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第3話「食って食われて億光年」 作:えのきっち
「誰かっ、助けて!トリオンさん!」
「ハギちゃん!今行くよ!」
窮地に陥ったであろうハギ。私は声の元へと駆ける。一緒に行動する以上は死ぬことは許されない。
「トリオン」
ホールティアのジト目攻撃。気に食わない点でもあるのだろうか?
「待ってよ、今それどころじゃないでしょ!」
「トリオン」
ホールティアは未だ突っ立ったまま。まるで動こうとしない。
「トリオン。これでもう3回目だ」
「私のことを呼んだのが?」
「違う」
ハギの元に着いた頃には、そこには頭から落とし穴にはまる少女の姿があった。どうにも動けないようで足をバタつかせている。
「君の掘った落とし穴に、同じ蟲惑魔がかかったのが今回で3回目だと言ったんだ。さっきから彼女は足を引っ張ってしかいない」
ホールティアの深いため息。頭を抱えて呆れた様子を見せる。ハギとは保護という形で行動を共にさせているが、私の仕掛けた落とし穴(無論ハギを捉えるためでは断じてない)に何度も引っかかっている。おっちょこちょいも末期症状があるみたいだ。今回も彼女の悲鳴を聞いた時「またハギかな」と察せたくらい。私はハギを引っ張り出して土を払ってやった。
「ごめんなさい、また落ちちゃった……」
「単独行動は控えなってアレほど……次かかったらお仕置きだからね?」
「ひっ」
本当はもうお仕置きでもいいんじゃないか?とも思いつつあるが、私は鬼ではないので許してあげる。その前に、こんな小さい子にそんなことしたくないっていうのが本音なのだが……
「冗談だよ。……あ、そうだ。今少しお話しできる?」
ハギは私の質問に対して何かあるのか?と少々竦んだが、お仕置きでないとわかるとまたすぐに私の元へ寄ってきた。
私はホールティアに辺り一帯の監視を頼み、ハギと共に人目のつかなそうな木陰に移動した。
「……暴力を振るったり、しないですよね?」
「あははっ、怖がりすぎだよ!そんなことしないって。」
「じゃあなんでこんな場所に?」
「えっとね、単刀直入に聞くんだけどさ。ハギちゃん、誰に脅されてるの?」
「えっ……なんで」
その『なんで』は何故それがわかった、の意味だ。図星だといった顔で私の顔を見上げる。
「態度見たらわかるよ。追っ手とかはホールティアが監視をしてるから来ないはず。私たちはこの蠱毒に反対してて、今はそういう暴れてる蟲惑魔をちょっと懲らしめて回ってるんだ。私たちはハギちゃんの味方だよ……って、怪しすぎるセリフかな?」
「…………」
ハギは喋らない。きっとまだ信用できていないのだろう。少し考えた後、ハギはようやく口を開いた。
「カマキリ」
「カマキリ?……蟲惑魔の原種のこと?」
「うん」
ハギを脅しているのは昆虫型、それも捕食能力の高い蟷螂の原種らしい。確かに彼女の性格なら鋭い鎌を見せられただけで竦み上がってしまうだろう。しかし、攻撃能力の高い昆虫型は相手にするのは骨が折れる。あまり交戦はしたくないが……そうもいかないらしい。監視を行っていたホールティアがこちらに駆けてきた。
「1人落とし穴にかかった!どうにも仕掛け主にご立腹のようだ!」
「あ……多分、来たかも」
ハギの顔色がみるみる悪くなる。恐らくハギを脅している張本人がかかったのだろう。しかし、これはある意味チャンスかもしれない。
「ハギちゃん。今からそいつ懲らしめて来るから、その様子見ときなよ」
「でも、アイツは強くて!」
「うん、多分強い。というか絶対強い。でも、私たち二人はもっと強いから!」
遅れるハギを少し置いてきながらも、私たちは鎮圧へと向かった。
◇ ◆ ◇
「ねえ誰なのー!!こんなとこに穴掘ったやつー!」
大暴れする蟷螂。想像していたよりもその体躯はさほど大きくなく、そこから推測するに……あれは『ヒメカマキリ』の蟲惑魔だろう。
「ちょっとそこの蟲惑魔さん!ハギちゃんについて聞きたいことがあるんだけど!」
「君が落とし主?よくもやってくれたじゃん!とりあえず出してくれない!?」
「ダメー!!」
ハギのことを聞き出すまでは出してあげるつもりはない。もっとも、お仕置きは確定しているのだが……
「……ちょっと?よく見たらひっつき虫いるじゃん。そこの君、私ちゃんと獲物探しとけって言ったよね!?」
「ひっ」
蟷螂改め、ヒメカの蟲惑魔はハギを見るなりさらに暴れ出した。その様子にハギはやはり怯え出してしまった。どうやら脅して彼女をこき使っていたのは真実らしい。しかしこれはあまり良くない流れだ。怒りがこちらの前にハギに向いてしまった。……鎌を振り回し始めた。もし嫌な予感が正しければ……
「待っててねひっつき虫……こんな仕掛けすぐに壊して、裏切り者始末してあげるから、ねっ!」
「うわっ、落とし穴そのものを破壊した!……ホールティアっ!こっち来たよ!」
「虫遣いの荒い親友だな!……子守りも楽じゃないんだ」
木々を切り裂き、凄い勢いで迫るヒメカ。その瞬発力で一気に目と鼻の先に。ハギに鎌を振り翳すヒメカ、しかしそれをホールティア自慢の爪が弾いてくれた。それはそれとして状況は不利。急襲で落とし穴の準備が整っていない。
「さっきの手応えから、奴のパワーは相当高い。自分じゃ長時間は耐えられない」
「困ったね……陽動も難しいよね」
「でもやれないことはないはずだ。今は逃げに徹しよう」
今から落とし穴を作るのでは遅い。そんなことをしている間に誰かが死ぬだろう。しかし、ひとつラッキーな点がある。幸いにもここは私たちがテリトリーとしていた場所、他の落とし穴まで誘導すればいい。もっとも、その落とし穴がヒメカに対しての最適解かは不明なのだが……
「ハギちゃん!遅れないで着いてきて!」
「な、なに……!?とにかくわかった!」
枝や地面を跳ねて跳ねて、空いた空間を鎌が裂く。苛立つヒメカを横目に少しずつ誘導する。ハギは大丈夫だろうか?……心配無用だった。痺れを切らしたホールティアが抱えてる。
「待てひっつき虫!君を喰らうまで追っかけるのをやめない!」
「じゃあいつまでも追っているといい。追いつけない状況でもね」
「何を訳わかんないことを……早くソイツ寄越せっ!!」
ホールティアの動きが止まる。爪を広げて迎撃の姿勢。良かった、『直上』だ。少し狡いかもしれないけど、仕方ないよね。あとは罠を開くだけだ。
「ッ!?まさかこれって……!」
「騙し合いなんだ、ズルだとは言わせない。……じゃあね、『狡猾な__」
瞬間、ヒメカの本体であるカマキリは『ナニカ』に押しつぶされた。降ってきた?いや、襲われた、に近い。それは私たちの本体に近い巨大な蟲。……蟲惑魔だろう。現にすぐ側には疑似餌と思える少女が立っていた。
その蟲は踏み潰した塵芥を貪り続ける。逃げようとする疑似餌すらも逃さず、髪の毛一本も残さぬよう。
「……だ、れ?とにかく、逃げなきゃ」
「ダーメ。雑魚は淘汰される運命よ」
それは先の個体よりもさらに大きい。毒々しい牙に、見るものを震え上がらせる八本の脚。我々の知る言葉で言うのであれば、それは『蜘蛛』であった。
「トリオンさんっ、あれって……嫌、うわぁぁ!!」
「ハギちゃん、駄目っ!」
「あっ、獲物ね」
驚愕の連続、非日常の連続。ハギはそれに耐えられなかった。彼女は堪らずその場から逃げ出す。だが、相手が蜘蛛ならその判断は愚策だ。
「ひとくちサイズね」
蜘蛛の口から出される糸。それはピンポイントでハギを狙い、そして引き寄せる。粘着性のある糸玉はガッチリとハギを捕らえ、そして__
「やだ、嫌ぁ!!トリオンさん、助け」
「ハギちゃん!!」
潰れる音。砕ける音。咀嚼する音。途切れる音。それらは交互に鳴り響き、森に空虚に響いた。演奏を終えた彼女は満足そうにこちらを見る。……次は私たちの番、ということなのだろうか。
「さ。喰らい合いは始まったばかりでしょう?狩りの時間ね」
今までのとは格が違う。本能で理解した。見ればわかる。歴戦の猛者、といったところか。
「ホールティア、アレってさ」
「ああ。……ついに来てしまったか」
森に長く住み着く、私たちと同じ部類。今までやり合ってきた有象無象とは比べ物にならない。
「……『古参』か。全く骨が折れる」
猛毒蜘蛛が牙を剥く。アトラの蟲惑魔は私たちの方をしっかりと見つめていた。
「ハギちゃん!今行くよ!」
窮地に陥ったであろうハギ。私は声の元へと駆ける。一緒に行動する以上は死ぬことは許されない。
「トリオン」
ホールティアのジト目攻撃。気に食わない点でもあるのだろうか?
「待ってよ、今それどころじゃないでしょ!」
「トリオン」
ホールティアは未だ突っ立ったまま。まるで動こうとしない。
「トリオン。これでもう3回目だ」
「私のことを呼んだのが?」
「違う」
ハギの元に着いた頃には、そこには頭から落とし穴にはまる少女の姿があった。どうにも動けないようで足をバタつかせている。
「君の掘った落とし穴に、同じ蟲惑魔がかかったのが今回で3回目だと言ったんだ。さっきから彼女は足を引っ張ってしかいない」
ホールティアの深いため息。頭を抱えて呆れた様子を見せる。ハギとは保護という形で行動を共にさせているが、私の仕掛けた落とし穴(無論ハギを捉えるためでは断じてない)に何度も引っかかっている。おっちょこちょいも末期症状があるみたいだ。今回も彼女の悲鳴を聞いた時「またハギかな」と察せたくらい。私はハギを引っ張り出して土を払ってやった。
「ごめんなさい、また落ちちゃった……」
「単独行動は控えなってアレほど……次かかったらお仕置きだからね?」
「ひっ」
本当はもうお仕置きでもいいんじゃないか?とも思いつつあるが、私は鬼ではないので許してあげる。その前に、こんな小さい子にそんなことしたくないっていうのが本音なのだが……
「冗談だよ。……あ、そうだ。今少しお話しできる?」
ハギは私の質問に対して何かあるのか?と少々竦んだが、お仕置きでないとわかるとまたすぐに私の元へ寄ってきた。
私はホールティアに辺り一帯の監視を頼み、ハギと共に人目のつかなそうな木陰に移動した。
「……暴力を振るったり、しないですよね?」
「あははっ、怖がりすぎだよ!そんなことしないって。」
「じゃあなんでこんな場所に?」
「えっとね、単刀直入に聞くんだけどさ。ハギちゃん、誰に脅されてるの?」
「えっ……なんで」
その『なんで』は何故それがわかった、の意味だ。図星だといった顔で私の顔を見上げる。
「態度見たらわかるよ。追っ手とかはホールティアが監視をしてるから来ないはず。私たちはこの蠱毒に反対してて、今はそういう暴れてる蟲惑魔をちょっと懲らしめて回ってるんだ。私たちはハギちゃんの味方だよ……って、怪しすぎるセリフかな?」
「…………」
ハギは喋らない。きっとまだ信用できていないのだろう。少し考えた後、ハギはようやく口を開いた。
「カマキリ」
「カマキリ?……蟲惑魔の原種のこと?」
「うん」
ハギを脅しているのは昆虫型、それも捕食能力の高い蟷螂の原種らしい。確かに彼女の性格なら鋭い鎌を見せられただけで竦み上がってしまうだろう。しかし、攻撃能力の高い昆虫型は相手にするのは骨が折れる。あまり交戦はしたくないが……そうもいかないらしい。監視を行っていたホールティアがこちらに駆けてきた。
「1人落とし穴にかかった!どうにも仕掛け主にご立腹のようだ!」
「あ……多分、来たかも」
ハギの顔色がみるみる悪くなる。恐らくハギを脅している張本人がかかったのだろう。しかし、これはある意味チャンスかもしれない。
「ハギちゃん。今からそいつ懲らしめて来るから、その様子見ときなよ」
「でも、アイツは強くて!」
「うん、多分強い。というか絶対強い。でも、私たち二人はもっと強いから!」
遅れるハギを少し置いてきながらも、私たちは鎮圧へと向かった。
◇ ◆ ◇
「ねえ誰なのー!!こんなとこに穴掘ったやつー!」
大暴れする蟷螂。想像していたよりもその体躯はさほど大きくなく、そこから推測するに……あれは『ヒメカマキリ』の蟲惑魔だろう。
「ちょっとそこの蟲惑魔さん!ハギちゃんについて聞きたいことがあるんだけど!」
「君が落とし主?よくもやってくれたじゃん!とりあえず出してくれない!?」
「ダメー!!」
ハギのことを聞き出すまでは出してあげるつもりはない。もっとも、お仕置きは確定しているのだが……
「……ちょっと?よく見たらひっつき虫いるじゃん。そこの君、私ちゃんと獲物探しとけって言ったよね!?」
「ひっ」
蟷螂改め、ヒメカの蟲惑魔はハギを見るなりさらに暴れ出した。その様子にハギはやはり怯え出してしまった。どうやら脅して彼女をこき使っていたのは真実らしい。しかしこれはあまり良くない流れだ。怒りがこちらの前にハギに向いてしまった。……鎌を振り回し始めた。もし嫌な予感が正しければ……
「待っててねひっつき虫……こんな仕掛けすぐに壊して、裏切り者始末してあげるから、ねっ!」
「うわっ、落とし穴そのものを破壊した!……ホールティアっ!こっち来たよ!」
「虫遣いの荒い親友だな!……子守りも楽じゃないんだ」
木々を切り裂き、凄い勢いで迫るヒメカ。その瞬発力で一気に目と鼻の先に。ハギに鎌を振り翳すヒメカ、しかしそれをホールティア自慢の爪が弾いてくれた。それはそれとして状況は不利。急襲で落とし穴の準備が整っていない。
「さっきの手応えから、奴のパワーは相当高い。自分じゃ長時間は耐えられない」
「困ったね……陽動も難しいよね」
「でもやれないことはないはずだ。今は逃げに徹しよう」
今から落とし穴を作るのでは遅い。そんなことをしている間に誰かが死ぬだろう。しかし、ひとつラッキーな点がある。幸いにもここは私たちがテリトリーとしていた場所、他の落とし穴まで誘導すればいい。もっとも、その落とし穴がヒメカに対しての最適解かは不明なのだが……
「ハギちゃん!遅れないで着いてきて!」
「な、なに……!?とにかくわかった!」
枝や地面を跳ねて跳ねて、空いた空間を鎌が裂く。苛立つヒメカを横目に少しずつ誘導する。ハギは大丈夫だろうか?……心配無用だった。痺れを切らしたホールティアが抱えてる。
「待てひっつき虫!君を喰らうまで追っかけるのをやめない!」
「じゃあいつまでも追っているといい。追いつけない状況でもね」
「何を訳わかんないことを……早くソイツ寄越せっ!!」
ホールティアの動きが止まる。爪を広げて迎撃の姿勢。良かった、『直上』だ。少し狡いかもしれないけど、仕方ないよね。あとは罠を開くだけだ。
「ッ!?まさかこれって……!」
「騙し合いなんだ、ズルだとは言わせない。……じゃあね、『狡猾な__」
瞬間、ヒメカの本体であるカマキリは『ナニカ』に押しつぶされた。降ってきた?いや、襲われた、に近い。それは私たちの本体に近い巨大な蟲。……蟲惑魔だろう。現にすぐ側には疑似餌と思える少女が立っていた。
その蟲は踏み潰した塵芥を貪り続ける。逃げようとする疑似餌すらも逃さず、髪の毛一本も残さぬよう。
「……だ、れ?とにかく、逃げなきゃ」
「ダーメ。雑魚は淘汰される運命よ」
それは先の個体よりもさらに大きい。毒々しい牙に、見るものを震え上がらせる八本の脚。我々の知る言葉で言うのであれば、それは『蜘蛛』であった。
「トリオンさんっ、あれって……嫌、うわぁぁ!!」
「ハギちゃん、駄目っ!」
「あっ、獲物ね」
驚愕の連続、非日常の連続。ハギはそれに耐えられなかった。彼女は堪らずその場から逃げ出す。だが、相手が蜘蛛ならその判断は愚策だ。
「ひとくちサイズね」
蜘蛛の口から出される糸。それはピンポイントでハギを狙い、そして引き寄せる。粘着性のある糸玉はガッチリとハギを捕らえ、そして__
「やだ、嫌ぁ!!トリオンさん、助け」
「ハギちゃん!!」
潰れる音。砕ける音。咀嚼する音。途切れる音。それらは交互に鳴り響き、森に空虚に響いた。演奏を終えた彼女は満足そうにこちらを見る。……次は私たちの番、ということなのだろうか。
「さ。喰らい合いは始まったばかりでしょう?狩りの時間ね」
今までのとは格が違う。本能で理解した。見ればわかる。歴戦の猛者、といったところか。
「ホールティア、アレってさ」
「ああ。……ついに来てしまったか」
森に長く住み着く、私たちと同じ部類。今までやり合ってきた有象無象とは比べ物にならない。
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猛毒蜘蛛が牙を剥く。アトラの蟲惑魔は私たちの方をしっかりと見つめていた。
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