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最終話:帰結する世界 作:光芒
遊季都と遊大のデュエルから数日が過ぎた。沈んでいく太陽が西の空を蜜柑色に染めていく中、遊季都の家の裏山に遊大と遊希、そして遊季都や遊路ら二人を見送る人々が集まっていた。
「……何から何まで世話になりっぱなしだったわね」
遊希はこの世界に滞在している間、遊路の家に居候する形で過ごしていた。遊大の代わりにHoney Angelで働いていたとはいえ、その間衣食住を遊路と美羽・遊月夫妻に提供してもらっていたことに関してはただただ感謝の言葉を述べるばかりであった。
「そんな、気にしないでいいってば!」
「私たちも“あちらでは”お世話になりましたし……その時のお返しです」
「遊希おねえちゃん、今度はもっといっしょにあそんでね!」
「え、えっと。雛里も……雛里もあそびたい」
「ええ。もしまた会える時が来たら……一緒に遊びましょう? それにしても、本当に二人と婚姻関係を結んだのね……こんな可愛い子まで授かって。英雄色を好むとは言うけれど、それを今の倫理観で実際にやるとは思わなかったわ」
「言っておくが二人だけじゃないからな? まだ俺が守るべき者はいる」
遊路がそう言うと、遊希に対してペコリと頭を下げるルナテシアと照れ臭そうに俯く心愛。二人を見た遊希はやれやれと言った様子だった。
「……何、あなたは何処ぞの国の主神にでもなるつもりなの?」
「さすがに鳥に変身して美女をかっさらったりはしないからな?」
―――正直、主様の貞操観念には悪魔であるわっちも驚かされるばかりじゃ。
「まあ俺は一度守ると誓った人は絶対に守り抜くと決めている。もちろん、お前もその一人だぞ?」
「まーお上手なことー」
「せめてもう少しだけ感情を込めてくれると嬉しいんだが」
そう言って談笑する遊希と遊路。すると、そんな二人の間に何も言わず遊大が割り込んだ。この時の遊大にはいつもの穏やかな表情は見られず、何処かムッとした様子だった。そんな彼の顔を見て遊路は何処か意地悪そうに笑う。
「遊大?」
「遊路さん……予め忠告しておきます。確かに遊路さんは魅力的な男性ですが、遊希さんはあなたには決して靡きません」
「ほう、どうしてそう言い切れる?」
「この人の心は……もう俺のものだからです。他の誰にだってあげません」
まるで決戦に向かう戦士の如く真剣な面持ちで遊路に告げる遊大。彼はあくまで真面目かつ純粋な想いを告げたのだが、その対象になった遊希はそう冷静にはいられない。彼女は白く美しい肌を瞬く間に真っ赤に染め上げた。
「ちょっ、遊大! あなたは……もうっ」
「……俺、何かおかしなこと言いましたか?」
焦る遊希に対してきょとんとした様子の遊大。愛し合っているということは誰もが知ることなのかもしれないが、二人は二人で噛み合わないこともまだあるようだった。いくら強大なデュエルモンスターズの精霊であっても、色恋沙汰とあれば不得手極まりないのである。
「あっつ! でも、ごちそうさまでーす!」
「美しい愛ですね……」
―――これは主様、一本取られたのう?
「ああ、こりゃ俺の完敗だ。精々仲良くやってくれよな、お二人さん」
そんな初々しい二人に対して、遊路はにっこりと笑いながらも敗北宣言。デュエリストとしてもそうだが、一人の人間としても遊希はまだまだ彼には及ばないということを思い知らされたのであった。
*
「アタシはまだ、お前のこと許したわけじゃねえからな?」
何処かばつの悪そうに歩み寄ってきた遊大に対し、詩音は彼を一瞥しながらそう告げた。クィーン・フォースの面々からしてみれば、遊大にされたことをそう簡単に許すことなどできない。しかし、遊大は彼女たちがそう思うことも理解した上で敢えて近づいた。
「……許してくれなくても構わない。俺はそれだけのことをしてしまったから」
「ですが、あなたには先生や私たちにそういうことをしなければならない理由があったんですよね……?」
「シャオはとっても怒っていまシタ。ですが、シャオがもし遊大と同じ立場だっタラ。遊大と同じことをしていたかもしれないアル。そう思ってしまうと、遊大の気持ちもわかるアルネ」
たた、詩音以外の二人、心愛と小飛は遊路から遊大の境遇を聞いていたこともあって詩音のように敵愾心を剥き出しにする様子はなかった。
「あなたのその真っすぐでひたむきなところ……私も貫けるようになりたいです」
「遊大とっても強かったアルネ! シャオも遊大に負けないくらいのデュエリストになりたいネ!」
「ありがとうございます、心愛さん、小飛さん」
「ったくお前らと来たら……ま、アタシは別にお前を許さないってわけじゃねーからな。ただ、アタシに許して欲しいんだったらアタシに負けるまで負けるんじゃねーぞ?」
「詩音は素直じゃないアルネー」
「そこが詩音さんの可愛いところだと思いますよ」
「んなっ!? お前ら!!」
「仲がいいんですね、皆さんは」
クィーン・フォースの三人を見て、遊大の脳裏には元の世界で自分の帰りを待っていると思われる友たちの顔を思い出していた。
*
「遊大さん……」
「そんな顔をしないで、遊季都くん。別れは確かに寂しいけれど、色々あったわけだし最後くらいは笑顔で終わろう?」
最後に遊大が声をかけたのが遊季都、梓、盛雄の三人であった。この世界で最初に親友となり、そして様々な戦いを潜り抜けて絆を紡いだ遊季都たちである。遊大とこの三人の間には他の人間とはまた違った関係性が生まれていた。
「遊大さん、私は遊大さんとデュエルができたことを忘れませんわ。あの時の悔しさを、あの時頂いたアドバイスを胸に一人のデュエリストとしてデュエル甲子園を勝ち抜いてみせます」
―――梓~、早くバジルをデュエルで使ってねー
「オイラはまだまだ遊大さんのようになるのは程遠いけど……頑張って二人に負けないくらいのデュエリストになってみせるぞぉ」
―――その意気だよ、盛雄。君なら僕をデュエルでも活躍させてくれるはずだ。
二人の決意表明にはバジルとブルーハワイ、二人の悪魔が応える。遊季都ほどの付き合いはないにしても、この二人も契約した悪魔とはうまくやっていけそうだと思い、遊大はほっと一安心した様子だった。安心もつかの間、遊大は気を引き締めて遊季都と向かい合う。
「さて、遊季都くん。君には予め言っておかなきゃいけないことがある」
「言っておきたいこと、ですか?」
「うん……俺と君は本来は決して交わることのない世界の人間だ。だから、俺たちはもう二度と会ってはいけない」
「えっ……」
―――ちょっ、それどういうことよ! せっかく遊季都くんが……
―――ラズベリー様、落ち着いて。
―――少しは考えろ。遊大の言葉の意味を。
遊大はジョロキアの悪意によって別の世界からこの世界にやってきた。もし遊大が真実に気づいていなければ、遊季都や遊路たちを手にかけ、この世界をあるべき形とは別のものに変えてしまっていただろう。遊季都たちの世界にとって、遊大や遊希は決して存在してはならない存在―――プログラム上のバグであり、異分子なのだ。
遊大と遊希は精霊である【覇王星竜】の名を持ち、彼らは精霊界ではなく人間界に住まうことで「世界に迫る脅威から大切なものを守る」という使命を胸に抱いている。彼らは世界を守るために戦えるだけの力を持っているのだ。しかし、彼らの力が必要となるということは世界に危機が迫っているということでもあった。
「俺と君が出会うことは、世界にとって危機が迫っているということ。俺と君はもう出会うことはない。それがこの世界にとって望むべきことなんだ」
―――精霊も悪魔も、名や目的こそ違えども異能の力を持ったものであるということだ。人間といつまでも一緒にはいられない。
―――……それは、そうだけどさ。
現実的なポップロックとあくまで遊季都の気持ちを汲むラズベリー。遊大の言っていることは最もなことである、と思いつつも遊季都は顔を上げて重い口を開いた。
「……僕は、そう思いません」
「……どうしてかな?」
「確かに遊大さんの持つ力は世界を滅ぼすほどの危険なものかもしれません。でも、遊大さんと僕は今こうして友達として、デュエリスト同士として確かに同じ世界に生きています。僕たちが一緒に過ごした時間に嘘偽りはないはずです! 僕は……その時間を否定したくありません」
自分でも甘いことを言っているのはわかっていた。このような綺麗事で遊大の抱える「人間でありながら精霊」「精霊でありながら人間」という複雑怪奇な問題をどうこうできるはずがない。それでも遊季都は最後に自分の率直な気持ちは伝えたかった。もう二度と会えなくなるかもしれないからこそ。
―――遊季都くん……!
「……それは理想論だよ、遊季都くん。だけど、その理想論はとても君らしいね。俺は君のそういうところが好きだ」
「遊大さん……」
「できれば、俺たちはもう二度と会わないことが望ましい。けれど、もう会いたくないってわけじゃない。こうして一度出会ったということは、きっと何かのきっかけ一つでまた会えるかもしれない、ということになる。だから―――」
―――もし、また会うことができたのであれば。
―――友達として、仲間として、そして……一人のデュエリストとして。またデュエルをしよう!
「……はいっ!」
遊大の身体は人から真紅の竜の姿へと変わっていた。覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンとなった彼の後ろでは、同じく精霊である覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴンに変化した遊希が自らの精霊としての能力で次元のトンネルを開いていた。彼女が開いた道を辿れば、二人は元の世界に帰ることができる。
―――では、私たちは元の世界に戻るわ。
「ああ、道中気を付けてな!」
―――遊季都くん。俺はああは言ったけれど、デュエリストとして極みに達した君の姿も見てみたいと思っている。だから、また会おう!
「遊大さん、次に会う時までに……僕はもっと強いデュエリストになります!!」
―――約束だよ!
「はい!!」
次元のトンネルに吸い込まれるようにして消えていく2体の精霊たち。遊季都は二人の姿が見えなくなるまで、ずっと空を見上げていた。
―――遊季都くん、良かったね。ちゃんと伝えたかったことを言えて。
「……うん、さて。僕たちに立ち止まっている時間はないね」
振り返った遊季都は決意を込めた、明るい眼差しを梓と盛雄に向ける。そんな彼の顔を見た梓と盛雄は言葉を交わさずとも気持ちは通じ合っていた。
「遊大さんや遊希さんのためにも、僕たち……」
「オイラたち……」
「私たち……」
―――チャレンジャーZは進み続けます!!―――
*
「……無事、帰ってこれたみたいですね」
「ええ。さて、これから忙しくなるわよ?」
「えっ?」
「……心配をかけたみんなへの謝罪行脚」
「……遊希さん」
「しょうがないわね、私も一緒に頭を下げてあげるから。この私に頭を下げさせるのよ? 誠心誠意謝ること」
「はい、ですが……」
「楽しかった?」
「はい」
「銀河竜を駆る少女」「虹彩竜と歩むもの」&「遊戯王 Devil Driver」
スペシャルコラボレーション 「繋がる世界~焔獄と虹彩の輪舞~」
完
●後書き
こんばんは、著者の光芒です。この話をもってスペシャルコラボレーション「繋がる世界~焔獄と虹彩の輪舞~」は完結となります。4か月間に及ぶ企画でしたが、いかがでしたでしょうか。
「遊戯王 Devil Driver」の作者であるター坊さんは「銀河竜」連載開始初期から度々私の作品に対して感想をいただいており、私が「銀河竜」および「虹彩竜」をここまで書き続けることができたのも、ター坊さんの御力があってこそだと思っています(もちろん他にコメントを頂いた皆々様の御力もあります!)。
そんなター坊さんの作品とコラボさせて頂けたこの4か月間は、改めて作品を創作することの難しさ、そして読んで頂いているすべての皆様に喜んで頂いているということの大きさを知った4か月間でもありました。
さて、遊大、そして遊季都たちの物語はまだまだ続きます。これから二人がどのような未来を歩んでいくのか……そちらを楽しみにしつつ、次の物語が紡がれるのをお待ち頂ければ幸いです。最後になりますが、コラボレーションの申し出を快く引き受けて頂いたター坊さん、そして当作品にコメントを残していただいた・読んで頂いた全ての皆様。本当にありがとうございました。
2019.4/15 光芒
「へー……あの二人が、高海 遊大と天都 遊希かぁ」
セントラル校の屋上。真冬の冷たい風が吹きあれる中、一人の少女が遊大と遊希の姿を見つめていた。明るく少し癖のついた緑色の髪をサイドテールに結んだ少女はいわゆる「ギャル」に分類されるような印象を受ける。しかし、その派手そうな出で立ちに対してその少女の美しい顔には何処か暗い影が見て取れた。
「二人に会えること……アタシ、楽しみにしてるから。ねっ、セ・ン・パ・イ?」
屋上に吹くは一陣の風。少女の姿はまるで幻のように、そこから消えていた。
「虹彩竜と歩むもの 第二部 ~翠風の少女~」令和元年5月 連載開始
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106 | エピローグ:焔獄と虹彩の輪舞・4 | 815 | 5 | 2019-04-11 | - | |
94 | エピローグ:焔獄と虹彩の輪舞・5 | 879 | 4 | 2019-04-13 | - | |
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完結お疲れ様です!
うんうん、こういうエンドはしっくりきますね。
陸也「同じ人外同士、応援してるぞ!(狂人の白き邪神)」
海理「恋はエスカレートしてますが火傷をしないように気をつけて下さいね(ブラコンの白き救世者)」
ハル「ぼくもいつかはああいう関係を持ちたいなぁ…」
雷魔「そして次回作も気になれば夏休み編も気になるものですね」
次回作更新、末永く待っています(^_^)
(2019-04-15 23:23)
うーむ、こういうの見てしまうと自分でも何かやってみたくなりますね~色々と準備してみようかな。
遊大君と遊希さん、末永くお幸せに…… (2019-04-16 00:50)
コメントありがとうございます。やはり作品を一から終わりまで書ききれると喜びも一入というものですね。ヒラーズさんも作品の更新頑張ってください。あまり他の方の作品にお邪魔するのが得意ではないのでそうそうコメントは残せませんが(殴
ギガプラントさん
長そうであっという間の4か月でした。まあ年明けから年度末と忙しい時期に書いていたこともあって、時間の経過に鈍感になるのはしょうがないことだと思います。正直ター坊さんのキャラを上手く活かせていたかというとちょっと自信はないですが……
>うーむ、こういうの見てしまうと自分でも何かやってみたくなりますね~色々と準備してみようかな。
フラグですね、わかります。 (2019-04-17 00:33)
別れのシーンは遊路と遊季都にスポットを当てたもので遊路らしさ遊季都らしさが出てて良いですね。遊路は豪傑というかカッコイイお兄さん、遊季都はひょろそうだけど芯が強い感じがちゃんと出せてすとも。
遊希と遊大の新婚っぽさもナイス。
こちらも早くコラボ企画を進めなくては。 (2019-04-18 10:56)
忙しいと中々執筆の時間を作れませんよね。個人的な話ですが、私は10連休ほとんど休めません(泣
>別れのシーンは遊路と遊季都にスポットを当てたもので遊路らしさ遊季都らしさが出てて良いですね。
>遊路は豪傑というかカッコイイお兄さん、遊季都はひょろそうだけど芯が強い感じがちゃんと出せてすとも。
何処までも前向きで自分を曲げない遊路と一見頼りなさげながらもしっかりを筋が通っている遊季都。別れにおいてもこの二人は似ているようで色々と違っていますね。
>遊希と遊大の新婚っぽさもナイス。
この二人はいつまでもこのままでいて欲しいですね。良い意味で初々しく。
>こちらも早くコラボ企画を進めなくては。
お忙しいようですが、体調等にはお気を付けくださいね。まだまだ暑かったり寒かったりの差が激しいので…… (2019-04-18 14:27)