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EP:12 侵攻開始 その① 作:暁
サンスクリットの伏線のない爆弾発言により、見つめ合う形でアウェーリティア、ユーリイットの時が止まっていた。
しかし、それも一瞬、数秒の制止の後、アウェーリティアが突如としてユーリイットを抱きしめ、
「うるぇ!?ちょっ!?」
「ふふふ…ちょっと見ないうちにこんなに変わっちゃて…でもやっぱ可愛いなぁ…」
どことなく蕩けた目でユーリイットを撫で回してきた。と同時に、この人ヤバ目な人だ、とユーリイットが認識するのは至極当然のことだろう。
前世での姉も多少ブラコンの気があると感じていたが、それとは比べ物にならない匂い、軽い狂気にも似た感じを受けた。
そんな感覚を受ければ、普段のユーリイットなら身内であろうと多少嫌悪感を抱くはずだし、そもそもアウェーリティアとは初めて会ったはずなのだが、なぜか全く嫌悪は抱かなかったし、前世の姉に撫でられているような、心地よい安心を感じたのだ。
そんな奇妙な感覚に思考を巡らせながらも、姉に撫でられるという抗いきれぬ悦楽の狭間を彷徨っていたところ、サンスクリットに引き離された。
『あー…』
「ハモるな。久しぶりに会ったくせに息ピッタリだなお前ら。ユーリに至っては赤子の頃じゃねぇか。」
「当たり前じゃないですか!姉弟ですよ?そうですよね、ユーリ?」
「当然ですね。覚えてないですけど。」
アウェーリティアが無いこともない胸を張って答えたのが可愛かったので同調しておいた。八割は本当に思っていたが。
そんな家族の雑談を交わしているうちに、カツアゲ犯を捕縛する騎士たちが現れ、逮捕していった。
嵐が去り、そういえば今日はどうするのかな、という疑問が湧いてきた。
「…そう言えば、今日はどうするんですか?宿は取ってましたけど。」
「ん?俺は城で色々やんなきゃいけないからユーリはアウェーリティアと宿で二人だな。」
肉体年齢四歳児の子供を一人と十一歳の狂気的ブラコンの子供を一緒に泊めるという旨の言葉には呆気を取られた。主に貞操の危機を感じて。
(いや、弟に色欲を抱くのはブラコンとは違うか…?うん、きっとそうだ。もうそういうことにしよう。)
軽い間を作ったら、アウェーリティアの悲しそうな視線が心臓に刺さってきたので無理やり納得することにした。
「…そうですか。じゃあ姉さん、久しぶりに姉弟二人で過ごしますか。」
「…!そうですね!色々話したいことがあるんですよ!」
パッと表情を煌めかせ、傍目から見ても分かるくらいテンションが上がっている。
助けてくれた時にはクールビューティーな人かと思ったが、大分感情豊かな人のようだ。ギャップ萌えを感じる。
「じゃあ、また明日ですね。父さん。」
「おう、あーそうだリティア、弟に手を出すなよ。」
「出しませんよ!人をなんだと思っているんですか!」
「…ふふ」
こんななんでもないやりとりに、忘れていた家族の絆を思い出した。
全てから逃げ出した前世でも、道を違えなければこうなっていたのだろうか、とも考えたが、今となっては後悔する事しか出来ない。
いつまでもこんな家族でありたい。
前世で気づくべきだったかもしれないが、二度目だからこそ一層深くそのありがたみが分かるのかもしれない。
少なくとも、今この瞬間だけは感じることができた。
(というか、本当に表情がコロコロ変わる人だな。本当に姉さんを思い出す。)
姉さんも感情が豊か、というかユーリイットの前では普通以上に感情を出していた。
生まれつき感情を表に出さず、人の顔を見て動いていた自分を心配していたのだろうか。そうならば、本当に尊い人を裏切ってしまった。
罪悪感に苛まれながら、その日の夜を迎えた。
そして、改めてこの世界は異世界であることを認識した。
---
「おーい、もう来てた?」
「…ああ、ちょっと前にな。」
王都、ノースウェースのの近くの林、都を覆う壁の出入り口のほど近く、痩せ細り、翼の生えた白髪の青年と、中性的な外見の角の生えた赤髪の男が落ち合っていた。
「いやーごめんごめん。あの傲慢チキの命令だと思うとどうしても動きたくなくてさー、ずっと悩んでたんだよ。」
「…結局、背かないところがお前らしいな。死ぬ『未来』でも見えたか?」
「せいかーい。僕だって死にたくないしねー」
その二人から逃げるように去っていく林の動物たちとは対照的に、そよ風のような軽い会話を交わしている二人の男は、王都を見てゆっくりと立ち上がり、言葉を交わす。
「そういえば、来る前にこの任務をタロットで占ったんだけどね?」
「…ほう」
「なんと『世界』の正位置!完全、完成を意味する結果だッ!僕たちはツいているようだね!」
「…『運命の輪』の逆位置、腐れ縁の暗示をされた俺たちだ。お前が完璧なら、きっと俺もそうだろう。」
くくく、と二人は笑う。
「王都の『奴』は『審判』の逆位置、ツいていない。今なら…ねぇ?」
「お前の占いなぞあてにしちゃいない。どんな状況でも、命令を遂行するだけだ。」
赤髪はつまらなそうに舌を鳴らし、
「なんだいなんだい。『運命の輪』の逆位置は信じているくせに。」
「…もういくぞ。時間だ。」
その言葉で、二人の目の色だけでなく、気配すら変わる。
軽く笑っていた赤髪は、燃えるような殺気を放ち、
無愛想な白髪は、凍りつくような死を。
木々が揺れ、そのまま根元から折れる。踏みしめた大地には、痩せた死の大地に。二人の存在感は、自然の摂理すら捻じ曲げる強大さだった。
「いくぞ《アスタロト》。ルシファーが来る前に。」
「そうだね《ベリアル》君。最も無価値な「傲慢」の下僕さん。」
質量を伴った「死」が、刻一刻と近づいてきた。
しかし、それも一瞬、数秒の制止の後、アウェーリティアが突如としてユーリイットを抱きしめ、
「うるぇ!?ちょっ!?」
「ふふふ…ちょっと見ないうちにこんなに変わっちゃて…でもやっぱ可愛いなぁ…」
どことなく蕩けた目でユーリイットを撫で回してきた。と同時に、この人ヤバ目な人だ、とユーリイットが認識するのは至極当然のことだろう。
前世での姉も多少ブラコンの気があると感じていたが、それとは比べ物にならない匂い、軽い狂気にも似た感じを受けた。
そんな感覚を受ければ、普段のユーリイットなら身内であろうと多少嫌悪感を抱くはずだし、そもそもアウェーリティアとは初めて会ったはずなのだが、なぜか全く嫌悪は抱かなかったし、前世の姉に撫でられているような、心地よい安心を感じたのだ。
そんな奇妙な感覚に思考を巡らせながらも、姉に撫でられるという抗いきれぬ悦楽の狭間を彷徨っていたところ、サンスクリットに引き離された。
『あー…』
「ハモるな。久しぶりに会ったくせに息ピッタリだなお前ら。ユーリに至っては赤子の頃じゃねぇか。」
「当たり前じゃないですか!姉弟ですよ?そうですよね、ユーリ?」
「当然ですね。覚えてないですけど。」
アウェーリティアが無いこともない胸を張って答えたのが可愛かったので同調しておいた。八割は本当に思っていたが。
そんな家族の雑談を交わしているうちに、カツアゲ犯を捕縛する騎士たちが現れ、逮捕していった。
嵐が去り、そういえば今日はどうするのかな、という疑問が湧いてきた。
「…そう言えば、今日はどうするんですか?宿は取ってましたけど。」
「ん?俺は城で色々やんなきゃいけないからユーリはアウェーリティアと宿で二人だな。」
肉体年齢四歳児の子供を一人と十一歳の狂気的ブラコンの子供を一緒に泊めるという旨の言葉には呆気を取られた。主に貞操の危機を感じて。
(いや、弟に色欲を抱くのはブラコンとは違うか…?うん、きっとそうだ。もうそういうことにしよう。)
軽い間を作ったら、アウェーリティアの悲しそうな視線が心臓に刺さってきたので無理やり納得することにした。
「…そうですか。じゃあ姉さん、久しぶりに姉弟二人で過ごしますか。」
「…!そうですね!色々話したいことがあるんですよ!」
パッと表情を煌めかせ、傍目から見ても分かるくらいテンションが上がっている。
助けてくれた時にはクールビューティーな人かと思ったが、大分感情豊かな人のようだ。ギャップ萌えを感じる。
「じゃあ、また明日ですね。父さん。」
「おう、あーそうだリティア、弟に手を出すなよ。」
「出しませんよ!人をなんだと思っているんですか!」
「…ふふ」
こんななんでもないやりとりに、忘れていた家族の絆を思い出した。
全てから逃げ出した前世でも、道を違えなければこうなっていたのだろうか、とも考えたが、今となっては後悔する事しか出来ない。
いつまでもこんな家族でありたい。
前世で気づくべきだったかもしれないが、二度目だからこそ一層深くそのありがたみが分かるのかもしれない。
少なくとも、今この瞬間だけは感じることができた。
(というか、本当に表情がコロコロ変わる人だな。本当に姉さんを思い出す。)
姉さんも感情が豊か、というかユーリイットの前では普通以上に感情を出していた。
生まれつき感情を表に出さず、人の顔を見て動いていた自分を心配していたのだろうか。そうならば、本当に尊い人を裏切ってしまった。
罪悪感に苛まれながら、その日の夜を迎えた。
そして、改めてこの世界は異世界であることを認識した。
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「おーい、もう来てた?」
「…ああ、ちょっと前にな。」
王都、ノースウェースのの近くの林、都を覆う壁の出入り口のほど近く、痩せ細り、翼の生えた白髪の青年と、中性的な外見の角の生えた赤髪の男が落ち合っていた。
「いやーごめんごめん。あの傲慢チキの命令だと思うとどうしても動きたくなくてさー、ずっと悩んでたんだよ。」
「…結局、背かないところがお前らしいな。死ぬ『未来』でも見えたか?」
「せいかーい。僕だって死にたくないしねー」
その二人から逃げるように去っていく林の動物たちとは対照的に、そよ風のような軽い会話を交わしている二人の男は、王都を見てゆっくりと立ち上がり、言葉を交わす。
「そういえば、来る前にこの任務をタロットで占ったんだけどね?」
「…ほう」
「なんと『世界』の正位置!完全、完成を意味する結果だッ!僕たちはツいているようだね!」
「…『運命の輪』の逆位置、腐れ縁の暗示をされた俺たちだ。お前が完璧なら、きっと俺もそうだろう。」
くくく、と二人は笑う。
「王都の『奴』は『審判』の逆位置、ツいていない。今なら…ねぇ?」
「お前の占いなぞあてにしちゃいない。どんな状況でも、命令を遂行するだけだ。」
赤髪はつまらなそうに舌を鳴らし、
「なんだいなんだい。『運命の輪』の逆位置は信じているくせに。」
「…もういくぞ。時間だ。」
その言葉で、二人の目の色だけでなく、気配すら変わる。
軽く笑っていた赤髪は、燃えるような殺気を放ち、
無愛想な白髪は、凍りつくような死を。
木々が揺れ、そのまま根元から折れる。踏みしめた大地には、痩せた死の大地に。二人の存在感は、自然の摂理すら捻じ曲げる強大さだった。
「いくぞ《アスタロト》。ルシファーが来る前に。」
「そうだね《ベリアル》君。最も無価値な「傲慢」の下僕さん。」
質量を伴った「死」が、刻一刻と近づいてきた。
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