序章　作：粉玉采

雨市猪鹿町、まちだ産婦人科。

騒がしい国道沿いから離れた小さな病院。

新たに芽吹く『命』にうってつけの場所。

だが、この病院の一室でとある夫婦が告げられたのは、命の芽生えとは正反対の、悲しすぎる一報だった。

「死産…！？そんな……！」

泣き崩れる女性。その腹は大分大きくなっていた。

「……。」

なんと声をかけたらわからず、立ち尽くす男性。

「……残念ですが、本当です。私どもの力及ばず……申し訳ありません。」

深々と夫婦に頭を下げる眼鏡をかけた白衣の男性。この一室は、悲壮な空気に包まれていた。







『あーあ。辛気くせーなオイ！決まった事にいつまでもいつまでもよぉ！』

その部屋の天井に浮遊していた『何か』が、気だるそうにぼやいた。嫌でも気づきそうな音量で言っていたはずなのに三人は誰も気づいてないらしい。

『やれやれこれだからヤなんだよ人間担当は！鳥とか魚とかは子供が死んでも悲しまねーのにさあ！人間はこれだぜ！？やってらんねーよ！』

『何か』が突然愚痴を言い始める。依然として三人には聞こえないようだ。

『まあここで言っても仕方ねーな。じゃ、魂引っ張って帰るか。』

『何か』が指を鳴らす。すると女性の腹部から球状の光が『何か』の元へ寄って来た。

『よーしいい子だ魂ちゃーん。残念だったなー。でも冥界は楽しいぜー？なんならファミコン貸してやってもいいぞー？』

魂が『何か』のそばまで寄って来たその時。

『ビエーーーン！！』

いきなり魂から赤ん坊の泣き声が発せられた。あまりの大音量に『何か』は耳をふさぐ。

『うおーうっせえ！？なんだよ死者の魂ってのは大体静かなもんじゃねえのかよ！？』
『ビエーーーン！！！』
『おいおい魂ちゃーん？俺がケチってファミコン貸すよー、なんて言ったのが悪かったのかー？冗談だってスイッチもあるぜ？ニン○ンドーのスイッチもさあ！』
『ビエーーーン！！！』
『……あのなぁ。人間世界で生きていたってなんも楽しくねーぜ？何せ人間は他人から奪い、他人を憎み、他人を妬む。ひどい時は他人を殺すんだぜ？俺だったらやってらんねーよ。それでも生きてーのか？』
『ビエーーーン！！！』
『…そうかいわかったよ！そんなに生きたきゃ勝手にしろ！』

『何か』は、魂を乱暴に掴み、女性の腹部めがけて投げる。すると魂はすうっと溶けるように消えてしまった。



どん。


先ほどまで泣いていた女性が腹のなかから衝撃を感じた。

「え……？蹴った…？この子、今蹴ったの！？」
「え？本当か？先生！」
「そんなはずは……」



どん。



「ま、また！」
「先生！」
「これは大変だ！すぐに検査をしましょう！」
「塔子……よかったな…！！」
「ええ…！」




奇跡が起きた。それまでの悲壮な空気が一変しているのが分かる。それを『何か』が見届けていた。


『あーあ。やっちまったなー。これで俺死神追放だぜ……』








『まあいいか！これもこれで面白そうだ！』
















あとがき

第一話なのにデュエルが無くてすみません…。