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1-9:契約の光(*未修正) 作:氷色
あっけらかんとそう述べるマナを、ユウゴは驚きを以て見た。
「やっつけられるのか?アレを」
同じ精霊であり悪魔の手を弾き飛ばす力を示したマナが協力してくれれば何とかこの場を切り抜けられるかもしれない、というくらいには期待していた。
しかしあの悪魔を倒すなんて全く頭には無かった。見た目だけで言えばとてもじゃないが敵うとは思えない。
『できますよぅ♪楽勝です♪』
能天気というか楽観的というか、とにかくマナには絶対の自信がありそうだった。
その物言いにユウゴの期待は膨らむ。
しかし続けて放たれた言葉にユウゴは固まることになる。
『マスターならあんなのイチコロですよッ!』
え、ちょっと待って。
「お、俺が闘うの?」
てっきりマナには見た目では測れない凄い力があって、こう魔法とかそういうのであの悪魔をやっつけられるのかと思っていた。
ユウゴが救いを求めるように見つめると、マナは『なに言ってるんですか?』という風に首を傾げる。
『当たり前じゃないですかぁ♪こんな大物を屈伏させられるチャンスなんてそうそうないですよぅ?』
背中を冷たいものが伝って落ちる。
屈伏させるとかどうとか以前に一体どうやってあんな化け物と闘うというのだ。自慢じゃないがユウゴは普通の人間相手でもまともに喧嘩したことはない。
その考えはどうやら悪魔も同じだったらしい。
高笑いが辺りに響く。
『儂を屈伏させるだと?人間の小僧一人に何ができる!?』
悪魔がさも可笑しそうに肩を震わせる。
当然だ。あの巨体の悪魔からすればユウゴなどただの小動物一匹程度。鼠が一匹、象に闘いを挑むようなものだ。
しかしマナの自信は揺らがない。
『マナのマスターなら勝てますよぅだ!マナも力を貸しますしぃ!』
まるで子供の口喧嘩みたいな根拠のない反論。
更にクリボーまで一緒になって何やら『クリクリ(*`Д´)ノ!!!』と喚いている。
『青瓢箪に、小娘に、下等精霊。まとめてかかっても儂の足元にも及ばぬわ!どうやってこの儂に勝つつもりだ!?』
『もちろん【デュエル】で』
マナが即答する。
瞬間、空気がピリッと張り詰めた。
あのマナが冷たい瞳で悪魔を見つめている。
『マナが本気を出してリアルファイトでアナタをぶっ殺したら、アナタは消滅してしまう。そうしたらアナタをマスターの糧にはできないでしょ?』
さも当然という風にマナは言ってのける。
ふざけている、という感じではない。マナの言葉に先程までの能天気な明るさはもうない。それに宿るのは冷たく暗い圧力。
突然のマナの変化に、悪魔は『ほう…』と笑み、ユウゴは戸惑う。
『よかろう。やってみるがいい!』
悪魔がデュエルを了承したことで、マナは笑んだ。
そしてくるりとユウゴを振り返り、何事もなかったような元の調子で言う。
『じゃあ悪魔さんの了承ももらえたことですし、チャッチャと契約しちゃいましょ♪』
「契約?」
『人間はデュエルモンスターの精霊と契約することで、精霊の力を行使できる【デュエリスト】になるんですよぅ。んで、自分の魔力と精霊の力とを使って闘う儀式のことを【デュエル】って言うんですぅ』
なるほど、つまりそのデュエルという儀式でこの悪魔を倒せとマナは言っているのか。
しかし自分にそんなことが本当に可能なんだろうか。
『まぁまぁ、実際にやってみれば分かりますって』
まるで急かすようにマナはずんずん話を進める。
この根拠に乏しいマナの自信を信じていいものかどうか、ユウゴには判断がつかない。
『…それともこのままあの悪魔に喰われます?』
続けて放たれた言葉に息が詰まる。
マナは真剣な目でこちらを見ていた。その大きな瞳に宿る光を見て、ユウゴの中で何かがストンと落ち着くような感覚が芽生える。
そうだ、何をビビっているのだ。このまま二の足を踏んでいても待っているのは絶対的な死だけだ。迷っている暇などありはしない。
覚悟を決めろ。
「キミと契約すれば、本当にアイツを倒せるんだな?マナ」
『はい♪必ず』
変わらず真摯な眼差しでマナはユウゴを見ている。
ユウゴの目にも強い力が宿り始めていた。
「分かった。一緒に闘おう」
マナの瞳が更に大きくなり、そしてにっこりと微笑んだ。
『手を』
言われるがままに手を出す。
手のひらを上に向けられ、それにマナの手が重ねられた。
女の子に手を触れられるのは初めてだが、不思議と落ち着いた気持ちになる。もっとドキドキするのかと思っていたので意外だった。
これから命を賭けた闘いに挑むというのに、こんなにフラットな気持ちでいいのだろうか。
思えば先程まであんなに取り乱していたのに、マナが来てからそのペースに巻き込まれて少しずつその恐怖心が溶けていったような気がする。全て計算ずくなのだとしたら大したやつだ。
『ハッ!そ、そういえばマスターはなぜマナの名前を知ってたんですかッ!?まだ自己紹介もしてないのに!』
気のせいだなうん。
ユウゴが苦笑すると、重ねられた手の上に更に小さな手がピトッと乗せられた。
「クリボー?」
『クリちゃんもマスターと一緒に闘ってくれるの?』
『クリッ(`^´)0』
凛々しく意気込んでいるクリボー。
マナがこちらに視線を向けたので、ユウゴはそれに頷いた。
クリボーもユウゴの大事な友達だ。友達が自ら力を貸してくれると申し出てくれているのに、断る理由などない。
「一緒に闘おう、クリボー」
『クリッ(`´)ゞ』
こうして三人の気持ちが一つになった。
ユウゴがマナに頷いて先を促す。
それに応じてマナが力を込めると、重ねられた手がゆっくりと光り出した。
『古の誓約に従い、我、武藤ユウゴを主とし、その禍を滅する炎とならんことを誓う』
マナが言葉を紡ぐと光は輝きを増していった。
それはすぐに目が開けていられないくらい強くなる。
『我が誓約の名は…』
そしてこれ以上は耐えられないくらいにそれが高まった瞬間、まるで爆発したように閃光が三人を包んだ。
『…《ブラック・マジシャン・ガール》!!』
*
まるで光の槍が天を衝き刺したようだった。
それを唇を噛み締めて見つめる少女。
ガードレールを拳で叩きつける。
「間に合わなかったか…!」
*
光が収束していくと、いつの間にかマナとクリボーは消えていた。
変わりに手のひらの上にはカードの束が置かれている。
『それがマナ達の魂でできたマスターのデッキですよぅ♪』
一瞬消えたと思ったマナが後ろからにゅっと顔を出した。
反対側からはクリボーがにこにこしながら現れる。
「デッキ…」
『このデッキのカードを魔力で実体化させて精霊や他のデュエリストと闘うのがデュエルなんですぅ。ちょっと意識を集中させてデッキを握ってみて下さいぃ』
言われるままやってみる。
すると頭の中にこのデッキに関する情報が沸き上がってくる。
カードの種類、枚数、強さ、効果、そして使い方まで。まるで長年使い込んだ道具のように、しっくりと自分の中に生きている感じがする。
「これって…」
『マスターはこのデッキのマスターですからぁ。言ったでしょ、これはマナ達の魂でできているんですよぅ。もちろんマスターの魂も溶け込んでるんですぅ。使い方くらい分かりますよぅ』
そういうものか。
だが一からデッキの内容を把握しないで済むのは助かる。
『さぁ!これで準備は万端ですぅ!悪魔さんをやっつけますよぅ!』
いよいよデュエル、とマナが意気込んだ、その時だった。
「マナ!!」
女性の声がした。
振り返ると見覚えのある少女がこちらに駆けてくる。
『あ、アスナちゃん!やっほー』
「やっほーではないわッ!!」
マナが手を振ろうとするのを許さない速度でアスナの蹴りが飛んできた。
『ひゃわ~』とか言いながらマナはギリギリでそれをかわす。
蹴りをかわされたアスナだったが、それは想定内だったのか体勢を崩すこともなく着地。スタスタとマナに歩み寄り、スパンと頭をはたいた。今度はさすがのマナも避けられず、頭を抱えてうずくまる。
「どれだけ探したと思っている!?勝手に動くなといつも言っているだろう!!」
小柄なアスナが腰に手を当てて上からマナを叱りつける。
マナは『だって~』と涙目だ。
この二人の上下関係がよく見て取れる。どうやらアスナはマナの保護者のような立場らしい。
なおもガミガミと叱り続けられる前にユウゴはマナに助け舟を出すことにした。
「あの…もうその辺で…」
しかしその言葉はギンと睨み付けるアスナの迫力に尻すぼみになる。ユウゴの小さな悲鳴付きで、だ。
それでもアスナを多少落ち着かせるだけの効果はあったのか、彼女は深く嘆息し、そしてユウゴを見る。見つめていると吸い込まれそうな瞳だ。
「そうか…見つけたのだな…」
アスナは諦めたような表情でマナを見る。
未だ涙目ながらマナがにっこり笑んだことで、どうやら一旦は落着らしい。
「やっつけられるのか?アレを」
同じ精霊であり悪魔の手を弾き飛ばす力を示したマナが協力してくれれば何とかこの場を切り抜けられるかもしれない、というくらいには期待していた。
しかしあの悪魔を倒すなんて全く頭には無かった。見た目だけで言えばとてもじゃないが敵うとは思えない。
『できますよぅ♪楽勝です♪』
能天気というか楽観的というか、とにかくマナには絶対の自信がありそうだった。
その物言いにユウゴの期待は膨らむ。
しかし続けて放たれた言葉にユウゴは固まることになる。
『マスターならあんなのイチコロですよッ!』
え、ちょっと待って。
「お、俺が闘うの?」
てっきりマナには見た目では測れない凄い力があって、こう魔法とかそういうのであの悪魔をやっつけられるのかと思っていた。
ユウゴが救いを求めるように見つめると、マナは『なに言ってるんですか?』という風に首を傾げる。
『当たり前じゃないですかぁ♪こんな大物を屈伏させられるチャンスなんてそうそうないですよぅ?』
背中を冷たいものが伝って落ちる。
屈伏させるとかどうとか以前に一体どうやってあんな化け物と闘うというのだ。自慢じゃないがユウゴは普通の人間相手でもまともに喧嘩したことはない。
その考えはどうやら悪魔も同じだったらしい。
高笑いが辺りに響く。
『儂を屈伏させるだと?人間の小僧一人に何ができる!?』
悪魔がさも可笑しそうに肩を震わせる。
当然だ。あの巨体の悪魔からすればユウゴなどただの小動物一匹程度。鼠が一匹、象に闘いを挑むようなものだ。
しかしマナの自信は揺らがない。
『マナのマスターなら勝てますよぅだ!マナも力を貸しますしぃ!』
まるで子供の口喧嘩みたいな根拠のない反論。
更にクリボーまで一緒になって何やら『クリクリ(*`Д´)ノ!!!』と喚いている。
『青瓢箪に、小娘に、下等精霊。まとめてかかっても儂の足元にも及ばぬわ!どうやってこの儂に勝つつもりだ!?』
『もちろん【デュエル】で』
マナが即答する。
瞬間、空気がピリッと張り詰めた。
あのマナが冷たい瞳で悪魔を見つめている。
『マナが本気を出してリアルファイトでアナタをぶっ殺したら、アナタは消滅してしまう。そうしたらアナタをマスターの糧にはできないでしょ?』
さも当然という風にマナは言ってのける。
ふざけている、という感じではない。マナの言葉に先程までの能天気な明るさはもうない。それに宿るのは冷たく暗い圧力。
突然のマナの変化に、悪魔は『ほう…』と笑み、ユウゴは戸惑う。
『よかろう。やってみるがいい!』
悪魔がデュエルを了承したことで、マナは笑んだ。
そしてくるりとユウゴを振り返り、何事もなかったような元の調子で言う。
『じゃあ悪魔さんの了承ももらえたことですし、チャッチャと契約しちゃいましょ♪』
「契約?」
『人間はデュエルモンスターの精霊と契約することで、精霊の力を行使できる【デュエリスト】になるんですよぅ。んで、自分の魔力と精霊の力とを使って闘う儀式のことを【デュエル】って言うんですぅ』
なるほど、つまりそのデュエルという儀式でこの悪魔を倒せとマナは言っているのか。
しかし自分にそんなことが本当に可能なんだろうか。
『まぁまぁ、実際にやってみれば分かりますって』
まるで急かすようにマナはずんずん話を進める。
この根拠に乏しいマナの自信を信じていいものかどうか、ユウゴには判断がつかない。
『…それともこのままあの悪魔に喰われます?』
続けて放たれた言葉に息が詰まる。
マナは真剣な目でこちらを見ていた。その大きな瞳に宿る光を見て、ユウゴの中で何かがストンと落ち着くような感覚が芽生える。
そうだ、何をビビっているのだ。このまま二の足を踏んでいても待っているのは絶対的な死だけだ。迷っている暇などありはしない。
覚悟を決めろ。
「キミと契約すれば、本当にアイツを倒せるんだな?マナ」
『はい♪必ず』
変わらず真摯な眼差しでマナはユウゴを見ている。
ユウゴの目にも強い力が宿り始めていた。
「分かった。一緒に闘おう」
マナの瞳が更に大きくなり、そしてにっこりと微笑んだ。
『手を』
言われるがままに手を出す。
手のひらを上に向けられ、それにマナの手が重ねられた。
女の子に手を触れられるのは初めてだが、不思議と落ち着いた気持ちになる。もっとドキドキするのかと思っていたので意外だった。
これから命を賭けた闘いに挑むというのに、こんなにフラットな気持ちでいいのだろうか。
思えば先程まであんなに取り乱していたのに、マナが来てからそのペースに巻き込まれて少しずつその恐怖心が溶けていったような気がする。全て計算ずくなのだとしたら大したやつだ。
『ハッ!そ、そういえばマスターはなぜマナの名前を知ってたんですかッ!?まだ自己紹介もしてないのに!』
気のせいだなうん。
ユウゴが苦笑すると、重ねられた手の上に更に小さな手がピトッと乗せられた。
「クリボー?」
『クリちゃんもマスターと一緒に闘ってくれるの?』
『クリッ(`^´)0』
凛々しく意気込んでいるクリボー。
マナがこちらに視線を向けたので、ユウゴはそれに頷いた。
クリボーもユウゴの大事な友達だ。友達が自ら力を貸してくれると申し出てくれているのに、断る理由などない。
「一緒に闘おう、クリボー」
『クリッ(`´)ゞ』
こうして三人の気持ちが一つになった。
ユウゴがマナに頷いて先を促す。
それに応じてマナが力を込めると、重ねられた手がゆっくりと光り出した。
『古の誓約に従い、我、武藤ユウゴを主とし、その禍を滅する炎とならんことを誓う』
マナが言葉を紡ぐと光は輝きを増していった。
それはすぐに目が開けていられないくらい強くなる。
『我が誓約の名は…』
そしてこれ以上は耐えられないくらいにそれが高まった瞬間、まるで爆発したように閃光が三人を包んだ。
『…《ブラック・マジシャン・ガール》!!』
*
まるで光の槍が天を衝き刺したようだった。
それを唇を噛み締めて見つめる少女。
ガードレールを拳で叩きつける。
「間に合わなかったか…!」
*
光が収束していくと、いつの間にかマナとクリボーは消えていた。
変わりに手のひらの上にはカードの束が置かれている。
『それがマナ達の魂でできたマスターのデッキですよぅ♪』
一瞬消えたと思ったマナが後ろからにゅっと顔を出した。
反対側からはクリボーがにこにこしながら現れる。
「デッキ…」
『このデッキのカードを魔力で実体化させて精霊や他のデュエリストと闘うのがデュエルなんですぅ。ちょっと意識を集中させてデッキを握ってみて下さいぃ』
言われるままやってみる。
すると頭の中にこのデッキに関する情報が沸き上がってくる。
カードの種類、枚数、強さ、効果、そして使い方まで。まるで長年使い込んだ道具のように、しっくりと自分の中に生きている感じがする。
「これって…」
『マスターはこのデッキのマスターですからぁ。言ったでしょ、これはマナ達の魂でできているんですよぅ。もちろんマスターの魂も溶け込んでるんですぅ。使い方くらい分かりますよぅ』
そういうものか。
だが一からデッキの内容を把握しないで済むのは助かる。
『さぁ!これで準備は万端ですぅ!悪魔さんをやっつけますよぅ!』
いよいよデュエル、とマナが意気込んだ、その時だった。
「マナ!!」
女性の声がした。
振り返ると見覚えのある少女がこちらに駆けてくる。
『あ、アスナちゃん!やっほー』
「やっほーではないわッ!!」
マナが手を振ろうとするのを許さない速度でアスナの蹴りが飛んできた。
『ひゃわ~』とか言いながらマナはギリギリでそれをかわす。
蹴りをかわされたアスナだったが、それは想定内だったのか体勢を崩すこともなく着地。スタスタとマナに歩み寄り、スパンと頭をはたいた。今度はさすがのマナも避けられず、頭を抱えてうずくまる。
「どれだけ探したと思っている!?勝手に動くなといつも言っているだろう!!」
小柄なアスナが腰に手を当てて上からマナを叱りつける。
マナは『だって~』と涙目だ。
この二人の上下関係がよく見て取れる。どうやらアスナはマナの保護者のような立場らしい。
なおもガミガミと叱り続けられる前にユウゴはマナに助け舟を出すことにした。
「あの…もうその辺で…」
しかしその言葉はギンと睨み付けるアスナの迫力に尻すぼみになる。ユウゴの小さな悲鳴付きで、だ。
それでもアスナを多少落ち着かせるだけの効果はあったのか、彼女は深く嘆息し、そしてユウゴを見る。見つめていると吸い込まれそうな瞳だ。
「そうか…見つけたのだな…」
アスナは諦めたような表情でマナを見る。
未だ涙目ながらマナがにっこり笑んだことで、どうやら一旦は落着らしい。
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158 | 第4話更新のお知らせ | 1434 | 1 | 2016-12-12 | - |
更新情報 - NEW -
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