1-5:終わりの気配（＊未修正）　作：氷色

タツヤがイッシッシッと悪戯っぽく笑い、それを受けてユウゴも苦笑した。
そこにはもういつもの二人が戻ってきていた。

ちょうどその時だ。

入り口のベルがカランカランと鳴り、新しい客の来店を店内に報せた。

ユウゴはコーヒーを口に運びながら、何気なくそちらに目をやり、そして固まった。

ユウゴのその様子を察したタツヤも振り向いてそちらを見やる。

「へー、綺麗な子だなー。なんだユウゴ、お前ああいう子がタイプなのかよー」

タツヤがからかうような目を向けてくる。

確かにタツヤの言う通り、入ってきた『人』は綺麗な女性だった。
歳はユウゴ達とさほど変わらないだろう。
セミロングの艶やかな黒髪。目鼻立ちの整った顔立ち。強い意思を印象付ける大きな瞳。華奢で小柄ながら、その眼差しの強さやどこか気品のようなものさえ感じる凛とした佇まいから大人びた雰囲気のある子である。

だが、ユウゴが固まったのはその子のせいではない。

事実、ユウゴの視線は彼女ではなく、彼女の後方へと向けられている。

「ユウゴ？」

さすがに何か変だと気付いたのかタツヤの目が心配の色を醸す。

「あの子がどうかしたのか？」

もう一度タツヤが彼女を振り返るが、タツヤにはなぜユウゴがそんなに過剰反応するのか分からない。

そう分からない。
タツヤには見えないのだ、彼女の後方にいる『彼女の連れ』の姿が。

客席を案内する店員が彼女に席の希望等を訪ねている。
その後ろで所在なげにふわふわと浮く少女。それがユウゴの見ている光景だった。

もちろん浮遊している少女が人間であるはずがない。ユウゴにとっては幽霊という解答よりもずっとリアリティーのある結論が身近にあった。

『クリクリ～( ´△｀)』

実は喫茶店に入る前からずっとクリボーはユウゴの頭の上にちょこんと座っていた。
タツヤと話している間はこくりこくりと舟を漕いでいたクリボーだったが、ユウゴの緊張を敏感に感じ取ったのかゆっくりと目覚める。
そして…

『ク、クリー(￣□￣;)!!』

状況を見て取ったクリボーが叫びながら弾けるように飛び上がった。

その声に反応したのは二人。ユウゴと入店したばかりの少女だ。
二人の視線が絡み合う。
ユウゴは彼女から浮遊する少女へと。彼女はユウゴから上空のクリボーへと。

やはり彼女にはクリボーが見えている。
それを認識した途端、ユウゴは弾かれたように行動を起こした。

「ごめんタツヤ、先に出るよ」

代金の精算書を掴み足早に席を立つ。

「は？え…おい…だってまだ飲みかけ…」

突然の行動にタツヤも反応が鈍い。
しかしユウゴはそれを待たずに代金を支払って店を出ていった。
その際、彼女達とすれ違ったが、あえて彼女達に視線は向けなかった。いや正確には向けられなかった。

『彼女達に関わってはいけない』。

ユウゴの中の何かがそう警鐘を鳴らしていたのだ。



＊



『今の人、良いかも』

『マナ』がそう呟いたのを、アスナは確かに聞いた。