第九話：希の大会前夜　作：粉玉采

(あの時渡されたルール表…もっかい見ておこっかな)

希はクリアファイルに入れておいたA4のルール表を取り出す。

・大会初日、AM8：00からAM10：00までに華札スタジアムに集合したデュエリスト全員を参加者とする。年齢、経歴、国籍などは一切問わない。

・参加者にはエンゼルウィング社より参加資格であるエンゼルウィングバッジが支給される。

・予選は参加者同士でエンゼルウィングバッジを賭けあってデュエルするバトルロワイヤル形式。

・本選に出場するには6つのエンゼルウィングが必要。

・所持するエンゼルウィングバッジの数が0になるとその場で敗退となる。(代わりに自分の魂を賭ける、ということはできない。)

(この記述いるの…？)
『前にやった奴がいるんだろーな…』

・デュエルはLP4000ルール。

(ま、こんなところかな。注意すべきは一番上、『年齢、経歴、国籍などは一切問わない』ってところ…)
『洗脳したデュエリストを紛れ込ませるにはうってつけってところか。』

「あら、希ちゃんが難しい顔してるわ〜、何読んでるの？」
「お母さん？」

希に声をかけた人物は、黒い髪を後ろで一つにまとめたポニーテールで、紺色の生地にデフォルメされた動物が可愛らしくプリントされたエプロンを掛けていた。(そのデフォルメされた動物がよりにもよって白い蛇なのは希もほんのすこしだけセンスを疑ったが)この人物こそが、遊原 塔子(ゆうげん とうこ)。希の母親である。

常にクールに振る舞う希と違ってとてもほんわかとした、その場にいるだけで周りの空気を和ませる雰囲気を持ち、いつになっても変わらない可愛らしさと若さは近所の主婦たちのちょっとした憧れになっていることを希は知っている。

「明日からやる大会のルールを確認してたところよ。」
「あら、希ちゃんも参加するの？」
「学校行事としてだけどね…まあ、年齢、経歴、国籍問わずに明日の午前8時から10時までに華札スタジアムに集合したものを参加者とするって書いてあるわ。」
「じゃあ私も参加しちゃおうかしら！パパも誘っちゃおっと！えーっと携帯どこにやったかしら…」

塔子の姿が居間へと消えてゆく…。

『おい、いいのか？お前の参加する本当の理由話さなくてよ。』
(あんたもバカじゃないならわかるでしょ？あんまりヤバいこと話すとお母さん、あの性格だから心労で体調悪くしちゃうわ。私だってそういうところは気にするのよ？)
『………ああ、そうだな。』

妙な間を置いて返答するアデスであったが、希はあえて気にしないことにした。どうせ含みをもたせておきながら実際にはなんでもないことだった。というアデスお得意のイタズラだと思ったのだ。

『……なあ、お前には早めに言っておこうかと…』

アデスが話を切り出してきたその時。

「希ちゃーん、パパお仕事で開会式には間に合わないみたい。残念。」
「そっか…」
『…なあ、のぞ…』
「でもね聞いて！大会に参加はできないけど応援にはきてくれるって！それでね！パパったら『君と戦うことにならなくて良かった…』なんて言うのよ！やだも〜パパったら〜！」

頰に手を当て身体をくねらせ、全身で溢れる喜びを表す塔子。

「やれやれ…二人目ができないことが不思議なくらいね…」






午後8時。開戦の時まで後14時間…