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27:美少女、舞う② 作:天
「バトルフェイズは終了。しかしボクのターンはまだ終わりじゃあない」
ドルタが更なるカードを切る。
「フィールド魔法《魔法族の里》を発動」
すると辺りの景色が次第に変化していく。
ただの購買前のロビーだった場所がみるみる木々に覆われた牧歌的な村落となった。
「フィールド魔法《魔法族の里》・・・。こいつは強力なフィールド魔法だぜ。自分フィールドに魔法使い族モンスターがいなければ、魔法カードを発動できなくしてしまうんだ」
「なにッ!?」
意地悪くにやりと笑うドルタに、ケンザンは顔をひきつらせる。
《魔法族の里》は、自分フィールドに魔法使い族モンスターを用意できなければ永続的に魔法カードを封じることができるという数あるフィールド魔法の中でも屈指の拘束力を誇るカードだ。
魔法カードは多くのデッキでサーチや特殊召喚といった中核を担うカードである。魔法カードが発動できなければ即座に死に体となってしまうデッキもあるため、その効果はイラストの神秘的で美しい風景に反して極めて凶悪と言える。
またこのカードを破壊しようと考えても、魔法・罠カードを破壊する効果は大抵のデッキでその魔法カードに依存していることが多いため、決して楽な話ではない。
魔法カードが発動できないということは、当然先ほどサーチしたケンザンの切り札《究極進化薬》も発動できないということ。そしてケンザンのデッキには魔法使い族モンスターは1枚も採用されていない。
それに対してドルタの【霊使い】デッキでは中軸を担うモンスターの多くが魔法使い族で構成されているため、フィールドに魔法使い族モンスターを存在させておくことに苦はない。彼のデッキにおいてこの状況はまさにホームグラウンドというわけだ。
「厄介なカードを使うドン・・・」
さすがのケンザンも冷や汗をかきそうになる。
「ボクはカードを2枚伏せてターン終了だ」
それを尻目にドルタは2枚の伏せカードを敷き、エンドフェイズに入る。
「ちょっと待った!エンドフェイズに罠カードを発ドン!永続罠《化石発掘》!!俺は手札から《盾航戦車ステゴサイバー》を墓地に送り、このカードの効果で墓地の《魂喰いオヴィラプター》をフィールドに戻すザウルス!再び立つドン、《魂喰いオヴィラプター》!!」
《化石発掘》は手札1枚のコストで墓地の恐竜族モンスター1体を復活させる永続罠。
地面を割って倒されたばかりの《魂喰いオヴィラプター》が再び姿を現す。
「《化石発掘》で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化されるドン。よって《魂喰いオヴィラプター》の効果は発動しないザウルス」
《魂喰いオヴィラプター》の効果は特殊召喚時にも発動できる。しかし《化石発掘》がフィールドに存在する限り、この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化されるため、今は効果を持たない通常モンスター同様だ。
「効果は発動できない、攻撃力ではボクの《ウィン》ちゃんに劣る・・・そんなモンスターを出して何になる?」
嘲るように言うドルタに、ケンザンは応えない。
ケンザンの狙いは《魂喰いオヴィラプター》とは違うところにあったからだ。
(俺がこのタイミングで《化石発掘》を発動したのは、手札の《盾航戦車ステゴサイバー》を墓地に送るためザウルス)
《盾航戦車ステゴサイバー》は2400の守備力を持つ恐竜族モンスター。しかしその真価は墓地にあって初めて発揮される。
(《盾航戦車ステゴサイバー》は、相手モンスターが攻撃したダメージ計算時にLP1000を支払うことで、その戦闘ダメージを0にし自身を墓地から特殊召喚することができるんだドン。もし神楽坂のターンにユーイが攻撃を受けたとしても、このカードが墓地にある限りいくらかの攻撃なら防ぐことができるザウルス)
ケンザンもまたなかなか抜け目のない決闘者だった。もしものためを意識してプレイすることは決闘者としてある一定以上の水準では当たり前のことである。
デュエルディスクを通して《盾航戦車ステゴサイバー》の効果を確認したユーイもそのケンザンの考えには思い至っていた。
(真っ直ぐに突進あるのみってタイプかと思っていたが、なかなかどうしてケンザンもやるな)
少し笑み、ユーイはカードをドローする。
「俺のターン!ドロー!」
次はいよいよユーイのターンだ。
手札を確認して少し顔を曇らせる。
ユーイ&ケンザン(LP3950)
●モンスター
魂喰いオヴィラプター(ATK1800)
●魔法・罠
化石発掘(永続:魂喰いオヴィラプター)
神楽坂&ドルタ(LP4000)
●モンスター
憑依装着―ウィン(ATK1850)
●魔法・罠
魔法族の里(フィールド)
伏せカード(使用者:ドルタ)
《魔法族の里》の効果は無論ユーイにも適用される。ケンザンに魔法使い族モンスターが用意できないのならば、ユーイがそれを用意するか《魔法族の里》を破壊しなければならない。
しかしユーイの手札には魔法使い族モンスターも《魔法族の里》を破壊できるカードもなかった。
それを察してドルタは笑む。
「どうした?《魔法族の里》の前にキミも手詰まりかい?」
しかしユーイはそれに動揺するほど『やわ』ではない。
手札からモンスターを選んで召喚する。
「魔法が使えないなら使えないなりに闘い方はあるさ。俺は手札から《E・HERO ブレイズマン》を召喚!」
ユーイのフィールドに、赤いバトルスーツで身を包んだ炎髪のヒーローが飛び出した。
E・HERO ブレイズマン(ATK1200)
《E・HERO ブレイズマン》は例の如く王都にやってきてから生まれた、炎のHERO。
背中には数機のバーニアを備えており、爆発的なパワーを生み出す。
「《E・HERO ブレイズマン》のモンスター効果発動!《ブレイズマン》は1ターンに1度、デッキから【E・HERO】1体を墓地に送ることで、その属性・攻撃力・守備力を得る!」
ユーイはデッキから【E・HERO】モンスターを1体選ぶと墓地に送る。送ったのは《E・HERO エッジマン》。
「墓地に送った《E・HERO エッジマン》の攻撃力は2600!《E・HERO ブレイズマン》はその攻撃力を得るぜ!」
《E・HERO エッジマン》はレベル7・地属性・攻撃力2600を誇る最上級モンスター。当然、そのままではユーイはこのカードを使用できない。しかし《E・HERO ブレイズマン》の攻撃力を爆発的に高めることに利用はできる。ユーイはこのコンボのためにこのカードをデッキに仕込んでいたのだ。
効果が発動したことで、《E・HERO ブレイズマン》の両腕から炎が吹き上がった。それはやがて形を作り、両手首から伸びる刃となった。
E・HERO ブレイズマン(ATK1200→2600)
「へぇ・・・」
攻撃力が急上昇した《E・HERO ブレイズマン》を見て、ドルタは息を吐く。しかしその顔に焦りはない。
「バトルだッ!《ブレイズマン》で《憑依装着―ウィン》に攻撃ッ!〝ブレイジングエッジ〟!」
《E・HERO ブレイズマン》の背中のバーニアが火を吹く。その推進力で《E・HERO ブレイズマン》が《憑依装着―ウィン》に突っ込んでいった。炎の刃が《憑依装着―ウィン》を切り裂こうと襲いかかる。
しかしその刃は《憑依装着―ウィン》には届かなかった。
「なにッ!?」
刃は《憑依装着―ウィン》を守る《ショウリュウ》によって受け止められていたのだ。
《ショウリュウ》の体に帯びる風と《E・HERO ブレイズマン》の炎とがぶつかり合い、スパークが起こる。
「ボクは罠カード《憑依障壁》を発動させた!このカードは【霊使い】または【憑依装着】モンスターが攻撃を受けた時、そのモンスターと同じ属性のモンスターを墓地から特殊召喚し、代わりに攻撃を受けさせる!さらにこの効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン戦闘では破壊されず、キミはこのモンスター以外を攻撃できない!」
見た目には《憑依装着―ウィン》から《ショウリュウ》が離脱し彼女を守ったように見えるが、実際には墓地の《ショウリュウ》が特殊召喚され攻撃対象がそちらに変更されたようだ。
ショウリュウ(DEF200)
《ショウリュウ》の守備力は僅か200。本来ならば攻撃力2400の《E・HERO ブレイズマン》の敵ではないが、《憑依障壁》で特殊召喚されたモンスターには戦闘破壊耐性が付与されるため、鉄壁の壁となる。
諦めた《E・HERO ブレイズマン》がユーイのフィールドに戻る。
ユーイのフィールドにはまだ《魂喰いオヴィラプター》が攻撃表示で存在しているが、戦闘で《ショウリュウ》を破壊できない以上、これ以上の攻撃は無意味だ。
「くっ・・・」
「フフフ、魔法が使えないならモンスター効果で――――という発想は間違いではなかったけれど、ボクがそう簡単に《ウィン》ちゃんをやらせると思ったかい?残念ながら、美少女を守るのが男の使命!その程度ではボク達『親衛隊』の信念は突き崩せはしない!」
ドルタの高らかな宣言に、観衆からも感嘆が漏れる。
ー ー ー ー ー ー ー ー
観衆の変化をセリナも感じ取っていた。
そもそもこのタッグデュエルは、『購買を占拠せんとする親衛隊』と『それを阻止せんとする民衆』の代理戦争である。
しかし後者の立場でこのデュエルを見守っていたはずの観衆の中から、ドルタの闘い方に共感めいたものを示す者達が見受けられ始めた。
その意味を理解できずセリナは眉をひそめる。
「キミも気付いていただろう?ここにいるのはほとんどが男子生徒だということは」
ダイキに問われて、セリナは頷く。
「あれだけの混雑でしたから、当然では?」
これだけ大勢の生徒が押し合いへし合いをしていたのだ、非力な女子では出る幕はあるまい。
「それもあるが、それだけじゃあないとしたら?」
「と言うと?」
「キミも女子だからピンと来ないかな。要はこの観衆達の中にも、彼ら『親衛隊』に近い感情を持っている諸兄が少なからずいるということさ」
さすがのセリナもその言葉で腑に落ちるものがあった。
「セイコさんのファン」
「その通り」
ダイキがニッと笑う。
「デュエルって本当に面白いよね。デュエルをすれば、そこには必ず決闘者の人となりってやつが表れる。今の攻防にはドルタくんの美少女を想う気持ちや好きな娘を守るという信念、そういうものがよく表れていた。それが同じく陰ながらセイコさんを想う観衆の中の隠れファン達に伝播しシンパシーを刺激したのさ」
それが本当なら、『親衛隊』に反感を抱いていた人達の心をドルタのデュエルが揺り動かし溶かしたことになる。
「デュエルには人の心を動かす力がある・・・」
(以前、母様にも同じようなことを聞かされたことがある。それに私もユーイとのデュエルで自分の中の何かを動かされた気がする)
「それにしてもドルタくんがこれほどの決闘者だったとは。これまで目立った成績がなかったからノーマークだったが、人の心を動かすデュエルをできるというのは一種の才能だ、無視できる決闘者じゃあないな」
興味深げにあごを触るダイキ。
最初にセリナが指摘した通り、めぼしい決闘者のデータ集めはダイキのライフワークだ。ノーマークだった決闘者が頭角を現すのは、脅威であると同時に新たな研究材料を得た喜びでもあるのだろう。
「もしかしたらこのままワンサイドゲームということもあり得るか・・・」とまで呟き出すダイキを、しかしセリナは鼻で笑った。
「残念ながらその推測ははずれますよ。ケンザンはともかく、ユーイはこのままでは終わりません」
「ほう」
セリナは挑発的に笑む。
「人の心を動かすデュエルが才能によるものなら、その才能はユーイにもありますから。このまま負けるなんてこと、あるはずがない」
(実際に心を動かされた私が言うのだ、間違いはない)
セリナはその実感を信じ、再びデュエルへと心を戻した。
ー ー ー ー ー ー ー ー
「俺のターンは終わっちゃいない!俺は《魂喰いオヴィラプター》を守備に変更し、カードを2枚伏せてターンエンドだ!」
《魂喰いオヴィラプター》が身を守るように横になり、ユーイの前に2枚の伏せカードが現れる。
《E・HERO ブレイズマン》のパワーアップ効果も1ターンしか持たないため、その攻撃力も元に戻る。
これで状況はこのように変わった。
ユーイ&ケンザン(LP3950)
●モンスター
魂喰いオヴィラプター(DEF500)
E・HERO ブレイズマン(ATK1200)
●魔法・罠
化石発掘(永続:魂喰いオヴィラプター)
伏せカード2枚(使用者:ユーイ)
神楽坂&ドルタ(LP4000)
●モンスター
憑依装着―ウィン(ATK1850)
ショウリュウ(DEF200)
●魔法・罠
魔法族の里(フィールド)
神楽坂・ドルタ組にダメージを与えるどころか、モンスターを増やしてしまう結果に終わったユーイのターン。一見では、やはりドルタの方が1枚上手だったように思える。
それを物語るように神楽坂は笑った。
「フッ、クローディア先生に勝ったと聞いていたが、やはり噂は噂だったか。所詮は一年、レベルは知れていたな。俺のターン、ドロー」
このタッグデュエル、最後のターンプレイヤーである神楽坂のターン。
神楽坂はドローしたカードを手札に加え、別のカードを選び出す。
「俺は手札から《ベリー・マジシャン・ガール》を召喚!」
神楽坂のフィールドに女魔法使いが召喚される。
ベリー・マジシャン・ガール(ATK400)
「あ、赤ん坊だドン!?」
ケンザンが驚くのも無理はない。《ベリー・マジシャン・ガール》は女魔法使いとは言え、まだおしゃぶりを咥えた幼児だった。妖精のような羽を背中に、ピンク色の帽子と服を纏い小さな杖を持ってはいるが、とても闘いに向いているとは思えない容姿だ。攻撃力もそれに似つかわしく僅か400。
「そんなモンスターでどうする気ザウルス!?」
ケンザンは挑発するように嘲るが、ユーイは冷静だった。
(わざわざ攻撃力の低いモンスターを召喚するには、それ相応の効果を秘めているということ。外見で判断するのは間違いだ)
パワータイプの恐竜使いであるケンザンには理解できないかもしれないが、自身も決してレベルや攻撃力に自信のあるデッキの使い手ではないユーイには、その可愛らしい容姿や攻撃力の低さが逆に不気味だ。
「《ベリー・マジシャン・ガール》が召喚に成功したことで、そのモンスター効果を発動できる!俺はデッキから《ブラック・マジシャン・ガール》を手札に加える!」
ユーイの懸念を裏付けるように、《ベリー・マジシャン・ガール》は【マジシャン・ガール】のサーチ能力を持ったモンスターだった。
ケンザンの《魂喰いオヴィラプター》がそうであるように、欲しいカードをピンポイントでデッキから引き出せるサーチャーはデッキの核となるモンスターだ。見た目が可愛かろうと攻撃力が低かろうと軽視していい存在ではない。
さらに神楽坂は手札を切る。
「ドルタくん、キミのモンスターを使わせてもらうよ!」
その言葉に頷くドルタを確認して、神楽坂は魔法カードを発動した。
「《融合》発動ッ!手札の《ブラック・マジシャン・ガール》とフィールドの《ショウリュウ》を融合させる!」
神楽坂のフィールドに《ブラック・マジシャン・ガール》が出現する。
金色の髪に水色のやたら露出度の高い衣装、ワンド型の短い杖。容貌は間違いなく美少女のそれであり、童顔のわりに成熟した肢体が扇情的。魔女というよりは、まさにアイドルといった愛らしさだ。
その《ブラック・マジシャン・ガール》とドルタの《ショウリュウ》が《融合》の効果により一つとなっていく。
神楽坂が手を合わせた。
「融合召喚ッ!!レベル7!!《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》!!」
現れ出たのは、巨大な竜にまたがる女騎士。《ブラック・マジシャン・ガール》が竜騎士の称号を得て甲冑に身を包んだ凛々しき姿だった。
竜騎士ブラック・マジシャン・ガール(ATK2600)
普段の愛らしさとは違うキリリとした眼差しは、デュエルを見守る多くの観衆をも魅了し、思わずため息をつかせた。
ー ー ー ー ー ー ー ー
「神楽坂は【マジシャン・ガール】デッキかッ!さすがは学園のアイドルを生み出そうというだけあって徹底してるなァ!」
ダイキも他の観衆同様、感嘆の声を上げる。
《ブラック・マジシャン・ガール》。
その名にはさすがにセリナも聞き覚えがあった。
彼女は滅多に市場には流れないレアカードでありながら、決闘者の間ではカルト的とすら言えるほどの人気を誇るまさにデュエル界のナンバーワンアイドルである。
「一体、どうやってこんなカードを手に入れたんだ・・・」
まさかこんなところでこれほどのレアカードにお目にかかるとは思っていなかったセリナは眉間に深いしわを寄せる。
《ブラック・マジシャン・ガール》は一介の決闘者が偶然入手できるようなカードではない。
そもそもモンスターカードとは、人間界に顕現したモンスターを術者が何らかの手段で屈服させ、その力をカードに封じ込めて作られるものだ。だがこの手のモンスターはそれこそ何百年単位で人間界に姿を現すことはない。
セリナの所持する【月光】デッキもエース級はかなりのレアカードではあるが、これはムーク家に脈々と受け継がれてきたもの。それにしてもレアリティで言えば《ブラック・マジシャン・ガール》には及ばないのだ。如何に神楽坂が栄えあるデュエル・アカデミアの生徒とは言え、さすがにこれは分不相応なレアカードと言える。
だが、ダイキはセリナとは違う目線でそれを見ていた。
「いや、驚くべきはそこじゃあない。最も驚くべきなのは、『そのレアカードを含むデッキを彼らはこのデュエルに賭けている』という事実だ」
「――――!」
「デュエルが始まる前に武藤くんが彼らの覚悟を称賛していたが、このデュエルに《ブラック・マジシャン・ガール》程のレアカードが賭かっているとなれば、それは当初とは全く別の次元の話だ。神楽坂――――本当に凄まじい覚悟と心意気だよ。それほどまでに彼らは自らの活動に誇りと信念を持っているということだ・・・!」
貴重なカードをデュエルに賭ける行為は、無論自信の表れとも取れる。しかし神楽坂達のそれは単なる自信から来るものではないようにセリナにも思えた。
それは言わば背水の陣。貴重なカードを失うかもしれないというプレッシャーで自らを追い込むことで、集中力・精神力を高めているのだ。それだけこのデュエルに賭ける願いも強いということだった。
「しかも《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の融合にパートナーのドラゴン族モンスターを使うとは!この2人、コンビネーションも抜群だ!連携・精神力共に今日の彼らはもしかしたらラー・イエローでもトップクラスかもしれない!セリナくん、キミはこの2人に本当に武藤くん達が勝てるというのかい?」
ダイキの問いにセリナは答えない。
その代わりに彼女はユーイの伏せた2枚のカードを見つめる。
(ユーイは策士の一面がある。何か仕掛けているとしたら、あのカード・・・)
ー ー ー ー ー ー ー ー
「さぁ!見せてやろう!俺の最強美少女《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の力をッ!!」
早くも自身のエース召喚に成功した神楽坂が吠える。
それに呼応して《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の駆るドラゴンが口を開いた。
「《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》のモンスター効果!1ターンに1度、手札1枚を捨てることでフィールドの表側カード1枚を破壊する!」
神楽坂が手札から1枚を選んで墓地に送ると、ドラゴンの口内に青白い魔力の波動が渦巻き始める。
「まずはケンザン!お前の恐竜を破壊させてもらう!喰らえ〝黒・魔・導・竜・撃・波(ブラック・バースト)〟!!」
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》が魔力の波動を放射した。狙いは守備表示の《魂喰いオヴィラプター》だ。
〝黒・魔・導・竜・撃・波〟は一瞬にして《魂喰いオヴィラプター》を飲み込み消し去ってしまった。
「きょ、恐竜さーーーんッ!!」
「ハハハ!折角蘇生させたが、大した活躍はできなかったな!」
大好きな恐竜が再びやられてしまい嘆くケンザンを神楽坂は笑う。
しかし神楽坂の攻めはまだ終わりではない。
「続けてバトルだッ!今度は武藤ユーイ!キミのHEROを餌食にさせてもらうぞ!《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》で《E・HERO ブレイズマン》に攻撃だッ!!」
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》が今度は腰の剣をスラリと抜く。
そしてドラゴンを飛翔させた。屋外ならば空を泳ぐドラゴンの姿はさぞかし雄大だっただろう。
購買前の天井近くまで浮かび上がった《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》は、そこから滑空するように《E・HERO ブレイズマン》へ向かってくる。
「〝黒・魔・導・竜・斬(ブラック・ドラグーン・スラッシュ)〟!!」
《E・HERO ブレイズマン》も背中のバーニアから炎を噴出させ果敢にそれに対抗しようとするが、その攻撃力は1200。攻撃力2600の《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》には敵いそうにない。
しかしケンザンはギラリと目を輝かせた。
「今だドン!ユーイ!墓地の《ステゴサイバー》の効果を使うザウルス!!」
ケンザンが先のドルタのターンに墓地に送った《盾航戦車ステゴサイバー》のカード。確かにこの戦闘のダメージ計算時にこの効果を発動させれば《E・HERO ブレイズマン》は倒されてしまうもののダメージは0となり、他の《憑依装着―ウィン》や《ベリー・マジシャン・ガール》の直接攻撃も防ぐことができる。ケンザンの言う通り、ここがこのカードを使う最善のタイミングと言えた。
しかし、ユーイはその効果を――――発動させなかった。
「なにィィィィ!?」
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の剣撃〝黒・魔・導・竜・斬〟が《E・HERO ブレイズマン》を切り裂く。
「うわああああッ!!」
ユーイ&ケンザン(LP3950→2550)
吹っ飛ばされたユーイにケンザンが駆け寄る。
「ど、どうして《ステゴサイバー》の効果を使わなかったドン!そしたらLPの消費は1000で済んだザウルス!」
起き上がったユーイはケンザンに素直に頭を下げた。
「スマン。使わなかったんじゃない、使えなかったんだ。俺は魔力量が少ないせいで、レベル5以上の上級モンスターを召喚・特殊召喚できない。だからレベル6の《ステゴサイバー》の効果を使用してそれを特殊召喚することができなかった」
このことはセリナはもちろん、入試時の魔力検査で一緒だったリュウアやリュウカは知っていたことだ。しかし確かにケンザンには教えた記憶がない。
ユーイの告白にケンザンは「なッ・・・」と絶句する。
「断っておくが、だからといってこのデュエル負ける気はないぜ。手抜きしたわけじゃあない。だがタッグを組む前にこのことを伝えていなかったことは、完全に俺のミスだ。だから謝った」
ケンザンは開いた口がふさがらないとばかりに驚いている。
「じゃ、じゃあお前そんなハンデを背負った状態でクローディア先生に勝ったザウルス?」
ケンザンの問いにユーイは頷く。
ケンザンはあわあわと口を震わせていたかと思うと、いきなり両拳を突き上げた。
「す、すげードン!上級モンスターを召喚できないのに、あの『アカデミアの魔女』に勝つなんて!そんなの普通に勝つより凄いことザウルス!やっぱり俺が睨んだ通り、お前は凄い奴だったザウルス!」
てっきり「そんな重要なことを何故黙っていたザウルス!」とでも叱責されるかと覚悟していたのだが、ケンザンの反応は呆れるほど明るいものだった。
「怒らないのか?」
「何を怒るんだドン?まぁ、お前がわざと手を抜いたんなら怒るかもしれないザウルス。けど、お前はそんなことしないドン。魔力量のことなら、それは人それぞれ色んな事情があるザウルス。それにいちいち腹を立ててたら腹減っちまうドン」
そう言ってワハハと豪快に笑うケンザン。
釣られてユーイも思わず笑みを漏らした。
「お前こそ、俺が見込んだ通りの気持ちのいい男だよ」
二人はがっしりと手を握り合う。
「ダメージは受けるが、突破口は切り開いてみせる。俺を・・・信じてくれ」
「もちろんザウルス!」
二人は並んで神楽坂達を見据える。その瞳にはこれまで以上の闘志と絆が芽生えていた。
そんな二人に神楽坂はパチパチと拍手を贈る。
「素晴らしい友情だ。嘲りや皮肉なしに素直にそう思う。だが、同じく美少女を愛する者同士、俺とドルタくんの絆もキミ達に負けてはいない。さぁ、どちらの絆が想いが強いか、決着を付けようじゃないか!」
そう、まだ神楽坂のバトルフェイズは終わっていない。まだ攻撃可能なモンスターが2体も残っているのだ。
「ドルタくん、キミの美少女を使わせてもらうよ!《憑依装着―ウィン》でダイレクトアタック!」
「くっ・・・」
《憑依装着―ウィン》が再び風の魔法を操る。吹き荒れる暴風がユーイに襲いかかった。
「うああああァァー!」
ユーイ&ケンザン(LP2550→700)
吹き飛ばされないよう踏ん張るユーイ。
しかし暴風が過ぎると、その顔に浮かんでいたのは笑みだった。
「この瞬間、罠カード発動!《ダメージ・コンデンサ―》!」
ユーイが発動したのは、以前シクス・タイタンとのデュエルでも使用したカード。
《ダメージ・コンデンサ―》は戦闘ダメージを受けた時、手札1枚をコストに受けたダメージ数値以下の攻撃力を持つモンスターをデッキから特殊召喚できる。今回《憑依装着―ウィン》の直接攻撃によってユーイの受けた戦闘ダメージは1850。よって攻撃力1850以下のモンスターを特殊召喚できることになる。
「俺は手札から《鉄壁の堅獣 グリフォール》を墓地に送り、デッキから《宵闇の騎士》を特殊召喚する!」
ユーイのフィールドに純白の鎧を着た小柄な騎士が現れた。
宵闇の騎士(ATK500)
それを見た神楽坂は僅かに眉を寄せる。
「攻撃力500・・・。大した攻撃力ではないが、これで攻撃力400しかない《ベリー・マジシャン・ガール》では直接攻撃できなくなった」
神楽坂には《ベリー・マジシャン・ガール》の攻撃権がまだ残されていたが、攻撃力500のモンスターが特殊召喚された以上、これ以降のバトルは無意味だ。
神楽坂はバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へと移行する。
しかしそのタイミングを見計らってユーイはもう1枚の伏せカードを翻す。
「バトルフェイズが終了したこの瞬間に、さらなる罠カードを発動するぜ!罠カード《ブリッツ・オペレーション》!!」
「なにッ!?」
神楽坂が驚きの声を上げたのは、ユーイが予期せぬタイミングで2枚の伏せカードを両方切ってきたからではない。ユーイが罠カードを発動すると同時に、上空に見覚えのあるゲート――――『サーキット』が現れたからだ。
「これは・・・まさか噂の・・・!?しかし・・・!」
神楽坂が驚愕するのも無理はない。あの『サーキット』が何を意味しているのか知らない程、彼は世間知らずではない。
しかし今は神楽坂のターン中。本来ならば『あんなもの』が現れるはずがないのだ。
(考えられるとすれば、それは・・・)
「そう、俺がいま発動した罠カード《ブリッツ・オペレーション》の効果しかない」
澄ました顔でユーイは言う。
「罠カード《ブリッツ・オペレーション》。このカードの効果は単純だ。フィールドのモンスターをリンク素材に【ブリッツ・マジシャン】リンクモンスターをリンク召喚する、ただそれだけ。だけどこいつは罠カード。だから『あんたのターン中』にリンク召喚が可能なのさ」
ユーイが説明している間に、《ブリッツ・オペレーション》の効果でフィールドの《宵闇の騎士》が白い粒子となって、サーキットのリンクマーカーへと吸い込まれていく。
そしてサーキットから小柄な人影が飛び出してきた。
「フィールドで舞える美少女はあんた達のモンスターだけじゃあないってことを見せてやるよ!」
ユーイの啖呵に応えるように、美幼女の魔術師――――《ブリッツ・マジシャン》は不敵に笑った。
『さぁ、反撃なのら~♪』
ー ー ー ー ー ー ー ー
《魔法族の里》
フィールド魔法
自分フィールド上にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、相手は魔法カードを発動できない。
自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在しない場合、 自分は魔法カードを発動できない。
《化石発掘》
永続罠
(1):手札を1枚捨て、自分の墓地の恐竜族モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。その恐竜族モンスターを特殊召喚する。 (2):このカードの(1)の効果で特殊召喚されたモンスターは、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り効果が無効化され、このカードがフィールドから離れた時に破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。
《盾航戦車ステゴサイバー》
効果モンスター
星6/闇属性/恐竜族/攻1200/守2400
「盾航戦車ステゴサイバー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが墓地に存在し、相手モンスターが攻撃した場合、そのダメージ計算時に1000LPを払って発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。
《E・HERO ブレイズマン》
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1200/守1800
このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、 いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。
(2):自分メインフェイズに発動できる。デッキから「E・HERO ブレイズマン」以外の「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送る。このカードはターン終了時まで、この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性・攻撃力・守備力になる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。
《E・HERO エッジマン》
効果モンスター
星7/地属性/戦士族/攻2600/守1800
(1):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
《憑依障壁》
通常罠(オリジナル)
(1):自分フィールドの「霊使い」モンスターまたは「憑依装着」モンスターが攻撃対象となった相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。自分の墓地からその攻撃対象となったモンスターと同じ属性のモンスター1体を選んで自分フィールドに特殊召喚し、攻撃対象をそのモンスターに移し変える。この効果で特殊召喚されたモンスターはターン終了時まで戦闘では破壊されない。
《ベリー・マジシャン・ガール》
効果モンスター
星1/地属性/魔法使い族/攻 400/守 400
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「マジシャン・ガール」モンスター1体を手札に加える。
(2):1ターンに1度、このカードが相手の効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。このカードの表示形式を変更し、デッキから「ベリー・マジシャン・ガール」以外の「マジシャン・ガール」モンスター1体を特殊召喚する。
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》
融合・効果モンスター
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2600/守1700
「ブラック・マジシャン・ガール」+ドラゴン族モンスター
このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚または「ティマイオスの眼」の効果でのみ特殊召喚できる。
(1):1ターンに1度、手札を1枚墓地へ送り、 フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。その表側表示のカードを破壊する。 この効果は相手ターンでも発動できる。
《ダメージ・コンデンサー》
通常罠
自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動できる。受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。
《ブリッツ・オペレーション》
通常罠(オリジナル)
(1):自分フィールドのモンスターを素材として「ブリッツ・マジシャン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。
ドルタが更なるカードを切る。
「フィールド魔法《魔法族の里》を発動」
すると辺りの景色が次第に変化していく。
ただの購買前のロビーだった場所がみるみる木々に覆われた牧歌的な村落となった。
「フィールド魔法《魔法族の里》・・・。こいつは強力なフィールド魔法だぜ。自分フィールドに魔法使い族モンスターがいなければ、魔法カードを発動できなくしてしまうんだ」
「なにッ!?」
意地悪くにやりと笑うドルタに、ケンザンは顔をひきつらせる。
《魔法族の里》は、自分フィールドに魔法使い族モンスターを用意できなければ永続的に魔法カードを封じることができるという数あるフィールド魔法の中でも屈指の拘束力を誇るカードだ。
魔法カードは多くのデッキでサーチや特殊召喚といった中核を担うカードである。魔法カードが発動できなければ即座に死に体となってしまうデッキもあるため、その効果はイラストの神秘的で美しい風景に反して極めて凶悪と言える。
またこのカードを破壊しようと考えても、魔法・罠カードを破壊する効果は大抵のデッキでその魔法カードに依存していることが多いため、決して楽な話ではない。
魔法カードが発動できないということは、当然先ほどサーチしたケンザンの切り札《究極進化薬》も発動できないということ。そしてケンザンのデッキには魔法使い族モンスターは1枚も採用されていない。
それに対してドルタの【霊使い】デッキでは中軸を担うモンスターの多くが魔法使い族で構成されているため、フィールドに魔法使い族モンスターを存在させておくことに苦はない。彼のデッキにおいてこの状況はまさにホームグラウンドというわけだ。
「厄介なカードを使うドン・・・」
さすがのケンザンも冷や汗をかきそうになる。
「ボクはカードを2枚伏せてターン終了だ」
それを尻目にドルタは2枚の伏せカードを敷き、エンドフェイズに入る。
「ちょっと待った!エンドフェイズに罠カードを発ドン!永続罠《化石発掘》!!俺は手札から《盾航戦車ステゴサイバー》を墓地に送り、このカードの効果で墓地の《魂喰いオヴィラプター》をフィールドに戻すザウルス!再び立つドン、《魂喰いオヴィラプター》!!」
《化石発掘》は手札1枚のコストで墓地の恐竜族モンスター1体を復活させる永続罠。
地面を割って倒されたばかりの《魂喰いオヴィラプター》が再び姿を現す。
「《化石発掘》で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化されるドン。よって《魂喰いオヴィラプター》の効果は発動しないザウルス」
《魂喰いオヴィラプター》の効果は特殊召喚時にも発動できる。しかし《化石発掘》がフィールドに存在する限り、この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化されるため、今は効果を持たない通常モンスター同様だ。
「効果は発動できない、攻撃力ではボクの《ウィン》ちゃんに劣る・・・そんなモンスターを出して何になる?」
嘲るように言うドルタに、ケンザンは応えない。
ケンザンの狙いは《魂喰いオヴィラプター》とは違うところにあったからだ。
(俺がこのタイミングで《化石発掘》を発動したのは、手札の《盾航戦車ステゴサイバー》を墓地に送るためザウルス)
《盾航戦車ステゴサイバー》は2400の守備力を持つ恐竜族モンスター。しかしその真価は墓地にあって初めて発揮される。
(《盾航戦車ステゴサイバー》は、相手モンスターが攻撃したダメージ計算時にLP1000を支払うことで、その戦闘ダメージを0にし自身を墓地から特殊召喚することができるんだドン。もし神楽坂のターンにユーイが攻撃を受けたとしても、このカードが墓地にある限りいくらかの攻撃なら防ぐことができるザウルス)
ケンザンもまたなかなか抜け目のない決闘者だった。もしものためを意識してプレイすることは決闘者としてある一定以上の水準では当たり前のことである。
デュエルディスクを通して《盾航戦車ステゴサイバー》の効果を確認したユーイもそのケンザンの考えには思い至っていた。
(真っ直ぐに突進あるのみってタイプかと思っていたが、なかなかどうしてケンザンもやるな)
少し笑み、ユーイはカードをドローする。
「俺のターン!ドロー!」
次はいよいよユーイのターンだ。
手札を確認して少し顔を曇らせる。
ユーイ&ケンザン(LP3950)
●モンスター
魂喰いオヴィラプター(ATK1800)
●魔法・罠
化石発掘(永続:魂喰いオヴィラプター)
神楽坂&ドルタ(LP4000)
●モンスター
憑依装着―ウィン(ATK1850)
●魔法・罠
魔法族の里(フィールド)
伏せカード(使用者:ドルタ)
《魔法族の里》の効果は無論ユーイにも適用される。ケンザンに魔法使い族モンスターが用意できないのならば、ユーイがそれを用意するか《魔法族の里》を破壊しなければならない。
しかしユーイの手札には魔法使い族モンスターも《魔法族の里》を破壊できるカードもなかった。
それを察してドルタは笑む。
「どうした?《魔法族の里》の前にキミも手詰まりかい?」
しかしユーイはそれに動揺するほど『やわ』ではない。
手札からモンスターを選んで召喚する。
「魔法が使えないなら使えないなりに闘い方はあるさ。俺は手札から《E・HERO ブレイズマン》を召喚!」
ユーイのフィールドに、赤いバトルスーツで身を包んだ炎髪のヒーローが飛び出した。
E・HERO ブレイズマン(ATK1200)
《E・HERO ブレイズマン》は例の如く王都にやってきてから生まれた、炎のHERO。
背中には数機のバーニアを備えており、爆発的なパワーを生み出す。
「《E・HERO ブレイズマン》のモンスター効果発動!《ブレイズマン》は1ターンに1度、デッキから【E・HERO】1体を墓地に送ることで、その属性・攻撃力・守備力を得る!」
ユーイはデッキから【E・HERO】モンスターを1体選ぶと墓地に送る。送ったのは《E・HERO エッジマン》。
「墓地に送った《E・HERO エッジマン》の攻撃力は2600!《E・HERO ブレイズマン》はその攻撃力を得るぜ!」
《E・HERO エッジマン》はレベル7・地属性・攻撃力2600を誇る最上級モンスター。当然、そのままではユーイはこのカードを使用できない。しかし《E・HERO ブレイズマン》の攻撃力を爆発的に高めることに利用はできる。ユーイはこのコンボのためにこのカードをデッキに仕込んでいたのだ。
効果が発動したことで、《E・HERO ブレイズマン》の両腕から炎が吹き上がった。それはやがて形を作り、両手首から伸びる刃となった。
E・HERO ブレイズマン(ATK1200→2600)
「へぇ・・・」
攻撃力が急上昇した《E・HERO ブレイズマン》を見て、ドルタは息を吐く。しかしその顔に焦りはない。
「バトルだッ!《ブレイズマン》で《憑依装着―ウィン》に攻撃ッ!〝ブレイジングエッジ〟!」
《E・HERO ブレイズマン》の背中のバーニアが火を吹く。その推進力で《E・HERO ブレイズマン》が《憑依装着―ウィン》に突っ込んでいった。炎の刃が《憑依装着―ウィン》を切り裂こうと襲いかかる。
しかしその刃は《憑依装着―ウィン》には届かなかった。
「なにッ!?」
刃は《憑依装着―ウィン》を守る《ショウリュウ》によって受け止められていたのだ。
《ショウリュウ》の体に帯びる風と《E・HERO ブレイズマン》の炎とがぶつかり合い、スパークが起こる。
「ボクは罠カード《憑依障壁》を発動させた!このカードは【霊使い】または【憑依装着】モンスターが攻撃を受けた時、そのモンスターと同じ属性のモンスターを墓地から特殊召喚し、代わりに攻撃を受けさせる!さらにこの効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン戦闘では破壊されず、キミはこのモンスター以外を攻撃できない!」
見た目には《憑依装着―ウィン》から《ショウリュウ》が離脱し彼女を守ったように見えるが、実際には墓地の《ショウリュウ》が特殊召喚され攻撃対象がそちらに変更されたようだ。
ショウリュウ(DEF200)
《ショウリュウ》の守備力は僅か200。本来ならば攻撃力2400の《E・HERO ブレイズマン》の敵ではないが、《憑依障壁》で特殊召喚されたモンスターには戦闘破壊耐性が付与されるため、鉄壁の壁となる。
諦めた《E・HERO ブレイズマン》がユーイのフィールドに戻る。
ユーイのフィールドにはまだ《魂喰いオヴィラプター》が攻撃表示で存在しているが、戦闘で《ショウリュウ》を破壊できない以上、これ以上の攻撃は無意味だ。
「くっ・・・」
「フフフ、魔法が使えないならモンスター効果で――――という発想は間違いではなかったけれど、ボクがそう簡単に《ウィン》ちゃんをやらせると思ったかい?残念ながら、美少女を守るのが男の使命!その程度ではボク達『親衛隊』の信念は突き崩せはしない!」
ドルタの高らかな宣言に、観衆からも感嘆が漏れる。
ー ー ー ー ー ー ー ー
観衆の変化をセリナも感じ取っていた。
そもそもこのタッグデュエルは、『購買を占拠せんとする親衛隊』と『それを阻止せんとする民衆』の代理戦争である。
しかし後者の立場でこのデュエルを見守っていたはずの観衆の中から、ドルタの闘い方に共感めいたものを示す者達が見受けられ始めた。
その意味を理解できずセリナは眉をひそめる。
「キミも気付いていただろう?ここにいるのはほとんどが男子生徒だということは」
ダイキに問われて、セリナは頷く。
「あれだけの混雑でしたから、当然では?」
これだけ大勢の生徒が押し合いへし合いをしていたのだ、非力な女子では出る幕はあるまい。
「それもあるが、それだけじゃあないとしたら?」
「と言うと?」
「キミも女子だからピンと来ないかな。要はこの観衆達の中にも、彼ら『親衛隊』に近い感情を持っている諸兄が少なからずいるということさ」
さすがのセリナもその言葉で腑に落ちるものがあった。
「セイコさんのファン」
「その通り」
ダイキがニッと笑う。
「デュエルって本当に面白いよね。デュエルをすれば、そこには必ず決闘者の人となりってやつが表れる。今の攻防にはドルタくんの美少女を想う気持ちや好きな娘を守るという信念、そういうものがよく表れていた。それが同じく陰ながらセイコさんを想う観衆の中の隠れファン達に伝播しシンパシーを刺激したのさ」
それが本当なら、『親衛隊』に反感を抱いていた人達の心をドルタのデュエルが揺り動かし溶かしたことになる。
「デュエルには人の心を動かす力がある・・・」
(以前、母様にも同じようなことを聞かされたことがある。それに私もユーイとのデュエルで自分の中の何かを動かされた気がする)
「それにしてもドルタくんがこれほどの決闘者だったとは。これまで目立った成績がなかったからノーマークだったが、人の心を動かすデュエルをできるというのは一種の才能だ、無視できる決闘者じゃあないな」
興味深げにあごを触るダイキ。
最初にセリナが指摘した通り、めぼしい決闘者のデータ集めはダイキのライフワークだ。ノーマークだった決闘者が頭角を現すのは、脅威であると同時に新たな研究材料を得た喜びでもあるのだろう。
「もしかしたらこのままワンサイドゲームということもあり得るか・・・」とまで呟き出すダイキを、しかしセリナは鼻で笑った。
「残念ながらその推測ははずれますよ。ケンザンはともかく、ユーイはこのままでは終わりません」
「ほう」
セリナは挑発的に笑む。
「人の心を動かすデュエルが才能によるものなら、その才能はユーイにもありますから。このまま負けるなんてこと、あるはずがない」
(実際に心を動かされた私が言うのだ、間違いはない)
セリナはその実感を信じ、再びデュエルへと心を戻した。
ー ー ー ー ー ー ー ー
「俺のターンは終わっちゃいない!俺は《魂喰いオヴィラプター》を守備に変更し、カードを2枚伏せてターンエンドだ!」
《魂喰いオヴィラプター》が身を守るように横になり、ユーイの前に2枚の伏せカードが現れる。
《E・HERO ブレイズマン》のパワーアップ効果も1ターンしか持たないため、その攻撃力も元に戻る。
これで状況はこのように変わった。
ユーイ&ケンザン(LP3950)
●モンスター
魂喰いオヴィラプター(DEF500)
E・HERO ブレイズマン(ATK1200)
●魔法・罠
化石発掘(永続:魂喰いオヴィラプター)
伏せカード2枚(使用者:ユーイ)
神楽坂&ドルタ(LP4000)
●モンスター
憑依装着―ウィン(ATK1850)
ショウリュウ(DEF200)
●魔法・罠
魔法族の里(フィールド)
神楽坂・ドルタ組にダメージを与えるどころか、モンスターを増やしてしまう結果に終わったユーイのターン。一見では、やはりドルタの方が1枚上手だったように思える。
それを物語るように神楽坂は笑った。
「フッ、クローディア先生に勝ったと聞いていたが、やはり噂は噂だったか。所詮は一年、レベルは知れていたな。俺のターン、ドロー」
このタッグデュエル、最後のターンプレイヤーである神楽坂のターン。
神楽坂はドローしたカードを手札に加え、別のカードを選び出す。
「俺は手札から《ベリー・マジシャン・ガール》を召喚!」
神楽坂のフィールドに女魔法使いが召喚される。
ベリー・マジシャン・ガール(ATK400)
「あ、赤ん坊だドン!?」
ケンザンが驚くのも無理はない。《ベリー・マジシャン・ガール》は女魔法使いとは言え、まだおしゃぶりを咥えた幼児だった。妖精のような羽を背中に、ピンク色の帽子と服を纏い小さな杖を持ってはいるが、とても闘いに向いているとは思えない容姿だ。攻撃力もそれに似つかわしく僅か400。
「そんなモンスターでどうする気ザウルス!?」
ケンザンは挑発するように嘲るが、ユーイは冷静だった。
(わざわざ攻撃力の低いモンスターを召喚するには、それ相応の効果を秘めているということ。外見で判断するのは間違いだ)
パワータイプの恐竜使いであるケンザンには理解できないかもしれないが、自身も決してレベルや攻撃力に自信のあるデッキの使い手ではないユーイには、その可愛らしい容姿や攻撃力の低さが逆に不気味だ。
「《ベリー・マジシャン・ガール》が召喚に成功したことで、そのモンスター効果を発動できる!俺はデッキから《ブラック・マジシャン・ガール》を手札に加える!」
ユーイの懸念を裏付けるように、《ベリー・マジシャン・ガール》は【マジシャン・ガール】のサーチ能力を持ったモンスターだった。
ケンザンの《魂喰いオヴィラプター》がそうであるように、欲しいカードをピンポイントでデッキから引き出せるサーチャーはデッキの核となるモンスターだ。見た目が可愛かろうと攻撃力が低かろうと軽視していい存在ではない。
さらに神楽坂は手札を切る。
「ドルタくん、キミのモンスターを使わせてもらうよ!」
その言葉に頷くドルタを確認して、神楽坂は魔法カードを発動した。
「《融合》発動ッ!手札の《ブラック・マジシャン・ガール》とフィールドの《ショウリュウ》を融合させる!」
神楽坂のフィールドに《ブラック・マジシャン・ガール》が出現する。
金色の髪に水色のやたら露出度の高い衣装、ワンド型の短い杖。容貌は間違いなく美少女のそれであり、童顔のわりに成熟した肢体が扇情的。魔女というよりは、まさにアイドルといった愛らしさだ。
その《ブラック・マジシャン・ガール》とドルタの《ショウリュウ》が《融合》の効果により一つとなっていく。
神楽坂が手を合わせた。
「融合召喚ッ!!レベル7!!《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》!!」
現れ出たのは、巨大な竜にまたがる女騎士。《ブラック・マジシャン・ガール》が竜騎士の称号を得て甲冑に身を包んだ凛々しき姿だった。
竜騎士ブラック・マジシャン・ガール(ATK2600)
普段の愛らしさとは違うキリリとした眼差しは、デュエルを見守る多くの観衆をも魅了し、思わずため息をつかせた。
ー ー ー ー ー ー ー ー
「神楽坂は【マジシャン・ガール】デッキかッ!さすがは学園のアイドルを生み出そうというだけあって徹底してるなァ!」
ダイキも他の観衆同様、感嘆の声を上げる。
《ブラック・マジシャン・ガール》。
その名にはさすがにセリナも聞き覚えがあった。
彼女は滅多に市場には流れないレアカードでありながら、決闘者の間ではカルト的とすら言えるほどの人気を誇るまさにデュエル界のナンバーワンアイドルである。
「一体、どうやってこんなカードを手に入れたんだ・・・」
まさかこんなところでこれほどのレアカードにお目にかかるとは思っていなかったセリナは眉間に深いしわを寄せる。
《ブラック・マジシャン・ガール》は一介の決闘者が偶然入手できるようなカードではない。
そもそもモンスターカードとは、人間界に顕現したモンスターを術者が何らかの手段で屈服させ、その力をカードに封じ込めて作られるものだ。だがこの手のモンスターはそれこそ何百年単位で人間界に姿を現すことはない。
セリナの所持する【月光】デッキもエース級はかなりのレアカードではあるが、これはムーク家に脈々と受け継がれてきたもの。それにしてもレアリティで言えば《ブラック・マジシャン・ガール》には及ばないのだ。如何に神楽坂が栄えあるデュエル・アカデミアの生徒とは言え、さすがにこれは分不相応なレアカードと言える。
だが、ダイキはセリナとは違う目線でそれを見ていた。
「いや、驚くべきはそこじゃあない。最も驚くべきなのは、『そのレアカードを含むデッキを彼らはこのデュエルに賭けている』という事実だ」
「――――!」
「デュエルが始まる前に武藤くんが彼らの覚悟を称賛していたが、このデュエルに《ブラック・マジシャン・ガール》程のレアカードが賭かっているとなれば、それは当初とは全く別の次元の話だ。神楽坂――――本当に凄まじい覚悟と心意気だよ。それほどまでに彼らは自らの活動に誇りと信念を持っているということだ・・・!」
貴重なカードをデュエルに賭ける行為は、無論自信の表れとも取れる。しかし神楽坂達のそれは単なる自信から来るものではないようにセリナにも思えた。
それは言わば背水の陣。貴重なカードを失うかもしれないというプレッシャーで自らを追い込むことで、集中力・精神力を高めているのだ。それだけこのデュエルに賭ける願いも強いということだった。
「しかも《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の融合にパートナーのドラゴン族モンスターを使うとは!この2人、コンビネーションも抜群だ!連携・精神力共に今日の彼らはもしかしたらラー・イエローでもトップクラスかもしれない!セリナくん、キミはこの2人に本当に武藤くん達が勝てるというのかい?」
ダイキの問いにセリナは答えない。
その代わりに彼女はユーイの伏せた2枚のカードを見つめる。
(ユーイは策士の一面がある。何か仕掛けているとしたら、あのカード・・・)
ー ー ー ー ー ー ー ー
「さぁ!見せてやろう!俺の最強美少女《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の力をッ!!」
早くも自身のエース召喚に成功した神楽坂が吠える。
それに呼応して《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の駆るドラゴンが口を開いた。
「《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》のモンスター効果!1ターンに1度、手札1枚を捨てることでフィールドの表側カード1枚を破壊する!」
神楽坂が手札から1枚を選んで墓地に送ると、ドラゴンの口内に青白い魔力の波動が渦巻き始める。
「まずはケンザン!お前の恐竜を破壊させてもらう!喰らえ〝黒・魔・導・竜・撃・波(ブラック・バースト)〟!!」
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》が魔力の波動を放射した。狙いは守備表示の《魂喰いオヴィラプター》だ。
〝黒・魔・導・竜・撃・波〟は一瞬にして《魂喰いオヴィラプター》を飲み込み消し去ってしまった。
「きょ、恐竜さーーーんッ!!」
「ハハハ!折角蘇生させたが、大した活躍はできなかったな!」
大好きな恐竜が再びやられてしまい嘆くケンザンを神楽坂は笑う。
しかし神楽坂の攻めはまだ終わりではない。
「続けてバトルだッ!今度は武藤ユーイ!キミのHEROを餌食にさせてもらうぞ!《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》で《E・HERO ブレイズマン》に攻撃だッ!!」
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》が今度は腰の剣をスラリと抜く。
そしてドラゴンを飛翔させた。屋外ならば空を泳ぐドラゴンの姿はさぞかし雄大だっただろう。
購買前の天井近くまで浮かび上がった《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》は、そこから滑空するように《E・HERO ブレイズマン》へ向かってくる。
「〝黒・魔・導・竜・斬(ブラック・ドラグーン・スラッシュ)〟!!」
《E・HERO ブレイズマン》も背中のバーニアから炎を噴出させ果敢にそれに対抗しようとするが、その攻撃力は1200。攻撃力2600の《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》には敵いそうにない。
しかしケンザンはギラリと目を輝かせた。
「今だドン!ユーイ!墓地の《ステゴサイバー》の効果を使うザウルス!!」
ケンザンが先のドルタのターンに墓地に送った《盾航戦車ステゴサイバー》のカード。確かにこの戦闘のダメージ計算時にこの効果を発動させれば《E・HERO ブレイズマン》は倒されてしまうもののダメージは0となり、他の《憑依装着―ウィン》や《ベリー・マジシャン・ガール》の直接攻撃も防ぐことができる。ケンザンの言う通り、ここがこのカードを使う最善のタイミングと言えた。
しかし、ユーイはその効果を――――発動させなかった。
「なにィィィィ!?」
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の剣撃〝黒・魔・導・竜・斬〟が《E・HERO ブレイズマン》を切り裂く。
「うわああああッ!!」
ユーイ&ケンザン(LP3950→2550)
吹っ飛ばされたユーイにケンザンが駆け寄る。
「ど、どうして《ステゴサイバー》の効果を使わなかったドン!そしたらLPの消費は1000で済んだザウルス!」
起き上がったユーイはケンザンに素直に頭を下げた。
「スマン。使わなかったんじゃない、使えなかったんだ。俺は魔力量が少ないせいで、レベル5以上の上級モンスターを召喚・特殊召喚できない。だからレベル6の《ステゴサイバー》の効果を使用してそれを特殊召喚することができなかった」
このことはセリナはもちろん、入試時の魔力検査で一緒だったリュウアやリュウカは知っていたことだ。しかし確かにケンザンには教えた記憶がない。
ユーイの告白にケンザンは「なッ・・・」と絶句する。
「断っておくが、だからといってこのデュエル負ける気はないぜ。手抜きしたわけじゃあない。だがタッグを組む前にこのことを伝えていなかったことは、完全に俺のミスだ。だから謝った」
ケンザンは開いた口がふさがらないとばかりに驚いている。
「じゃ、じゃあお前そんなハンデを背負った状態でクローディア先生に勝ったザウルス?」
ケンザンの問いにユーイは頷く。
ケンザンはあわあわと口を震わせていたかと思うと、いきなり両拳を突き上げた。
「す、すげードン!上級モンスターを召喚できないのに、あの『アカデミアの魔女』に勝つなんて!そんなの普通に勝つより凄いことザウルス!やっぱり俺が睨んだ通り、お前は凄い奴だったザウルス!」
てっきり「そんな重要なことを何故黙っていたザウルス!」とでも叱責されるかと覚悟していたのだが、ケンザンの反応は呆れるほど明るいものだった。
「怒らないのか?」
「何を怒るんだドン?まぁ、お前がわざと手を抜いたんなら怒るかもしれないザウルス。けど、お前はそんなことしないドン。魔力量のことなら、それは人それぞれ色んな事情があるザウルス。それにいちいち腹を立ててたら腹減っちまうドン」
そう言ってワハハと豪快に笑うケンザン。
釣られてユーイも思わず笑みを漏らした。
「お前こそ、俺が見込んだ通りの気持ちのいい男だよ」
二人はがっしりと手を握り合う。
「ダメージは受けるが、突破口は切り開いてみせる。俺を・・・信じてくれ」
「もちろんザウルス!」
二人は並んで神楽坂達を見据える。その瞳にはこれまで以上の闘志と絆が芽生えていた。
そんな二人に神楽坂はパチパチと拍手を贈る。
「素晴らしい友情だ。嘲りや皮肉なしに素直にそう思う。だが、同じく美少女を愛する者同士、俺とドルタくんの絆もキミ達に負けてはいない。さぁ、どちらの絆が想いが強いか、決着を付けようじゃないか!」
そう、まだ神楽坂のバトルフェイズは終わっていない。まだ攻撃可能なモンスターが2体も残っているのだ。
「ドルタくん、キミの美少女を使わせてもらうよ!《憑依装着―ウィン》でダイレクトアタック!」
「くっ・・・」
《憑依装着―ウィン》が再び風の魔法を操る。吹き荒れる暴風がユーイに襲いかかった。
「うああああァァー!」
ユーイ&ケンザン(LP2550→700)
吹き飛ばされないよう踏ん張るユーイ。
しかし暴風が過ぎると、その顔に浮かんでいたのは笑みだった。
「この瞬間、罠カード発動!《ダメージ・コンデンサ―》!」
ユーイが発動したのは、以前シクス・タイタンとのデュエルでも使用したカード。
《ダメージ・コンデンサ―》は戦闘ダメージを受けた時、手札1枚をコストに受けたダメージ数値以下の攻撃力を持つモンスターをデッキから特殊召喚できる。今回《憑依装着―ウィン》の直接攻撃によってユーイの受けた戦闘ダメージは1850。よって攻撃力1850以下のモンスターを特殊召喚できることになる。
「俺は手札から《鉄壁の堅獣 グリフォール》を墓地に送り、デッキから《宵闇の騎士》を特殊召喚する!」
ユーイのフィールドに純白の鎧を着た小柄な騎士が現れた。
宵闇の騎士(ATK500)
それを見た神楽坂は僅かに眉を寄せる。
「攻撃力500・・・。大した攻撃力ではないが、これで攻撃力400しかない《ベリー・マジシャン・ガール》では直接攻撃できなくなった」
神楽坂には《ベリー・マジシャン・ガール》の攻撃権がまだ残されていたが、攻撃力500のモンスターが特殊召喚された以上、これ以降のバトルは無意味だ。
神楽坂はバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へと移行する。
しかしそのタイミングを見計らってユーイはもう1枚の伏せカードを翻す。
「バトルフェイズが終了したこの瞬間に、さらなる罠カードを発動するぜ!罠カード《ブリッツ・オペレーション》!!」
「なにッ!?」
神楽坂が驚きの声を上げたのは、ユーイが予期せぬタイミングで2枚の伏せカードを両方切ってきたからではない。ユーイが罠カードを発動すると同時に、上空に見覚えのあるゲート――――『サーキット』が現れたからだ。
「これは・・・まさか噂の・・・!?しかし・・・!」
神楽坂が驚愕するのも無理はない。あの『サーキット』が何を意味しているのか知らない程、彼は世間知らずではない。
しかし今は神楽坂のターン中。本来ならば『あんなもの』が現れるはずがないのだ。
(考えられるとすれば、それは・・・)
「そう、俺がいま発動した罠カード《ブリッツ・オペレーション》の効果しかない」
澄ました顔でユーイは言う。
「罠カード《ブリッツ・オペレーション》。このカードの効果は単純だ。フィールドのモンスターをリンク素材に【ブリッツ・マジシャン】リンクモンスターをリンク召喚する、ただそれだけ。だけどこいつは罠カード。だから『あんたのターン中』にリンク召喚が可能なのさ」
ユーイが説明している間に、《ブリッツ・オペレーション》の効果でフィールドの《宵闇の騎士》が白い粒子となって、サーキットのリンクマーカーへと吸い込まれていく。
そしてサーキットから小柄な人影が飛び出してきた。
「フィールドで舞える美少女はあんた達のモンスターだけじゃあないってことを見せてやるよ!」
ユーイの啖呵に応えるように、美幼女の魔術師――――《ブリッツ・マジシャン》は不敵に笑った。
『さぁ、反撃なのら~♪』
ー ー ー ー ー ー ー ー
《魔法族の里》
フィールド魔法
自分フィールド上にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、相手は魔法カードを発動できない。
自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在しない場合、 自分は魔法カードを発動できない。
《化石発掘》
永続罠
(1):手札を1枚捨て、自分の墓地の恐竜族モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。その恐竜族モンスターを特殊召喚する。 (2):このカードの(1)の効果で特殊召喚されたモンスターは、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り効果が無効化され、このカードがフィールドから離れた時に破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。
《盾航戦車ステゴサイバー》
効果モンスター
星6/闇属性/恐竜族/攻1200/守2400
「盾航戦車ステゴサイバー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが墓地に存在し、相手モンスターが攻撃した場合、そのダメージ計算時に1000LPを払って発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。
《E・HERO ブレイズマン》
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1200/守1800
このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、 いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。
(2):自分メインフェイズに発動できる。デッキから「E・HERO ブレイズマン」以外の「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送る。このカードはターン終了時まで、この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性・攻撃力・守備力になる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。
《E・HERO エッジマン》
効果モンスター
星7/地属性/戦士族/攻2600/守1800
(1):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
《憑依障壁》
通常罠(オリジナル)
(1):自分フィールドの「霊使い」モンスターまたは「憑依装着」モンスターが攻撃対象となった相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。自分の墓地からその攻撃対象となったモンスターと同じ属性のモンスター1体を選んで自分フィールドに特殊召喚し、攻撃対象をそのモンスターに移し変える。この効果で特殊召喚されたモンスターはターン終了時まで戦闘では破壊されない。
《ベリー・マジシャン・ガール》
効果モンスター
星1/地属性/魔法使い族/攻 400/守 400
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「マジシャン・ガール」モンスター1体を手札に加える。
(2):1ターンに1度、このカードが相手の効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。このカードの表示形式を変更し、デッキから「ベリー・マジシャン・ガール」以外の「マジシャン・ガール」モンスター1体を特殊召喚する。
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》
融合・効果モンスター
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2600/守1700
「ブラック・マジシャン・ガール」+ドラゴン族モンスター
このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚または「ティマイオスの眼」の効果でのみ特殊召喚できる。
(1):1ターンに1度、手札を1枚墓地へ送り、 フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。その表側表示のカードを破壊する。 この効果は相手ターンでも発動できる。
《ダメージ・コンデンサー》
通常罠
自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動できる。受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。
《ブリッツ・オペレーション》
通常罠(オリジナル)
(1):自分フィールドのモンスターを素材として「ブリッツ・マジシャン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。
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