Ep01 平凡JK、その名は遊乃　作：墓

私の名前は海原遊乃(うなばら・ゆの)。どこにでもいる平凡な女子高生！お父さんの転勤でつい数日前にこの町に引っ越してきたばかりなんだ！
この町ではデュエルモンスターズってカードゲームが流行ってるらしくて、なんと3人に1人が、カードを置くとそれに描かれたキャラクターが実体化するっていうデュエルディスクというものを持っているんだとか！
私？いやぁ、実は昔から頭を使う遊びは苦手で……人がやってるのを見るのは好きなんだけど……。
……それで、今日から私は新しい高校で楽しいスクールライフを送るんだけど、みんなにはその一部始終を見てもらえると嬉しいな！



「はじめまして皆さん！私、海原遊乃って言います！掴み所がない性格ってよく言われるんですけどよろしくお願いします！」
ふう、慣れてるとはいえやっぱり人前に立つのは緊張するなぁ……って、ダメだダメだ！弱気になってちゃ楽しいスクールライフなんて送れっこないじゃん！
「では海原さん、窓際の……そこの空いてる席にどうぞ」
先生に言われるがまま、私は窓際の席に向かう。なんだかやけに明るい髪の女の子が手招きしてるように見えるけど……。
「はじめまして、海原ちゃん！あたしは遊芽川霈(ゆめかわ・ひさめ)！せっかく隣になったことだし、よろしくねっ！」
「こちらこそよろしくね、霈ちゃん！」
おや？おやおや？早速私の友達ハーレム作戦が順調に進んでるぞう？いや冷静になろう遊乃、物事はそんなに都合よく進んだりしないものだよ？
「おっ、最初から名前呼びしてくれんの？ならあたしも海原ちゃんのことは遊乃って呼んじゃうぞ！」
おや？おやおやおやおや？？これってひょっとしてひょっとするんじゃない？？？
「遊芽川さん。海原さんと親しくするのは構いませんが少し抑えてくださいね」
「あれ、いっけね。ちょっとハリキリすぎちゃった〜？メンゴメンゴ☆」



昼休みになった。私は霈ちゃんに連れられて屋上に向かう。転校初日から一緒にお弁当を食べる相手を見つけること、そのミッションを達成できた時点で私のスクールライフはバラ色……否ッ！百合色に染まること間違いなし！！
「てゆーかさ、遊乃ってアレやったことあるの？デュエルモンスターズ」
「あはは……実は私、昔から頭使う遊び苦手でやったことないんだよね」
「え〜〜っ！？ヤバいよそれ！！今時デュエルモンスターズやったことないってタピったことないレベルだよ〜〜！？」
タピったことがないレベルは言い過ぎじゃないかな……。と思うけど、口に出したら面倒臭そうだから言わないようにする。私は世渡り上手なのだ。
「じゃあさ、明日の放課後あたしと一緒にカードショップ行こ？そこであたしがデュエルモンスターズ教えたげるからさ」
「いいの！？多分あんまりうまくできないと思うけど、霈ちゃんが教えてくれるならできるとこまでやるやる！！」
来た……！ここまで私に尽くしてくれる女の子の行為を無碍にするわけにはいかないよね！？
「おおっと、そこまで食いつかれると少し照れ臭いなぁ……楽しみにしといてね、遊乃！」



一日の授業が終わり、自室にこもって一休みっ！明日の霈ちゃんとのデート、楽しみだなぁ……ふふっ、私のキラキラ百合色スクールライフはここから始まる……っ！！
そんな百合ん百合んな妄想の最中、ふと側に置いていたスマホがブルッと震えた。
「今色々と忙しいんだけどなぁ……なになに……うわぁ、めんどくさいなぁ……」
あらかじめ言っておくけど、私は労働というものがそれはそれは嫌いでね、日頃からできる限り女の子のヒモになりたいな〜なんて思ってるわけなんだけど……。
「……でも仕方ないよなぁ、あぁめんどくさいなぁ」
それでも、お仕事をしろと言われればするのが私というもの。仕事熱心な私、すごく偉いでしょう？
お仕事、とか言われるとお水系とか想像しちゃう？何のことかなぁ？私清純派だからわかんないなぁ……。
ちなみにさっき送られてきたメールはこれなんだけどね……。
『今夜22時、盤城博物館に展示されているB級の決闘秘宝(ジュエリー・オブ・デュエルズ)、≪太古の白石≫を盗む』
暗号文になってるけど、まぁこんな感じの内容だよ
ん？これはどう見ても「どこにでもいる平凡な女子高生」宛のメールじゃないって？
あぁ……。ごめんね、正しく言うと「普段は『どこにでもいる平凡な女子高生』を演じてる」だったよ。
えっ、ここまで言ってもわからない？そんな、ラブコメ主人公じゃあるまいし……。鈍感系は今時流行んないよ？
……そんなに私の正体気になる？仕方ないなぁ。今から少しだけ見せてあげるから……瞬きは禁止だよ！



「パワーディスク、セット！デュエリストアーマー、エクスチェンジ！」



叫ぶと、私の格好が、たちまち怪盗のようなものに変わっていく。髪の色も変わって、超かっこいいでしょ？極めつけにこの目元を隠す仮面、こんなのを見せられたら全人類厨二心を思い出して枕に顔を埋めたくなるよね？



それじゃあ、本当の「私」で、改めて自己紹介するね。

私の名前はトレジャーハンター・YukNow。どこにでもいる、神出鬼没のJK怪盗！お父さんの転勤は本当だけど、私がこっちに越してきたのはある最高級のお宝カードを探すためなんだ！
デュエルモンスターズはやったことないって言ったけど、アレは嘘。私たち魁闘団(デュエル・トレジャーズ)は、デュエルモンスターズのカードに秘められたパワーを使ってお宝を集めてるんだ。その力を増幅するのがこのパワーディスク。極秘の最新型デュエルディスクで、超リアルな戦いを体感させてくれるんだよ。
もちろん私もこのディスクで何度も戦ってきたんだ。自慢じゃないけど、私は魁闘団に入ってから一度も負けてないし、そこらの決闘者よりは強い自信だってあるよ。
……さて。そろそろ時間かな。今の時間が20時50分。ここから盤城博物館まで40分はかかると考えると、早めに出た方が良さそうだ。



「ふふっ、今日はどんなお宝に出会えるのかしら！」



そう叫んで、私は夜の闇を走り抜ける。次なる標的を目指して、立ち止まることなく。