第１話「春の嵐」DU-2　作：フラッシュロック

先行を取り、静かな立ち上がりを見せた春香と、後攻で油断せずに攻撃を通した巴。
ファーストターンを終われば、大概決闘者の力量差はお互いに見えてくる。
巴と春香、外野から見れば、その実力は拮抗しているように見えた。


「‥‥‥あの、春香先輩」


トモエ：LP4000
手札：１
場：〈月凛剣士シッカル〉/攻1600
伏せ：３


「ん？どうかしたの？」


ハルカ：LP4000
手札：１
場：〈春風を駆ける駿馬〉/攻2500
伏せ：１


数十分前の巴には想像すらできなかったであろう、思わぬ強者との決闘。
そして、フィールドのパワーバランスは春香が優勢である。


「いまさら聞くのもどうかと思うんですけど。
どうして私をデュエルに‥‥‥その、誘ったんですか？」
（誘ったというより、強制的に参加せられたようなものだけど）

巴の問いに、春香はどう答えるか迷っているようだった。


「‥‥‥んー‥‥‥どうしようかなぁ？
‥‥‥そうね、私が勝ったら教えてあげるわ」

妙な条件を提示され、巴は困惑の色を濃くした。
春香が勝ったら教えるという事は、知りたいならば巴が勝ちを譲ればいいと。まるで、降参しろと言っているように解釈できた。

「‥‥‥普通、そこは“私が負けたら教えてあげる”じゃないでしょうか？」

「ふふふっ！“私が勝ったら”よ！私のターン！ドロー！」


ハルカ手札：１→２


「‥‥‥そのままバトル！〈春風を駆ける駿馬〉で〈月凛剣士シッカル〉を攻撃！」


《ヒヒーン！》

バカラッ！バカラッ！バカラッ！
巨躯を誇る白馬が大地を震わせながら月の剣士へ猛突進する。そこですかさず、巴がそのタイミングでデュエルディスクのスイッチを押した。


「そうはいきません！リバースカードオープン！〈くず鉄のかかし〉！その効果で〈駿馬〉の攻撃は無効となります！」


〈くず鉄のかかし〉は相手モンスターの攻撃を無効にできる罠である。さらに、発動後に墓地へは行かず、場に伏せなおす事ができる。これにより、継続的な妨害が可能というのがこのカードの最大の利点である。
しかし、このカードを見た春香は感心しながらも、驚愕はしていない。


「ふぅん、なかなか良いカードを伏せていたわね。
‥‥‥でも甘いわ！後輩ちゃん！」

「なんっ！？」

「〈春風を駆ける駿馬〉の効果！バトルフェイズ中に１度だけ、罠カードの発動を無効にして破壊する！
さあ〈駿馬〉よ、後輩ちゃんの罠を踏み抜きなさい！『疾駆爛漫』！」

《ブルルッ！ヒヒーン！！》


「くぅっ‥‥‥！」


巴を守るはずだった〈鉄くずのかかし〉は、しかしその役目を果たす事なく粉砕される。
そして次こそ、〈剣士〉への突進を止めるものは無い。

《ブルルッ！》

《ぬうっ！‥‥‥ぐわあっ！》

〈剣士〉は〈駿馬〉を見据えて剣を構えるものの、なす術なく破壊された。
破壊による爆風が、プレイヤーへ襲う。


「きゃあーーーーッ！」

トモエ：LP4000　→　LP3100


「まだ終わりじゃ無いわ！〈春風を駆ける駿馬〉のさらなる効果！このモンスターが罠カードを破壊した場合、追加で攻撃できる！」

「っ！そんな！」
（私の罠を利用された‥‥‥！でも！）

「さぁ〈駿馬〉よ、後輩ちゃんにダイレクトアタック！」

「そうは行きません！さらにリバースカードオープン！罠カード〈おぼろ月〉！
相手のダイレクトアタック宣言時に墓地から「月凛」モンスターを効果無効かつ攻守０で特殊召喚します！蘇れ！〈月凛剣士シッカル〉！！守備表示！」


《フンッ！》

〈月凛剣士シッカル〉
守0


〈シッカル〉が地中から飛び出し、フィールドへ戻ってきた。その剣士は月をかたどった盾を前へと構えて、〈駿馬〉を睨みつける。


「一時しのぎの壁モンスターね‥‥‥だけど守備力が０ならそのまま破壊させてもらうわ！」

「いいえ！〈おぼろ月〉で特殊召喚したモンスターはこのターンの間、戦闘では破壊されません！」

「っ！‥‥‥なら攻撃は中止するわね」

「‥‥‥ふぅ」


辛うじて生き長らえた。〈駿馬〉の攻撃を２回ともなんとか凌ぎきることができた。これで春香先輩のターンは終わり‥‥‥そう巴が思った矢先のことだ。


「安心するのはまだ早いわよ？後輩ちゃん」

「へっ？」

「私はまだバトルフェイズを終了していないわ！」

（そんな‥‥‥！〈駿馬〉の攻撃は２回とも終わったはず！他にモンスターが居ないのに、まだ何か仕掛けてくるっていうのか‥‥‥！？）


巴の考えている通り、フィールドにはお互いにモンスターが１体ずつ、攻守共に０ながら戦闘破壊されない〈月凛剣士シッカル〉と〈春風を駆ける駿馬〉しか居ない。
〈駿馬〉の攻撃を２回とも防がれた以上は、春香もバトルフェイズを終えざるを得ないハズである。
それにも関わらず、彼女は攻撃を止めないと言う。


（それって、まさか‥‥‥）
「‥‥‥先輩が１ターン目から伏せていた罠ですか？」

「ふふっ察しが良いわね？でも半分不正解よ。
私はリバースカードを発動するわ！罠カード〈荒魂花吹雪〉！！」

隠されていた伏せカードのビジョンが起き上がり、そこから怒涛の勢いで桜の花びらが噴き出す。
フィールド全体を吹き荒ぶ桜混じりの風は、やがて〈春風を駆ける駿馬〉へ目掛けて吹き付けると、〈駿馬〉を中心にまるで嵐のように包み込んでしまった。


「一体、何が起こったんですか！？」

「〈荒魂花吹雪〉。その効果はモンスターを生贄に捧げることで、その魂の強さに応じて花弁が舞い踊る‥‥‥」

「どういう意味ですか！説明してください！」

「〈春風を駆ける駿馬〉の魂は、そのレベルに応じた〈散華トークン〉へと姿を変える！
出でよ！２体の〈散華トークン〉！」


《‥‥‥》

〈散華トークン〉
攻/1000

淡く光る青い人魂の中に花弁がゆらゆらと漂っている。


（‥‥‥仰々しく何をするかと思えば、〈駿馬〉をリリースしてトークンに変えただけじゃないか！）
「春香先輩、いくら私の〈月凛剣士シッカル〉の守備力が０でも、そのトークンで破壊することはできませんよ！」

「そうねぇ。１ターンキルには失敗しちゃったかな？」

「えっ‥‥‥‥‥‥」
（こ、この人結構エグいこと考えていたのか？）

「でもね、今から後輩ちゃんを、“圧倒的不利”にまで追い込むわよ」

「っ！」

「私は、手札から速攻魔法発動！〈ライバル・アライバル〉！！」

「！！」
（〈ライバル・アライバル〉だって！？）

「ふふふ‥‥‥後輩ちゃんも知っているようね？このカードによって私はバトルフェイズに通常召喚を行える！」


一般的に特殊召喚系カードは、レベルや種族、固有名称などによる制限が掛けられている。たとえ召喚に制限が無いものでも、前のターンに巴が破壊した〈リビングデッドの呼び声〉にだってデメリットはあるのだ。


「さらに！この通常召喚になんら制限は無いわ！そう、モンスター２体を要求する上級アドバンス召喚だってね！
〈散華トークン〉を生贄に、現れなさい！〈サクラ・ドラゴン〉！！」


〈散華トークン〉が再び春の嵐に覆われる。
ごうごうと勢いを増し、まるで桜の花びらでできた卵のように見えるほどにまで加速したそれは、突然泡の如く弾け飛んだ。
先程まで桜球があった場所には、桜の鱗で全身を覆い、枝垂れ桜の翼を持ち、桜の枝のようにしなやかな脚をした飛龍がそこに佇んでいるのだった。


「綺麗‥‥‥」

巴は素直に、見た瞬間に思った事を口にした。

「‥‥‥行くわよ、後輩ちゃん？
〈サクラ・ドラゴン〉で〈月凛剣士シッカル〉を攻撃！」

（っ！見とれてる場合じゃなかった！）
「無駄です！〈シッカル〉はこのターン、戦闘では破壊されません！」

「私に無意味な攻撃なんてないわ！〈サクラ・ドラゴン〉が守備モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える！」

「そ、そんな！？」

「行きなさい！〈サクラ・ドラゴン〉！『メイ・ストリーム』！！」


〈サクラ・ドラゴン〉の口内に薄紅色の桜エネルギーが光子となって集まっていく。やがて充分な大きさとなった桜エネルギーの塊は光の柱となり、月の戦士と巴を撃ち抜いた。


「うっ‥‥‥うわぁーーーーーッ！！！！」


トモエ：LP3100　→　LP100


〜「春の嵐」DU-3へつづく〜