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第三話 奇術師の決闘VS異次元の王① 作:そうじ☆屋
遊勝塾専用実技用|決闘場《デュエルフィールド》。普段は生徒たちが試行錯誤して作り上げた自らのデッキを試す場所として使われているこの場所では、現在二人の男が相対していた。
「いやあ、すみませんね無理いっちゃって」
「いや、かまわないよ」
一人は紅色をジャケットを羽織り、赤いハットを被った男。
名はクオン・遊灯。三年前に、エンタメデュエルをアメリカでも広めてくるといって飛ぶ出した、遊勝塾の長兄的存在だ。
そしてもう一人の赤いマフラーをした男の名は赤馬零児。
アクションデュエルにおいて重要な役目を持つ質量を持った立体映像を開発したことで知られる大企業レオ・コーポレーションの社長にして、若干16歳にしてプロ資格を持つ天才デュエリスト。
なぜこの二人がこうして向かい合っているのか。それは遊勝塾の経営権を賭けたお互いの生徒たちを戦わせ、結局一勝一敗一分けで終わってしまったデュエル三本勝負。その決着をつけるために彼らはこうしてこの場にいるというわけだ。
本来ならば遊勝塾からは唯一勝利を勝ち取った榊遊矢が出るはずだったが、突如現れたこの男、クオンが彼の代役として出ることとなったのだ。
相対する二人のデュエリストの姿を観覧席から眺めながら、本来赤馬の代わりにこのデュエルに出るはずだったLDSの生徒、光津真澄が口を開く。
「よろしかったんですか、理事長。彼の出場を認めて」
「かまわないわ。それなら零児さんの出場自体取りやめにしなきゃならないだろうし、なによりどこの馬の骨ともわからない相手に零児さんが負けるわけありませんからね」
自信満々で真澄の言葉にそう答える赤馬理事長。そこには自身の息子への深い信頼の念があったのだが、実は彼女には一つだけ懸念があった。
「(そう、零児さんがどこの馬の骨ともしれない相手に負けるわけがない。………でも、あの少年。どこかで見たことがある気が)」
そしてところかわって、遊緋久遠の味方である遊勝塾サイドだが、その中で先ほどの刃と同じくクオンの出場に異論を唱えている者が一人いた。遊勝塾の新人である少年、紫雲院素良だ。
「いいの、遊矢あの人に任せちゃって。知り合いみたいだけど相手の人強そうだよ?遊矢がやったほうがよかったんじゃない?」
この素良の一見失礼とも思える疑問。
だがこれは当然のことだ。この試合は遊勝塾の存亡を賭けた大事な試合。彼のことを知らない素良にとっては、赤馬理事長ではないがどこの馬の骨ともわからない人物に勝敗を任せるのを不安に思ったのだ。
遊勝塾の生徒たちである三人の子供たち。タツヤ、フトシ、アユの三人も素良の言葉に同感なのか、遊矢のことを不安そうに見つめながらも何度も頷いた。
だが聞かれた当の本人である遊矢は、そんな彼らの質問に自信満々で答えた。
「大丈夫だ。義兄さんは強いからな」
「うむ。あの人なら間違いない。必ずや我らに勝利をもたらしてくれるだろう」
遊矢のその言葉に、部外者ではあるが幼いころより遊勝塾に出入りしていたために彼と面識があった権現坂も頷く。
そんな彼らの様子に素良は首を傾げる。彼らの自身の根源がわからなかったからだ。
なので素良は彼らの他に唯一彼と面識がありそうな柚子に話を聞くことにした。
「あの人ってそんなに強いの?海外に行っていたとは聞いてたけど」
素良にそう聞かれた柚子は、顎に指を当てながらしばしなにやら考える仕草を見せていたが、なにやら思いついたような表情を浮かべると、片目を閉じながらどこか悪戯めいた微笑を浮かべる。
「うーん、ここでいってもいいんだけれど実際に見た方が早いと思うわ。ほら、そろそろ始まるし」
そういって柚子が指し示した先には準備が終わったのかデッキをセットしたデュエルディスクを携えた二人の姿があった。
「それではデュエルフィールドはどうします?」
「ご自由に……」
クオンのその言葉に、零児が言葉少なげにそう答える。
これは自身がプロ資格を持つための自負からなる余裕の言葉。相手を舐めているといってもいい言動だったが、クオンは特に気にしたようすもなくしばしなにやら考え込んでいたが、やがて何か結論を出したのかコントロール室にいた柊修三に向かって呼びかける。
「というわけで塾長。デュエルフィールドは適当に選んどいてくださーい!」
「いや、適当にってお前」
柊塾長はそんな彼の言葉に何やら呆れたような表情を浮かべるが、やがて気を取り直すとデュエルフィールドを選択するコントロールパネルへと意識を戻す。
「(クオンはああいったが、相手は天才と謳われた赤馬零児。下手なフィールドを選んで彼を有利にするわけにはいかない。例え卑怯といわれようと、ここはクオンのため、そして遊勝塾のため、久遠が最も得意とするフィールで……)」
とそこで彼の視線が一つのフィールドパネルへと止まった。
それは三年前、未だ遊勝塾で遊矢たちと共にエンタメデュエルを学んでいた頃、彼が最も得意としていたフィールドだった。
「!?これならば……!!」
そして柊塾長は高らかに宣言しながらも、迷わずそのアクションフィールドを選択した。
「頼んだぞ、クオン。お前の成長を俺たちに見せてくれ!アクションフィールド”イリュージョン・サーカス”発動!!」
その言葉と共にクオンと零児が相対していたデュエル場にフィールド魔法が展開されると、観客席から驚きの声が上がる。
「これはイリュージョン・サーカス!?義兄さんの得意なフィールドだ!」
そう、空中のあちらこちらに光の玉に包まれた様々な奇術道具やら舞台道具などが浮いているどこか幻想的な雰囲気を持つこの舞台は、未だ彼が遊勝塾で他の塾生たちと学んでいた頃、彼が最も得意としていたフィールドだった。
自身の得意なフィールドを塾長が敢えて選択したということに気づいた久遠は、困ったような笑みを浮かべてコントロール室の窓ガラスに視線を向ける。そこには久遠にサムズアップする柊塾長の姿があった。
「やれやれ。全く心配性ですねえ塾長も。……最もその心配も当然かもしれませんが(ぼそ」
そう誰ともなしに呟くと彼は目の前にいる今回の彼の相手となる人物、赤馬零児へと視線を向ける。実は彼のことはクオンもその噂を耳にしていたのだ。
「(大企業の社長でありながら、プロ資格を持つ天才デュエリスト。まるで物語の主人公のような人物ですねえ)」
少なくとも、前世で伝説のレアカード|青眼の白龍《ブルーアイズホワイトドラゴン》の所持者として知られていた|海馬瀬戸《かいばせと》意外、彼はそのような人物がいたという記憶がない。
そのことからも、今目の前にいる人物が、どれほど尋常ではない男だということが理解できるだろう。
彼が今は社長業に専念しているためにプロ資格をとってからは公式戦には出ていないが、それまで全勝無敗を誇った人物であることを知っていたクオン。
だからこそ彼はこの勝負に名乗りをあげた。
遊矢の実力を疑うわけではないが、さすがに今回ばかりは部が悪い。
ならば少なくとも形だけでも|同じ土俵《・・・》にいる自分がこの勝負に乗るべきだと、彼は考えたのだ。
「それじゃあ、場も整ったことですしそろそろ始めましょうか」
「いいだろう」
クオンの言葉に零児は一つ頷いて答えると、デュエルディスクを構えると、お互いに勢いよく叫び出す。
「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」
「モンスターと共に、地を蹴り、宙を舞い!」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ!これぞデュエルの最強進化系!」
「アクショォ―ン……」
「「デュエル!!」 」
そして遊勝塾の今後を賭けた最後のデュエルが始まった。
★
★
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
赤馬零児(以下零児)
LP:4000
手札5枚
クオン・遊灯(以下クオン)
LP:4000
手札5枚
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「フィールドの選択権は譲っていただきましたからね。お礼代わりに先行はそちらに譲りましょう」
クオンは公平性を保つために、零児にそう申し出るが、しかし零児はその言葉を聞いて、眉を潜めながら若干不快そうな声をあげる。
「お礼?譲る?……なるほど、君はそういう思考をするのか」
「ふむ?」
「まあ、いい。ありがたくその申し出は受け取っておこう。では、私のターン」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
零児
LP:4000
手札5枚
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先行は零児。ルールにより先行はドローができないために、ドローフェイズは行わず、そのままスタンバイフェイズ、そしてメインフェイズに移行する。
「………ふむ、まずは小手調べといこうか」
手札を確認し少し考える仕草を見せていた零児は、やがてある程度の戦術が決まったのか、1枚の魔法カードを発動させる。
「私は手札から魔法カード「古のルール」を発動」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
|古《いにしえ》のルール
通常魔法
手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「このカードは手札からレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚できる魔法カード。私はこのカードの効果により手札からこのカードをを特殊召喚する。現れろ、魔界にその名を轟かす剣豪魔人。レベル6「タルワール・デーモン」!!」
その零児の叫びと共に、零児のフィールド上に名前の通り|曲刀《タルワール》を両手に携えた悪魔が降臨する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
タルワール・デーモン
通常モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守2150
そのタルワールは、悪魔族でも剣術の達人しか持つ事を許されていない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
自分のモンスターが無事召喚されたことを確認した零児は、さらにデュエルディスクに新しくカードをセットした。
「さらに私はカードを2枚伏せてターンを終了する」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
零児
LP:4000
手札1枚
場:タルワールデーモン(攻2400守2150)
伏せ:2枚
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
零児がターンを終了したことにより、次はクオンのターン。
「それでは私のターン。ドロー!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クオン
LP:4000
手札6枚
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
勢いよくカードをドローしたクオンは、そのカードを一瞥して確認すると、唇を僅かに釣り上げる。
「それでは私はまずはこのカードを召喚しましょう。大アルカナの一つ「|Temperance《節制》」を司る魔術師。「魔導召喚師テンペル」!!」
するとフィールドに煙と共に、茶色のローブで顔を隠し、二つの杯を掲げる魔導師の姿が現れる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔導召喚士テンペル
効果モンスター
星3/地属性/魔法使い族/攻1000/守1000
自分が「魔導書」と名のついた魔法カードを発動した
自分のターンのメインフェイズ時、
このカードをリリースして発動できる。
デッキから光属性または闇属性の
魔法使い族・レベル5以上のモンスター1体を特殊召喚する。
この効果を発動するターン、
自分は他のレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
攻撃力2400のタルワール・デーモンを前に、攻撃力が1000ほどしかないモンスターを攻撃表示で出すという久遠のその一見愚行とでもいえる行動に零児は眉を潜め眼光を鋭くするが、それは弱小といってもいいモンスターが獲物として現れたことによる慢心でも、舐められているという不快感からくる怒りでもなく、それは未知の行動をしてくる敵に対しての「王者」ゆえの警戒からの行動だった。
そんな彼の様子を見て、クオンは満足げな笑みを浮かべる。
「ふむ。なるほど、通常モンスターとはいえ1ターン目で上級モンスターを召喚するとは。さすがは天才と呼ばれたデュエリストですね。これは私も出し惜しみせずに最初から見せるしかなさそうです。私のエースモンスターを」
「……なに?」
零児はそんな彼の言葉に訝しげな表情を見せるが、クオンはそんな彼に一つ笑みを見せると、両手を天高く掲げる。
それは見せ場が訪れると、彼の義弟である遊矢。そして彼の義父である遊勝がよくやるお決まりともいえる行動だった。
「レディース&ジェントルメーン!!今回は我がマジックショーにご来場いただきありがとうございまーす」
遊矢がペンデュラム召喚を行う際に必ずといってもいいほど喋る、決め台詞と同じ、しかし彼よりよほど堂に入った言葉でそういうと、クオンは手札から一枚の魔法カードを引き抜いた。
「これより皆様に今回のマジックショーの主役を紹介しましょう。私は魔法カード、グリモの魔導書を発動!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
グリモの魔導書
通常魔法
デッキから「グリモの魔導書」以外の
「魔導書」と名のついたカード1枚を手札に加える。
「グリモの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「私はこの効果により、デッキから「ヒュグロの魔導書」を手札に加える」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒュグロの魔導書
通常魔法
自分フィールド上の魔法使い族モンスター1体を選択して発動できる。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、
戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
デッキから「魔導書」と名のついた魔法カード1枚を手札に加える事ができる。
「ヒュグロの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒュグロの魔導書。
魔法使い族の攻撃力をエンドフェイズまで1000ポイントアップさせ、戦闘により相手モンスターを破壊した場合、デッキから魔導書カードを一枚手札に加えることができる。つまり実質手札を減らさずに攻撃力を上げることができる強力な魔法カードだ。
しかし彼の本当の狙いは、その魔法カードを手札に加えることではなく、「魔導書」と名のついたカードを発動させることにあった。
「そしてこの瞬間、魔導召喚士テンペルの効果を発動!」
その言葉と共にクオンが指を一つ鳴らすと、テンペルの体が眩く光り輝く。
「な、なんだあれは!?」
その光景に、LDSの生徒の一人である志島北斗が驚きの声を上げる。見れば他のLDSの生徒たちも、その表情を驚愕の感情で染めていた。
そしてクオンは、告げる。自らの半身たるその魔術師の名を。
「出でよ、我が矛にして我が盾にして我が半身。この者こそがデュエルモンスターズ創世記より存在する魔術師たちの頂点。
来い、「ブラック・マジシャン」!!」
その久遠の言葉と共に、光が晴れるとその中から1人の魔法使いが現れた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ブラック・マジシャン
通常モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
赤紫のローブに身を纏い、褐色の肌をしたその魔導師の登場に、零児はその時初めてその表情を大きく崩した。
「……ッ!?ばかな、ブラック・マジシャン。伝説の黒魔導師だと!!」
そんな零児の様子を見て、クオンはその口元を不敵に歪める。
「さあ、ショータイムの始まりです」
「いやあ、すみませんね無理いっちゃって」
「いや、かまわないよ」
一人は紅色をジャケットを羽織り、赤いハットを被った男。
名はクオン・遊灯。三年前に、エンタメデュエルをアメリカでも広めてくるといって飛ぶ出した、遊勝塾の長兄的存在だ。
そしてもう一人の赤いマフラーをした男の名は赤馬零児。
アクションデュエルにおいて重要な役目を持つ質量を持った立体映像を開発したことで知られる大企業レオ・コーポレーションの社長にして、若干16歳にしてプロ資格を持つ天才デュエリスト。
なぜこの二人がこうして向かい合っているのか。それは遊勝塾の経営権を賭けたお互いの生徒たちを戦わせ、結局一勝一敗一分けで終わってしまったデュエル三本勝負。その決着をつけるために彼らはこうしてこの場にいるというわけだ。
本来ならば遊勝塾からは唯一勝利を勝ち取った榊遊矢が出るはずだったが、突如現れたこの男、クオンが彼の代役として出ることとなったのだ。
相対する二人のデュエリストの姿を観覧席から眺めながら、本来赤馬の代わりにこのデュエルに出るはずだったLDSの生徒、光津真澄が口を開く。
「よろしかったんですか、理事長。彼の出場を認めて」
「かまわないわ。それなら零児さんの出場自体取りやめにしなきゃならないだろうし、なによりどこの馬の骨ともわからない相手に零児さんが負けるわけありませんからね」
自信満々で真澄の言葉にそう答える赤馬理事長。そこには自身の息子への深い信頼の念があったのだが、実は彼女には一つだけ懸念があった。
「(そう、零児さんがどこの馬の骨ともしれない相手に負けるわけがない。………でも、あの少年。どこかで見たことがある気が)」
そしてところかわって、遊緋久遠の味方である遊勝塾サイドだが、その中で先ほどの刃と同じくクオンの出場に異論を唱えている者が一人いた。遊勝塾の新人である少年、紫雲院素良だ。
「いいの、遊矢あの人に任せちゃって。知り合いみたいだけど相手の人強そうだよ?遊矢がやったほうがよかったんじゃない?」
この素良の一見失礼とも思える疑問。
だがこれは当然のことだ。この試合は遊勝塾の存亡を賭けた大事な試合。彼のことを知らない素良にとっては、赤馬理事長ではないがどこの馬の骨ともわからない人物に勝敗を任せるのを不安に思ったのだ。
遊勝塾の生徒たちである三人の子供たち。タツヤ、フトシ、アユの三人も素良の言葉に同感なのか、遊矢のことを不安そうに見つめながらも何度も頷いた。
だが聞かれた当の本人である遊矢は、そんな彼らの質問に自信満々で答えた。
「大丈夫だ。義兄さんは強いからな」
「うむ。あの人なら間違いない。必ずや我らに勝利をもたらしてくれるだろう」
遊矢のその言葉に、部外者ではあるが幼いころより遊勝塾に出入りしていたために彼と面識があった権現坂も頷く。
そんな彼らの様子に素良は首を傾げる。彼らの自身の根源がわからなかったからだ。
なので素良は彼らの他に唯一彼と面識がありそうな柚子に話を聞くことにした。
「あの人ってそんなに強いの?海外に行っていたとは聞いてたけど」
素良にそう聞かれた柚子は、顎に指を当てながらしばしなにやら考える仕草を見せていたが、なにやら思いついたような表情を浮かべると、片目を閉じながらどこか悪戯めいた微笑を浮かべる。
「うーん、ここでいってもいいんだけれど実際に見た方が早いと思うわ。ほら、そろそろ始まるし」
そういって柚子が指し示した先には準備が終わったのかデッキをセットしたデュエルディスクを携えた二人の姿があった。
「それではデュエルフィールドはどうします?」
「ご自由に……」
クオンのその言葉に、零児が言葉少なげにそう答える。
これは自身がプロ資格を持つための自負からなる余裕の言葉。相手を舐めているといってもいい言動だったが、クオンは特に気にしたようすもなくしばしなにやら考え込んでいたが、やがて何か結論を出したのかコントロール室にいた柊修三に向かって呼びかける。
「というわけで塾長。デュエルフィールドは適当に選んどいてくださーい!」
「いや、適当にってお前」
柊塾長はそんな彼の言葉に何やら呆れたような表情を浮かべるが、やがて気を取り直すとデュエルフィールドを選択するコントロールパネルへと意識を戻す。
「(クオンはああいったが、相手は天才と謳われた赤馬零児。下手なフィールドを選んで彼を有利にするわけにはいかない。例え卑怯といわれようと、ここはクオンのため、そして遊勝塾のため、久遠が最も得意とするフィールで……)」
とそこで彼の視線が一つのフィールドパネルへと止まった。
それは三年前、未だ遊勝塾で遊矢たちと共にエンタメデュエルを学んでいた頃、彼が最も得意としていたフィールドだった。
「!?これならば……!!」
そして柊塾長は高らかに宣言しながらも、迷わずそのアクションフィールドを選択した。
「頼んだぞ、クオン。お前の成長を俺たちに見せてくれ!アクションフィールド”イリュージョン・サーカス”発動!!」
その言葉と共にクオンと零児が相対していたデュエル場にフィールド魔法が展開されると、観客席から驚きの声が上がる。
「これはイリュージョン・サーカス!?義兄さんの得意なフィールドだ!」
そう、空中のあちらこちらに光の玉に包まれた様々な奇術道具やら舞台道具などが浮いているどこか幻想的な雰囲気を持つこの舞台は、未だ彼が遊勝塾で他の塾生たちと学んでいた頃、彼が最も得意としていたフィールドだった。
自身の得意なフィールドを塾長が敢えて選択したということに気づいた久遠は、困ったような笑みを浮かべてコントロール室の窓ガラスに視線を向ける。そこには久遠にサムズアップする柊塾長の姿があった。
「やれやれ。全く心配性ですねえ塾長も。……最もその心配も当然かもしれませんが(ぼそ」
そう誰ともなしに呟くと彼は目の前にいる今回の彼の相手となる人物、赤馬零児へと視線を向ける。実は彼のことはクオンもその噂を耳にしていたのだ。
「(大企業の社長でありながら、プロ資格を持つ天才デュエリスト。まるで物語の主人公のような人物ですねえ)」
少なくとも、前世で伝説のレアカード|青眼の白龍《ブルーアイズホワイトドラゴン》の所持者として知られていた|海馬瀬戸《かいばせと》意外、彼はそのような人物がいたという記憶がない。
そのことからも、今目の前にいる人物が、どれほど尋常ではない男だということが理解できるだろう。
彼が今は社長業に専念しているためにプロ資格をとってからは公式戦には出ていないが、それまで全勝無敗を誇った人物であることを知っていたクオン。
だからこそ彼はこの勝負に名乗りをあげた。
遊矢の実力を疑うわけではないが、さすがに今回ばかりは部が悪い。
ならば少なくとも形だけでも|同じ土俵《・・・》にいる自分がこの勝負に乗るべきだと、彼は考えたのだ。
「それじゃあ、場も整ったことですしそろそろ始めましょうか」
「いいだろう」
クオンの言葉に零児は一つ頷いて答えると、デュエルディスクを構えると、お互いに勢いよく叫び出す。
「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」
「モンスターと共に、地を蹴り、宙を舞い!」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ!これぞデュエルの最強進化系!」
「アクショォ―ン……」
「「デュエル!!」 」
そして遊勝塾の今後を賭けた最後のデュエルが始まった。
★
★
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
赤馬零児(以下零児)
LP:4000
手札5枚
クオン・遊灯(以下クオン)
LP:4000
手札5枚
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「フィールドの選択権は譲っていただきましたからね。お礼代わりに先行はそちらに譲りましょう」
クオンは公平性を保つために、零児にそう申し出るが、しかし零児はその言葉を聞いて、眉を潜めながら若干不快そうな声をあげる。
「お礼?譲る?……なるほど、君はそういう思考をするのか」
「ふむ?」
「まあ、いい。ありがたくその申し出は受け取っておこう。では、私のターン」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
零児
LP:4000
手札5枚
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先行は零児。ルールにより先行はドローができないために、ドローフェイズは行わず、そのままスタンバイフェイズ、そしてメインフェイズに移行する。
「………ふむ、まずは小手調べといこうか」
手札を確認し少し考える仕草を見せていた零児は、やがてある程度の戦術が決まったのか、1枚の魔法カードを発動させる。
「私は手札から魔法カード「古のルール」を発動」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
|古《いにしえ》のルール
通常魔法
手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「このカードは手札からレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚できる魔法カード。私はこのカードの効果により手札からこのカードをを特殊召喚する。現れろ、魔界にその名を轟かす剣豪魔人。レベル6「タルワール・デーモン」!!」
その零児の叫びと共に、零児のフィールド上に名前の通り|曲刀《タルワール》を両手に携えた悪魔が降臨する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
タルワール・デーモン
通常モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守2150
そのタルワールは、悪魔族でも剣術の達人しか持つ事を許されていない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
自分のモンスターが無事召喚されたことを確認した零児は、さらにデュエルディスクに新しくカードをセットした。
「さらに私はカードを2枚伏せてターンを終了する」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
零児
LP:4000
手札1枚
場:タルワールデーモン(攻2400守2150)
伏せ:2枚
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
零児がターンを終了したことにより、次はクオンのターン。
「それでは私のターン。ドロー!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クオン
LP:4000
手札6枚
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
勢いよくカードをドローしたクオンは、そのカードを一瞥して確認すると、唇を僅かに釣り上げる。
「それでは私はまずはこのカードを召喚しましょう。大アルカナの一つ「|Temperance《節制》」を司る魔術師。「魔導召喚師テンペル」!!」
するとフィールドに煙と共に、茶色のローブで顔を隠し、二つの杯を掲げる魔導師の姿が現れる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔導召喚士テンペル
効果モンスター
星3/地属性/魔法使い族/攻1000/守1000
自分が「魔導書」と名のついた魔法カードを発動した
自分のターンのメインフェイズ時、
このカードをリリースして発動できる。
デッキから光属性または闇属性の
魔法使い族・レベル5以上のモンスター1体を特殊召喚する。
この効果を発動するターン、
自分は他のレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
攻撃力2400のタルワール・デーモンを前に、攻撃力が1000ほどしかないモンスターを攻撃表示で出すという久遠のその一見愚行とでもいえる行動に零児は眉を潜め眼光を鋭くするが、それは弱小といってもいいモンスターが獲物として現れたことによる慢心でも、舐められているという不快感からくる怒りでもなく、それは未知の行動をしてくる敵に対しての「王者」ゆえの警戒からの行動だった。
そんな彼の様子を見て、クオンは満足げな笑みを浮かべる。
「ふむ。なるほど、通常モンスターとはいえ1ターン目で上級モンスターを召喚するとは。さすがは天才と呼ばれたデュエリストですね。これは私も出し惜しみせずに最初から見せるしかなさそうです。私のエースモンスターを」
「……なに?」
零児はそんな彼の言葉に訝しげな表情を見せるが、クオンはそんな彼に一つ笑みを見せると、両手を天高く掲げる。
それは見せ場が訪れると、彼の義弟である遊矢。そして彼の義父である遊勝がよくやるお決まりともいえる行動だった。
「レディース&ジェントルメーン!!今回は我がマジックショーにご来場いただきありがとうございまーす」
遊矢がペンデュラム召喚を行う際に必ずといってもいいほど喋る、決め台詞と同じ、しかし彼よりよほど堂に入った言葉でそういうと、クオンは手札から一枚の魔法カードを引き抜いた。
「これより皆様に今回のマジックショーの主役を紹介しましょう。私は魔法カード、グリモの魔導書を発動!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
グリモの魔導書
通常魔法
デッキから「グリモの魔導書」以外の
「魔導書」と名のついたカード1枚を手札に加える。
「グリモの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「私はこの効果により、デッキから「ヒュグロの魔導書」を手札に加える」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒュグロの魔導書
通常魔法
自分フィールド上の魔法使い族モンスター1体を選択して発動できる。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、
戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
デッキから「魔導書」と名のついた魔法カード1枚を手札に加える事ができる。
「ヒュグロの魔導書」は1ターンに1枚しか発動できない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒュグロの魔導書。
魔法使い族の攻撃力をエンドフェイズまで1000ポイントアップさせ、戦闘により相手モンスターを破壊した場合、デッキから魔導書カードを一枚手札に加えることができる。つまり実質手札を減らさずに攻撃力を上げることができる強力な魔法カードだ。
しかし彼の本当の狙いは、その魔法カードを手札に加えることではなく、「魔導書」と名のついたカードを発動させることにあった。
「そしてこの瞬間、魔導召喚士テンペルの効果を発動!」
その言葉と共にクオンが指を一つ鳴らすと、テンペルの体が眩く光り輝く。
「な、なんだあれは!?」
その光景に、LDSの生徒の一人である志島北斗が驚きの声を上げる。見れば他のLDSの生徒たちも、その表情を驚愕の感情で染めていた。
そしてクオンは、告げる。自らの半身たるその魔術師の名を。
「出でよ、我が矛にして我が盾にして我が半身。この者こそがデュエルモンスターズ創世記より存在する魔術師たちの頂点。
来い、「ブラック・マジシャン」!!」
その久遠の言葉と共に、光が晴れるとその中から1人の魔法使いが現れた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ブラック・マジシャン
通常モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
赤紫のローブに身を纏い、褐色の肌をしたその魔導師の登場に、零児はその時初めてその表情を大きく崩した。
「……ッ!?ばかな、ブラック・マジシャン。伝説の黒魔導師だと!!」
そんな零児の様子を見て、クオンはその口元を不敵に歪める。
「さあ、ショータイムの始まりです」
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29 | 第四話 奇術師の決闘VS異次元の王② | 166 | 0 | 2015-03-18 | - | |
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