下げてしまう事だってありえるのだ。
それを認識しながらあえて自分から申し出るという事は、それだけ構築が難しいデッキか、あるいは相手に初心者とみられても平気で居られるような者だけだ。
「アタシね、入試デュエルの成績‥‥‥サイテーだったんだよね」
「!!」
入試デュエル。それは入学する者達のデュエリストレベルを測る決闘。
雅ヶ峰学園にも多くのデュエリストが集まるが、それをふるいに掛ける場である。
その結果は個人での確認に留まるが、順位としてハッキリ示される上に忖度の無い評価コメントが添付される。
真琴の言うサイテーとはその通り下から数える方が早かったという事だろう。
落とされなかっただけマシとも取れるが、この評価によって学園内でのレベルというものを嫌という程確認できてしまう。
「アタシね、これでも腕に自信ある方だったんだけどさ、『ここの人達とはレベルが違う』ってわかっちゃったんだ」
「‥‥‥」
「だからね、あずきちゃんが良ければ‥‥‥で良いんだけど‥‥‥」
次第に語気が弱まる様は、弱者として立場のなさを感じているのだろう。
いつもは明るく振舞っている彼女が、辛そうな顔で他者へ頼る姿を巴は想像できなかった。
だが、現実に彼女は巴を頼っている。決闘者としての誇りを捨ててでも、必死でしがみつこうとしている。
「モチロン、協力するよ」
「‥‥‥!ホ、ホント?」
巴は真琴の申し出を蔑ろには出来なかった。
「本当だよ。同室のよしみだからね」
「〜〜ッ!あずきちゃん!大好き!」
「ちょ、ちょっと!もう‥‥‥」
巴の返答に感極まったのか、真琴が飛び付いてきた。
春香に次ぎ、本日二度目のハグである。
たとえ部屋が離れていても了承するつもりだったが、そこまで喜んでくれるとは巴にも予想外だった。
(頼られて悪い気はしないしね)
「ほら、抱きついたままじゃあデッキが見れないよ」
「えへへ‥‥‥よーし!一緒にデッキ調整だ!」
・
・
・
「これが今のデッキなんだけど‥‥‥どう?」
「うーん‥‥‥そうだなぁ‥‥‥とりあえずこのカードは2枚くらいで良いと思うよ」
「そっかぁ‥‥‥じゃあコレは?」
「それはできるなら3枚がいいね」
「むぅ‥‥‥手持ちには2枚しか無いんだよね‥‥‥貸し出し枠足りるかなぁ?」
「え?貸し出し?」
「あれ?聞いてないの?」
真琴のデッキを調整する最中、聞き馴染みのない単語が現れた。
「ちょっと聞き覚えないかな‥‥‥」
「えー?入学式の後で説明あったよ?」
「そうだっけ?」
「まぁ、調整を手伝って貰ってるし、説明するね」
「助かるよ」
真琴の話をかいつまんで説明すると、雅ヶ峰学園は生徒向けにカードのレンタルを行なっているという。
取り扱うカードは多岐に渡り、通常モンスターや特定のテーマカード、汎用的な魔法や罠などがある。
ただし、全てのカードに貸し出し許可が出てる訳ではなく、デュエリストレベルが低い生徒はレアカードをレンタルできない。
さらに同時にレンタルする枚数にも制限がかかっており、これはデュエリストレベルに関わらず、1年生は5枚、2年生は8枚、3年生は10枚までと決められている。
「なるほど‥‥‥それが貸し出し枠ってことか」
「うん、3年生みたいに沢山借りれたら良いんだけどねぇ」
「うーん‥‥‥まあ、欲しいカードをメモしておいて、5枚以上ならそこから選ぶとか」
「そうしてみるね」
・
・
・
「よし、今の手持ちカードでなんとかまとまったよ」
「はー‥‥‥あずきちゃんありがとぉ〜〜」
どうやら貸し出しカードに頼らずに調整が済んだようだ。
真琴が組み上がったデッキをウットリとした眼差しでしばらく眺めていたが、デッキと巴の顔を交互に見始めた。
「あずきちゃん‥‥‥早速だけど‥‥‥」
「デュエル、する?」
「うん!決闘場使う?」
巴はその言葉を聴いて決闘場での出来事を思い出す。
あの場から逃げ出して早々に戻る気力は、今の巴には無かった。
「‥‥‥いや、やめとくよ。
実はさっきまで決闘場で決闘しててさ。1日に何度も使っちゃ悪いよ」
「あー決闘場に居たんだ。そっちへ探しに行けばよかったな‥‥‥
それじゃあ、テーブルにする?」
「うん、テーブルデュエルで」
〜「枯れ尾花」DU-1へつづく〜
桜庭春香との戦いを制した秋月巴。
春香に勝利する事を引き換えに決闘の理由を聞けなくなったが、勝利のご褒美に決闘の理由をヒントととして伝えるという。いくつかヒントを教えられた巴はその一環で春香から抱き寄せられる。興奮したのも束の間、巴は突然春香を突き飛ばして決闘場から逃げ出していった。
決闘場から逃げ出した後、巴は自分の寮の部屋へ戻っていた。
制服のままベッドに寝転がる。わきめも振らずに走ったからか、髪も乱れたままだ。
(あったかいなんて思ってない、綺麗なんて思ってない、うれしいなんて思ってない)
春香に対して生じた感情をことごとく否定していく。
(お姉ちゃんみたいだなんて‥‥‥)
自分を罰するかのように込められた力がシーツにシワを生んだ。
ガチャリ
と、不意に部屋のドアを開ける音が聞こえてきた。
巴は醜態を晒すまいと乱れた髪を手ぐしでざっと整える。
来訪者はひょいと顔を覗かせ、巴の姿を見るやいなや声を掛けてきた。
「あ!あずきちゃん!部屋に戻ってたんだ。あちこち探したよ」
「‥‥‥おかえり。マコちゃん」
声を掛けた人物の名前は芒野真琴(ススキノ マコト)。
巴と同時期に入学し、寮部屋を共有して使っている。
彼女は巴が入学してから初めてできた友人だ。
気さくな性格で「誰とでも友達になれる」と自負しており、事実人と接するのが苦手な巴ともすぐに打ち解けた。
そんな彼女と同室になればあだ名で呼び合うようになるのも無理はない。
秋月を縮めてアヅキちゃん。つまりあずきちゃん。
好きなように呼んでと言われて出たのがマコちゃん。
真琴だからマコちゃん。
巴は己のネーミングセンスの凡人凡骨さを恥じたが、真琴は「お、いいね。昔からの付き合いみたい」だのと言うので巴は体の奥をくすぐられるような感覚を持ちながらも以降はそのあだ名で呼ぶようになった。
閑話休題
部屋に戻ってきた真琴は巴のことを探していたという。
「私のこと探してたみたいだけど、何かあったの?呼び出しとか?」
「ううん!そんなんじゃなくてね!‥‥‥実は、ちょっとお願いがあってね?」
「お願い?」
お願いとは一体なんなのだろうか。
言い出しづらい用件であるのは容易に想像できた。
真琴が部屋に戻ってからだんだんと、険しい表情になったからだ。
「うん‥‥‥同室のよしみでアタシのデッキ調整、手伝ってくれないかな?」
「調整を?」
「うん‥‥‥」
デッキの調整を手伝って貰う事はそう珍しい事ではない。
初心者はデッキの枚数が多くなりやすいので、余計なカードを削って40枚に近づけたり、実際に決闘を行なってデッキの回り具合を確認したりする。
しかし、ここはデュエルのエキスパートが集う学園。
他人に手の内を見せるということは、相手にとって対策が容易になるだけではなく、チグハグな構築を勧められて決闘の成績を下げてしまう事だってありえるのだ。
それを認識しながらあえて自分から申し出るという事は、それだけ構築が難しいデッキか、あるいは相手に初心者とみられても平気で居られるような者だけだ。
「アタシね、入試デュエルの成績‥‥‥サイテーだったんだよね」
「!!」
入試デュエル。それは入学する者達のデュエリストレベルを測る決闘。
雅ヶ峰学園にも多くのデュエリストが集まるが、それをふるいに掛ける場である。
その結果は個人での確認に留まるが、順位としてハッキリ示される上に忖度の無い評価コメントが添付される。
真琴の言うサイテーとはその通り下から数える方が早かったという事だろう。
落とされなかっただけマシとも取れるが、この評価によって学園内でのレベルというものを嫌という程確認できてしまう。
「アタシね、これでも腕に自信ある方だったんだけどさ、『ここの人達とはレベルが違う』ってわかっちゃったんだ」
「‥‥‥」
「だからね、あずきちゃんが良ければ‥‥‥で良いんだけど‥‥‥」
次第に語気が弱まる様は、弱者として立場のなさを感じているのだろう。
いつもは明るく振舞っている彼女が、辛そうな顔で他者へ頼る姿を巴は想像できなかった。
だが、現実に彼女は巴を頼っている。決闘者としての誇りを捨ててでも、必死でしがみつこうとしている。
「モチロン、協力するよ」
「‥‥‥!ホ、ホント?」
巴は真琴の申し出を蔑ろには出来なかった。
「本当だよ。同室のよしみだからね」
「〜〜ッ!あずきちゃん!大好き!」
「ちょ、ちょっと!もう‥‥‥」
巴の返答に感極まったのか、真琴が飛び付いてきた。
春香に次ぎ、本日二度目のハグである。
たとえ部屋が離れていても了承するつもりだったが、そこまで喜んでくれるとは巴にも予想外だった。
(頼られて悪い気はしないしね)
「ほら、抱きついたままじゃあデッキが見れないよ」
「えへへ‥‥‥よーし!一緒にデッキ調整だ!」
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「これが今のデッキなんだけど‥‥‥どう?」
「うーん‥‥‥そうだなぁ‥‥‥とりあえずこのカードは2枚くらいで良いと思うよ」
「そっかぁ‥‥‥じゃあコレは?」
「それはできるなら3枚がいいね」
「むぅ‥‥‥手持ちには2枚しか無いんだよね‥‥‥貸し出し枠足りるかなぁ?」
「え?貸し出し?」
「あれ?聞いてないの?」
真琴のデッキを調整する最中、聞き馴染みのない単語が現れた。
「ちょっと聞き覚えないかな‥‥‥」
「えー?入学式の後で説明あったよ?」
「そうだっけ?」
「まぁ、調整を手伝って貰ってるし、説明するね」
「助かるよ」
真琴の話をかいつまんで説明すると、雅ヶ峰学園は生徒向けにカードのレンタルを行なっているという。
取り扱うカードは多岐に渡り、通常モンスターや特定のテーマカード、汎用的な魔法や罠などがある。
ただし、全てのカードに貸し出し許可が出てる訳ではなく、デュエリストレベルが低い生徒はレアカードをレンタルできない。
さらに同時にレンタルする枚数にも制限がかかっており、これはデュエリストレベルに関わらず、1年生は5枚、2年生は8枚、3年生は10枚までと決められている。
「なるほど‥‥‥それが貸し出し枠ってことか」
「うん、3年生みたいに沢山借りれたら良いんだけどねぇ」
「うーん‥‥‥まあ、欲しいカードをメモしておいて、5枚以上ならそこから選ぶとか」
「そうしてみるね」
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「よし、今の手持ちカードでなんとかまとまったよ」
「はー‥‥‥あずきちゃんありがとぉ〜〜」
どうやら貸し出しカードに頼らずに調整が済んだようだ。
真琴が組み上がったデッキをウットリとした眼差しでしばらく眺めていたが、デッキと巴の顔を交互に見始めた。
「あずきちゃん‥‥‥早速だけど‥‥‥」
「デュエル、する?」
「うん!決闘場使う?」
巴はその言葉を聴いて決闘場での出来事を思い出す。
あの場から逃げ出して早々に戻る気力は、今の巴には無かった。
「‥‥‥いや、やめとくよ。
実はさっきまで決闘場で決闘しててさ。1日に何度も使っちゃ悪いよ」
「あー決闘場に居たんだ。そっちへ探しに行けばよかったな‥‥‥
それじゃあ、テーブルにする?」
「うん、テーブルデュエルで」
〜「枯れ尾花」DU-1へつづく〜
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