EP:6 父親の威厳と強さ その②　作：暁

「おう、やっと起きたかガキ」

意味不明の状況に頭が混乱し、惚けていたところに低く、威圧するようなドスの効いた声が後ろから掛かる。
警戒しつつ後ろを振り返ると、男が3人、下卑た笑みを浮かべていた。
…あの気持ちの悪い顔を見ていると、転生前のトラウマを思い出す。あの不良共も、殴った後に互いに顔を見回し、あんな笑みを浮かべていた。
穏やかさを失いかけた心中を押しつぶし、疑問を頭の中で連ねる。

何故ここにいるのか。
これからどうなるのか。
そうなったら、一体どうなるのか。

パッと思いつく疑問はこれだ。
恐らく、この3人組は奴隷商人だ。
男たちに気づかれないようにあたりを見回すと、同じような子供達が牢屋で震えていた。となると、このままでは捕らえられた子供達共々に売られてしまう。何としても此処から出なければならない。
覚悟を決め、男達の方へ向く。
装備の類いは全て外され、デュエルのできる状態ではない。
ならば、やる事はひとつだ。

「あの…すいません、死にそうなぐらい頭がクラクラと…」
「チッ、奴隷は大事な商品だって言っただろボケ！商品に傷つけてんじゃねーよ！とっとと治療しやがれ！」
「へいへい…さーせんしたー…へへへ」

細身の男が牢の鍵を開ける。
恐らく、あいつが殴った犯人だろう。
指示と罵詈雑言を飛ばすのがリーダー格、その横の大柄の男は用心棒といったところだろう。

「ヒヒヒ…ぼーやぁ…傷を見せてごらーー」

細身の男が近づき、触れようとしてきた瞬間、顎に拳を飛ばす。
バランスを崩したところを見逃さず、すかさずタックルをかまし、大柄の男を巻き込みながら細身の男のポケットを漁る。

「ガッ…！この、なにず…ガバァ！」

男のポケットからナイフを取り出し、空いている左手で腹を殴り、ナイフを投げ捨てる。
大柄の男ごと細身の男を倒し、頭を打たせ、二人を昏倒させる。

「…さて、あなた一人ですね。」
「…？……なっ…なぁ！？」

一瞬の出来事についてこれなかったらしいリーダー格の男がやっと状況を飲み込む。
この格闘も、師匠やサンスクリットの訓練の賜物だ。お陰でどうにかなった。芸は身を助けるとはこの事だ。

「なっ…ナメんなぁ！」

男が叫び、拳銃を取り出すと共に、思考がフリーズした。
しまった、勝手にこの世界の文明レベルを中世程度だと思っていたので、拳銃が存在している事は頭になかった。
同時に、死への恐怖が突如込み上がってきた。

「この…この劣化品がーーーーッ！」

叫びをかき消すように、破裂音が響く。
同時に目を見開き、床に転がる。
弾丸は心臓に向けて放たれた。さっきの体制から一気に崩れる事で、弾丸を回避することを試みたのだ。
しかし、信じられないことに、弾丸は空中で四つに分解され、四方へ別れる。丁度、さっきの体制なら太ももと目を撃ち抜く場所に。しかし、体制を崩したことで下に放たれた二つが胸を貫く位置となってしまった。

「ぁ？！馬鹿な！」
「そうするだろうと思ったぜ！喰らえぇ！」

弾丸が胸を貫く。
その現実が、そこに迫っている。
しかし、何故だか恐怖はなかった。
充実した人生だからだったからだろうか。
理由は何にしろ、なにも感じなかった。
思ったのは、痛いのかな、ぐらいのもので、逃げたいという気持ちは霧散していた。
弾丸が胸を貫くその刹那、

ナイフが後方より飛んできて、弾丸を受け止めた。

「え…？」
「なっ…誰だ、この野郎ーォ！邪魔しやがって！出てこい！」

男が虚空に向かって叫ぶと、

「言われなくとも出てくるさ…人の子供に、随分してくれたじゃあないか。覚悟は出来てるよな？」

我が父、サンスクリット・メイデンが現れた。
そして、瞬時に剣を抜き、デュエルの体制に入る。

「あ、あぁ！？やるか！？」
「あぁ…やってやるよ…覚悟しやがれ！」

【決闘！】